試験及び解析による構造物の局部破損の支配因子に関する研究
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カテゴリ: 第15回
試験及び解析による構造物の局部破損の支配因子に関する研究
Experimental and Analytical Study on Dominant Parameters of Local Failure of Structures
東京大学
恒本
芳樹
Yoshiki TSUNEMOTO
Non-Member
東京大学
坂口
貴史
Takashi SAKAGUCHI
Non-Member
東京大学
佐藤
拓哉
Takuya SATO
Non-Member
東京大学
笠原
直人
Naoto KASAHARA
Member
Experimental and analytical study was carried out with notched specimens which simulated multiaxial stress state in structural discontinuity, in order to reveal the mechanism and dominant parameters of “local failure”. Both the tensile test and finite element analyses (FEA) exhibited, notch strengthening. Furthermore, in the tensile test, failures of notched specimens were progressed from inside, where hydrostatic stress showed the maximum value in the FEM, whereas Mises stress did not show the maximum value.
Based on above results of the tensile test and the FEA, author investigated the relationship between the degree of notch strengthening and the maximum value of hydrostatic stress, which turned out to be proportional.
Therefore, it was revealed that both Mises stress and hydrostatic stress are dominant parameters of local failure.
Keywords: local failure, multiaxial stress, notch strengthening, hydrostatic stress, Mises stress
研究の背景及び目的
研究の背景
従来の原子炉設計においては、高温高圧状態での延性破壊を想定し、ミーゼス応力を用いて強度評価が行われ てきた。福島第一原子力発電所事故において、設計想定 を超えた荷重が、原子炉の構造不連続部に、部材の内部 から破壊が進展するという特殊な破損モートである 局部破損 [1]を引き起こした可能性が指摘されている。しかし、局部破損のメカニズムは 分に 明されているとはいい難い[2]。この特殊な破損のメカニズムと支配因子を明らかにすることは重要である。
研究の目的
構造不連続部を模擬した切欠き付き丸棒試験片及び切欠き付き厚板試験片を用いて、試験及び 析により、局部破損のメカニズムと支配因子について研究する。これ
までの筆者らの研究で、切欠き付き試験片の引張強度において、平滑部分の断面と最小断面の直径または幅の比
、 断面 比 、 ”sectional dimension ratio”と表記)が切欠き強化の因子となることが明らかになっている。この比を広範囲にわたって変えたときの切欠き強化の特性及び破損箇所と応力分布の関係を検討し、局部破損の支配因子を明らかにする。
局部破損について
一 な 応力状態を、Fig.1 に す。
Fig.1 Multiaxial stress state
局部破損の検討に用いられるミーゼス応力aMises と静
am√2
a1 + a2 + a3
水圧応力 am の定義式は、式(2.1), (2.2) のとおりである。ここで、a1, a2, a3 は主応力である。
Tr =
aMises
=
3 (a1 - a2)2 + (a2 - a3)2 + (a3 - a1)2
(2.3)
aMises =
1
(a - a )2 + (a - a )2 + (a - a )2 + 6( 2 + 2 + 2)
√2
切欠き付き部材等、周囲の拘束により塑性変形を生じ
にくくなっている部材では、局部 に3 応力度が高くなる。このように、狭い領域で局部 に大きな塑性変形
1
=(a1 - a2)2 + (a2 - a3)2 + (a3 - a1)2(2.1)
√2
a1 + a2 + a3
が生じる構造では、一 な延性破壊に基づく評価に加え、 応力状態において特有の破損モートであると考
えられている局部破損についても評価する必要がある。
am =
(2.2)
3
切欠き付き丸棒試験片及び切欠き付き厚
材料の降伏強度や引張強度は、一 に単 引張試験から求められ、応力ーひずみ関係に関する議論は1 次元の単 応力場にて行われる。これに対して、実際の構造物は 応力状態である。そのため、 応力状態に対してさまざまな降伏理論が提案されているが、一 に広く用いられているのが、Fig.2 に すvon Mises の降伏曲面である[2]。
von Mises の降伏曲面は静水圧応力の に平行な曲面となっており、降伏強度は静水圧応力の影響を受けない ことがわかる。つまり、この降伏曲面に従う材料は、静水圧応力によっては降伏しないことを表している。
Fig.2 Yield surface of von Mises [2]
金属の降伏は、von Mises の降伏曲面によって比較精度よく表され、広く運用されてきた。しかし、最近の 研究により、静水圧応力が大きい場合と小さい場合とで は異なることがわかってきた。
ミーゼス応力と静水圧応力の両方を考慮するために、静水圧応力とミーゼス応力の比で表される、 3 応力度 というファクターが提案された[1]。3 応力度Tr は、式(2.3) のとおりである。
板試験片を用いた引張試験
試験方法
試験機及び試験方法
Fig.3 に す、SHIMADZU AG-XD50kNplus 引張試験機 製造 島津製作所)を用いた。試験機の最大負荷容量は50kN で、負荷方式は高精度定速ひずみ制御方式である。今回の引張試験では、試験片の上部に強制変位を与え、ロートセルにより荷重を測定した。変位速度は6.0mm/min で、全試験片に対して同一である。この条件で各試験片が破断するまで引っ張り、変位に対する荷重を測定する。治具 つかみ歯)間の距離は50mm、試験温度はRT 室温)で一定である。
Fig.3 Tensile test machine (SHIMADZU AG-XD50kNplus)
試験片
材料は、実機における鉄鋼材料の高温状態を模擬でき る鉛ーアンチモン合金を用いた。Fig.4 に す、各5 種類の丸棒試験片及び厚板試験片を用い、破断するまで強制引張変位を加えて荷重を測定した。丸棒試験片の直径 と厚板試験片の板幅は同一であり、厚板試験片の板厚は30mm である。
Fig.4 Shape of specimens (round bars and thick plates)
次に、各試験片の断面 比をTable 1 に す。た'- し、平滑試験片については、その断面 比は1 となる。
Table 1 List of “sectional dimension ratio”
Number of specimen
“Sectional dimension
ratio”
Bar①, Plate①
1 (smooth)
Bar②, Plate②
1.073
Bar , Plate
1.25
Bar , Plate
1.857
Bar , Plate
3
試験結果
試験片の破断箇所 状況
ここでは、平滑丸棒試験片 丸棒①)、切欠き付き丸棒試験片 丸棒③)の破断箇所の状況をFig.5 に す。丸棒
①は大きく塑性変形してから破断に至るのに対し、丸棒
③は殆ど塑性変形を伴っておらず、また破面の形状から切欠き底ではなく内部から破断に至ることが分かった。内部からの破壊進展は、局部破損に特有の現象である。
Smooth bar (Bar①)
Notched bar (Bar③)
Fig.5 Observation of fracture
内部からの破壊進展のメカニズムの説明図を Fig.6 に
す[2]。このメカニズムは、材料の内部にボイトが発生し、このボイトが合体して破断に至る、というものである。
Fig.6 Fracture progress from inside [2]
3.2.2 関 切欠き
丸棒試験片及び厚板試験片の荷重ー変位曲 を Fig.7 に す。丸棒試験片、厚板試験片ともに、断面 比が大きくなるとともに最大荷重が上昇する傾向の結果がある。丸棒試験片、厚板試験片ともに、断面 比が大きくなるとともに、最大荷重に達する変位は小さくなる傾向にある。
Round bars
Thick plates
Fig.7 Load-displacement curves (tensile test)
切欠き付き試験片の最大荷重を平滑試験片の最大荷重 で規格化したものを 切欠き強化度 ”degree of notch strengthening”)と定義し、断面 比との関係をFig.8 に
す。丸棒試験片、厚板試験片ともに、断面 比とともに切欠き強化度は大きくなり、一定値に漸近する。一 に、丸棒試験片の切欠き強化度は厚板試験片の切欠き強化度よりも大きい。
Fig.8 Relationship between “sectional dimension ratio” and “degree of notch strengthening” (tensile test)
切欠き付き丸棒試験片及び切欠き付き厚板試験片の有限要素解析
解析モデル及び解析条件
丸棒試験片については 対称要素を、厚板試験片については単位厚さ 今回は厚さ1mm)の平面ひずみ要素を用い、Fig.4 に した各5 種類の丸棒試験片及び厚板試験片の形状をもとに、その対称性を活用したモデルを作成した。そのため、丸棒試験片、厚板試験片ともに、試験片の中心または重心、すなわち最小断面の中心または中央を、極座標系または直交座標系の原点にとっている。このとき、断面 比の等しい丸棒試験片と厚板試験片の 析モデルの形状は同一であり、ここでは丸棒
③、厚板③のモデル形状をFig.9 に す 図中の数字の単位は mm である)。すべてのモデルについて、全要素が四辺形要素となるようなメッシュを作成した。た'- し、引張試験において試験片の両端の部分に殆ど変形がみられなかったので、構造不連続部、すなわち断面形状 が変化する部分を割愛しないことも念頭に、丸棒①~
④、厚板①~④については端から15mm の部分を、丸棒
⑤、厚板⑤については端から25mm の部分を省略したうえで、すべてのモデルについて5mm の強制変位を与えた。全10 種類の 析モデルにおいて、この変位は最大荷重点に達するのに 分である Fig.11 を参照)。
Fig.9 Finite element analysis model (Bar③, Plate③)
本研究で用いたツールは、有限要素 プリ・ポストプロセッサFEMAP[3]と、汎用非 形構造 析システムFINAS/STAR[4][5]である。
また、引張試験にて平滑丸棒試験片 丸棒①)は大きく塑性変形してから破断に至った Fig.5 を参照)の
で、大変形弾塑性 析を行うこととし、平滑丸棒試験片の引張試験から得られた真応力ー真ひずみ曲 を 直近 して 力した。 力した真応力ー真ひずみ曲 は、Fig.10 のとおりである。
Fig.10 True stress-true strain curve
解析結果
丸棒試験片及び厚板試験片の荷重ー変位曲 をFig.11
に す。断面 比と切欠き強化度の関係をFig.12 に
す。引張試験同様、丸棒試験片、厚板試験片ともに、断面 比が大きくなるとともに最大荷重が上昇し、一定値に漸近した Fig.7, Fig.8 を参照)。
Round bars
Thick plates
Fig.11 Load-displacement curves (FEM)
Fig.12 Relationship between “sectional dimension ratio” and “degree of notch strengthening” (FEM)
考 察
丸棒試験片 厚板試験片の応力状態
等しい断面 比に対する切欠き強化度は、丸棒試験片の方が厚板試験片より大きい Fig.8, Fig.12 を参
照)。この原因として考えられるものに、構造不連続部にて起こると考えられている 塑性拘束 の強さの違いが挙げられる。
切欠き付き丸棒試験片における塑性拘束の概念図をFig.13 に す。切欠き付き丸棒試験片においてFig.13 のような引張荷重を与えた場合、荷重方向の応力 方向応力)は、断面積の小さい部分 図の 側の部分)において、断面積の大きい部分 図の上側の部分)より大きくなるため、ポアソン比効果を考慮すれば、半径方向または板幅方向において、圧縮方向に大きく変形しよう とするのは断面積の小さい部分、ということになる。こ の、断面積の小さい部分と大きい部分とでの、半径方向 または板幅方向の変形量の差が、その方向の応力を、断面積の小さい部分では引張方向に、断面積の大きい部分 では圧縮方向に生じさせる。これが塑性拘束のメカニズ ムである。
Fig.13 Mechanism of plastic constraint (notched bars)
まず、丸棒試験片における塑性拘束をみるために、最 大荷重点における丸棒①、丸棒③の周方向応力の分布をFig.14 に す。丸棒①においては、最小断面付近において周方向応力は殆ど存在せず、塑性拘束が存在しないことが確認できるのに対し、丸棒③においては塑性拘束が存在していることがわかる。
次に、厚板試験片における塑性拘束をみるために、こ こでは、最大荷重点における厚板①、厚板③の板厚方向 応力の分布をFig.15 に す。厚板③の板厚方向応力は厚板①よりも大きいものの、その比率はそれほど大きな値の差は存在しない。
したがって、丸棒試験片、厚板試験片ともに、最小断面部における周方向応力または板厚方向応力は、断面
比とともに大きくなるが、その比率は丸棒試験片の方が厚板試験片よりも明らかに大きいことがわかる。した がって、厚板試験片では厚さ方向には拘束がなく、拘束 するのは幅方向のみであるのに対し、丸棒試験片では塑性拘束が半径方向、周方向の両方向に生じることが、断面 比に対する切欠き強化度が、丸棒試験片の方が厚板試験片より大きい理由であると考えられる。
Smooth bar (Bar①)
Notched bar (Bar③)
Fig.14 Hoop stress distribution in round bars
Smooth plate (Plate①)
Notched plate (Plate③)
Fig.15 Thickness-direction stress distribution in thick plates
ミーゼス応力 静水圧応力の分布
ここでは、最大荷重点における、丸棒③のミーゼス応力の分布をFig.16 に、丸棒③の静水圧応力の分布をFig.17 に す。従来の局部破損の評価指標であるミーゼス応力は切欠き底 モデルの左 の部分)で最大値をし、局部破損箇所が内部であることを説明できないこと がわかる。これに対し、静水圧応力は最小断面の内部
モデルの上側の部分)で最大値を し、局部破損箇所によく一致している。
Fig.16 Mises stress distribution (Bar③, notched bar)
Fig.17 Hydrostatic stress distribution (Bar③, notched bar)
静水圧応力 局部破損の関
詳細に静水圧応力の最大箇所及び最大値について調杏するため、最大荷重点における、丸棒試験片及び厚板試 験片の最小断面における静水圧応力の分布をFig.18 に
す。断面 比を大きくしていくと、最大箇所が最小断面の中心部または中央部 クーフの左側)に移るとともに、静水圧応力の最大値が一定値に漸近する傾向が見られる。
Round bars
Thick plates
Fig.18 Hydrostatic stress distribution in minimum cross section
局部破損箇所が板厚の内部であることを説明するに は、局部破損の従来の評価指標であるミーゼス応力と、静水圧応力のいずれが適するか確認した。断面 比を変えたときの静水圧応力の変化を見るために、切欠き付 き試験片の最小断面における静水圧応力の最大値を、平 滑試験片の最小断面における静水圧応力の最大値で規格化したものを 静水圧応力比 ”hydrostatic stress ratio”)と定義し、断面 比と静水圧応力比の関係をFig.19 に す。丸棒試験片、厚板試験片ともに、静水圧応力比は断面 比とともに大きくなり、一定値に漸近する。丸棒試験片は厚板試験片よりも大きな値を した。また、切欠き強化度も丸棒試験片で厚板試験片よりも大きな値を す Fig.8, Fig.12 を参照)ことから、静水圧応力には塑性拘束の違い 5.1 節を参照)が反映されると考えられ、断面 比よりも静水圧応力が切欠き強化の直接の支配因子であると考えられる。
Fig.19 Relationship between “sectional dimension ratio” and “hydrostatic stress ratio”
断面 比を大きくしていくと、丸棒試験片、厚板試験片ともに、切欠き強化度、静水圧応力比の両者の値が 大きくなり、一定値に漸近する結果が得られたので、静水圧応力比と切欠き強化度の関係を調べた。
丸棒試験片及び厚板試験片の、静水圧応力比と切欠き強化度の関係を、Fig.20 に す。丸棒試験片、厚板試験片ともにクーフは直 に近いことから、切欠き強化の支配因子は静水圧応力であることが明らかである。
Fig.20 Relationship between “hydrostatic stress ratio” and “degree of notch strengthening”
結 論
局部破損現象を 明するために、切欠き付丸棒試験片及び切欠き付き厚板試験片の引張試験及び大変形弾塑性有限要素 析を行い、 のような結論を得た。
①引張試験において、丸棒試験片、厚板試験片とも に、内部からの破壊の発生及び切欠き強化がみられた。有限要素 析においても、引張試験と同様に、切欠き強化の傾向が得られた。
② ミーゼス応力'-けでは 応力状態での局部破損を表すのには不 分である。これに対し、静水圧応力の分布は、局部破損箇所が内部であることをよく表し、さらに、静水圧応力の大きさは切欠き強化度とよく対応する。
③ 上から、ミーゼス応力に加え、静水圧応力も局部破損の重要な支配因子である。
参考文献
David A. Osage, P.E., “ASME Section VIII-Division2 Criteria and Commentary”, The Equity Engineering Group, Inc., 2009.
佐藤拓哉、 “圧力設備の破損モートと応力”、 日本
工業出版、 2013.
“FEMAP v.9.3.1 ワークフック”、 Numerical Simulation Tech Co., Ltd., 2007.
“FINAS v19.0 使用説明書”、 伊藤忠テクノソリューションズ、 2008.
“FINAS 析例題書 第ー版)”、 核燃料サイクル開発機構、 2003.