過酷事故時の溶融デブリによるコンクリートの熱的 劣化とセラミックスの熱耐性に関する実験的研究
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カテゴリ: 第15回
過酷事故時の溶融デブリによるコンクリートの熱的 劣化とセラミックスの熱耐性に関する実験的研究
Study on Thermal Deterioration of Concreate and Thermal durability of Ceramics
東京工業大学
奈良林直
Tadashi
NARABAYASHI
Member
北海道庁
睛山隆仁
Takahito
HAREYAMA
北海道大学
千菓豪
Go
CHIBA
中国電力
林司
Tsukasa
HAYASHI
Member
日立 GE
今野隆博
Takahiro
KONNO
Member
保全学会
山口篤憲
Atsunori
YAMAGUCHI
Member
In Fukushima accident on 2011, molten core supposed to be leaked on the concreate floor in containment vessel. Development of small type of core catcher which can be installed in operating nuclear power plant is needed. In this investigation, the thermal deterioration of concreate and Magnesia-Carbon brick observed trough surface observation by microscope and measurement of compressive strength, weight reduction, and difference of void ratio. In addition, permeability measurement for burned concreate was operated. All factor was measured on room temperature situation with enough burned and cooled specimens. As a result, both of concreate and Magnesia-Carbon brick lost its weight, volume, and strength mostly relate with heating temperature. Permeability of concreate also rose as heating temperature rise. Magnesia-carbon brick which heated over 800℃ showed more severe deterioration than concreate heated same situation. Thermal deterioration of both material was observed.
Keywords: Severe Accidents, Core debris, Concreate, Magnesia-Carbon brick, High temperature, Thermal deterioration, Void ratio, zirconia, alumina
1 緒論
2011 年3月に発生した福島第一原子力発電所事故の際の炉心溶融後には、高温の溶融燃料(コリウム)が圧力容器底部から格納容器に漏えいしたとされている。 コリウムと格納容器のコンクリートが接触すると、コアコンクリート反応により可燃性ガスが発生し爆発の リスクが高まる[1]。また高熱により格納容器が侵食さ れると、放射性物質漏えいのリスクが高まるだけでな く、その後の事故収束にも大きな影響を与える。コリ ウムを受けとめ冷却する皿状の構造物であるコアキャ ッチャーの重要性が注目されているが、その多くは新 設される炉に設置されることが前提の大型のものであ り、既設炉の限られたスペースに設置するためには小型化が必須である。
本研究室では前年度まで小型コアキャッチャーの技術に関する研究を行ってきたが[2]-[5]5)、本研究ではコアキャッチャーを搭載していなかった福島第一原発の事故に関わる知見拡充の一環として、ペデスタル床 にある漏洩水検出のためのピットに流入した溶融燃料デブリによるコンクリートヘの影響を評価するため、 コンクリートの過熱試験を行った。
連絡先 奈良林 直、北海道大学名誉教授、
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1, N1-36
東京工業大学 E-mail: tnaraba@lane.iir.titech.ac.jp
2 チェルノブイリ原発事故に於けるコンクリートヘの熱的影響
チェルノブイリ原発事故時のコンクリート熱影響に関する書籍[6]によると熱影響は以下のように要約される。事故後3 時間で落下した核燃料の内部温度が1900℃に達し、ンルコニウムが融解しウランとンルコ ニウムの液体共溶物が発生した。事故後4 時間で下部遮蔽板上側の鋼材とコンクリートが融解した。その時の温度は1500~1700℃であったとされている。11 時間後には、建物の構造物を含んだ溶融物から褐色のセラミック状物質が生成された。
コンクリート中の自由水は 100~150℃で蒸発し、180℃から脱水が開始し 500℃でポルトランドセメントが分解する。石灰岩は800℃で分解し、1150~1400℃ で溶融する。コンクリートは1300~1400℃で融解する。
結合材であるポルトランドセメントは、540℃以上 の加熱で成分のエーライト(ケイ酸三カルシウム)の脱水によりひび割れと空隙を生じ、冷却後は再水和によ る膨張で組織が破壊され、強度が大きく失われる。しかし1200℃以上の加熱後に冷却すると、褐色セラミック硬化物の生成により強度がほぼ復元する。
コンクリートの骨材は主に花岡岩と石灰岩だが、花岡岩は400℃までの加熱で強度を大幅に増し、600℃以
上で石英の膨張により強度が低下する。石灰石は800℃以上で CaCO3 が分解し炭酸ガスを発生しながら収縮し、強度も低下する。
また、骨材とセメントの間で温度変形の差によりひび割れが発生する[7]。
3 実験装置および空隙率.強度劣化の測定
熱影響を受けたコンクリートおよびMC 煉瓦の劣化を確認するため、加熱前後の試験片重量・圧縮強度・空隙率を測定した。
まず、全ての試験で使用する試験片に共通して、電気炉を用いて5 時間かけて目的温度まで上昇させ、さらに目的温度で 1 時間保持し、その後炉内で 100℃近くまで5~10 時間かけて冷却した後に取り出し、各試験を行った。なお、試験片の目的温度はそれ れ400℃ から 1200℃まで 100℃刻 で設定した。MC 煉瓦に対しては800℃から1200℃の温度帯を試験範囲とした。 重量は、試験片の加熱前後の重量を電子天秤で秤量
し、減少割合を観察した。
空隙率は形状体積と真体積の差を空隙とし、形状体積に対する比率を求めた。真体積は図1(a)に示す装置で定容積膨張法を応用して測定した。1cm3 強の試験片14~16 個を入れた容器を-100kPa 程度まで減圧した後ヘリウムを100kPa まで充填し、連結した別の容器に開放した後の圧力値から推定した。同一の試験を別々の試験片に対し3 回行った。
圧縮強度は、図1(b)に示すように、加熱後に室温まで冷却した 1cm3 の試験片と 200kg まで計量できる重量計を重ねて万力で圧縮し、破壊されたときの荷重か ら圧縮強度を算定した。なお、コンクリートについて は、試験片内の骨材構造により加熱時に入る の状態が変わり圧縮強度にばらつきが生じることが推定されたため、同一の試験を各温度区分で7 回行った。また、事前に試験片を観察して、粗骨材が支配的になっていない試験片を選別して圧縮を行った。
(a)Porosity measurement,(b) Compressive strength
Fig. 1 Test specimen measurement devices
Fig. 2 Permeability measurement devise
透水試験はコンクリートに対しての 行った。直
100mm 高さ200mm のコンクリート供試体に対し400、
600、800、1000℃の加熱を行い、表面をコーキング材 と塩化ビニル管で被覆した後、透明なアクリル管に水漏れがないよう接続した試験装置を使用した。水を投入し水位の変化を観察する事で透水を確認し、単位体積単位時間あたりの透水量を推定した。
図2に透水試験装置の外観を示す。
4 実験結果及び考察
1200℃でコンクリートのセメント部分が骨材をして融解した。文献では融解は1300℃以上で起こると 記載されていたため、文献とは異なる結果である。おそらく 1200℃で一時間保持したことでコンクリートが熱による影響を大きく受け、融解に ったのではないかと考える。図3に融解したコンクリートの写真を 示す。
Fig. 3 Molten specimen (1200C)
また、MC 煉瓦は、元は黒色の密実な組織を持っていたが、800℃以上の加熱の後は白色粉末状の結晶が密 集したような密実でない組織に変化した。後の調査によって、MC 煉瓦は酸化 グ シウムとカー ンからできているため、大気雰囲気中で長時間高温加熱するとカー ンが酸化し遊離することで白色の酸化 グ
シア粉末の るという事が判明した。また、MC 煉瓦に対して1200℃の加熱を行ったが、試験片の受け皿として使用していたステンレス容器が試験片と溶着してしまい引き剥がせなくなったため、試験を実施できなかった。
図4に重量減少率のグラフを示す。コンクリートとMC 煉瓦の両者について加熱前と比べて数値が減少していく様子が見て取れる。特にMC 煉瓦はコンクリートと比較して大きな減少が見て取れる。コンクリートでは、脱水や二酸化炭素の遊離で質量減少を起こすのは主にセメント部分であるため、試験区分 との骨材含有量の差が数値の振れを引き起こしている可能性がある。MC 煉瓦の重量減少は明らかに二酸化炭素の遊離によるものである。
0.98
0.96
Weight reduction rate [-]
0.94
0.92
0.90
0.88
0.86
0.84
0.82
0.80
3005007009001100
Heating temperature [℃ ]
Fig. 4 Weight reduction rate
図5に圧縮強度試験の平均値と標準偏差を示す。コンクリートについては 600℃から強度の減少が始まり、700℃以 は元の1/4 程度にまで下がった。MC 煉瓦は
800℃以上加熱した後の強度は1MPa 程度だった。コンクリートについて、セメントの主成分エーライトの脱 水による劣化は 540℃で始まるため、事実に則した結果が得られている。また、700℃以 の試験でたびたび
30.00
25.00
20.00
15.00
10.00
5.00
0.00
300
500
700
900
1100
1300
Heating temperature [℃ ]
Defference of Void ratio [%]
Conc
reate
M-C
Bricks
Fig. 6 Difference of void ratio
片をよく確認すると骨材部が粉砕されている形跡があった。骨材の強度も高温で劣化することが文献[1]で述べられているため、10MPa 以下の圧力で骨材が破壊される現象も説明がつく。
図6に空隙率の加熱前後での差の平均値と標準偏差を示す。温度に応じて空隙率が過熱前に比べ増加していく様子が確認できるが、コンクリートについては1100 度で空隙が減少するなど不自然な挙動が見られる。これは、後の顕微鏡観察で1100℃加熱の試験片についてセメント部に微細組織の溶融兆候が見受けられることから、溶融した組織が加熱により発生したガスを取り込 膨張したか、空隙に当たる部分が溶融組織で閉じ込められたか等の理由で、実際より空隙率が小 さく見積もられた可能性がある。
透水試験の結果を図7に示す。加熱温度が上昇する と共に透水性も上昇している様子が見て取れる。しか しその透水量は 大で6 10-6mL/s/cm3 と に小さい。また、加熱した試験片の中から比較的 全な試験片を選んで 学顕微鏡写真を 影したとこ 、高温になるにつれセメント組織に が多くなっていることがわかった。この 0.03mm 単位の は試験片の圧縮強度に特に大きな影響を及ぼしたと推測する。また、 この は透水性の上昇に影響を与えたと考えられる。
18.00
Compressive strength[MPa]
16.00
14.00
12.00
10.00
8.00
6.00
4.00
2.00
0.00
Co
ncreate
M-
C Brick
s
020040060080010001200
Heating temperature [℃ ]
Fig. 5 Compressive strength of specimen
7.0E-06
6.0E-06
Water Permeability [mL/s/cm3]
5.0E-06
4.0E-06
3.0E-06
2.0E-06
1.0E-06
0.0E+00
5-
2
6-
4
5-
5
6-
2
30040050060070080090010001100
Heating temperature [℃ ]
Fig. 7 Water permeability of concreate
図8に過熱済 コンクリートを 影した顕微鏡写真の一例を示す。左側が400℃、右側が1100℃でそれ
れ一時間保持した試験片である。1100℃で加熱された試験片は、セメント部分に茶褐色に変色している部分があり、これはセメントの微細組織が部分的に溶融している兆候を示している。
Fig. 8 Comparison of specimen (400C and 1100C)
5 セラミックスの耐熱試験
続いて、ンルコニアとアルミナの耐熱試験を実施した。顕微鏡写真を図9、図10 に示す。写真を見て分かるとおり、この二つは加熱前と加熱後で見た目に全く変化を起こさなかった。
Fig.9 Microscope photo of zirconia
Fig.10 Microscope photo of alumina
また、参考として加熱前後の各試験片の外観写真を図 11 に示す。コンクリートと MC 煉瓦は加熱すると変形・変色しているが、ンルコニアとアルミナは若 干の変色を除いてほぼ変化は無い。
Fig.11 Microscope photo of test specimens
6 FEM による非定常熱伝導解析
2011 年の福島第一原発事故で、圧力容器下部の漏洩水検出用コンクリートピットに溶融燃料が流入したと いう仮定の下、FEM を用いて 定 熱伝導解析を行った。燃料の発熱は、汎用炉物理解析コードCBZ で停止後 時間の出力割合を導き、体積あたり発熱量に変にて体系中央の溶融燃料部に遥用した。なお、定格出力は東京電力で公開している当時の一号機熱出力を採 用した。
図12 に溶融物落下から1時間後の等温線図を示す。10 分間でウラン燃料は崩壊熱により融点を超える温度まで上昇するが、コンクリート深部の温度は1000℃ 以下である。実際の体系では、コンクリートの溶融に 伴い融解潜熱を奪われると考えられる。また底部の溶融コンクリートは比重の関 で溶融燃料の に伴い浮上する可能性があるが、FEM の 定 熱伝導解析では解析上の限界がある。実際には溶融燃料により、溶融燃料下部のコンクリートは溶融し、浸食されると考 えられる。ピット上部に溶融燃料の流入を阻止する耐火壁(コアキャッチャーまたはコリウムシールド)を設置することが必要である。
Fig. 12 FEM thermal calculation
7 結論
骨材を含んだ普通コンクリート及びMC 煉瓦を電気炉で加熱し、ある温度で一時間保持した結果、1200℃ 保持でセメントが骨材部分を して融解し、MC 煉瓦 は 800℃以上の領域において白色粉末状組織に変化した。また、コンクリートは 400~1100℃の範囲、MC 煉瓦は800=1100℃の範囲において、重量は温度に対してほぼ一様に減少した。コンクリートは 500℃まである程度強度を保っていたが、600℃以上から急激に低下 し、700℃以 は概ね4MPa 程度かそれ以下で安定した。MC 煉瓦は 800℃以上の加熱で強度を 1MPa 程度に落 とした。空隙率試験については、加熱温度が高くなる と空隙率は過熱前に比べて大きくなっていく様子が観察された。加えて顕微鏡写真の観察により、コンクリ ートは高温加熱により骨材周辺に網の目状の を生じることがわかった。
ピット上部に溶融燃料の流入を阻止する耐火壁を設置することが必要であるが、コアキャッチャーの部材として選別したMC 煉瓦が大気雰囲気中での長時間の高温加熱に耐えられない事が判明したため、ンルコ ニアやアルミナなど耐熱性の高い材料を使用して、耐 熱試験を実施した。1200℃までの加熱範囲で、ンルコ ニア、アルミナとも顕微鏡写真や外観写真に変化はほ とんど無い。
本研究は日本保全学会コアキャッチャー分科会の研究成果の1部である。
参考文献
Franc?Ois Bouteille, Garo Azarian, Dietmar Bittermann, Joerg Brauns, Juergen Eyink.. The EPR overall approach for severe accident mitigation Nuclear Engineering and Design 236, 1464?1470. (2006).
奈良林ら、溶融燃料によるMCCI 反応とコアキャッチャーの開発、2-2-B-3, 保全学会学術講演会(2014)、
Marta Z. Sylwester, et,al., Molten Core Concrete Interaction
and Development of Core Catcher(2)Thermal shock effects for advanced high temperature ceramics, 2-2-B-4, 保全学会学術講演会(2014).
奈良林 直, 久保田 祥ら。「コアキャッチャーによる原子炉格納容器底部損傷防止に関する研究」、平成 26 年度 日本保全学会コアキャッチャー分科会報告書
(2015).
倉佑希、奈良林直ら, コアキャッチャーによる原子炉格納容器底部損傷防止に関する研究、保全学会学術講演会A-1-2-3(2016).
青柳征夫訳、「チェルノブイリ原子力発電所事故ーコンクリート構造物に及ぼした影響ー」、技報堂出版(2013).
睛山隆仁ら、過酷事故時における建屋コンクリートの熱劣化についての研究、保全学会学術講演会 D-1-2-3
(2017).