α汚染遠隔計測技術現場適用のための開発
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カテゴリ: 第17回
α汚染遠隔計測技術現場適用のための開発
Development of remote alpha contamination measurement detector for field application
東芝エネルギーシステムズ(株)、
技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
大甕 舜一朗
Shunichiro OMIKA
Member
東芝エネルギーシステムズ(株)、 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
坂本 直弥
Naoya SAKAMOTO
Member
東芝エネルギーシステムズ(株)、 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
久米 直人
Naoto KUME
Non-Member
東芝エネルギーシステムズ(株)、 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
隅田 晃生
Akio SUMITA
Non-Member
東芝エネルギーシステムズ(株)、 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
岡崎 幸基
Koki OKAZAKI
Non-Member
東芝エネルギーシステムズ(株)、 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
湯原 勝
Masaru YUHARA
Non-Member
東芝エネルギーシステムズ(株)、 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
宮原 康文
Yasufumi MIYAHARA
Non-Member
東芝エネルギーシステムズ(株)、 技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
高木 純一
Junichi TAKAGI
Non-Member
Abstract
Alpha Camera is developed as a remotely-operated detector to check the alpha contamination of wastes generated during decommissioning of Fukushima Daiichi Nuclear Power Station. The smear method is currently used to check the alpha contamination inside the plant. However, a large amount of waste will be generated from future decommissioning. Therefore, in order to reduce the exposure of workers, a remotely-operated alpha detector with wide range is needed.
In this paper, to confirm that the Alpha Camera can measure alpha contamination of floors and equipment in the plant, we measured concrete with different roughness of surface mounted with 241Am unsealed radiation source. As a result, different detection sensitivity depending on the roughness of surface was confirmed, even if the same amount of α- nuclides were attached.
Keywords: 1F, Decommissioning, Detector, Alpha contamination, PMT
1.開発背景
福島第一原子力発電所(以下、1F)は震災による事 故に伴い放射性物質が飛散しており、調査により原 子炉建屋内の一部にα核種の付着が確認されている[1]。α放射能の管理のため、α汚染の可能性がある廃棄物に対し、スミヤ測定を行い一定以上の汚染が 検出された場合は分別した上で保管容器に収納・保 管している。
今後、廃炉作業が本格化し、建屋解体およびその準備工事でα汚染の可能性がある廃棄物が発生するこ とが予想される。全ての廃棄物をスミヤ測定し、分別する場合、測定に係る時間が膨大になり、測定作業を行う作業員の被ばくが増加する。
連絡先:大甕 舜一朗
住所:〒210-0862 神奈川県川崎市川崎区浮島町 4-1
東芝エネルギーシステムズ㈱, IRID
E-mail: shunichiro1.omika@toshiba.co.jp
測定作業員の被ばく量を低減するためには、建屋 解体前などにあらかじめ表面α汚染がある可能性が ある場所を特定し、必要最低限の廃棄物に対して、スミヤ測定などを行うことが有効である。
しかし、α線は空気中の飛程が短いため、測定対象表面に接近した測定が必要であり、表面α汚染の可 能性があるエリアは広く、高線量環境であり、有人作業は困難あるため、エリア全体の測定は難しい。
そこで、定性的に表面α汚染を遠隔から測定でき るアルファカメラと遠隔台車などを用いた遠隔無人 測定技術を開発している [2]。
アルファカメラは、α線が空気中に放出された際 に空気中の窒素が放出する紫外線領域のシンチレー ション光をレンズで結像し、計測することで物体の 表面α汚染を検出できる。
スミヤ測定ではふき取り効率をかけることで、定 量的に表面α汚染密度を導出する。本手法では物体 表面に付着したα核種が放出したα線によって表面
α汚染密度を測定するため、物体内部への浸潤や表 面の粗さによって同じ表面α汚染密度の物質に対し て感度が異なる可能性がある。
原子炉建屋内での運用では、測定対象物は建屋コンクリートや機器の金属表面など多岐にわたるため、 表面粗さの影響を検証する必要がある。そこで、表面粗さを変化させ、影響を確認し対策を検討した。
2.アルファカメラのコンセプト
装置の概要
アルファカメラはα線による微弱なシンチレーシ ョン光を測定する必要がある。高感度化のため、大型のレンズで結像するとともに、光子カウンティング可能なマルチアノード PMT(浜松ホトニクス社製;H12428-100)で測定している。
Fig. 1 にアルファカメラによる測定例を示す。マルチアノード PMT の 8×8 の各ピクセルで測定した計数率を同時に取得した通常のカメラ画像上にコンタ ー図として合成することで、表面α汚染密度を可視 化する。図中の枠で囲まれている部分が測定可能な エリアであり、1 m 先の光軸中心に配置したα線源を検出していることがわかる。
Fig. 1 Sample of Alpha Camera imaging
Fig. 2(a)にアルファカメラの光学系を簡略化したものを示す。レンズを直接測定対象に向けると、1F プラント内の環境放射線の大部分を占める137Cs のγ 線とレンズが反応しチェレンコフ光が発生しノイズ となる。
そこでレンズとマルチアノードPMT をタングステン遮蔽体で遮蔽することで対策し、ミラーを介して 測定対象を覗く設計とした。バンドパスフィルタは 紫外線領域の光への相対感度を向上させるために使 用している。
Fig. 2(b)にアルファカメラ本体内部の立体構造を示す。内部には光学系、遮蔽体の他に PMT の信号処
理回路、TOF カメラ、環境モニタを収納している。環境モニタは測定環境のモニタリングを行い、ノイ ズの影響となる空間線量、照度、温度を測定する。また、PMT への熱によるノイズの対策として、ペルチェ素子を利用した冷却機構を組み込んでいる。
Fig. 2 Internal Structure of Alpha Camera
Table 1 にアルファカメラの仕様をまとめる。これらの値は 1 m 先のα線源に対する設計値である。
α線に対する感度の導出は 2.2 章で後述する。視野および位置分解能は 1 m 先の測定対象に対応
する値である。アルファカメラ単体の測定可能範囲は狭いため、パンチルト機構は画角に応じて回転できるようにし、それぞれの測定視野がオーバーラップするように測定する。パンチルト機構を含めた測定システムは 2.3 章に記載する。また、測定した複
数画像合成し、表面α汚染密度分布を作成する 3 次元画像合成機能の開発は別途報告する[3]
Table 1 Specification of Alpha Camera
項目
値
α線に対する感度
0.47 s-1/(Bq/cm2)
1 m 先の対象に対する視野
± 302.6 mm
1 m 先の対象に対する位置分解能
± 21mm
動作可能温度
-5 ℃~35 ℃
重量
150 kg
α線の測定結果
アルファカメラの基本性能を評価するため、3 種類の 241Am の標準線源を用いて感度評価を行った。
三つの標準線源のα線の放射能はそれぞれ 2958、744、220 Bq で、サイズはすべて 10 cm×10 cm である。これらを 1 m 先の光軸中心に配置し、5 分間の測定を行った。
Fig. 3 Results of 241Am sources measurement
Fig. 3 に 241Am 標準線源の放射能密度とアルファカメラで得られた計数率のグラフを示す。横軸はα線 源の放射線密度、縦軸は計数率を表す。放射能密度はα線源の放射能をサイズで割ることで求め、計数率 は 1 m 先の 10 cm×10 cm の領域を測定している中心の 6×6 ピクセルの積算値から BG を引いたものとした。グラフのフィッティングの傾きから感度を導出 し、0.47 s-1/(Bq/cm2)が得られた。
アルファカメラの測定システム
アルファカメラを無人操作するため、Fig. 4 に示すパンチルト、昇降機構と組み合わせて測定方向を制御することで、遠隔操作で分布測定が可能である。
Fig. 4 Combination with bogie
Table 2 に測定システムのサイズをまとめる。台車は遠隔昇降機能と転倒防止用のアウトリガーが備え られており、外形の最大はアウトリガーを広げて最 大まで上げた状態のサイズ、最小はアウトリガーを 閉じて最小まで下げたサイズを表す。
電源と Ethernet ケーブルを接続し、30 m 以上の遠隔地から制御用PC で操作、測定が可能である。
Table 2 Size of measurement system
項目
値
パンチルト範囲
パン:± 180°
チルト:-55 ~ 120°
昇降ストローク
1170 mm
重量
パンチルト機構:42 kg
制御装置:16 kg
リフター台車:183 kg
外形
昇降下端時:1100(W) mm×1464(L) mm×1065(H) mm
昇降上端時:1100(W) mm×1464(L) mm×2235(H) mm
3.表面粗さの影響評価
試験方法
2.2 では標準線源を利用したアルファカメラの感度を評価した。しかし 1F などの現場では線源サイズや形状が標準α線源とは異なる可能性が高い。
そこで、1F における測定性能を模擬するため、現場に存在する建屋内の壁、瓦礫、機器を想定し、Fig. 6 に示す表面の粗さが異なる 4 種類のコンクリート片を用意した。S
Fig. 5(a)の無垢コンクリートは建屋内の高線量領域で利用されている塗装されていないコンクリート、(b)のエポキシ塗装コンクリートは建屋内の塗装されたコンクリート、(c)および(d)の 1 mm と 5 mm のブラスト加工コンクリートは破損しているコンクリートを模擬している。それぞれのコンクリート表面に同量の 241Am の非密封線源を塗布し、試験を行った。
また、コンクリート片表面の粗さは 3D 形状測定器
(KEYENCE 社製;コントローラ部:VR-3000,ヘッド部:VR-3200)を用いて非破壊測定を行った。
4.今後の展望
要素試験の結果などをもとにアルファカメラによ る測定システムを設計し、装置製作を実施した。
瓦礫を模擬したコンクリート片の測定をおこない、 計数率が表面の形状に依存することが確認した。対策として、カメラで測定対象表面を把握しながら材料を判定し、補正を行う等の手法について検討する。
今後の開発課題として、1F の高線量下においてもアルファカメラが正常に測定可能であるか検討を行 う。
表面状態
Fig 5. Concrete pieces
本研究開発は、経済産業省 資源エネルギー庁の平成 30 年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金. (固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発)」の一部として、技術研究組合 国際廃炉研究開
試験では表面の粗さが異なるコンクリートに 400 Bq の 241Am を塗布し、アルファカメラのミラーから1 m 先の光軸中心に模擬材を設置し、20 分間測定を行った。解析で ZnS の計測結果と比較し、アルファカメラの感度を確認した。
試験結果を Fig. 6 に示す。横軸は表面の粗さ測定から得られた凹凸の偏差であり、大きいほど表面の凹凸が大きいことを示している。縦軸はアルファカメラの計数率と ZnS で測定した表面α汚染密度から、(計数率)/(表面α汚染密度)として求めた感度である。注記として、使用した光学系が異なるため、Table 1 の線源から導出した感度と直接比較はできない。
この結果から、表面が粗くなることで感度が 6 倍程度変わる可能性があることがわかった。ただし、塗装、無垢コンクリートなど健全な構造物であれば、感度変化が少なく分布評価には適用できると考えられ る。今後目視で材料を判定して補正することなどを 検討する。
Fig 6. Dependence of sensitivity on surface roughness
発機構の組合員である東芝エネルギーシステムズ株式会社が実施した内容の一部である。
参考文献
日本原子力研究開発機構 “平成 29 年度原子力規制庁委託成果報告書 東京電力福島第一原子力発電所プラント内核種移行に関する調査“
N. Kume et al., “Remote detector of alpha-ray using ultraviolet ray emitted by nitrogen in air”, IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference, 2013
坂本直弥ら “α汚染遠隔計測における 3 次元空
間再構築技術の開発”, 第17 回学術講演会, 日本保全学会