ROPの導入と事業者が果たすべき役割

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カテゴリ: 第15回
ROPの導入と事業者が果たすべき役割 関西電力(株) Features of ROP and expected changes in Licensee’s activities 爾見豊Yutaka SHIKAMIMember 原子力事業本部 US regulatory inspection program ROP (Reactor Oversight Process) is successfully being operated for almost two decades. Japanese Nuclear Regulation Authority (NRA) decided to introduce very similar process into Japanese inspection system from 2020. For achieving safety and reducing unnecessary burden at the same time, ROP is designed to fully utilize risk informed schemes in its components, i.e. sampling of the inspection items, determining importance of the inspection findings, regulating the strength of the enforcement, and allocating the role of regulator and that of licensees. First, explaining the aims of ROP and how ROP realizes these aims using risk-informed schemes in its components. Second describing the importance of CAP (Corrective Action Program) and Configuration Management with well organized “Design Basis Document”. Keywords: ROP, RIDM, CAP, Design Basis, Significance Determination Process, Configuration Management 1.はじめに 日本の原子力発電所における規制検査は、火力発電所 で行なわれていた検査を出発点に、トラブルや不祥事の 度に部分的な強化がなされ、現在では、施設定期検査や 保安検査を始めとして、定期安全管理審査、溶接検査、 溶接安全管理審査等、多種の細分化された検査で構成さ れるに至っている。これらの中には、例えば施設定期検 査と保安検査では適合を求める基準が、一方が技術基準 であり他方が保安規定であるなど、性格が異なる部分が 混在しており、規制検査が共通に目指している「公衆の 健康と安全を守る」との観点から検査内容全体を最適化 することには大きな技術的困難が伴う状態となっている。 2020 年から導入される新検査制度では、これら多種・多様な規制検査を法的に「原子力規制検査」に一元化し、検査内容の俯瞰的な改善が容易な体系に移行する。 検査内容の面では、米ROP がカバーしている範囲の検査については、極力そのまま日本に導入することで、安全レベルを効果的・効率的に確認し、必要な是正が行なわれる仕組みを目指している。 本稿では、2020 年に日本に導入される原子力規制検査の中核をなす米ROP に相当する検査に関して、その特徴を分析することで、新検査制度を効果的に運用するために考慮すべき事項について考察する。考慮事項の中には、米ROP が制度設計上の前提条件としている「事業者活動」も含まれており、事業者活動の内容が日米で異なっている部分について、今後、日本の事業者において改善が必要と思われる事項についても言及する。 2.ROP の目標とそのための工夫 ROP の目標 ROP は効果的・効率的な検査を行なうため、以下の3 点を実現するように制度設計されている。 「見逃さない」必要な安全レベルが確保されていることを確認し、必要な是正が確実に実施される 「無駄がない」安全上効果が小さい対応のために過大な手間が発生しない 「事業者を活用」規制・事業者が全体として、最も効果的に安全確保に取組む は規制検査やこの結果をトリガーとする行政措置に最低限求められることで、許容できない安全レベルとなっているプラント状態を確実に検知し、必要な対応を取る機能である。このためには、漏れなく検査を行い、問題の重要度に対応した強さの強制措置をとる機能が必要となる。 を実現するには、グレーディッドアプローチやリス クインフォームドといった概念に基づき、重要なものほ ど手厚い対応を行なうということが必要である。このよ うな手法自体は古くから採用されていたものだが、成否 のポイントは、①重要度を決める尺度や閾値をどう決め るか、そして②重要度毎の扱いをどう差別化するかの2 点の質の高さである。ROP では主な尺度としてΔCDF(炉 心損傷頻度)を用いることで重要度判断の精度を上げ、 リスク重要度に近い重要度分類が可能であることを最大 限利用して追加規制等の対応の程度を最適化することで、より効果的で無駄のない制度を実現している。 は大きな意味では(2)の一部とも言えるが、ROP では規制検査の最適化を行う際に、同時に事業者活動にも注目し、規制・事業者の総体としての最適化を実現している。リソースや設備の運用経験に関しては、事業者に強みがあり、他方、規制には公衆の健康と安全を守るという義務がありこの範疇での見逃しは許容されない。このため、規制は必要な範囲にリソースを集中してより詳細な検査を行い、事業者でも対応可能な範囲については、できるだけ事業者が実施する(できる)仕組みを採用している。 ROP の制度上の工夫 2.1 で挙げた3つの目標を実現するため、ROP にはどのような仕組みが組み込まれているのだろうか。 「見逃さない」を実現するためには、必要なレベルの安全劣化を抜けなく発見できる「漏れのない検査」が必要となる。運転中のプラントにおいて安全性が劣化する要素には、機器の故障・操作ミス・管理の抜けなど多種・多様なものがあり、予め検査対象を漏れなく規定しておくことはできない。一方で、事業者は多様な管理やチェックによりこのような劣化を防いでいるため、その際の事業者の着眼点は検査のポイントとしても効果的である。ROP の検査対象は、規制や事業者の関係者が安全劣化に関係する活動として思いつくものを網羅するように選定されており、さらに「事業者による管理やチェックの内容から必要な対象を抽出する方法」により漏れの少ない検査が実施できる工夫がなされている。事業者の是正措置プログラム(以下、CAP)を利用した確認を行なっているのもこのような工夫の例である。 さらに、この検査の内容を、起因事象・緩和系・バリア健全性・緊急時計画・公衆被ばく・従業員被ばく・セキュリティの7つのコーナーストーン毎に体系的に整理することで、抜けがないかを大括りに確認している。[1] まず、図1 にあるように「公衆の健康と安全」を守るために必要・十分な事項を、検査で確認すべき内容との関係が明確になる程度(7つのコーナーストーン)まで分解する。この際に注意が必要なのは、過不足がない分解となっていることである。原子炉安全については、格納容器が健全ならば目的は達成されるが、目的達成のために、その前段には、起因事象の発生を防止し、事象の進展を緩和するという深層防護の対応がとられており、これらの安全確保活動の状況を最もよく反映するようにコーナーストーンが設定されている。 図1 ROP で用いた安全の過不足のない展開 例えば「起因事象の発生頻度を低く抑える」など、各コーナーストーンにはそれぞれの目標がある。検査ではこれらの目標に影響する可能性がある安全上の劣化を漏れなく確認する必要がある。IMC2515 附則A には、コーナーストーンの目標が達成されているかの確認のために必要な検査内容や検査要領書名が体系的に整理されている。[2]起因事象に関する展開図の例を図2 に示す。 図2:検査内容の抽出(起因事象の例) 「無駄がない」の実現に必要な1 つめの要素である 「重要度の尺度」に関しては、「公衆の健康と安全を守る」という最上位の目的から考えて、「公衆の健康・安全レベル」そのものが検査で用いる重要度と一致していれば理 想的である。しかし、複雑で実運用に耐えない場合、簡略化が必要となる。現在でも「安全系か否か」「主配管か否か」など、比較的実リスクとの乖離が大きい尺度が使われているのはこのような簡略化の結果である。 ROP ではより実リスクに近く、一方で実運用が困難な、ΔCDF やΔLERF(早期大規模放出頻度)を炉安全に関する重要度の尺度として用いている。(なお、緊急時計画、公衆被ばく、従業員被ばく、セキュリティの尺度は別である。) ある指摘(本来あるべき姿から何らかの逸脱があった) 状態の持つ重要度をΔCDF の大小で決めるのであるが、この計算には条件設定を含め手間がかかり実運用で大きな負担が発生するため、これまで利用が「不可能」であった。これを「可能」にしたブレークスルーが重要度決定プロセス(以下、SDP)のルール化であった。SDP はΔ CDF が10-6 より小さい「緑」である指摘の大部分を、簡易な判断フローで見分ける方法としてIMC609 に約500 ページにわたり綿密に規定されており、SDP を用いることで、指摘の大部分は、手間のかかるΔCDF の計算を行なうことなしに最終的な重要度が決定できる。ROP が実用に耐えるリスクインフォームド検査として成功していることの背景には、このSDP を実用に耐えるレベルまで詳細に規定できたことがある。 「無駄がない」の実現のための2点目の仕組みは、重要度に応じた対応の程度の最適化である。重要度尺度としてΔCDF という実リスクと相関の高いものが利用できるようになったことで、規制が強く関与する必要があるレベルを、安全目標との関係から、従来よりも正確に決めることが可能となった。RG1.174 では安全目標をCDF が1 炉年あたり10-4 を大きく超えないこととしており[3]、規制検査では、安全目標が満たされない状態が発生していれば速やかに検知し対応を取る必要がある。ROP ではΔCDF が10-4 を超える指摘は「赤」に分類される。「赤」の指摘がある状態ではCDF が10-4 を超えていることから強い強制措置が取られる。また、「赤」発生の兆候を検知し早期に是正するために「黄」「白」のレベルを、「赤」よりもΔCDF がそれぞれ1 桁、2 桁低い値に設定している。さらに、いずれの場合にも重要度に応じて必要な是正が確実に取られたことを規制が確認するため の「追加検査」を行なう仕組みを設けている。この際、「黄」 「白」については、基本的に事業者による是正の結果を、再発防止の観点から十分かという観点で規制が確認する仕組みとなっており、規制が直接関与する内容を必要最 小限としている。 「事業者活動の活用」のため、ROP では規制と事業者の役割分担を、大雑把にいうと、「緑」の指摘は事業者が見つけて改善する、「白」以上の指摘はこれに加えて追加検査など規制による関与を行なう仕組みとしている。 「緑」の指摘の安全劣化の程度は、通常運転中に避けられないランダム故障やヒューマンエラーによっても発生しうるレベルであり、「赤」と比較すると、ΔCDF で3 桁程度のマージンがある。このレベルの劣化はプラントを運転する限り避けられないものであるが、事業者にはこれを検知して必要なレベルの是正措置を行う事が求められている。ちょうど、保守により機器の故障を完全には防げなくても機器の信頼性を必要な程度まで高めることは必要、というのと類似している。 効果的な是正措置の実施にあたっては、規制よりも事 業者がリソースや設備の運用経験上の強みを有しており、事業者に委ねることで、より効果的な対策が取られるこ とが期待できる。規制として確認すべきは、事業者にこ のようなレベルの安全劣化を発見、是正する能力がある かどうかであり、事業者に是正能力がある限り、「緑」以 下のレベルは、事業者に委ねる仕組みとしている。この ような仕組みはROP の特徴として注目されることは少ないものの、実際の規制検査における気付き事項のほぼ全 てがこの「緑」以下であるため、この部分の是正方法を 事業者が相当自由に決められることは、安全確保のため にも、規制資源の有効活用のためにも、大きな役割を果 たしている。 3.事業者活動の改善 改善が必要な理由 前述の通り、ROP は、規制と事業者が全体として最も効果的に安全を確保するというゴールを実現できるように設計されている。事業者の方がより効果的に実施出来る活動には規制は関与しないし、その前提として、事業者が必要な活動を確実に実施することが制度設計上想定されている。事業者に期待されている活動は、直接的には、課題を自ら発見し、必要なレベルの是正措置により重要度に応じて必要な程度まで再発を防止できることである。これが実現できていれば、事業者活動を有効に活用するというROP の採った方法は、最も効果的に安全を実現してくれるはずである。 安全上の課題を発見し、必要な是正を行なうための事 業者活動の最も大きな部分を占めるのがCAP である。インプットに漏れはないか、対応の程度に過不足はないかという観点で不十分な点があれば、まず、CAP の仕組みの改善が最優先課題となる。 では、CAP の仕組みが改善されれば十分だろうか。CAP は業務の実施者が問題だと認識した事項がそのインプットとなるため、認識しない限りCAP は機能しない。このため、CAP の効果を高めるには、誰もが課題をより正確に把握できる仕組みも同時に改善されることが必要となる。問題意識を持つなど安全文化面も大きいものの、一方で、設計ベース、即ち「何が実現されていれば安全であるか」を、容易に、かつ漏れなく関係者が把握できるように再整理することが効果的である。 以下では、まず、認識された課題に対し、必要なレベルの是正を確実に行なうためのCAP 見直しの方向性と具体的な改善内容を紹介する。その後、CAP のインプットとなる課題をより網羅的に発見するために、そのインフラとして必要となる「設計ベースの再整理」とこれを用いたコンフィギュレーション管理(以下、CM)について説明する。 CAP の改善 CAP は業務を行なう個人や組織が気付いた何かしらの 「問題」をコンディションレポート(以下、CR)として収集し、必要な是正を行うための体系的な仕組みである。我が国のどの事業者にもCAP の仕組みはあるが、日米間で例えばCR の件数が大きく異なることはよく指摘されており、事業者による課題の抽出と是正を効果的に行なうために見直しが必要な部分がある可能性が高い。改善に当たっては、以下の観点からの検討が有効である。 できるだけ広い範囲の課題を抽出する。 必要な是正が抜けず、かつ、不要な対応が少 なくなるような重要度分けを、多くのCR に対して少ない手間で行なう。 これら2点が実現できれば、使える情報を最大限利用しつつ、同時に、検討対象は必要十分な範囲まで絞り込むことができ、有効な是正対策を効果的に立案実行できる。 見直し1:広い範囲の課題の抽出 発電所では、誰もが自分が関連する業務について、何らかの目標やあるべき状態というものを認識しており、何らかの「あるべき状態からの逸脱」があれば、気付くことができる場合が多々ある。これらの気付きには、安 全上有効な対応につながる情報が含まれていることが多いため、このような情報の全てをCAP のインプットであるCR として利用すべきである。CR を作成する範囲を個々の作成者が予め絞り込むこともあり得るが、要否判断を各人が正確に行なうことは難しい。このため、CR は幅広く収集し、後段で、これを効率的にスクリーニングする方法を工夫すべきである。更に、CAP のインプットを広く集めることが、関係者全てが安全に注意を払って、問題や改善点がについて考える力を育てることに役立つ点も見逃すことが出来ない。 米電力では、現在、肥大化したCAP をより効果的なものに見直しつつあるが、そのような見直しの中でも、CR の範囲は狭めずに従来どおり広く情報を集める方針を堅持している。広い範囲の情報収集が重要であると判断しているのだと考えられる。 以上のように、CR は広く集める必要があり、少なくとも以下のような例[4]が漏れないように、各人が勝手に判断することなく、安全に影響する気付き事項は全て報告するという習慣を根付かせる必要がある。 オフィスエリアでの非常灯の故障 コンプレッサーオイル減少が想定範囲を超えている 弁パッキンのリークが許容限度を超えている 資格が必要な運転員が遅刻 作業者が手順書に技術的な誤りを発見 作業者が誤った線量測定バッジを着用し現場に行く 運転員が必要な安全装置室の巡視を実施しなかった 管理区域での仕事で必要以上に時間がかかった 安全系のブレーカーがトリップした 作業指示書の対象機器が正しくない メンテナンス作業者が間違った工具を用いた 非重要機器が予期しない故障を繰り返す見直し2:リスクに応じた意思決定 CR を広範囲に集めても、その後の処理の効率化がともなわないと、結局は検討が追いつかず必要な是正が取られない事態を招く。このため、事象の重要度にあわせて検討の深さに差をつけることが必要となる。 ROP における重要度の尺度としてΔCDF が用いられていることは説明したが、これは、必要な対応の程度に軽重をつける際、リスクの大きさをよくあらわしている尺度を使うと、最も効果と効率を両立しやすいためであった。個々のCR への対応の程度を定めるために用いるCR の重要度にも同じことが言える。ROP では「赤」「黄」「白」 「緑」が指摘の持つ重要度であったが、事業者は全ての レベルの問題に対し必要な程度の是正を行う必要がある。 ROP での扱いの差を参考にすると、CAP においても 「白」以上、「緑」、「マイナー」の3段階を区別するのが、一つの合理的な対応となる。それぞれについて、「過不足なく」是正措置がとれるように、どの程度まで間接的な原因までを調査し是正するのかについてルール化する必要がある。米NEI(Nuclear Energy Institute)によるCAP 見直しの方針[5]の中でも、この3段階に相当する重要度のカテゴリーと、カテゴリー毎の原因調査の程度要求が示されている。 表1 NEI によるCAP のカテゴリー分け見直しの例 重要度の定義 原因除去の検討の程度 重要度高 ・ROP の白以上の指摘に相当 ・法令報告対象の安全機能の喪失やバリアの劣化 ・モード移行が必要なLCO 逸脱状態 ・ΔCDF が10-6 以上の事象 ・重要度中問題の再発 ・安全系のSSC 機能が維持できない程度のQA プログラムの劣化 ・事象を調査し状態と原因を是正 ・問題の原因が不明確な場合は、RCA を実施し、状態と原因を是正 重要度中 ・ROP の緑の指摘に相当 ・保守規則違反 ・保守規則対象の機能の低下 ・ROP コーナーストーン目標に影響する問題 ・NRC 認可条件違反 ・重要度低問題の再発 判明している原因を記録し、状態を是正 問題の原因が不明確な場合は問題を調査し、状態と原因を是正(テンプレートを利用) 重要度 低 ・ROP のマイナー事象に相当 ・安全に影響しない計算ミス等 ・訓練計画問題、疲労管理ルール違反 ・問題の調査は行わず、状態を是正(問題の原因が不明確な場合も原則 同様) 表2 で特に注目すべきは「緑(重要度中)」の原因分析の 程度である。既に原因が明確な場合はその原因のみを除 去し、原因が不明な場合は、予め定めたテンプレートで 確認できる程度まで原因を究明して是正するとしており、相当の簡略化がなされている。「緑」は前述したとおり、避けられないランダム故障やヒューマンエラーによって も発生するレベルであり、目標を「再発しない」ではな く、「問題になるほどの頻度で再発しない」こととしてい るためであると思われる。 さらに、「マイナー(重要度低)」については、原因の特定を行なわないことを許容している。このような、ある意味大胆な対応をしても安全上問題が生じないことに確信が持てることの背景には、用いる重要度が実際のリスクに近くなったことで、「マイナー」の中にはリスクが実際には大きいため広範囲の是正がすぐに必要な課題が混ざることがないと期待できることがある。ここでも重要度の尺度の見直しが重要な意味を持っていることがわかる。 当社でも、上述のようなルールの見直しを早期に完了したうえで、今年度下期からは、大飯発電所を皮切りに全サイトで試運用を行い、本格運用までには、改善後のCAP が運用できることを目指している。 設計ベースの再整理とCM CAP が広範囲の問題を効果的に解決できるシステムに見直されたとしても、各人が課題を認識できなければ対応も取られない。問題意識をもつという文化の育成をCAP の実践を通して浸透させていくことも重要だが、問題が把握されない理由の一つには「現状が問題なのかどうかが容易には判断できない」ことがある。「あるポンプに安全上求められる圧力・流量のポイントはどこで、試験でその値が満たされることが確認できているか」を許認可図書、設計図書、検査記録等を利用して確認するのは容易ではない。設置許可申請書や工事計画認可申請書にはポンプの仕様として、圧力・流量が記載されている場合が多いが、その値が安全上必須なのか、それとも大きな余裕を有しているのかは、多くの場合、明確には記載されていない。 関係者が「安全上の問題」に気付くためには、①安全上の要求、②安全上の要求を満たすためにその系統や機器に必要な機能や仕様、③機器等の実際の機能や仕様(試験結果等)が整理されており、容易に確認できることが大きな助けとなる。 例えば、ポンプの機能試験をミニマムフローラインで行なっているケースを考える。この試験だけでは、実際に必要な流量や圧力があることは確認できないため、もし、流量等の仕様の要求が容易に確認できれば、試験で要求仕様が確認できていないということに気付くことになる。実際には、購入前の試験や同型ポンプの試験結果などから当該ポンプの性能は確認されているのだが、少なくとも、そのような確認が必要であることに気付く可能性がずっと増える。 現状でも、安全上重要な対象については、厳格な管理が行なわれ、性能が維持されているが、機器や系統ごとに設計ベースを再整理し、この設計ベースを確実に維持するという業務プロセスをルール化することで、より体系的にCM を行なうことが出来るようになり、抜けなく無駄のない安全管理が可能となる。 このような目的から、設計ベース図書には、前述の「② 系統や機器に要求される機能・仕様(設計要求)」、「③系統や機器の実際の機能、仕様(施設構成情報)」が体系的に整理されている必要がある。更に実際に機能・性能が要求どおりに維持されていることを管理することを考えると、これらの情報が、火災や地震といった全設備に共通に対応が必要な場合を除いて、系統ごとに整理されている方が使いやすい。このため、当社では図 3 のスケジュールにもあるように2020 年の本格運用までに、主要系統について、主に系統毎に設計ベースを再整理することとしている。 図3:設計ベース図書の整備スケジュール 新検査制度の試運用との関係 当社の大飯3,4 号機は新検査制度試運用のPWR の代表プラントとなっており、特に来年度に予定されている総合的な試運用では、本格運用時に発生する可能性がある課題を、6 ヶ月程度の期間で集中的に確認する方向で調整を行なっている。このような状況を踏まえ、CAP の改善、設計ベースの再整理とも、本格運用までに一定のレベルの運用にのせ、さらにできれば、来年度の大飯3、4号機での本格的な試運用でも、ある程度まで将来の当社の活動を想定した確認が出来るように対応を急いでいる。 4.まとめ 2020 年から運用が始まる原子力規制検査は米ROP を雛形としたリスクインフォームド検査である。効果的・ 効率的に事業者と共に安全を達成するためにROP でなされた工夫の中心には、重要度の尺度を実リスクとの相関 が高いΔCDF とし、同時に重要度決定プロセスを詳細に決めることで重要度評価の大部分を簡便にした点がある。これにより、検査指摘の重要度が実際の重要度に近いも のとなり、追加検査や事業者是正に任せるなどの対応を、過不足なく、適切なレベルにすることができ、安全性の 向上と不要な負担の排除の両立が可能となった。 事業者には、「緑」以下のレベルを含め、問題の確実な検知と是正が期待されており、今後、事業者活動の改善が必要となる。まず、CAP の検討対象をより広く吸い上げる仕組み、そして、リスクと相関の高い重要度尺度に基づき軽重の差を適切につけた効果的・効率的な是正の実現といった改善が必要となる。 更に、各人が安全上の問題をより確実に見つけられるために、安全上必要な機能や仕様といった「設計ベース」を体系的に再整理し、効果的・効率的なCM 活動を実現させていく必要がある。 これらの改善・整理には時間がかかる。一つのタイミングが2020 年の新検査制度の運用開始であるのは間違いなく、これを最初の目標とし、さらに継続的に再整理、関係者の教育・訓練を行い、安全性の向上、そしてコストの低減の両立を高いレベルで実現していきたい。 参考文献 [1]IMC0305 “Operation reactor assessment program” [2]IMC2015 Appendix A “Risk-informed Baseline Inspection Program” Regulatory Guide1.174 “An approach for using probabilistic risk assessment in Risk-informed Decision on plant -specific changes to the licensing basis” IAEA safety report series No.73 “Low level event and near miss process for nuclear power plants-best practices” NEI16-07 Revision A “Improving the Effectiveness of Issue Resolution to Enhance Safety and Efficiency”
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