[基調講演]司法と原発 -原発を停めた判決は、何を誤ったのか?-

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カテゴリ: 第17回
司法と原発 ――原発を停めた判決は、何を誤ったのか?―― Some Aspects of Judicial Review of Safety of the Nuclear Power Plant 中央大学安念潤司Junji ANNENNon-member Abstract; More than fifty civil law cases have been filed to prohibit the electric power companies from operating their nuclear plants. Plaintiffs, usually residents near the plants, prevailed so far in seven cases. Written in detail of fact findings and with enormous amount of intellectual energy, those seven court decisions have in common some shortcomings in proper understanding of nuclear power regulations. Keywords; nuclear power plant, civil law cases, cases where plaintiffs prevailed 1.裁判例 原子力発電所の運転を停止させることを目的とし た裁判で東日本大震災以降に提起されたものは、お よそ 50 件を数える。これらの中には、原子炉の運転停止を求める民事の本案訴訟および仮処分命令の申 立てのほか、炉規法上の発電用原子炉の設置(変更) 許可処分に対する行政訴訟があり、訴訟法上の構成 は相当に異なるが、大部分は要するに、原子力規制 委員会による新規制基準の適合性審査の是非を問う ものであるので、ここでは、法技術面の差異にはこ だわらずに一括して扱う。これらのうち、以下の 7 件で周辺住民が勝訴した。その概要および上訴の状 況は、以下の通りである。 ① 福井地判平成 26・5・21(判時 2228 号 72 頁)・・・大飯 3・4 号機 関電が策定した基準地震動には信頼性が欠ける。 また、新規制基準は、外部電源・主給水系の強度 を上げるなどの措置をとっておらず、緩やかすぎ て合理性に欠ける。 連絡先: 安念潤司、〒162-8473 東京都新宿区市谷本村町 42-8、中央大学法科大学院 Email: annen@tamacc.chuo-u.ac.jp 03-5368-3576 ?控訴審、名古屋高金沢支判平成 30・7・4(判時2413・2414 合併号 71 頁)で、原判決取消し・請求棄却。 ② 福井地決平成 27・4・14(判時 2290 号 13 頁)・・・高浜 3・4 号機 新規制基準は、基準地震動の策定基準を見直す などの措置を取っておらず、緩やかすぎて合理性 に欠ける。 ?保全異議審、福井地決平成 27・12・24(判時 2290 号 29 頁)で、原決定取消し・仮処分命令申立て却下。 ③ 大津地決平成 28・3・9(判時 2290 号 75 頁)・・・高浜 3・4 号機 関電が策定した基準地震動は、震源断層の端部 を定め得なかったなど、危惧すべき点がある。 ?保全抗告審、大阪高決平成 29・3・28(判時 2334 号 3 頁)で、原決定取消し・仮処分命令申立て却下。 ④ 広島高決平成 29・12・13(判時 2357・2358 合併号 300 頁)・・・伊方 3 号機 原発運用期間中に阿蘇が破局的噴火を起こす可 能性が十分に小さいとはいえず、また、その火砕 流がサイトに到達する可能性が十分に小さいとも いえないから、立地として不適である。 ?保全異議審、広島高決平30・9・25(裁判所Website) で、原決定取消し・仮処分命令申立て却下。 ⑤ 広島高決令和 2・1・17(裁判所 Website)・・・伊方 3 号機 サイト近傍の中央構造線自体が活断層である 可能性が否定できないのに、地震ガイドに従った 「震源が敷地に極めて近い場合」の地震動評価が なされていない。 ?保全異議審、広島高決令和 3・3・18(裁判所Website)で、原決定取消し・仮処分命令申立て却下。 ⑥ 大阪地判令和 2・12・4(判タ 1480 号 153 頁)・・・大飯 3・4 号機 原子力規制委員会は、入倉・三宅式が有するば らつきを考慮した場合、同式に基づいて算出され た値に何らかの上乗せをする必要があるか否か、 について何ら検討していない。 ?控訴中 ⑦ 水戸地判令和 3・3・18(裁判所 Website)・・・東海第二 PAZ および UPZ 内の住民の段階避難等の防護措置が実現可能な避難計画およびこれを実行する 態勢が整えられている、というにはほど遠い状態 にある。 ?控訴中 2.考察 上記 7 つの裁判例では、ほぼ例外なく、各争点について詳細な説示がなされており、担当裁判官の人 並外れた精励・勉強振りが窺われるが、原発安全規 制の意味を誤って理解しているのではないかと思わ れる共通点がある。①、②は同一の受訴裁判所(合 議体)による判断で、実質的に同じ内容の説示がな されており、特に、原発サイトに基準地震動を上回 る地震が到来した実例を挙げて、電力会社の策定し た基準地震動に信頼性が欠けていると述べている。 しかしそこでは、「解放基盤平面」という仮想の平面 を想定した数値であるという、基準地震動の性質が 考慮されていないなど、条件を異にする数値を単純 に比較するという誤りを犯している。③は、断層の 存在を明確に否定できる箇所を端部と定めたことを 無視している。④の考え方によれば、巨大地震の発 生を予測する方法のない現状では、巨大カルデラの 周囲 160 キロメートル以内での原発立地はおよそ認められないこととなるが、新規制基準がそうした意 図をもっているとは思われない。⑤は、証拠資料(「中 央構造線断層帯長期評価〔第 2 版〕)の記述の意味を取り違えている。⑥については、経験式の各パラメ ータに十分保守的な値を代入すれば、それを経験式 に代入して得られた値にさらに、ばらつきを考慮し た上乗せをする必要があるとは思われない。⑦につ いては、新規制基準に基づく安全対策によって原子 力災害が起こる可能性が十分小さくコントロールさ れていれば、避難計画が整備されていなくても、人 格権侵害の具体的危険性があるとはいえない。 ただし、上記の誤解は、いずれもテクニカリティ の次元で生じており、往々指摘されるところとは違 って、直接に「ゼロリスク」志向から導かれたもの ではないことに注意する必要がある。 参考文献 佐藤一男、改訂原子力安全の論理、日刊工業新聞社、2006. 安念潤司「司法の立ち位置ということ?、?」 中央ロー・ジャーナル 15 巻 3 号、2018、pp.127- 146、同巻 4 号、2019、pp.93-118.
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