(2)銀ゼオライトの水素触媒反応とその応用
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カテゴリ: 第17回
銀ゼオライトによる放射性物質除去システムの高度化
(2)銀ゼオライトの水素触媒反応とその応用
Advanced Radioactive Material Removal System by Silver Zeolite
(2) The hydrogen catalyst reaction and application of silver zeolites
ラサ工業
石川
慶浩
Yoshihiro ISHIKAWA
Member
ラサ工業
遠藤
好司
Koji ENDO
Member
Paul Scherrer Institute Paul Scherrer Institute Paul Scherrer Institute Paul Scherrer Institute
I. Mantzaras
J. Theile
D. Suckow
T. Lind
Non-member Non-member Non-member Non-member
東工大
奈良林直
Tadashi NARABAYASHI
Member
木村化工機
川原康博
Yasuhiro KAWAHARA
Member
森村商事
小林三四郎
Sanshiro KOBAYASHI
Non-member
When a severe accident (SA) occurs at a nuclear power plant, a large amount of hydrogen will be generated in the containment vessel. As a measure, a static catalytic hydrogen recombination device (PAR) can be used to remove the hydrogen. In the case of significant damage to reactor core, the metal reaction between water and zirconium in the core will generate oxygen. The PAR device can promote the recombination reaction of hydrogen and oxygen using platinum or palladium as a catalyst to convert into water so that the purpose of removing hydrogen can be achieved. On the other hand, it was confirmed that confirmed that the catalytic reaction was very drastic in AgX and that there was almost no hydrogen catalytic reaction in AgR. In the present paper, we will describe the reaction of characteristics of these silver zeolites, and propose the possibility of applying them PWRs in the containment vessel, SGTS, and hydrogen sensors.
Keywords: Preventive maintenance, AgX, AgR, Silver zeolite, FCVS, Radioactive iodine, Adsorbent, SGTS, Annulus, Severe accident
1.銀ゼオライトの水素触媒反応とその応用
フィルタベント(FCVS)の更なる高度化のために、銀ゼオライトフィルタの有効利用を検討している。日本では、 福島事故以降で、多くの水素リコンバイナが設置され、事故時の水素対策がなされているが、欧州の電力では、事故時に水素リコンバイナが適切に機能するかについてヨウ素や水蒸気の影響を懸念しているところがある。
銀ゼオライトは、水素と酸素との触媒反応が確認され ており、この反応の条件や有効性を評価することで、水素 リコンバイナの補助的な役割や阻害物質の影響を緩和す ることが期待されている。特に放射性の無機ヨウ素や有 機ヨウ素(ヨウ化メチル等)の除去に利用されているAgX では、水素触媒反応が大きいことが確認されている。
また、新たに水素触媒反応がほとんどないことが確認 されている銀ゼオライトAgR は水素の影響を受けずに
ヨウ素を除去できるなど、水素センサなどへの利用が期 待されている。水素爆発の懸念を無くす上でも、AgX,
AgR を用いた技術の利用が期待されている。
これらの銀ゼオライト AgX, AgR を用いて、PWR のFCVS として格納容器内にAgX, AgR フィルタを設け、水素爆発の懸念を無くしたり、スクラバまでの前段で放射 性ヨウ素を除去することで、原子力従事者の被ばくを大 幅に削減することも可能となる。
SGTS などにこの技術と FCVS で確立されたメタルファイバ技術などを用いることで、水素爆発懸念だけでな く、火災などの懸念を無くすことも可能となる。これらの 技術の評価結果と有効利用について述べる。
2.水素触媒反応
2.1 水素触媒反応
AgX による水素-酸素反応の触媒作用は、下記の式のように、水素1mol の除去で284kJ の発熱を伴うため、AgX 自身も急激な温度上昇を伴う。この触媒反応は開始時の温度、ガス組成、ガス流量など、様々な条件に影響
されると想定される。
H2 + 1/2 O2 ⇒ H2O + 284 kJ (1)
2.2 AgX の水素触媒反応特性
AgX による水素触媒反応の代表的な挙動をTable 1 に 示した。AgX 通過後のガスを採取し、水素濃度をGC- MS で測定した。ガス組成は水蒸気49%、空気45%、水素6%、接触時間は0.092 秒とした。開始時のAgX の温度は170 ℃である。AgX 温度は通気後、数分で500℃を越え、水素除去率も良好な値が継続し、水素反応性に優 れている[1, 2]。
Table 1 Efficiency of hydrogen removal by AgX at 170 ℃
Time (min.)
H2 conc. In OUT gas (%)
Hydrogen removal (%)
AgX temp.
(℃)
1
0.19
98.4
173
4
0.02
99.8
364
7
0.01
99.9
541
10
0.01
99.9
492
15
0.00
100.0
476
30
0.01
99.9
477
60
0.01
99.9
484
90
0.01
99.9
487
120
0.01
99.9
489
150
0.01
99.9
487
180
0.00
100.0
498
210
0.00
100.0
506
3.PSI による水素反応性の評価
3.1 背景及び試験装置
外部機関による評価を実施し、またラサ工業では確認できない条件で性能を確認してデータの有効性を高めることを目的としてPSI(Paul Scherrer Institute ・スイス)にて、AgX、AgR の水素除去特性の評価を行い、どのような条件下で水素触媒反応が起き、どのような水素反応特性を有するかを調査した。想定した主な試験条件は大気圧(1.06bar)、接触時間100msec、反応開始温度125℃、140℃、水素1~6vol%である。試験装置の概略をFig.1 に示す。装置はステンレス製で4 つの部品から構成されており、TC4~TC6 が試料温度である。
3.2 AgX 水素反応性3.2.1 水素反応性の確認
試験装置にAgX を充填し、以下の条件で水素を通気した:水素6%、空気バランス、反応開始温度140℃、接触時間100msec.。Fig. 2 にガス流通時の温度を示す。ここで試料内部温度はTC4~TC6 である。試料内部温度は水素反応熱により、約500℃に達し、水素除去率は99.7%であった。このことからAgX が優れた水素反応性を有することが確認できた。
3.2.2 接触時間、反応開始温度、水素濃度
AgX が水素反応性を有することが確認できたため、接触時間、反応開始温度、水素濃度の水素除去率への影響を調査した。設定した条件は接触時間100msec、反応開始温度125℃、140℃、水素2~6vol%である。Fig.3 に示すように、温度が高いほど、水素濃度が高いほど、接触時間が長いほど、水素除去率が高まるが、AgX であっても除去率が低い条件があることが分かった。十分な性能が得られる条件での運用が必要となる。
Fig. 1 Test equipment configuration
Fig. 2 Change in internal temperature of AgX
3.3 AgR の水素反応性3.3.1 水素反応性の確認
Fig. 3 Summary of H2 conversions for the AgX
Hydrogen conversion [%]
試験装置にAgR を充填し、以下の条件で水素を通気した:水素2~6%、空気バランス、反応開始温度140℃、接触時間100msec.。Fig.4 にガス流通時の試料内
部温度の変化(140℃, 4%H2)、Fig.5 に水素濃度ごとの水素除去率を示す。Fig. 4, Fig. 5 より、AgR は水素導入時 にほとんど発熱が見られず、水素除去率も低いことか ら、水素反応性が低いことが確認できた。この反応性の低さはAgX とは異なるAgR に特有のものである。
Fig. 4 Change in internal temperature of AgR
Removal rate [%]
Fig. 5 Change in removal rate for each Hydrogen concentration
4.水素触媒特性の応用
4.1 PWR 格納容器内へのAgX の設置
SA 時に大量に発生する水素の除去対策のため、PWR 格納容器内には水素リコンバイナが設置されているが、万が一、水蒸気やヨウ素の影響で働かない場合でも、AgX をPWR 格納容器内に設置することで、水素触媒反応により水素爆発を防ぐことが可能となる。AgX 設置のイメージをFig. 6 に示す。また、格納容器内でヨウ素吸着が行われることにより、後段のFCVS への負荷を軽減することが可能である。
4.2 AgR の水素センサへの応用
ラサにて26℃のAgR に53%水蒸気、空気24%、水素10%、窒素13%、接触時間0.15 秒の条件で導入した。ヨウ化メチル吸着率の経時変化をTable 3 に示す。AgR 内部温度は120℃程度となるが、高いヨウ化メチル除去率が継続することを確認した。AgR は水素との反応性は低いが、ヨウ化メチルの吸着性能に優れるため、水素センサへの応用が期待できる。
Fig. 6 Installation of AgX in the containment vessel
Table 3 Adsorption efficiencies of CH3I on AgR at 120 ℃
4.3 AgX のSGTS への応用
Table 4 にSGTS を想定した条件下での、AgX のヨウ化メチル吸着性能を示した。試験はNUCON(アメリカ) で行った。AgX は常温から高温、高湿度の条件下でも高いヨウ化メチル吸着性能を示すことから、SGTS への応用が可能である。
Table 4 Adsorption efficiencies of CH3I on AgX at different temperature and relative humidity.
5.今後の課題
AgX、AgR がそれぞれ特徴的な水素触媒特性(水素濃度、試験温度、接触時間)を有することが明らかとな り、その応用例を提示することができた。今後の課題として実際のFCVS 条件の水素触媒特性の調査、試験設備のスケールアップを予定している。主な試験条件を以下に挙げる。
1:高温高圧下(格納容器内を想定) 2:水素とヨウ素の共存下
3:他の妨害物質(CO, CO2, N2O など)共存下
4:水蒸気共存下
6.結言
SA 時の水素対策として銀ゼオライトの検討を行い、水素触媒としての使用方法を提示してきた。今後、共存 物質の影響を調べることで、事故時にも水素触媒として 働くことを確認し、水素リコンバイナへの共存物質の影 響を懸念する欧州の電力にも提供できるよう、データの 蓄積を進める。
参考文献
小林稔季 等、“A124 銀ゼオライトAgX の水素除去特性”、第23 回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集、2018。
日本機械学会 編、フィルタベントワーキンググループ 著、フィルタベント-原子力安全の切り札を徹底解説-。