(4)希ガス吸着システム
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カテゴリ: 第17回
銀ゼオライトによる放射性物質除去システムの高度化
(4)希ガス吸着システム
Advanced Radioactive Material Removal System by Silver Zeolite
(4) Noble gas adsorption system
木村化工機
豊田
英晴
Hideharu TOYODA
Member
木村化工機
川原
康博
Yasuhiro KAWAHARA
Member
北海道大
中坂
佑太
Yuta NAKASAKA
Non-member
東京工大
奈良林直
Tadashi NARABAYASHI
Member
ラサ工業
石川慶浩
Yoshihiro ISHIKAWA
Member
ラサ工業
遠藤好司
Koji ENDO
Member
森村商事
小林三四郎
Sanshiro KOBAYASHI
Non-member
Since it is difficult to remove radioactive noble gas, the development of high performance adsorbent has been desired from the viewpoint of exposure prevention. We were able to develop a new adsorbent, XeA that has more than 10 times the performance of existing products. By utilizing this adsorbent in nuclear facilities, it is possible to contribute to the miniaturization of equipment, non-combustibility and reduction of radiation exposure.
Keywords: Preventive maintenance, AgX, AgR, XeA, Silver zeolite, FCVS, Radioactive iodine, Adsorbent, SGTS, Annulus, Severe accident
1.緒言
原子力施設の放射性物質抑制対策として、FCVS 等が普及することで、ほとんど全ての放射性物質の除去が可能 となってきた。しかしながら、唯一希ガスについては、そ の反応性の低さから除去することが困難であった。各施 設から放出が必要な場合には、短半減期の放射性希ガス の減衰を待つため、希ガスを2日間留めることを対策と している。緊急時対策所などの空気浄化システムでも希 ガス対策が難しいことから空気ボンベによって2日間の 対策を余儀なくされている。
従来、希ガス吸着には、希ガス用の活性炭が用いられて きた。しかしながら、吸着のための必要接触時間が4.5 秒ほど必要で吸着設備が大型となってしまい、実現性が難 しかった。また、活性炭では様々なガス影響もあった。また、ゼオライトの特性から希ガスを選択的に吸着で
きることも期待される。
福島事故のようなシビアアクシデント時では、希ガス の中でもXe キセノンの除去が重要となる。また、再処理施設などでは、Kr クリプトンの除去が重要である。この2種類の希ガスでの利用を検討している。
本稿では、この開発状況と適用例について報告する。
2.銀ゼオライトXeA
XeAとは
従来使用されている希ガス吸着用活性炭は、希ガス以 外の物質も物理吸着するため他のガス成分や水蒸気など の妨害物質による影響が否定できない。これに対し新し く開発された銀ゼオライトXeA(図1)は、希ガス分子を 想定したゼオライト構造を構築しているため、希ガスを 選択的に物理吸着できるため、従来品に比較してその吸 着効率(図2)は格段に向上されている。この結果、XeA は従来品と比較して、吸着性能が10倍以上あることを 確認できている。
また、活性炭は可燃性の高い物質であるため、火災事故 等に関して特別な配慮が必要となるが、XeA はゼオライトであるため不燃性であり安全性が高いという利点もあ る。
図1 XeA写真
図2 XeA吸着率(試験例)
適用例:緊急時対策所
原子力施設では、事故時の対策として通常時に使用する中央操作室とは別に緊急時対策所の設置が義務付けられている。この緊急時対策所の空調システム(図 3)は、外気が放射性物質で汚染されていることが前提であるため、放射性物質を除去する装置が設けられている。しかし希ガスについては除去することが困難であるため、短半減期の希ガスの減衰を待つ目的として2日分の空気ボンベを設置している。従来の活性炭吸着システムで2日分の希ガス吸着を行うとすると装置が大規模になるためである。
この緊急対策所用空調システムにXeA を利用した希ガス吸着システムを組み込むことで空気ボンベの負荷を低 減し、深層防護の観点から多様性を確保できる。
図3 放射性希ガス吸着システム(イメージ)
適用例:希ガスホールドアップ装置
BWR型原子力発電所では、燃料棒が損傷したなどの 場合は、放射性希ガスが微量に放出されることがある。そ の放射線レベルを低下させるため、吸着剤(活性炭)を充 てんした希ガスホールドアップ装置を設け、希ガスを一 定期間蓄積することにより短半減期希ガスの減衰を待っ てから放出するシステムとしている。
この吸着材を高性能のXeA に交換することにより希ガ
スホールドアップ装置を10分の1以下に小型化できる。 あるいは、既存の装置に活性炭の代わりにXeA を充てんすることにより放射性希ガスの放出を格段に低下させることができる。
適用例:空気浄化システム全般
従来から原子力施設では種々の空気浄化システムが設 置されてきた。また、今後も再処理施設等で希ガス対策が 求められることが想定される。XeA を利用したコンパクトな装置が実用化されることにより、これらのシステム 全般に希ガス対策が追加装備されることが可能になる。 このことは従事者や公衆の放射線防護に繋がる重要な提 案となる。
3.今後の課題
XeA が優れた吸着性能を持っていることは確認できたが、温度特性、圧力特性、水蒸気等の阻害要因の影響など の定量的なデータが不足している。今後はこれらのデー タを蓄積し、完成したシステムとして提案する。
4.結言
前述の通り、希ガスを除去することは困難な場合が多く、除去が必要な場合には大規模な装置を設置してきた。XeA のように希ガスを選択的に吸着できることが確認できたのでさらなる安全性向上のため各種のシステムを提案していきたいと考えている。新しい希ガス除去システムが実用化された後には、これを標準装備とすることが原子力業界の信頼性向上に繋がると信じる。
今後は早期実用化を図り、原子力施設の安全性向上の 一助となることを目指す。
参考文献
[1] 奈良林直監修、“フィルタベント-原子力安全の切り札を徹底解説-”、日本機械学会、2018.8.27
[2] 日立評論 1973 年 Vol.55 No.5 page441-446
“BWR 希ガスホールドアップ装置の運転特性”
[3]株式会社 日立製作所 1969 年
“希ガスホールドアップ基礎実験 最終報告書”