超音波探傷試験員の力量向上が配管破損リスクの低減に及ぼす影響の評価
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カテゴリ: 第16回
超音波探傷試験員の力量向上が配管破損リスクの低減に及ぼす影響の評価
Effect of Ultrasonic Testing Examiners’ Capability Improvements on Reduction of Piping Failure Risk
東京工業大学小嶋正義MasayoshiKOJIMAMember
東京工業大学高橋秀治HideharuTAKAHASHI
東京工業大学木倉宏成HiroshigeKIKURA
Ultrasonic testing (UT) is a part of maintenance program for essential equipment of nuclear power plants in in-service inspection (ISI). Analyses of probabilistic fracture mechanics (PFM) for welds of class 1 piping have been studied to evaluate piping failure risks. Probability of detection (POD) is one of the important input conditions in the PFM analysis. The POD is closely related to a capability of UT examiners; therefore it is anticipated that the capability improvement of UT examiners is related to the piping failure risk. The objective of this paper is to demonstrate effects of the capability improvement of UT examiners on the reduction of piping failure risk. A blind test was conducted twice at 11 week intervals by 2 examiners. The experimental results of PODs and cumulative failure probabilities were compared to evaluate relationships between the capability improvement of the 2 examiners and the piping failure risks. The results showed that the POD and the cumulative failure probability are useful for evaluating the capability improvement of UT examiners. In addition, it was demonstrated that the capability improvement affects the reduction of piping failure risk.
Keywords: Probability of Detection, Ultrasonic Testing, In-Service Inspection, Capability Improvement of UT Examiner, Probabilistic Fracture Mechanics, Cumulative Failure Probability, Piping Failure Risk
1 序論
原子力発電所の主要機器に対する供用期間中検査(ISI: In-Service Inspection では,主に 試験(UT: Ultrasonic Testing が実 される[1]. の 研究で, ISI での検査間 UT 試験員の 検 確率(POD: Probability of Detection に関連し,確率論的破壊力学(PFM: Probabilistic Failure Mechanics を活用した配管破損確率の
評価が実 されている[2, 3].それらの研究では,UT 試験員の 力を で したPOD を,PFM の 力条件の一つ して設定し,PFM に基づく配管破損確率を解析し,配管破損リスクが評価されている.
著者らは既往研究[4]で,有資格試験員[1] 無資格試験員によるオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接接手の応力腐食割れ(SCC: Stress Corrosion Cracking に対するUT を 用し,関 で したPOD 破損確率を した.その ,UT 試験員の力量の差が, POD 破損確率によ で る を した.
本稿の目的は, UT 試験員の力量向上の評価における, 関 で したPOD 破損確率の有効性の
実証である.また,力量向上に伴う配管破損リスク低減 の実証である.既往研究[4]でUT 訓練 ブ インド試験に参加したUT 試験員が, じ条件の実験を再度実した.そして,実験1 回目 2 回目の ら,
したPOD 破損確率を し,UT 試験員の力量評価 配管破損リスク の 評価を実 した. 2 実験方法
実験2 回目の概要を以下に記載する.実験2 回目は,
実験1 回目 じ条件で実 した.UT の訓練 ,ブインド試験条件,PFM 解析条件等の実験方法の詳細は, 既往研究[4]の第2 章を参照されたい.
ブフインド試験の実施方法
実験2 回目は,実験1 回目の11 週間後に実 した.また,実験1 回目に参加した無資格のUT 試験員9 名(試験員A I のう 2 名(試験員A B で実 した.
試験員A B(試験員AB は,実験2 回目でのブ
インド試験の実 に,実験1 回目 の 学実技によるUT の訓練を,一般社団法人発電設備技術検査協会 溶接・非破壊検査技術センターで受講した.
連絡先: 小嶋 正義、〒152-8550 東京都目黒区大岡山
2-12-1 N1-7、東京工業大学
E-mail: kojima.m.al@m.titech.ac.jp
ブラインド試験は,呼び径350A のSUS304 配管突合せ溶接を短冊状に切断した試験体(か355.6mm × L400mm × 14.5deg)を使用した 試験体は,溶接接手内面側に作製したSCC の模擬欠陥を試験員AB に隠すために,内面(裏
面)を で,側面( 状面)を テ プでした 溶接接手の 断面 状と寸法(mm)をFig.1 に示す 溶接施工法は,初層ティグ溶接及び2層目以降被覆ア ク溶接である 試験体は10 体で,うち7 体にSCC
する SCC の 数は11 で, をUE001
~011 と定義した 試験員AB は,試験体10 体から無作
に4 体を し,ブラインド試験を った
試験 イドは,JEAC 4207-2008[5]を参照した 子は, 2MHz 45° を使用した 試験員AB は, 椅子に着座し,机上でUT を った ブラインド試験中は, ア ン を に 定した UT ,試験体,
子等の実験機 を机上に した様子をFig.2に示す
Fig.1 Weld groove shape of examinations
Fig.2 Instrument, probe and test specimen in examinations
モデル化したPOD の算出方法
ブラインド試験で得られた結果を使用し,式(1)で定義する 数a の 数 数[6]で ル したPODを 出した
POD(a) = 1 - exp[- (a - ? )]
ここで,a(mm)は欠陥 ,POD(a)はa でのPOD,/J は 帰係数,se/J は/J の標準誤差(Standard Error),RSS は POD(a)の残差平方和(Residual Sum of Squares)である
累積破損確率の算出方法
ル したPOD を使用し,PFM に り累積破損確率を 出した また,se/J は考慮しなかった
解析対象は,ブラインド試験での配管 厚寸法25.0mm を考慮し,公称肉厚 26.2mm である呼び径400A とした
はSUS316L とした 配管突合せ溶接の溶接に模擬したSCC 進展の概念をFig.3 に示す
初期欠陥寸法は, 0.01mm, 0.02mm の
状とした Fig.3 のdc は,溶接 からの L(対数 )と 数 ( )の和で 出 れる式を参照した[2, 7] 応力拡大係数は,非線 応力 を3 次
式で した[8] SCC 進展 は,欠陥dc までは鋭敏 SUS304 鋼の式,dc 以降は低炭素系ステンレス鋼の式(対数 )を参照した[2] 配管に作用する応力は,内圧,一次一般膜応力,一次曲げ応力及び 膨張応力を参照した[7] 溶接残留応力は,400A 配管の有限要素法での解析結果を参照した[9]
上記の入力条件に り,検査間隔を4, 5, 8 及び10 年の
4 条件として,PFM に り運転期間40 年目の累積破損確
率を 出した ここで,欠陥 a ,配管厚 の75% 以上に達した場合を配管破損と定義した[2, 3] また, ンテカルロ法のサンプル数は106 とし,累積破損確率の出における1 サンプル当たりの破損確率は,配管 破損した場合におけるすべての検査実施時期での欠陥不検出確率(PND=1-POD)を乗じた値とした[10]
Fig.3 Concept of a SCC growth in HAZ and weld metal
実験結果
ブラインド試験の結果
試験員AB に る実験1 目及び2 目でのブラインド試験の結果をTable1 に示す
モデル化したPOD の結果
se?
RSS
(1)
Table1 で示 れた結果を使用して, 数 数で ル
したPOD を式(2)及び(3)に示す
Table 1 UT results of the 1st and the 2nd experiment
ID
Defect Height
a (mm)
Probability of Detection 1st Expt. Results
Probability of Detection 2nd Expt. Results
UE001
7.5
1.0 (Examiner A)
1.0 (Examiner B)
UE002
2.0
一
1.0 (Examiner A)
UE003
8.0
一
1.0 (Examiner A)
UE004
2.0
0.0 (Examiner A)
1.0 (Examiner B)
UE005
1.8
一
1.0 (Examiner A)
UE006
1.5
一
0.0 (Examiner A)
UE007
4.2
1.0 (Examiner A)
1.0 (Examiner B)
UE008
5.8
1.0 (Examiner B)
一
UE009
1.5
0.0 (Examiner B)
0.0 (Examiner A)
UE010
2.0
1.0 (Examiner B)
0.0 (Examiner A)
UE011
4.3
0.0 (Examiner B)
1.0 (Examiner A)
実験1 回目の ら したPOD
POD(a) ? 1? exp?? ?a ? ? ??
4 考察
4.1 試験員の力量向上に す 評価
(2) (3)で したPOD を評価するた に,実験1 回目 2 回目でのブ インド試験 したPOD を で した をFig.5 に す.
で,Fig.5 の は 高さ, はPOD である. 丸は実験1 回目,三角は実験2 回目でのブ インド試験
の である.破線は実験1 回目,実線は実験2
回目,太線はβ,細線はβ±seβ で したPOD の
線である.
Fig.5 は,β で したPOD において,実験2 回目(太実線 の POD(a)が,実験1 回目(太破線 よ 左側に位置する を し,β±seβ で したPOD において,実験2 回目(細実線 の POD(a)が,実験1 回目(細
? ? 1.455,se? ? 0.4043
RSS ? 1.406
実験2 回目の ら したPOD
POD(a) ? 1? exp?? ?a ? ? ??
(2)
破線 よ 幅の狭い であった. れは,実験2 回目は,小さい 高さでも検 で る確率が高い ,また,検 のバ ッキが小さい を 唆するものである.
また,Fig.4 は,検査間 が4 5 について,実験
2 回目(三角 の 破損確率が,実験1 回目(丸 よ
? ? 1.160,
RSS ? 1.144
se? ? 0.2680
(3)
低い を した.
よって, したPOD 破損確率は,UT 試験員の力量向上の評価に有効である が実証された.
累積破損確率の結果
Fig.4 に検査間 4, 5, 8 10 で解析した運転期間
40 目の 損 確率を す.
で,Fig.4 の は検査間 , は 破損確率(対 スケー である.丸は実験1 回目,三角は実験2 回目での の である.実線は三角の,破線は丸の線形補間である.
1.E-01
1.2
1.0
Probability of Detection (-)
0.8
0.6
0.4
1.E-02
Cumulative Failure Probability (crack -1)
0.2
0.0
02
46810
Defect Height a (mm)
Fig.5 Relationship between the 1st and the 2nd POD curve
1.E-03
1.E-04
45678910
Inspection Interval (years)
4.2 力量向上が配管破損リスクに及ぼす影響
したPOD の不確 さ して,95%信頼限界を考慮した 破損確率を し,UT 試験員の力量向上が配管破損リスクに ぼすの の評価を行った.
β の95%信頼限界は,プロ ァイ 尤度法[11]によ
した. したPOD は,β 95%上側信頼限界
Fig.4 PFM results of the 1st and the 2nd experiment
をPFM の 力条件 した.UT の検査間 は5 した.
Fig.6 に,検査間 5 による運転期間40 間での解析
を す. で,Fig.6 の は運転期間, は
破損確率(対 スケー である.丸は実験1 回目,
三角は実験2 回目での である.実線は三角の,破線は丸の線形補間である.また,太線はβ の,細線は95% 上側信頼限界の補間直線である.
Fig.6 は,運転期間10 目以 の 破損確率で,β
95%上側信頼限界 もに,実験1 回目(丸 の 破
損確率が実験2 回目(三角 を上回る を した. の は,実験2 回目での試験員AB の力量向上によ , 配管破損リスクが低減した を すものである.
よって,本稿の実験 解析によ ,UT 試験員の力量向上に伴い,PFM に基づく配管破損リスクは低減する
が実証された.
1.E-02
Cumulative Failure Probability (crak-1)
1.E-03
1.E-04
1.E-05
0510152025303540
Operation Period (years)
Fig.6 Relationship between the 1st and the 2nd cumulative failure probability with ISI in every 5 years
5 結論
無資格のUT 試験員2 名に対して,SCC を有する配管
溶接部 のブ インド試験を11 週間間 で2 回実 した. また,その を 用し,指 関 で したPOD を した.さらに,PFM によ 配管の 破損確率を
した. れらの実験 ら得られた 論を以下に す.
・ したPOD 破損確率は,UT 試験員の力量向上の評価に有効である.
・UT 試験員の力量向上に伴い,PFM に基づく配管破損リスクは低減する.
参考文献
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