JSME シビアアクシデント時の構造健全性評価ガイドライン (BWR鉄筋コンクリート製格納容器編)の概要

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カテゴリ: 第17回
JSME シビアアクシデント時の構造健全性評価ガイドライン (BWR 鉄筋コンクリート製格納容器編)の概要 Summary of Structural Integrity Evaluation Guideline under Severe Accident Condition (BWR Reinforced Concrete Containment) 東芝エネルギーシステムズ(株) 深井新太郎 Shintaro FUKAI Member 東芝エネルギーシステムズ(株) 正木洋 Hiroshi MASAKI Non-member 日立 GE ニュークリア・エナジー(株) 永田徹也 Tetsuya NAGATA Non-member Abstract JSME シビアアクシデント時の構造健全性評価ガイドラインのうち BWR 鉄筋コンクリート製格納容器(RCCV)編について、RCCV のコンクリート部、ライナ部、鋼製耐圧部についての耐圧・耐漏えい性評価概要を記述する。 Keywords:BWR、シビアアクシデント、原子炉格納容器、鉄筋コンクリート製格納容器、RCCV 構造健全性、構造健全性評価ガイドライン 1.シビアアクシデント時の構造健全性ガイドラインについて 日本機械学会(JSME)では、発電用原子力設備規格として「シビアアクシデント時の構造健全性評価ガイド ライン」の策定を進めた。これは、シビアアクシデント を含む設計基準を超える状態時に原子炉格納容器に要求 される耐圧・耐漏えい機能、あるいは放射性物質の閉じ 込め機能を評価することを目的としている。ガイドライ ンは、沸騰水型原子炉(BWR)及び加圧水型原子炉 (PWR)の各格納容器構造別に策定し、BWR 鋼製格納容器編、PWR プレストレストコンクリート編、PWR 鋼製格納容器編、BWR 鉄筋コンクリート製格納容器編の全4 種の発行を完了している。 本報告ではBWR 鉄筋コンクリート製格納容器(以下、RCCV)編の概要を示す。 連絡先: 東芝エネルギーシステムズ(株) 〒235-8523 神奈川県横浜市磯子区新杉田町8 原子力システム設計部 E-mail: shintaro1.fukai@toshiba.co.jp 2.BWR 鉄筋コンクリート製格納容器編の概要 はじめに 本ガイドラインでは、格納容器のベントの有無に着目 し、限界性能または極限性能を算定するための方法を規 定している。適用対象事象は、シビアアクシデントに伴 う熱(温度)荷重・圧力荷重が最高使用温度・圧力の何 れか、もしくは両方を超える場合に対して適用し、シビ アアクシデントの起因事象の種類は問わないが、地震の 発生や水素爆轟等の追加事象は考慮しないものとしてい る。また、炉心損傷に伴うDCH、FCI、MCCI 等の溶融燃料に起因する衝撃荷重や熱荷重についても、シビアア クシデント対策による対応を想定して考慮しないものと している。 シビアアクシデント時の要求機能 格納容器ベント無しの場合は、耐圧バウンダリとして 機能させることを前提に、温度・圧力荷重に対する構造 健全性維持、ライナの漏えい防止機能維持、フランジ部 等のシール機能維持を要求機能とする。 格納容器ベント有りの場合は、既に耐圧機能を喪失し ている状態であるが、管理されていない放射性物質の放 出を抑制するために、ベントにより格納容器内圧を可能 な限り低くすることを前提として、温度荷重(および死 荷重)に対しての構造健全性維持(物理的な開口が無 く、FP の漏えい抑制ができること)を要求機能とす る。 評価対象部位と想定破損モード RCCV におけるシビアアクシデントに伴う温度・圧力荷重による想定破損モードと評価対象部位を表1に示 す。また、評価対象部位のうちコンクリート部の過圧・ 過温破損部位を例として図1に示す。 格納容器ベント無しの場合の想定破損モードは基本的 には過圧破損であり、コンクリート部、ライナ部、鋼製 耐圧部の各破損モードに応じて評価を行う。 格納容器ベント有りの場合の想定は基本的に過温破壊のみであり、コンクリート部、ライナ部の各破損モード に応じて評価を行う。この時、鋼製耐圧部については内 圧荷重無しの熱荷重のみで生じる破損モードは想定され ないため、評価不要とする。 図2にRCCV の主要評価フローを示す。 表1 評価対象部位と想定破損モード 格納容器ベント 無し (内圧:SA 時内圧) 有り (内圧:~0) 種別 部位 想定破損モード 【RCCV-3000】 過圧・過温破損 【RCCV-4000】 過温破損 RCCV 部 【RCCV-X100】 コンクリート部 【RCCV-3110】コンクリート部破損 ① シェル部引張破損 ② シェル部脚部の面外せん断破損 ③ シェル部下部大開口部周辺破損 ④ シェル部上部開口近傍および隅角部破損 【RCCV-4110】 シェル部脚部面外せん断破損 【RCCV-4120】 D/F-シェル部付け根部面外せん断破損 【RCCV-X200 】 ライナ部 【RCCV-3210】 ライナ部延性破壊 【RCCV-3220】 貫通スリーブ埋設部熱座屈 【RCCV-3230】 ライナ延性破壊またはライナアンカ引抜け 【RCCV-4210】 貫通スリーブ埋設部熱座屈( 【RCCV-4220】 ライナ延性破壊またはライナアンカ引抜け 【RCCV-X300】 鋼製耐圧部 【RCCV-3210】 鋼製耐圧部延性破壊 【RCCV-3220】 ドライウェル上鏡内圧座屈 【RCCV-3230】 フランジ開口 N/A 図1 過圧・過温破損部位(コンクリート部の評価の例) 図2 RCCV 主要評価フロー 限界温度・圧力の評価 本評価は、格納容器ベント無し(RCCV 内圧有り)の条件での耐圧部(コンクリート部および鋼製耐圧部)お よび耐漏えい部(ライナ部)の構造健全性を確保できる 限界温度と限界圧力の組合せ評価方法を規定している。 コンクリート部の評価 評価対象部位は表1の【RCCV-3110】①から④に示した部位に着目して評価するが、ひずみが大きくなること が予想される場合には評価対象部に加える。 限界圧力の評価は、FEM モデルを用いた弾塑性解析により、設定した上限内圧に達するか、コンクリート部 が破損の判定基準に達するまで内圧を漸増載荷すること により行う。表2に評価パラメータを示す。 表2 コンクリート部の評価パラメータ 評価部位 各破損形態の評価パラメータ 部材内力 ひずみ シェル部・トップスラブ部 脚部等のコンクリート部 面外せん断力 鉄筋引張ひずみ コンクリート圧縮ひずみ 底部 ― 鉄筋引張ひずみ コンクリート圧縮ひずみ FEM モデルは評価対象部位を考慮し、底部、シェル部、トップスラブ部全体をモデル化し、主たる構成要素をシェル要素として実施する。図3にRCCV 全体モデルと部分詳細モデルの例を示す。 耐圧限界の判定基準は以下の値を超えた場合となる。 ただし、底部についてはシェル部およびトップスラブ部 の破損に先行しないことが別途確認できた場合は評価を 省略することが出来る。図4に高温時の圧縮限界ひずみ の考え方を参考に示す。 【判定基準の値】 ・鉄筋の引張ひずみ:80,000μ ・コンクリートの圧縮ひずみ:(式1)から求まる圧縮限界ひずみ 高温時の圧縮限界ひずみ: 図3 RCCV 全体モデルおよび部分詳細モデルの例 εu(T)= ここに γc(T) γe(T) ×εu(20)(式1) ε u(T):温度T℃における圧縮限界ひずみ ε u(20):常温時(20℃)における圧縮限界ひずみ (=3,500μ ) γ c(T):高温時の圧縮強度の低減係数 γ e(T):高温時のヤング係数の低減係数 図4 高温時の圧縮限界ひずみの考え方 ライナ部の評価 評価対象部位は表1の【RCCV-3210】から【RCCV- 3230】に示した部位を含め、各プラントの設計やシビア アクシデント対策の内容等に応じて適宜追加する。 ここでは、【RCCV-3210】で規定するライナ部延性破 壊評価に関して記述する。 ライナ延性破壊の評価対象部位は、ひずみが集中し易 いと予想される部位を選定し、以下とする。 ① 大開口廻り等の構造不連続部 ② 材質不連続部 ③ 円筒-平板コーナ部 図5に開口部廻りおよび円筒-平板コーナ部の想定破 損モードを示す。 厚肉部― 薄肉部取合い部での 図5 開口部廻りおよび円筒-平板コーナ部のライナ想定破損モード 延性破壊評価は、FEM モデルを用いた大変形弾塑性解析により行い、解析結果から算出した相当塑性ひずみεeq を用いて局部的な破損限界を求める。 判定基準は、局部相当塑性ひずみの最大値が(式2)か ら求まる限界3 軸ひずみε L を超えないこと。 ? ? ? ??? exp?? ? ? s?? ??? ?? 1 ? ? 2 ? ? 3 ?? 1 ?? LLu ? ? ? ????? ? ?? モデルとライナ評価用ライナ詳細モデルの要素サイズの違いに対するひずみ集中補正係数 δ 2:溶接部の形状・材質不連続性によるひずみ集中効果あるいは限界ひずみの低減効果に対する補正係数 δ 3:その他の要因に対する補正係数 鋼製耐圧部の評価 評価対象部位は、表1に示す鋼製耐圧部の【RCCV- 3210】から【RCCV-3230】の部位を含め、各プラントの 設計やシビアアクシデント対策の内容等に応じて適宜追 加する。 ここでは、【RCCV-3210】で規定する鋼製耐圧部延性 破壊評価に関して記述する。 鋼製耐圧部延性破壊の評価対象部位は、ひずみが集中 し易いと予想される部位を選定し、以下とする。 ① ドライウェル上鏡部 ② L/D トンネル部 ③ 機器ハッチ部 ?? ? 3 ? 1? m 2 ??? 3? e ??? 延性破壊評価は、FEM モデルを用いた大変形弾塑性 (式2) 2 3 解析により行い、解析結果から全体的な崩壊限界を求め ? ? 1 ? ??? e 1 ? ? 2 ?2 ? ?? ? ? 3 ?2 ? ?? ? ? 1 ?2 ?0.5 るとともに、算出した相当塑性ひずみεeq を用いて局部的な破損限界を求め、そのどちらか厳しい方を限界値 ?1,? 2 ,? 3 :主応力 とする。 塑性崩壊の判定基準は、塑性変形の進行に要する内圧 ? Lu ? m2 ? 0.60 ? ?1.00 ? R?, イト鋼の場合 ? Lu ? m2 ? 0.75 ? ?1.00 ? R?, レス鋼の場合 ? ys R ? ? uts ? s??? 2.2・・・フェラ ? s??? 0.6 ・・・ステン 荷重あるいは温度荷重の荷重増分が工学的に無視できる まで小さくなることとする。 局部相当塑性ひずみの判定基準は、(式2)に準じる が、補正係数γを補正係数β=0.47 に読み替える。 極限温度の評価 本評価は、格納容器ベント有り(RCCV 内圧無し)の条件での耐圧部(コンクリート部)および耐漏えい部 σys:JSME 材料規格 Part3 第 1 章 表 6 にて規定す る値(MPa) σuts:JSME 材料規格Part3 第 1 章 表 7 にて規定する値(MPa) 係数γ はライナプレートの歪み評価に適用する補正係数であり、以下の通りとする。 γ =1/(δ 1 *δ 2 *δ 3) ここで、 δ 1:コンクリート部評価用全体モデル/部分詳細 (ライナ部)の構造健全性を確保できる限界温度と限界 圧力の組合せ評価方法を規定している。 コンクリート部の評価 本評価は、何らかの理由により通常のシビアアクシデ ントシナリオ上の最高温度を超える高温での評価が必要 となった場合や、特別にコンクリート部の耐熱限界を求 める必要性が生じた場合について実施するものであり、 シェル部脚部せん断破損評価とD/F-シェル部付け根部 せん断破損評価を含め、各プラントの設計等に応じて想 定破損モードや想定評価部位を適宜追加する。 図6にコンクリート部のせん断破損発生メカニズムと 評価項目を示す。 図6 コンクリート部のせん断破損発生メカニズムと評価項目 ここでは、【RCCV-4110】で規定するシェル部脚部の せん断破損評価に関して記述する。 シェル部脚部せん断破損は、RCCV シェル部の熱膨張が、より低温の底部で拘束されることにより生じる可能 性がある。評価方法および判定基準は2.4.1 項の記載に準じる。 ライナ部の評価 評価対象部位は、貫通スリーブ埋設部熱座屈評価とラ イナ背圧・アンカ引抜け評価を含め、各プラントの設計 等に応じて想定破損モードや想定評価部位を適宜追加す る。 ここでは、【RCCV-4220】で規定するライナ背圧によるライナ延性破壊またはライナアンカ引抜けの評価に関 して記述する。 本評価では、シビアアクシデント時に加熱されたコン クリートから放出された水蒸気によりライナプレートに 作用する背圧に対するライナ構造健全性の評価方法を規 定し、評価項目はライナの延性破壊およびライナアンカ の引抜けのいずれか厳しいものとする。 評価対象部位は、ライナ一般部の代表的構造とし、貫 通部や厚板ライナ部等の個別詳細構造の模擬は不要とす る。 評価方法は、ライナとコンクリート部を模擬したFEM モデルを用いて、ライナに温度荷重と圧力(差圧)荷重を同時に作用させた大変形弾塑性解析を実施 し、限界温度を求める。 図7にライナ背圧およびライナアンカに作用する荷重 概念を示す。 図7 ライナ背圧およびライナアンカに作用する荷重概念 ライナプレート延性破壊の判定基準は、局部相当塑性 ひずみの(式2)に準じる。 ライナアンカ引抜けの判断基準は、カットティのウェッブの部材内力より算出したアンカ引抜け力が、(式3) に定める値以下であること。 Pu = γ ・AC・FT・κ 1・κ 2(式3) ここで, Pu:ライナアンカの許容引抜力(N/mm) γ:実験係数(=0.75) Ac:有効水平面積(mm2/mm) Ac=2・h h:ライナアンカ(フランジ上端部)の埋め込み深さ (mm) FT:コンクリートの高温時の引張強度(N/mm2) κ 1:コンクリート面に水蒸気圧(背圧)が作用する ことによりライナアンカ引抜耐力が向上するこ とを示す補正係数であり、試験または解析によ り設定 κ 2:温度応力等によりライナアンカ周辺のコンクリートに圧縮力が作用することにより、ライナアンカ引抜耐力が向上することを示す補正係数であり、試験または解析により設定 なお,κ 1 とκ 2 を纏めて一つの係数κ =κ 1 κ 2 として求めてもよい。 3.まとめ JSME 発電用原子力設備規格 シビアアクシデント時の構造健全性評価ガイドライン(BWR 鉄筋コンクリート製格納容器編)は、日本機械学会「過酷事故時コンクリート製格納容器構造健全性評価タスク」において策定されたものである。また、本ガイドラインの策定にあたっては、(一社)原子力安全推進協会(JANSI)の委託に て実施した成果を一部適用している。 本ガイドラインに基づき、電気事業者が各原子力発電 所において策定するシビアアクシデントマネジメントプ ログラムに適切に反映されること、必要に応じて格納容 器の耐性強化等の対策に反映されることが期待される。 参考文献 [1] 日本機械学会, “発電用原子力設備規格 シビアアクシデント時の構造健全性評価ガイドライン (BWR 鉄筋コンクリート製格納容器編)”, JSME S NX5-2018
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