PD資格試験実施から15年の実施状況
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カテゴリ: 第17回
PD 資格試験実施から 15 年の実施状況
Current status of Japanese PD examination for 15 years
電力中央研究所
渡辺恵司
Keiji WATANABE
Member
電力中央研究所
林山
Shan LIN
電力中央研究所
東海林一
Hajime SHOHJI
Member
The PD Center of Central Research Institute of Electric Power Industry (CRIEPI) commenced performance demonstration examinations (PD examination) for flaw depth sizing of austenitic stainless steel pipes in March 2006. At the end of FY 2020, 54 examination sessions had been completed and 72 candidates had passed the examination. The total number of PD examinee including re-examination and re-certification was 124. Passed candidates can perform depth sizing of SCC flaws with a high level of accuracy. As a result of analyzing the causes of those who failed the PD examination, it was found that one of the criteria for passing the PD examination was the tendency to overestimate the actual SCC depth by being wary that the test response would not be less than 4.4 mm compared to the true SCC depth value.
Keywords: Performance Demonstration, Ultrasonic Testing, Crack Depth sizing
1.背景
電力中央研究所 材料科学研究所 PD センターは,2006 年3 月より日本非破壊検査協会規格NDIS 0603:2005 の附属書(現NDIS 0603:2015 附属書A[1])に従った,「軽水型原子力発電所用機器のオーステナイト系ステンレス鋼配 管溶接部に対する亀裂高さ測定の PD 資格試験」を実施している。これまでに,2018 年度までの PD 資格試験結果を報告した[2]。本講演では,前報告以降2020 年度までの PD 資格試験結果及び PD 資格試験結果から得られた受験者の傾向について報告する。
2.PD 資格試験の実施状況
PD 資格試験受験者及び合格者の推移
各年度の PD 資格試験回数,受験者数及び結果の推移をFig.1 に示す。また各年度のPD 資格試験回数,受験者数及び受験者の成績(SCC 亀裂高さ(深さ)測定値の平均自乗誤差(Root Mean Square Error:RMSE))をTable 1に示す。「再認証」とは,正確には資格の有効期限内に同 じ手順書を用いて再度認証を受けることで,「連続した更
4020
3015
Number of candidates
Number of examination sessions
2010
105
00
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020
Fig.1 Year-by year distribution in the number of candidates, and examinations
から10 年目の受験は新規受験に分類されるが,本講演では PD 資格の有効期限あるいは手順書番号に拘らず,一度 PD 資格を取得した者が再度受験する場合を再認証として扱うこととした。RMSE は以下の(1)式で表されるもので,PD 資格試験受験者の探傷技量を示す指標である。
新による有効期限内,かつ,最大10 年を超えない範囲で,n2 1
∑ i = 1 ( mi - t i)2
PD 技術者は,認証機関によって再認証を受ける」と規定
されている[1]。すなわち,一旦資格を失効させた後の受
RMSE = ?
n? …(1)
験や手順書を変更して受験する場合,PD 資格を取得して
連絡先: 電力中央研究所 材料科学研究所 PD センター
〒240-0196 神奈川県横須賀市長坂 2 丁目 6-1 https://criepi.denken.or.jp/jp/pd/index.html
mi :第i 番目のSCC 亀裂高さ(深さ)測定値
ti :第i 番目のSCC 亀裂高さ(深さ)の真とする値
n :SCC 亀裂の数
Table 1 PD examination result in each fiscal year
FY
Number of
examinations
Number of candidates
Number of successful candidates
(Pass rate)
FY
RMSE*
New
Re-certification
New
Re-certification
New
Re-certification
Re-
examination
Re-
examination
Re-
examination
Re-
examination
Re-
examination
Re-
examination
2005
2
8
―
―
―
3
―
―
―
2005
3.49
―
―
―
2006
10
21
14
―
―
7
7
―
―
2006
5.19
2.94
―
―
2007
6
7
6
―
―
1
4
―
―
2007
4.81
2.51
―
―
2008
5
2
5
―
―
1
4
―
―
2008
3.15
2.04
―
―
2009
3
5
1
―
―
3
1
―
―
2009
3.29
―
―
―
2010
3
2
3
2
―
1
3
2
―
2010
2.52
1.51
1.92
―
2011
5
2
―
7
―
2
―
5
―
2011
2.51
―
3.27
―
2012
3
1
1
1
1
0
0
0
0
2012
―
―
―
―
2013
3
1
―
3
2
1
―
3
1
2013
―
―
1.94
2.40
2014
2
―
―
3
1
―
―
3
1
2014
―
―
1.37
―
2015
2
1
―
4
―
1
―
4
―
2015
―
―
2.04
―
2016
2
1
―
3
―
1
―
2
―
2016
―
―
2.01
―
2017
2
2
―
1
1
2
―
1
1
2017
1.26
―
―
―
2018
2
1
1
2
―
―
1
2
―
2018
―
―
1.27
―
2019
2
1
―
2
―
―
―
1
―
―
―
2.90
―
2020
2
1
1
2
1
―
―
2
1
―
―
1.98
―
Total
54
56
32
30
6
23
(41%)
20
(63%)
25
(83%)
4
(67%)
Average
4.33
2.59
2.52
2.64
124
72 (58%)
3.46
2014 年度以降,各年度 2 回の PD 資格試験(各年度の
7 月と 1 月)を実施している。2006 年 3 月の試験開始以
降の累計受験者数は 124 名,再認証も含めた合格基準に
達した者は延べ72 名となった。
NDIS 0603 上でPD 資格更新の最大期間は5 年と規定されている[1]ことから,2010 年度より再認証試験を実施している。2015 年度にはPD 資格試験開始時にPD 資格を取得してから10 年目の再認証受験申請があった。Table 1 より,再認証試験の合格率 [83%] は,全受験者の合格率 [58%] より高く,探傷技量が維持できているものと考えられる。合格者・不合格者の測定誤差(ここ では,"回答値"-"真とする値"とする)の平均値及び標準偏差をTable 2 に示す。合格者の測定誤差の平均値,
* Statistical values for all data (not shown for 1 person or less)
Table 2 Statistical analysis of PD examination result
Candidate
group
Mean of measurement
error (mm)
Standard
Deviation (mm)
Successful
0.32
1.82
Unsuccessful
1.00
4.78
100%
80%
60%
40%
Ratio
20%
0%
標準偏差がそれぞれ0.32mm, 1.82mm であり,統計的に
2005
2007
2009
2011
2013
2015
2017
2019
も比較的精度良く計測できていることがわかる。
PD 資格試験結果と探傷方法
既報の通り PD 資格試験受験者の多くは,探傷手順としてフェーズドアレイ法(以下,PA 法)と PA 法を使用しない端部エコー法(以下,固定角UT 法)を組み合わせた方法(以下,改良UT 法)を用いている[2-3]。Fig.2 は, PD 資格試験実施年度別に用いた探傷手順書の比率を示したものである。最近では安価で高精度のフェーズドアレイ探傷器が市販されるようになってきたことから,PD 資格試験回数が進むにつれて PA 法のみの探傷手順が増えるかと思われていた。しかしながら Fig.2 に示す通り,
-2006 -2008 -2010 -2012 -2014 -2016 -2018 -2020
Fiscal Year
Fig.2 Ratio of UT procedure in each fiscal year
600
500
Number of crack depth sizing
400
300
200
100
0
PA UTConventional UT
Fig.3 Type of crack depth sizing procedure
最近でも依然として改良 UT 法による探傷手順が大半を占めていることがわかる。これは,探傷手順がある程度完 成してきていることや,実績のある探傷手順書への信頼 があるものと考えられる。
探傷手順書による区分ではなく,実際にSCC 亀裂高さ
(深さ)値を最終的に特定した探傷手法による分類を纏めたのがFig.3 である。探傷手順書としては改良UT 法が主流であるが,最終判定は PA 法の結果を採用することが多く,固定角 UT 法を補助的な位置づけとしていることが推定される。また,合格者の方がPA 法を最終判定に使用する比率が高いことがわかる。
100%
80%
60%
Ratio
40%
20%
0%
102535
Wall thickness(mm)
100%
80%
60%
Ratio
40%
20%
0%
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
Over
Fig.5 Correct answer rate according to the wall thickness of test specimen
超の誤差を出す比率が大きいことがわかる。
2.5 PD 資格試験不合格者の要因分析
PD 資格試験の合格基準は,全ての試験体の回答が以下の①, ②を満たすことであり,10 個"以上"の SCC 亀裂高さ(深さ)を測定することとなっている[1]。
① RMSE が3.2mm を超えない。
② 真とする値が4.4mm を超えて下回らない
なおこれまでの PD 資格試験では 10 個の SCC 亀裂高
~1.0 ~1.5 ~2.0 ~2.5 ~3.0 ~3.5 ~4.0 ~4.5 4.5
Test time per specimen (hr)
Fig.4 Correct answer rate according to the average test time per test specimen
回答に関する分析
さ(深さ)を測定しており,前述のRMSE を算出する(1) 式より,±10.2mm 以上の誤差がある SCC 亀裂高さ(深さ)測定値が 1 つでも存在すると,①の基準を逸脱する為不合格となる。
Rejected with
Fig.4 は,全受験者における試験体1 体あたりの回答に要する時間と概ね正解と思われる誤差±3.2mm の測定値を出した割合を示したものである。試験体 1 体あたりの回答に要する時間が 2 時間程度までは,誤差±3.2mm 以
Rejected with RMSE > 3.2 mm only (52%)
15%
15%
8%
RMSE > 3.2 mm
(81%)
内のSCC 亀裂高さ(深さ)を回答する比率が高いが,回答に要する時間が 2.5 時間を超えると,±3.2mm 超の誤差を出す割合が増加することがわかる。この原因の一つ として,比較的判断の容易な試験体にはすぐに回答する とともに,探傷中にSCC 亀裂高さ(深さ)測定に悩み始めると,探傷データに対する迷いが出てきて,探傷データ を正しく解釈できず,結果的に誤差の大きい回答をする
19%
Underestimation of
4.4 mm or more
(48%)
2% 4%
Underestimated by
less than -10.2 mm (6%)
37%
Overestimation of
more than 10.2 mm (50%)
ケースが増えるためと推察される。
全受験者の概ね正解と思われる誤差±3.2mm の測定値を出した比率を各試験体肉厚(口径)別に纏めたのがFig.5 である。肉厚が厚い試験体の方が,±3.2mm
Fig.6 Results of analysis by factors of failure in PD examination
Fig.6 は,PD 資格試験不合格者の原因を分類した結果を纏めたものである。前述の②の基準のみ逸脱した者は
不合格者全体の 19%と少なく,不合格の主たる原因が① の基準の逸脱であることがわかる。これに加えて,不合格者の半数が+10.2mm 以上の誤差があるSCC 亀裂高さ(深さ)測定値を回答していることがわかる。また+10.2mm 以上の誤差があるSCC 亀裂高さ(深さ)測定値の回答のみでの不合格者の割合は不合格者全体の 37%であり,①の基準のみに因る不合格者の割合 [19%] の 2 倍近くであることがわかる。更に少数であるが,-10.2mm 以上の過小評価をした不合格者もいることがわかる。
3.まとめ
2006 年3 月より開始したオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部に対するSCC 亀裂高さ(深さ)測定に関する PD 資格試験を,2021 年 1 月までの約 15 年間で計 54
回実施した。この間の累計受験者数は 124 名で,再認証
受験者も含めて合格基準に達した者は延べ72 名となった。これまでの試験結果の解析で得られた結果,以下のようなことがわかった。
2020 年度までの合格者の測定誤差の平均値は0.32mm,
Rejected with RMSE > 3.2 mm
Rejected with RMSE > 3.2 mm
標準偏差は 1.00mm であり,PD 資格試験合格者が高い精度で SCC 亀裂高さ(深さ)を測定していることを確認した。
受験者が用いた探傷手順の大半が,フェーズドアレイ 法と端部エコー法を組合せた方法であり,その中でも フェーズドアレイ法による結果を基にして回答する傾向である。
PD 資格試験の不合格者の要因を分析すると,試験体の回答が真とする値に比べて 4.4mm を超えて下回らないという合否基準を警戒して過大評価する傾向に
Overestimation of more than 10.2 mm (69%) Fig.7 Results of analysis by factors of failure in PD examination excluding the first 5 years
Fig.7 は,Fig.6 の結果より探傷手順書の完成度が低かったと考えられる PD 資格試験開始から 5 年間の不合格要因を除いたものである。Fig.6 で見られるような-10.2mm 以上の過小評価をした不合格者はいないものの,②の基 準の逸脱した者は不合格者全体の 85%に達し,更に不合格者全体の7 割近くが,+10.2mm 以上の誤差があるSCC 亀裂高さ(深さ)測定値を回答していることがわかる。既 往の発表にて PD 資格試験不合格者は,SCC 亀裂の先端を適切に見極められておらず,②の基準を警戒して過大 評価をしている傾向にあると報告したが,近年もこの傾向が続いていることが見受けられる。
あり,この傾向はPD 資格試験開始後5 年以上経過しても続いている。
参考文献
日本非破壊検査協会:超音波探傷試験システムの性能実証における技術者の資格及び認証, NDIS 0603: 2015, 2015.
渡辺恵司,林山,東海林一 “PD 資格試験開始から13 年の実施状況” 第16 回保全学会学術講演会予稿集, 青森, 2019.
渡辺恵司,林山,東海林一,太田丈児 “国内PD 資格試験の実施状況と今後の展開” 非破壊検査, Vol.66 No.2, p.52-57, 2017.