第17回学術講演会 活動報告

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カテゴリ: 特集記事


オンライン形式と新しいセッションを導入した
第 17回学術講演会 
世界的な新型コロナウイルス(Covid-19)感染症の流行
のため 2020年度には開催を断念した第 17回学術講演会
を、2021年度には開催することができました。開催に
あたりご助力をいただきました関係各位に心より感謝を
申し上げます。
第 17回学術講演会では、従来からの大きな変更点が
二つあります。一つめはすべての講演・企業展示・見学
会をオンライン形式にしたことです。このために実行委
員会の下にシステム WGが新設され、プログラム委員
会とも緊密に情報交換を取りながらオンラインシステム
を構築しました。

二つめは、従来の一般講演・学生セッションに加えて、「提言テーマ」セッションと「保全現場からの声」セッショ
ンを新設したことです。「提言テーマ」セッションでは、
特定のテーマに関して一次セッションでの発表内容から
2次セッションにて成果や検討課題が抽出さ
れ、3次セッションで提言としてまとめられました。この提言は学会ホームページを通じて公開されています。
また、「保全現場からの声」セッションは東北・北海道支部が従来行っていたもので、第 16回学術講演会では組み入れて行われましたが、第 17回から学術講演会の正式なセッションとなりました。
第 17回学術講演会プログラム委員長 出町 和之

その第 17回学術講演会では、参加者が 405名、論文数が 181件となりました(図 1)。参加者数・論文件数ともに年々増加の傾向が顕著で、とくに学生発表数は 20件と過去最大となりました。プログラム委員長として関係者の皆様に深く感謝を申し上げます。
ところで、前回の第 16回学術講演会から 2年が経ちますが、その間に再稼働を果たした国内の原子力発電所の炉はわずかです。このような状況の中で再稼働を果たした原子力発電所、およびすべての原子力関連企業や組織に求められることは、やはり事故やトラブルを起こさず、国民・住民の信頼を取り戻すことです。そのために保全ができる貢献は少なくありません。そのためにも、会員の皆様同士の最新情報交換や議論の場として第 17回学術講演会が少しでもお役に立てたのだとしたら、この上なく幸いです。

図1 参加者人数と論文件数の推移


◆開会式、特別講演、学会賞等授与式
2021年 7月 6日(火)から 3日間、第 17回学術講演会がオンライン形式で開催された。初日の午前中は、橋爪秀利実行委員長(東北大学教授)の開会挨拶に引き続き、特別講演として、上坂充氏(原子力委員会委員長)、川口淳一郎氏(東北大学教授)及び皆川重治氏(資源エネルギー庁原子力政策課原子力基盤室長)に講演いただいた。
その後、石原準一氏(日本原燃株式会社顧問)への学会賞功労賞の授与及び第 4号保全遺産認定証(三菱重工業株式会社)と第 5号保全遺産認定証(東芝エネルギーシステムズ株式会社、日立 GEニュークリア・エナジー株式会社、三菱重工業株式会社)の授与が行われた。
以下に、特別講演の概要を紹介する。

原子力を巡る状況について原子力委員会委員長 上坂充氏
原子力委員会委員長に就任されて 7か月。令和 2年度版原子力白書(案)(令和 3年 6月 29日原子力委員会で公開)に基づき、冒頭で、福島第一原子力発電所事故から 10年を迎えた「福島の今(オフサイト及びオンサイトの取り組み)」及び「全ての原子力関係者が忘れてはならないこと」と「協働して取り組まなければならないこと」の紹介があった。
また、原子力分野の維持発展のため、安全を確保しつつ研究・開発等を支える人材の育成の必要性について強調された。原子力白書(案)の第 1章~第 8章の紹介

上坂充氏の講演より
があり、第 3章「国際潮流を踏まえた国内外の取組」で、「UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)が、福島第一事故による放射線被ばくで住民への健康影響が観察される可能性は低い」と報告したことは大変重要であると指摘された。また、第 5章「原子力利用の前提となる国民からの信頼回復」では、科学技術の事実を国民へわかりやすく説明することの重要性を説かれ
た。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、国内・
欧州のデータ等に基づき電力量の時間変動の平滑化が重
要であり、ベースロード電源としての原子力と再エネ、
変動吸収のための CCS/CCUSを装備した火力発電と蓄
電池を組合わせたベストミックスの必要性は明らかであ
ると述べられた。
さらに、国内では、福島第一原発事故の教訓も踏まえ
た多様な安全性向上技術の開発や核セキュリティの強化
に向けた取り組み及び廃炉達成のための研究が進んでい
ることや、将来に向けた革新炉の研究にも海外と協力し
て着手していることが紹介された。
将来に向けた技術の実現タイムスケールを連続的に見
せることは、若い技術者に夢を持ってもらうために重要
なことであると述べられた。実用的放射線応用と原子力
の結びつきは、医療の分野(診断と治療)や橋梁の検査・
治療(インフラ・メディカル)にも拡大してきていること
や、原子力の社会的受容性の向上に重要な役割を果たす
リスクコミュニケーションの重要性についての紹介が
あった。
運転期間 40年を超える原子力発電所の安全性は高度
保全技術に立脚しており、これらは「高度保全原発」と呼
ばれるもので、保全学会でこの用語を広めてもらいたい
との要望が述べられた。最後に、再エネも原子力も共に
核エネルギー(核融合(太陽エネルギー)と核分裂)の活
用であることから、地球規模でカーボンニュートラル実
現のために、再エネと原子力が協働していくことが必要
であると締めくくられた。


川口淳一郎氏の講演より

やれる理由こそが着想を生む「はやぶさ式思考法」~時代をひらく組織風土づくり~
東北大学教授 川口淳一郎氏
「本日の講演は、技術の話ではなく思考法の話である」

との前置きで、「はやぶさ」プロジェクトへの取り組み姿
勢について以下のように紹介された。
我が国が宇宙開発に着手した 1970年代、 80年代は、

米国はアポロの月着陸( 1969年)を成功させ、我が国と
の技術の格差は歴然たるものがあった。米ソの技術をト
レースして追いつくことが自分たちの進む道だろうかと
の葛藤を経て、「太陽系や宇宙の創生の歴史を紐解くた
めの手がかりを掴むために、小惑星に狙いを定めて試料
を持ち帰ることが、自分たちのゴールである」という目
標を定め、目標達成に向けてルールや規制をものともせ
ずに突き進んだと振り返られた。
「すべては心から始まり、体はそれについてくる」、「見

えるものは、皆過去のものであり、見えていない未来を
探せ」、「自信は誰から授かるものではない。自分が切り
替えないかぎり獲得できない」「(2つの選択肢を)迷う
くらいならどっちでもよい」「不完全であることを恐れ
ない」といった教訓を胸に刻んでプロジェクトを推進し
たと述べられた。
「はやぶさ」はすべてが新技術で、実績のまったくない

ところで「無」から「有」を作ったと言う。【その経験】を、【心】を、現場を通した共同作業をすることで次の世代に
伝えていかなければならない。それが伝統となって受け
継がれていくことで日本を変えていくのだと述べられた。
講演の最後を、「すべては心から始まる=やれる理由

を見つけて挑戦しない限り成果は得られない」「自信を
もって行動に出ることで、必ずや成果は得られる」と結
ばれた。

原子力政策の課題と対応の方向性について資源エネルギー庁 原子力政策課 原子力基盤室長 皆川重治氏
今年は、第 6次エネルギー基本計画の策定年である。まず、 2050年カーボンニュートラル( CN)目標と 2030年の排出削減目標(国際的な約束事)についての説明があり、その検討に向けた基本的な考え方(①原子力の特性・価値の認識。②ぶれない原子力政策の方針の提示。③長期的な原子力政策の方針の明確化)が紹介された。
また、エネルギー政策を進める上での原点は「原子力災害からの福島復興」であることや、原子力政策を取り巻く情勢は海外に比べ我が国では厳しく、 36基の原子力発電所が 60年運転すると仮定しても 2040年代以降に原子力の設備容量は大幅に減少する見通しであり、中長期的な視野をもって取り組んでいかねばならない重い課題であること等を述べられた。
一方で、事業者は、安全性向上に向けた大規模な投資を行うとともに、リスク情報の活用や事業者間のベンチマーク、産業界大での自主的な安全性向上に向けた活動、安全性向上に向けた研究開発等、安全性向上に向けた取り組みを進めていることの紹介があった。
安全性を確保しつつ設備利用率向上を図る具体的方策の検討を官民一体で開始する必要性や、 2050年の CNの実現のために不可欠な安全・安定な長期運転の実現のために経年化に伴う技術的課題の解決や非物理的な面の経年化への対応に向けた産業界大での積極的な取り組みの必要性を強調された。
CNの達成のためには安全性を高めつつ既設炉を安定的に活用していくことが政策的な課題であり、そのためには保全を高度化していくことが重要なポイントとなる。そのために必要な「高度保全技術」の開発については、資源エネルギー庁としても全面的にバックアップしていく方針が示された。

皆川重治氏の講演より


※以降は講演者の敬称は省略

◆提言テーマセッション「安全規制」
新型コロナウイルス感染症の影響によるオンライン化の促進に伴い、日本保全学会の学術講演会においてもオンラインを活用した新しい運営方法を導入することになり、これに併せて提言テーマセッションを設けることになった。今回は「安全規制」と「エネルギー問題」の 2つのテーマを取り上げることとなった。
この提言テーマセッションは、「発表+質疑応答」で終わっていた従来のやり方を変更し、従来の発表形式に加え、発表内容から成果や検討課題を整理した上で議論するテーマを設定し、そのテーマについて集中的に討論し、その成果を外部への提言(案)としてまとめようとするもので、下記の 3つのセッションから成るものとして実施された。
・1次セッション(発表)
・2次セッション(パネル討論)
・3次セッション(提言案まとめ)

「安全規制」セッションでは、図 1に示す手順を想定して進めることとした。

図1 提言セッションの進め方

1次セッション(発表)
本セッションでは、安全規制に関連する発表が 10件あった。
最初の発表は、奈良林(東工大)から、新規制基準により深層防護に基づく各層の対策が強化され、安全性が飛躍的に向上したこと、カーボンニュートラル達成のため、新規制基準適用のための安全審査の遅れによる原子力発電所の運転期間は歴年から実効出力年に変更すべきであること、また、40 年超過プラントは運転期間延長が 1 回に限るという制限を削除すべきであることなどが報告された。
次に、爾見(発電技検)から、現行の原子力規制検査が実効をあげるには事業者 CAPが効果的に機能していることが最も大切であること、そのためには質の高い等級別扱いの適用が重要であり、その成否により事業者 CAPが達成する安全劣化の抑制効果、延いては将来の原子力発電所の安全性レベルが大きく変わってくる可能性が高いこと、その達成のためには原子力規制検査における適切な重要度の扱いと関連情報の公開、学会等の第三者や事業者による検証が重要であること等が報告された。
3件目は、桝本(関西電力)から、現行の原子力規制検査で判明した検査指摘事項の実例、関西電力が制度上の課題と考える事項(横断領域の検査の仕組み導入)や事業者として改善すべきと考える事項(検査官とのコミュニケーションの充実、基本となる事業者活動の徹底の必要性等)等が紹介された。その上で、規制当局との技術的な議論の充実や事業者の安全確保活動の質的向上が重要であり、CAP活動を軸に改善活動に取り組んでいくことが報告された。
4件目は、宮道(中国電力)らから、中国電力から見た原子力規制検査の効果(安全上の問題を自ら特定し主体的に問題解決に取り組む意識がより強くなった等)や課題(検査報告書の記載が分かりにくい等)が紹介された。
5件目は、古金谷(原子力規制庁)から、原子力規制検査の仕組みやポイント(フリーアクセス、リスクインフォームド、パフォーマンスベースド、保安活動監視 /改善活動促進)、令和 2年度の検査実績、運用実績を踏まえた改善事項などが報告された。
6件目は、川村(日立 GE)から、米国 ROPの経験を踏まえ、我国の新検査制度(原子力規制検査)でも事業者が自ら安全性向上活動を主導することが重要であり、安全文化や組織的要因などの横断的領域の改善も自らの責任で継続的に改善することが重要であること、RIDMによる取り組みが進められている原子力発電所のマネジメント改革において現場の現実把握と現場が良くなる実感が重要であることなどが報告された。
7件目は、近藤(東大)から、原子力規制検査の効果的な運用のためには、事業者を始めとするステークホルダーが関わり、運用状況をチェックし、問題提起や改善提言していくことが重要との指摘があった。

8件目は、石橋(東芝 ESS)らから、 OLMの実施基準

案の提案があった。また、 3つの課題(保安規定解釈、
PRA高度化・品質向上、 PLM適用範囲拡大)があること
が報告された。
9件目は、衣旗(日本原燃)らから、核燃料施設等に対

し、重要度評価の定性的評価手法(点数評価手法)をベー
スとして国際的な評価尺度 INES レベルを活用すること
により、核燃料施設等の特徴を考慮できる評価手法が提
案された。
最後の 10件目は、山本(日本原電)から、廃止措置炉

は運転炉と比較してリスクが低いことを踏まえ、その安
全重要度に見合った合理的な内容とするための考え方が
提案された。
なお、「安全規制」の 1次セッションは、一部を「エネ

ルギー問題」の 1次セッションと合同で実施した。合同
セッションの内容はそちらを参照願いたい。
2次セッション(パネル討論)
2次セッション(パネル討論)は、上記「安全規制」の 1

次セッション及び「エネルギー問題」との合同セッション
での発表内容を踏まえ、福島第一原子力発電所事故後に
導入された新規制基準及び新制度、そしてそれらを運用
する人に着目することとし、以下に示すテーマ及びパネ
リストを選定して討論を実施した。なお、今回は提言先
として、「原子力安全の全ステークホルダー」「事業者」「原子力規制当局」「プラントメーカ」「学会(日本保全学
会、他)」を想定することとした(図 2)。
討論テーマ
Ⅰ.原子力安全規制は、当初の制度設計通り機能しているか?テーマ 1:「新規制基準」「新検査制度」「安全性向上評価制度」は、当初の目論見通り、安全性を確実に確保・向上させる基準・制度となっているか?テーマ 2:原子力規制検査は、効率
的・効果的に実施されているか?その結果として安全確保に役立っているか?テーマ 3:重要度の高い設備、措置等にリソースを重点投入するため、リスク情報は適切に活用されているか?

Ⅱ.安全性を、より一層、向上させるには何が必要か?何が重要か?テーマ 4:安全性を、より一層、向
「新技術 /革新技術の導入」「モチベーション創出のための環境整備*」を推進する必要はないか?


パネリスト
川村愼一(日立 GE)、古金谷敏之(原子力規制庁)、近藤寛子(東大)、爾見豊(発電技検)、桝本晋嗣(関西電力)、宮道秀樹(中国電力)、青木孝行(座長:東北大)、奈良林直(座長:東工大)


主な討論内容
議論の主な内容を以下に述べる。
テーマ 1:「新規制基準」「新検査制度」「安全性向上評価制度」は、当初の目論見通り、安全性を確実に確保・向上させる基準・制度となっているか?

・「新規制基準」「新検査制度」「安全性向上評価制度」は、いずれも大きな問題は発生しておらず、当初のねらい通りの方向で効果が出つつあり、定着してきている。
・特に、新検査制度については、制度が志向している重要度の高いものに事業者と規制当局の目が向き、事業者が自ら問題の改善に取り組むようになっている。
・その一方で、課題や改善が必要なものが明確になってきているので、事業者を始めとする産業界と規制当局がそれらを共有し、双方が共に改善していく活動を進めていくことが大切である。
・たとえば、特重施設の期限内建設未完によるプラント停止の問題や性能規定化された新規制基準を十分に活かしきれていない実態、原子力安全からの要求と消防法の要求の充足と最適化の問題、原子力規制検査における横断領域の検査の在り方、不明瞭な記載のある検査報告書の問題等が出てきているので、これらについては産業界と規制当局の間でしっかり議論し、必要に応じて改善できるようにする必要がある。
・安全性向上評価制度については、安全性向上は見込めるものの、これまで制限されてきた施策(たとえば、計画的 OLMの導入)が可能な状況になれば、そして新規制基準の性能規定化が徹底されれば、本制度が有

上させるため、「人材育成・技術伝承」図 2 原子力安全に関わる主要なステークホルダー
効に機能しだすのではないか。また、新しい技術や考え方が導入しやすくなると、本制度が有効に機能するようになるのではないか。

・新検査制度自体は安全性を引き上げるための制度ではない。安全性を引き上げていくのは事業者であり、それをオーバーサイトとするのが規制当局。最低限の安全性が確保されていることを確認し、それを国民に分かりやすく伝えるのがこの制度。
テーマ 2:原子力規制検査は、効率的・効果的に実施されているか?その結果として安全確保に役立っているか?

・今回の検査制度は安全上マイナーな事項は切り捨て、重要な事項にフォーカスするということが重要。そのような方向に規制当局・事業者の視点が変わり、新検査制度(原子力規制検査)は効果的であると感じるようになっている。
・検査官は事業者のパフォーマンス劣化の確認に長時間を要している。小さなパフォーマンス劣化については、検査官が現場で即断し事業者に任せるようになると、効率的な検査となり、良い方向に動き出す。
・検査官のリスクを感じる力を向上させることが大切。現場での経験を積み、事業者との意見交換を通じて徐々に検査官の力量が向上し、行為や考え方が変わってきている。安全上重要な所へ目が向くように検査ガイドの更新や検査頻度の見直し、検査の濃淡の付け方等が柔軟にできるように教育していくが、人材育成には時間がかかる。
・安全上重要なものに注意することや重要度の決定方法などの仕組みはよくできており、正しく運用すれば正しい答えが出るようになっている。あとは、リスクに気づくことであるが、事業者はコンフィギュレーション管理のため安全設計や設計根拠等を整理しており、これを活用すればある程度対応できるようになる。原子力安全を学び続けることが重要。
・良い仕組みができているので、それを運用する人材を育成することが重要。特にプラント全体を俯瞰的に見ることができる人材、現場がどうなっているか把握できる人材を意図的に育成していくことが必要であり重要。原子力安全を理解するには海外の例を学ぶことも重要。

・制度設計に関わった人が多く居るうちはよいが、そのうち世代交代の時がやってくるので、きちんと引き継がれるようにすることが大切。
テーマ 3:重要度の高い設備、措置等にリソースを重点投入するため、リスク情報は適切に活用されているか?
・リスク情報の 1つとして PRA評価がある。これまでの関係者の努力によって PRA手法がツールとしては使えるようになってきているが、たとえば CDFをどの程度に抑えれば、許容待機除外期間 AOTの見直しを許容するかといった定量的な判断基準(あるいは規制基準)が明確になると、リスク情報の活用が活発になり、動き出すのではないか。
・規制体系全体の中でもっとリスク情報を活用しようとの方向性を規制当局として打ち出している。それが一番反映されているのが原子力規制検査である。 AOT見直し等、少し時間はかかるかもしれないが、事業者が議論しながら検討する予定。サイクル施設や廃止措置炉は運転炉と比較してリスクが低いので、検査頻度・検査サンプル数の低減などを行っている。このようなグレーディッドアプローチは新規制基準による審査、保安規定の審査などにも取り入れる必要があると考えている。

OLMと言うと定検短縮とか経済性に結び付けた議論になりがちであるが、これは誤解ではないか。本来は保全対象の設備にとって一番良いタイミングで保全を実施すべきであり、リスク管理できるのであれば運転中、定検停止時に関係なく、最も良い時期に合わせて保全を実施すべきである。そうすることによって日頃から設備の信頼性に注意を払うようになり、安全性を高めることにつながる。従来のように、定検停止時に保全を実施することばかり考え、運転中の設備状態に注意が向かないのでは、リスクに関する感度を高めることができず、結果として安全性の向上につながらない。

・米国
NRCのメンテナンスルールも「設置者は事前に保全作業の実施によるリスクの増加を評価し管理しなければならない。」とし、 OLMを許容しているが、リスクの増加がどの程度であれば許容するか、その判断基準(規制基準)を明確にしているので、 OLMは活発に実施されている。


テーマ 4:安全性を、より一層、向上させるため、「リ

スク感知能力向上」「人材育成・技術伝承」「新技術 /革新技術の導入」「モチベーション創出のための環境整備」を推進する必要はないか?

・安全性をより一層向上させるために、これら4つの事項はたいへん重要である。すでに「リスク感知能力向上」「人材育成・技術伝承」については議論してきた。
・「新技術
/革新技術の導入」については、新しい領域に踏み出し、安全性を向上させたり保全を適正化させようとしたりするものであるから、規制当局にエビデンスを求められると前へ進めない。


AI等の新しい技術は研究が進み、他産業では実際に使われ始めている。新しい技術の導入が可能になれば、現場の人間がその導入を具体的に考えることになり、モチベーションが出てくる。


・新しい技術を導入する際は、パフォーマンス目標を設定しそこに向かって最適化する等の枠組み、あるいは、リスクで枠を嵌めその枠内でパフォーマンスを見ながら進め、有効か否かを判断する等の枠組みを構築する必要がある。
・たとえば、機器の分解点検周期を実績のない領域まで延長しようとした場合、保全の専門家が技術的根拠を明確にし、延長できることの確信を持つことが重要であるが、重要度の低い機器から始める、少数の機器から始める等のリスクを最少化するアプローチが必要である。
・やらなければならないことや守るべきことが多い中で新しい技術の導入について皆で検討し実際に導入するとなるとモチベーションは確実に上がる。
・連続オンラインモニタリング技術の適用拡大や分解点検周期の延長など、設備の状態を最もよく知る立場の事業者として自信をもって前へ進めていきたい。
・良いものに変えて行くという意味で新技術の導入にチャレンジしていくことは大切。その際、エビデンス主義や実績主義でなく、規制当局としてもチャレンジしていくことを考えていく必要があると思っている。
・モチベーション創出については、まずは現場での円滑なコミュニケーションが大事と考えている。特に原子力規制検査では、事業者との忌憚のない意見交換、コミュニケーションが大事であるが、それにはまず、自分たちの職場から変えて環境を良くしていくことが必要で、現場検査官からの要求などに親身に応えるとか、相談があった時にはその分野に精通している職員を入れて一緒になって検討するとかして、規制庁の中を風通しの良い雰囲気にしていこうとしている。そのことが事業者とのコミュニケーションに良い効果をもたらし、結果として検査制度全体の効果が上がっていくことにつながると考えている。


・米国では、 PCV内をドローンで検査したり、犬型ロボットとともにパトロールしたり、新しい技術を導入している。日本でも新技術を導入しやすくなれば若い人たちが入ってきたり、モチベーションが上がったりする。学会としてこのような分野にも取り組む必要がある。
3次セッション(提言案まとめ)
座長から提言先及び提言の案が提示され、参加者全員で内容を確認した。
最初に本提言(案)の今後の取扱いが議論され、今後、学術講演会の実行委員会で審議された後、日本保全学会の所定の審議決定プロセスを踏んで本提言の取扱い(公表方法等)が決定されることが確認された。
次に提言(案)を具体的なアクションにどうつなげるか議論となった。提言(案)をさらに具体的なアクションに展開するにはさらに具体的な検討が必要ではないか、検討の場としては日本保全学会「原子力規制関連検討会」等の場がある等の発言があった。
一部修正後、下記を提言(案)とすることとなった。

(1) 原子力安全の全ステークホルダーへの提言(案)◆原子力安全を「他人事」とせず、「自分事」と考えること
◆自分の仕事が安全性にどう貢献しているか、そして更に安全性を向上させるにはどうしたらよいか、常に考え、学び続けること
◆お互いにコミュニケーションを図り、原子力安全に関わる仕組みや制度等に対し、継続的な改善に努めること
◆検査制度については、事業者をはじめとする全てのステークホルダーが関わり、運用をチェックし、問題提起や改善提言を継続して実施することにより、制度改善に努めること
◆特に、原子力規制検査の重要度判定は、様々なステークホルダーが原子力の安全性やリスクについて対話し、行動するうえでの共通の物差しとして、継続的に吟味され、社会に定着するように努めること(2) 事業者への提言(案)

◆これまでの安全性向上に対する努力は評価できるが、引き続き、第一義的責任を自覚し、原子力規制の有無にかかわらず、自らの考えに従って RIDMを行い、その内容と根拠を明確にして公表すること
◆原子力安全を維持・向上させるため、保全や事故時の初動を含むすべての安全関連分野において真のプロフェッショナルな人材を数多く育成するよう努めること

◆原子力施設の運転に潜在するリスク /ハザード(弱点)に気づく能力を身に着けた人材を数多く育成し、取り上げられた弱点に対して組織として適切に対応すること、安全性向上評価制度を有効に活用すること
◆定量的リスク評価法のみでなく、定性的リスク評価法を確立し、客観性の高い方法で安全重要度を評価できるようにし、原子力施設の現場のリソースが、これまで以上に重要度に応じて活用されるようになるか、継続的に検証しその結果を公表すること

◆安全文化 /行動規範を明確にし、自社だけでなく協力会社も含めてそれを推進すること、また、特に若い関係者がモチベーションを持ちやすい環境を率先して整備すること

(3) 原子力規制当局への提言(案)

◆現行の検査制度は、重要度の高い設備や措置等を優先する等、効率的・効果的に安全性を評価・管理できる優れた制度となっているので、引き続き、これまでの方向性を堅持するとともに、運用の高度化と改善に務めること
◆パフォーマンスベース規制の特徴を活かして、安全性向上に寄与する新しい技術、アイデア等を導入しやすい環境を整備すること、機器点検周期の変更や OLMなどの保全適正化を進めやすい環境を整備すること
◆定量的及び定性的なリスク評価手法を改善・高度化するとともに、これらを駆使して適切に重要度評価することにより、重要度の高い設備や措置等にフォーカスした規制を継続的に実施する姿勢を貫くこと

◆横断領域の問題については、事業者の活動を見守り、コーナーストーンのパフォーマンス指標や検査指摘事項など、客観的な事実(ファクト)を通じて事業者に懸念を伝え、改善を促す運用とすること
◆事業者との間で安全文化を共通言語とし、自らも安全文化の定着に努めること、また、特に原子力関係者がモチベーションを持ちやすい環境を整備すること
(4) プラントメーカへの提言(案)
◆原子力安全を支える事業者の重要なパートナーであり、保全活動でも協力する機関として、ハードウエアだけでなく、ソフトウエア(ヒューマンウエア)による安全性向上にも独自の新技術やアイデアの提案を含め、積極的に提案すること
◆安全文化 /行動規範を明確にし、自社だけでなく協力会社も含めてそれを推進すること、また、モチベーションを持ちやすい環境を率先して整備すること
(5) 学会への提言(案)
◆前述の原子力安全のステークホルダーへの提言内容を実現できるようにその活動を振興し、機運を高めること
◆定量的リスク評価法のみでなく、客観性の高い定性的リスク評価法を確立するための活動を振興すること
◆産業界や自治体・国民から信頼される安全規制、検査制度に改善する上で、第三者の視点・評価・発信は大変重要であるので、これまで以上に第三者としての学会活動を活発化させること、また第三者視点を持つ専門家を学会活動を通じて育成すること
◆安全性と経済性の関係、費用対効果分析評価の考え方と方法など、これまで十分に議論されていない事項の検討に取り組むこと
◆立地自治体の意見は貴重であるので、学会活動の中に意見を取り入れられるよう務めること◆学会活動を通じて我国の原子力界において安全文化の定着に務めること

8月 6日に公表された「我国の原子力施設の安全性を向上させるための提言」(内容は次ページ)

第 17回学術講演会活動報告
※日本保全学会 HPからダウンロードできます https://www.jsm.or.jp/13957.html

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◆提言テーマセッション 「エネルギー問題」
子力産業協会)、三隅(九州電力:2021.7~)、三村(中国

1. はじめに
第 17回学術講演会は、従来の発表形式に加え、特定のテーマに関して、発表内容と議論を踏まえて提言を作成し外部へ発信する方式を取り入れた「提言型学術講演会」として実施された。
そのテーマには「エネルギー問題」と「安全規制」が取り上げられたが、本稿では「エネルギー問題」の議論と、それを踏まえて取り纏められた提言について報告する。
このセッションでは、図 1に示す 3段階で議論を深め、提言が取り纏められた。一次発表では、「エネルギー問題」に関して募集した論文の執筆者から、問題の認識、課題の提起および意見が発表され、そのうえで参加者との意見交換が行われた。その後の二次発表では、一次発表の主な論点を踏まえて、提言とすべきことについてパネルディスカッション形式で検討が深められた。提言案は、二次発表のパネルディスカッションで合意された事項を骨格とし、一次発表と二次発表の論点を骨格に沿って整理することで作成された。三次発表ではその内容が報告され、参加者によって一連の議論を取り纏めた成果として確認されるとともに、提言の活用についても議論された。


図1 「エネルギー問題」セッションの進め方
なお、このセッションの計画と実施にあたって、学会内に本テーマの企画運営を担う統括チームを組織した。統括チームは、セッションの企画検討を行うとともに、本学術講演会の期間中は、実施された議論の内容を提言案の形に取り纏める検討を行った。統括チームの委員は以下のとおりである( 50音順、敬称略、所属は委員就任時点)。阿川(中国電力:2021.7~)、浅野(東芝 ESS)、大田(中国電力:~ 2021.6)、笠毛(九州電力:~ 2021.6)、川村(主査:日立 GE)、日下(関西電力)、古塚(原電力)、宮口(再処理機器)、森下(副主査:京都大)、山口(東京電力)、山口(日本保全学会)。
2. 一次発表(講演発表)
一次発表では、「エネルギー問題」に関して応募のあった 15件の論文について、講演と意見交換が行われた。2-1 原子力の安全性向上
まず、原子力の役割を論じるうえで、安全性が重要な前提であることから、その議論が「安全規制」の提言テーマセッションと合同で行われた。このパートでは、福島第一原子力発電所事故(以下、 1F事故)以降に行われた安全対策とその効果や、継続的な安全性向上に向けた取り組み等が発表された。
森下(京都大)からは、 1F事故で顕在化した課題が発表され、科学的合理性に加えて社会的合理性が、国民に受容されるために必要であることが指摘され、この問題の構造が論じられた。また、1F事故を踏まえ、「想定外」を発見して対処する取り組みを継続すべきことも指摘された。
青木(東北大)からは、原子力安全における人間系の重要性に鑑み、潜在するリスク源やハザード源に気づいて重要性を認識するために、原子力安全の構造や安全性確保のメカニズム、安全性向上メカニズム等を明確にし、可視化する方法が示された。また、平時の保全活動と有事の保全活動(事故対応)の考え方や特徴を比較したうえで、事故対応技術の体系的整備など、事故時保全の検討を進めるべきことが指摘された。
松本(中部電力)らからは、浜岡原子力発電所における地震・津波対策、 1F事故の進展を踏まえた全交流電源喪失、注水機能喪失、除熱機能喪失に対する具体的な安全対策の実施状況が示され、内的事象の確率論的リスク評価によって、安全対策前後で炉心損傷頻度が約 1,000分の1低減する効果が確認されていることが報告された。
佐々木(東北電力)らからは、女川原子力発電所での建設時の地震・津波に対する考慮、 2011年の震災以前に実施した耐震強化、 1F事故後に設備・運用の両面から取り組んだ安全対策が示された。また、立地当時から継続する地道な理解活動、震災時および震災後の対応を通じて地元の信頼に応える活動を行い、 2号機再稼働に対して立地自治体の合意が得られたことが報告された。


示野(原子力エネルギー協議会)からは、安全に関する産業界共通の技術課題に取り組み、効果ある安全対策で、自主的に安全性を引き上げる活動が報告された。また、その中で原子力発電所の長期利用について、物理的な経年劣化と非物理的な経年劣化の両面から検討してガイドラインを作成し、それに基づいて原子力事業者が安全対策に取り組んでいることも報告された。
山本(福井県庁)からは、危機管理体制の実効性確保や安全管理の改善を国や事業者に要請するなど、継続的安全性向上に関する取り組みの実績が紹介された。また、様々なステークホルダの関心事を捉えて、情報発信を行うことや、事業者、規制当局、立地自治体の間で原子力安全の共通言語となる要素、基盤を議論し、継続的な安全向上に繋ぐ必要があることが指摘された。2-2 カーボンニュートラル実現への原子力の役割
つぎに、2050年までのカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量を吸収源による除去量と均衡させること)の実現における原子力の役割に関して議論が行われ、エネルギーの新しいベストミックスに原子力が不可欠であり、建替えや新増設を含む最大限の活用を追求すべきことが明らかにされた。
小宮山(東京大)からは、再生可能エネルギー増加時の電力安定供給やエネルギーセキュリティにおいて、原子力の役割が重要であること、電力供給のシステムコストを考慮すると、カーボンニュートラルの実現には、原子力の新増設・建替えが経済合理的な技術オプションであることが示され、国による原子力発電への投資環境の整備や、原子力の環境価値の評価などを含む総合的な取り組みが必要と指摘された。
奈良林(東京工業大)からは、自然災害等における異常時の電力系統のレジリエンス強靱化が必要であり、災害対策が強化された原子力の役割が重要であることが示された。また、自然条件の変動に対して電力を安定供給するうえで、原子力が不可欠であることが、至近の事例で示された。さらに、出力が変動する再生可能エネルギーだけでは二酸化炭素排出量が減らず、原子力の利用が不可欠であることが指摘された。
前原(関西電力)らからは、関西電力の「ゼロカーボンビジョン 2050」が紹介され、デマンドサイドのゼロカーボン化、サプライサイドのゼロカーボン化、水素社会への挑戦に技術を総動員する必要があることが指摘された。そのうえで原子力についても、安全を最優先に最大限活用すべく、既設発電所の活用と新増設や建替えに取り組む方針であることが示された。
新井(原子力産業協会)らからは、多くの原子力利用国で、原子力を「短期間で、効果的に化石燃料を代替する手段」として CO2削減政策の中心的手段のひとつに位置づけていること、アイソトープ利用も含めると、原子力は SDGsの 17の全ての目標において社会的価値があると、国連欧州経済委員会が評価していることが示された。
また、これらの議論では、原子力は国内に裾野が広く強い基盤を持つ技術集約型産業であり、国内経済や雇用の面で、現在および将来の社会に貢献できるとの意見や、原子力技術の継承と発展、サプライチェーンの維持が重要であるとの意見が出された。2-3 より多くの価値を社会提供するための取り組み
一次発表の最後のパートでは、原子力によって多くの価値を社会に提供するための取り組みが議論され、多様な形で多くの価値提供ができることが示され、それを追求する取り組みの重要性が明らかにされた。
三隅(九州電力)らからは、安全最優先を前提として、国内外のトラブル事例の分析、海外の良好事例の導入、保全の最適化等によって、原子力発電所の稼働率を改善すること、設備の点検実績の評価等によって安全に長期サイクル運転を実現すること、タービン効率の改善等によって発電出力を向上することを進めていることが報告された。
村上(日立)らからは、再生可能エネルギーが増加した電力系統での事故を想定し、原子力発電所の慣性・無効電力供給により、事故時の系統電圧変化が抑制されて安定性が向上する効果が、電力系統のシミュレーションで定量的に示され、再生可能エネルギーの利用を進めるうえで、原子力発電設備の活用が重要であることが指摘された。
亀井(東芝 ESS)からは、 2030年代前半の実用化を目指し、静的システム採用による共通要因故障の排除と信頼性向上、最終ヒートシンク空冷化による津波リスクの低減、大型航空機衝突に対する建屋頑健性の強化による安全性向上と、出力向上と稼働率向上等に配慮した設計で経済性向上を図る改良型 ABWRの開発が報告された。

川村(日立 GE)らからは、安全性と経済性の高い新型炉や、使用済燃料や廃棄物の処理、処分に資する原子炉技術を国際連携で開発するビジョンと、 1F事故の教訓を踏まえた国際的規制要求を満たす ABWRの設計、静的システム等の採用で緊急時計画範囲を敷地内に限定できるまで安全性を向上し、システム簡素化とモジュール化で経済性も改善する SMR(BWRX-300)を、 2030年までに実現する開発が報告された。
坂場( JAEA)からは、固有安全炉でもある高温ガス炉の開発によって、水素製造、ガスタービン発電、地域暖房、海水淡水化等の多目的利用を追求する取り組みが示された。そのうえで、この開発におけるポーランドや英国との連携や、経済協力開発機構・原子力機関の原子力施設安全委員会のプロジェクトにおける試験の状況が報告された。
また、これらの新技術の議論においては、技術の特性に応じた安全要件、安全規制、原子力防災の制度について、技術開発に合わせて検討を進めることが重要であるとの意見も出された。
3. 二次発表(パネルディスカッション)
二次発表では、一次発表の講演者の中から、新井、小宮山、示野、奈良林、三隅、山本が登壇し、座長を川村、森下が務めて、パネルディスカッションが行われた。
この議論では、 1F事故以降の安全性向上、カーボンニュートラル実現における原子力の役割、原子力がより多くの価値を社会に提供するための取り組みの 3点について、それぞれ座長から一次発表で提示された論点が紹介され、パネリストによる議論と、参加者との意見交換が行われた。
1F事故以降の安全性向上に関する議論では、まず一次発表で提示された論点が妥当であることが、パネリストによって確認された。そのうえで以下の意見が出され、一次発表の論点とともに、提言の取り纏めにおいて考慮されることとなった。
○原子力発電所の安全性は向上しているが、安全対策を現場で最適化していく取り組みが、引き続き必要である
○原子力安全を継続的に改善するための議論の共通基盤として、新検査制度を活用すべきであり、 CAP(Corrective Action Program)を使って、現場から改善に向けた意見が出されるとともに、必要に応じて規制当局も交えた議論が行われることが望ましい
○ 1F事故前にあった規制対応をしていれば安全という考え方が改められ、自主的に安全性を向上する取り組みが、個々の事業者、ならびに産業界横断で行われている
○安全性向上の成果を、原子力発電所の立地地域をはじめ、社会にわかり易く伝えていく努力がさらに必要であるつぎに、カーボンニュートラル実現における原子力の
役割に関する議論が行われた。ここでも、まず一次発表
で提示された論点が妥当であることが、パネリストに
よって確認された。そのうえで以下の意見が出され、一
次発表の論点とともに、提言の取り纏めにおいて考慮さ
れることとなった。
○モデル分析から、環境面や安定供給面等での原子力の価値は認められるものの、原子力の維持・増強を社会実装するには、原子力への投資について、回収の予見可能性を高めるための制度が必要である
○最適な保全を行い、原子力発電所を安定に稼働する実績を積み重ねることは、投資回収の予見性向上にも寄与する
○訴訟による原子力発電所の運転停止に関しては、安全性向上の実績を明確に示し、人格権侵害の観点で不法性が無いことについて、理解浸透を図る必要がある
○原子力発電所と電力系統の関係では、発電電力量の価値、容量価値、調整力の価値に加えて、再生可能エネルギーの発電比率が増す将来には、慣性力の価値も重要になる
○蓄熱技術等も活用した原子力発電所の電気出力の制御等、出力が変動する再生可能エネルギーとの共存に資する技術開発にも、取り組む必要がある
○カーボンニュートラル実現に向けて、電力以外のエネルギー分野でも脱炭素化を進める必要があり、カーボンフリーな燃料の供給に対して、原子力が貢献できることを示していく必要がある
○原子力はエネルギーセキュリティ確保の重要な手段であり、海外においても、そのような位置付けで取り組まれている例がある

○原子力技術を支える次世代の人材の育成を進めるうえで、原子力の将来的な位置づけが、政策において明確にされる必要があるこれらの議論の後に、より多くの価値を原子力が社会
に提供するために、何をすべきかが議論された。この点に関しても、一次発表で提示された論点が妥当であることが、はじめにパネリストによって確認された。そのうえで以下の意見が出され、一次発表の論点とともに、提言の取り纏めにおいて考慮されることとなった。○保全の最適化や、長期サイクル運転の取り組み等を進
め、稼働率向上や出力増加を実現し、原子力を最大限に活用するべきである

○原子力発電所の現場では、異物混入防止や、適切な水質管理に努めているが、海外の良好事例も参考に、こうした取り組みで信頼性を向上することも重要である
○新規制基準に適合するために行われた安全対策が、全体として最適な安全を実現しているか、再稼働がある程度進んだ段階で、学会等で議論する場を設ける必要がある
○若手技術者にとって、原子力に取り組む意義が感じられ、魅力的でやりがいある仕事であることが、技術継承において重要であり、そのためにも原子力の位置づけが政策において明確であることが望まれる
4. 三次発表(提言案の発表)
一次発表および二次発表で議論された論点が提言案の形で取り纏められ、三次発表の冒頭で座長から提示された。そのうえで、提言案に関する意見交換が行われ、一連の議論を取り纏めた成果として妥当であることが、参加者全員によって確認された。
また、提言の活用に関しても意見交換が行われ、国のエネルギー基本計画の議論にこの提言を役立てるべく、提言の公表について学会内で所定の手続きを進めることとなった。
三次発表で確認された提言の主な考え方は、以下のとおりである。なお、提言そのものについては、学会誌の別途掲載箇所、もしくは日本保全学会のウェブサイトを参照いただきたい。
4-1カーボンニュートラルで原子力がその役割を果たすべきであること
まず、 2050年までのカーボンニュートラル実現に向けて、電力価格の上昇抑制、自然災害等への電力供給レジリエンス強靭化、技術自給率を含むエネルギーセキュリティ確保に、原子力は最も合理的で不可欠な手段であることはこれまでの実績から明らかであり、安全を向上させた原子力が、エネルギーベストミックスの重要な一翼を将来にわたって担う必要があることを、政策として明確にすべきであることが提言された。
また、既存の原子力施設の安全な長期利用はもとより、飛躍的に安全を向上させる新技術を採用した建替えや新増設が不可欠であり、国による原子力発電への投資環境の整備や、原子力の環境価値の評価などを含む総合的な取り組みが、早期に着手されるべきであることも提言された。
その主な論拠は、以下のとおりである。

・電力供給は、発電、送配電から消費までを含むシステムであり、再生可能エネルギーを活用する際にも、システム全体のコストを適正に維持して、電力価格の上昇を抑えるうえで、実績ある低炭素技術として原子力が果たすべき役割は大きい。
・また、自然災害等の影響に対して、電力供給システムの強靭なレジリエンス性を確保するうえでも、災害対策が強化された原子力の役割が重要である。
・エネルギーセキュリティの観点でも、原子力は不可欠である。エネルギーセキュリティは資源の調達安定性や備蓄性、技術や製品の自給などを通じて、総合的に取り組む必要があるが、これらのいずれの点でも、原子力は優れた特徴を有している。
・加えて、原子力は国内に裾野が広く強い基盤を持つ技術集約型産業であり、カーボンニュートラルを実現する産業政策としても、国内経済の発展や雇用に大きく貢献する利点がある。

4-2原子力の安全性の継続的改善に取り組むべきであること
こうした役割を将来にわたって担うためには、原子力の安全性が前提となる。 1F事故後に原子力施設で実施された安全対策、産業界横断での取り組み、国内外機関での安全研究、安全規制の変更、自治体の取り組みで、原子力の安全性は大きく向上しており、継続的使用には十分対応できている。しかし、今後ともその安全性が確保され続けるためには、継続的改善の取り組みが必須であることから、ステークホルダ間の対話を取りながら、関係組織がこれに取り組むべきと提言された。

原子力発電所では 1F事故の教訓を踏まえ、新規制基準に適合する安全対策が実施されており、安全性を大幅に向上させる効果が、定量的な評価でも確認されている。また、個々の原子力事業者による安全性の向上に加え、共通技術課題に対して産業界横断で検討し、効果ある安全対策で自主的に安全性が引き上げられている。こうした取り組みは、今後も継続する必要がある。
さらには、「想定外」を発見して対処していく活動や、それに関する人間系のパフォーマンス向上と事故時保全について、引き続き充実を図る必要がある。
また、社会の様々なステークホルダと丁寧に対話を重ねるとともに、事業者、規制当局、立地自治体の間では、原子力安全を議論する共通の基盤を育て、継続的な安全性向上に.ぐことが重要である。


4-3原子力がより多くの社会貢献をすべきであること
原子力は社会に多くの貢献をしている。さらに多くの価値を社会提供するために、原子力発電所の稼働率向上や出力増加、高度保全による長期利用、再生可能エネルギー利用と原子力発電設備活用の協調的発展、原子力の安全性と経済性の抜本的改善と多様な利用を可能にする技術革新に、関係組織が取り組むことが提言された。
原子力発電所では、個々の事業者の取り組みと産業界横断での取り組みで、国内外の運転経験や良好事例を活用し、保全の最適化を進めて、こうした改善を進めることが重要である。
また、原子力発電設備の慣性や無効電力供給による電源系統の安定化効果により、再生可能エネルギーの利用も進めやすくなることから、原子力発電と再生可能エネルギーの協調的発展も追求すべきである。
さらに、国による政策的支援と、メーカーや研究開発機関による技術革新で、よりいっそう安全な新技術による原子力利用を進めるべきであり、同時に新技術の特性に応じた安全要件や、安全規制のあり方についても、国や学会で検討されるべきである。
加えて、これらに関連する提言として、次世代の技術者・研究者の成長の場を作り、原子力技術の継承と発展を図ること、ならびに原子力のサプライチェーンを維持することが重要課題であり、そのためにも将来の原子力の位置づけを政策で明確にすることが望まれることが指摘された。
とりわけ、発電所の設計、建設に関わる次世代の技術者・研究者の育成と、原子力のサプライチェーンの維持が急務であるが、これらは既設設備の運転保守や廃止措置にも波及的に影響する重要な課題でもある。


5. おわりに
近年の異常気象の原因として、人為的な温室効果ガスの排出の影響が指摘されており、その対策として主要国では、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが強化されている。我が国においても 2050年までに実現することが、政策目標に位置付けられたが、これは「社会経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す、その鍵となる」( 2021年 1月菅総理施政方針演説)ことであり、我が国の技術を総動員して取り組むべきことである。
この提言テーマセッションでは、 1F事故以降に安全性を大幅に向上させた原子力が、カーボンニュートラル実現の諸課題を解決し、同時に我が国の経済発展、雇用の確保、消費生活の安定に貢献する現実的で不可欠な手段であり、エネルギーベストミックスの重要な一翼を、将来にわたって担う必要があることが明らかにされた。
そのうえで原子力の役割と、それを担う原子力施設の長期利用、建替え、新増設を、政策として明確に位置付けるとともに、投資環境の整備等を含む総合的な取り組みに早期に着手することが提言された。
また、事業者、プラントメーカ、学会をはじめ、原子力に関わる諸組織においては、原子力の安全性と経済性の抜本的改善に向けた技術革新、再生可能エネルギーと原子力の協調的発展、原子力発電所の稼働率・出力向上、高度保全による長期利用に取り組むことが提言された。
さらに、原子力の利用を進めることは、原子力技術の継承・発展、原子力のサプライチェーン維持に役立つものであり、それは原子力の安全確保には不可欠である。このためにも将来の原子力の位置づけを政策で明確にすることが提言された。
これらの提言が、「エネルギー問題」に関する国民的議論に資することを期待したい。

第 17回学術講演会活動報告
※日本保全学会 HPからダウンロードできます https://www.jsm.or.jp/13957.html

8月 6日に公表された「エネルギー問題」への提言(内容は次ページに続く)

19


20


◆一般講演セッション

[B-1-1] 補修・保全技術①
本セッションでは、補修・保全技術に関して 6件の発

表がなされ、活発な議論があった。
まず、石川(電源開発)らにより、「施工不良を識別す

る体感型施設を用いた現場研修」と題して発表があった。
大間原子力発電所建設工事では、現場施工管理に関する
経験不足(技術力の維持・向上)が課題となっていること
から、過去の他発電所で発生した施工不良等を模擬した
施設「ミスらんガイド設備」を用いた現場研修を通して、
これまで約 120名の社員の技術力の維持・向上を図って
いることの報告があった。
2件目に、村上(中国電力)らにより、「島根原子力発

電所における電子版事前消火計画(PRISM)の導入」と題
して発表があった。電子版事前消火計画は、必要な情報
を入力した専用ソフトウェア(PRISM)をタブレット端末
に搭載しており、火災が発生した場合、タブレット端末
上で火災エリアを選択すると当該エリアにおける火災対
応に必要な情報(アクセスルート、使用可能な消火設備
等)が表示されると共に、火災対応に係る要員の消火戦
略情報の共有化が図れる等の報告があった。
3件目に、田村(日立製作所)らにより、「配管減肉計

測向け非接触超音波センサの実機模擬配管における適用
性確認」と題して発表があった。前回の学術講演会では
センサ校正法の構築や基礎形状での精度検証について、
今回は実機を模擬した配管の肉厚計測により非接触超音
波センサの実機適用性についての報告があった。
4件目に稲垣(中部電力)らにより、「原子力プラント

のヒートバランスモデルの構築」と題して発表があった。
火力プラントで活用されているヒートバランスによる性
能管理手法を原子力プラントに導入することを目的とし、
浜岡4号機の実機データを用いたヒートバランスモデル
の開発結果についての報告があった。
5件目に熊野(中部電力)らにより、「原子炉内表面に

発生した孔食の溶接補修」と題して発表があった。浜岡
5号機の海水流入で発生した原子炉内表面の孔食に対し
て、様々な補修溶接方法・条件と温度分布の関係から適
正な溶接条件を整理した結果、溶接時に低合金鋼部に熱
影響が及ぶかの判断が可能となったこと。また、溶接時
のクラッド厚さと入熱が決まれば、おおよその溶融部の
寸法を把握できる結果が得られたとの報告があった。
6件目に西村(東芝プラントシステム)らにより、「ケー

ブルルート実証技術の開発」と題して発表があった。原
子力発電所のケーブル及び電路は、重要なネットワーク
システムであり、耐震、耐放射線性、系統分離等原子力
特有の構成管理が求められるが、布設後は人間系による
目視確認が唯一の手段であり、特に高所や狭所などの確
認は困難を極めることから、ケーブルのルートを実証す
ることができる可搬型のシステムの開発内容の報告が
あった。
【座長 : 熊野秀樹、西村秀孝】

[B-1-2] 補修・保全技術②
本セッションでは、前セッションに引き続き、補修・

保全技術に関連する 7件の講演がなされた。
まず、中島(中国電力)らから、島根原子力発電所 2号

機に新規制基準要求として設置するブローアウトパネル
閉止装置の規制要求事項とそれへの対応状況について発
表があった。審査が先行する BWRとは、異なる装置を
導入する必要性から、苦労の末ダンパ式を選定し、手動
操作性、耐震性、気密性等の確保・確認の状況について
興味深い講演内容であった。
2件目の発表では、当学術講演会では初めての講演と

なる尾崎( JAXA)らにより、種子島宇宙センターの基幹
ロケット打ち上げ設備の保全の取り組みについて発表が
あった。今まで「宇宙村」という狭い業界内における保全
活動を進めてきたが、異業種の状況をベンチマークし、
保全技術の向上を図り、設備の高経年化リスクを低減し
ていこうとする優れた取り組みについて報告いただいた。
3件目の発表では、塚本(北陸電力)らから、長期停止

中の志賀原子力発電所における停止時安全管理機器への
仮設足場接触によるトラブルを防止するための取組を、
解析を用いた定量的ルールの作成、現場での離隔距離の
見える化表示、遵守できない場合の対応方法、作業管理
方法、そして有効性の確認について、必要な検討や実施
事項が網羅された大変優れた内容であった。
4件目の発表では、斎藤(北海道電力)らから、泊発

電所取水路の除貝作業の効率化について発表があった。
貝の付着低減から、貝を生かす方法に発想を転換し、全
国的にも先例の無い試みとして、作業の効率化および費
用削減につながる成果を得た取組であり、他社も参考と
できる内容であった。
5件目の発表では、丹羽(関西電力)らから、高浜 4号

機の SG細管損傷の原因が、新規制基準対応に伴う長期
停止中に成長したスケールが異物となった可能性につい
て、エビデンスを基に考察されていた。会場からは、高
浜と大飯のスケール生成量の違いと細管材質の違いの関
係を確認する質疑などがあり、再稼働を控える PWRに
とっては、有益な講演内容と思われる。
6件目の発表では、砂川(北海道電力)らから、非常用

電源車の内燃機関の吸気系に装着する火山灰除去装置に
おいて連続運転を可能とするための、大流量実証試験装
置の開発・性能評価の状況について発表があった。これ
までの検証では、設計条件を満足しており、実機適用化
が近い印象を受ける優れた設計検討の内容であった。
最後に、廣地(三菱重工業)らから、敦賀 2号機での海

水管ライニングの経年劣化による不具合発生頻度増加対
策として、信頼性の高いポリエチレンライニングへの更
新の検討状況が紹介された。必要な工事期間を含む費用
対効果の検討・実績について、改めて報告があると他社
も参考になろう。【座長:山中誠、山本祥司】
[C-1-1] 保全社会学①
保全社会学①「原子力裁判の論点」のセッションでは、まず、基調講演として安念(中央大)から、「司法と原発―原発を停めた判決は、何を誤ったのか」と題して、法律家の視点より、我が国における司法制度と原子力に関して広く論点を分析された結果を中心に講演された。これまでに原発の稼働を認めなかった8例の裁判を分析、評価して、それらでは裁判官が国側または事業者の原子炉審査に係る説明について、要点を飛ばして理解してしまったり、あるいは間違って理解したことで、原子力規制委員会(規制委)の審査に不合理な点があるという判断に至っているという分析が紹介された。例えば、過去に原発立地点で基準地震動の最大振幅を超えた地震動が来たケースが5つあり、5例共、何か損傷がでた訳ではなく、何も問題がなかったところであったが、それを例に取った1つの裁判では基準地震動の策定に不合理があるとされるなど、全ての例で、裁判官が規制委の審査内容を正しく理解しなかったことが差止判決に繋がっていると示された。しかし、裁判官は日々の判断の中で、常に何らかの妥協に迫られて仕事をしており、理想論ではなく具体的な世界の構築をしているという点で、工学と法律の世界は似ているものであり、それを考えれば、マインドセットが似ている工学の論理が、何故法律の専門家に伝わり難いのか不思議だと評されている。
基調講演の後には、堀池(大阪大)らより原子力裁判の論点として「行政訴訟と民事訴訟」についての分析が報告された。法律の専門家の間で近年論議を呼んでいる原発訴訟をきっかけとした、行政訴訟と民事訴訟の組合せの最適化の論議の中で原子力規制がどの様に評価されているのかについての分析が示された。そこでは高度で複雑な原子炉の安全規制を裁判で審理する上での裁判所の役割と審理の限界について、立法行政を統制する司法としての責任の大きさと、高度に科学的な規制委という行政の判断を司法がどの様に扱えるのかについての論争であり、法曹界の重鎮にても原発の安全性の論理を妥当に理解されていない場合が多いと評価している。
次に鈴木(前電事連・保全学会)らより、損害賠償裁判判決にみた国の責任 -長期予測の信頼性とバックフィット制度の位置づけと題して、最近の福島事故後の東電と国を相手とする原子力 /国家損害賠償裁判の経緯、判断とそれらの分析が報告された。大きな争点は津波の予見性にあって、津波の長期評価にて発生時期や確率が曖昧なまま、津波高さ 15mという数字が出されていた点が異常にクローズアップされ、数字だけが一人歩きをして、それを根拠にバックフィット(当時は技術基準適合命令)を出せたはずという判決が多いことが紹介された。しかし津波の発生時期は 1000年単位での尺度のものであることから、事象が起きてそれを経験した後で、その事象発生前の状況を正確に評価することの困難さが浮き彫りになっている。また基本設計事項と詳細設計が混乱して判断されており、今後に問題を含む懸念が示された。
締めの講演は田中(日本原燃)らより、原子力発電所の


司法リスクを下げる対策の提案と題して、原子力の様な
高度の科学技術の審査を司法に組み込む方策としての司
法制度改革の提案があった。そこでは原子力の様な高度
な科学技術を裁判で扱う制度はどうあるべきかに関し、
外国での例や国内の公取委の独禁法違反の例など行政審
判の進め方や、知財裁判での知財高等裁判所の設置など
を例に、高度な科学裁判での取り組み例を上げ、原子力
での裁判の在り方をいくつか提案された。また、訴訟に
与える安全目標に関して現状の問題点を指摘し、裁判で
重要な役割を果たしており、改善が求められるとした。
【座長:宮野廣、堀池寛】

[C-1-2] 保全社会学②
本セッションでは、 4件の発表があった。大飯 3、4

号機運転停止裁判に見る「規制の耐震基準判断の問題点」
がテーマである。
堀池(元大阪大)らから「大飯原発行政訴訟の論点」と題

して発表があった。当該裁判判決では、原子力規制委員
会の審査側の対応が不適切であるとされたことに対し、
著者らは、技術的に重要なことは、設定した基準地震動
が適切な保守性を有しているかどうかであり、裁判所に
はその考察が欠如していたと指摘。また原子力規制委員
会の判決後の資料において、基準地震動策定における不
確実さに対して十分な保守性を考慮しているので妥当、
との追加説明は裁判所の判決と必ずしもかみ合った議論
になっていないと指摘した。
宮野(元法政大)らから「規制の耐震基準判断の論点-

原発の耐震における新規制基準-」と題して発表があり、
将来活動する可能性のある断層について、小さな断層ま
で含めて確認したことにより安全性の強化につながった
と指摘。基準地震動を策定するにあたっては、不確かさ
を考慮し、耐震設計、安全機能の維持では、残余のリス
クを評価した対策が手段として重要であることなどが示
された。正しく不確かさを捉え、そのリスク評価と合わ
せて安全確保を評価することが望ましいと結論付けた。
蛯沢(保全学会)らから「規制の耐震基準判断の論点-新規制基準における耐震関連基準類の改善の提案-」として、大飯判決に基づく規制庁説明資料に係わる問題点・論点が指摘された。不確かさの取扱いは必ずしも技術的に熟成、体系化されておらず、ばらつきと不確かさの両者の定義の違いを明らかにする必要がある。バランスよく原子力施設の安全性を確保することが不可欠であり、そのために PRAの導入が必須である。また経験式
適用に関しては工学的経験式活用の観点から適用範囲に
ついて見直すことなどが示された。
高田( JAEA、東大名誉教授)らから「科学的合理性と工

学の判断-リスク情報を活用した意思決定-」と題して
発表があり、発電所の安全確保のために用いられる基準
地震動を理学者に委ねるのではなく、社会の要求に合っ
た安全水準を確保する工学の判断を取入れ、理学(事実)
と工学(判断)の協調に基づく本質的議論が重要である。
基準地震動における保守性を定量的に把握するためには、
海外で用いられるリスク情報を積極的に活用し、社会へ
の説明性の向上に向けた対応の必要性が指摘された。
【座長:田中治邦、松本昌昭】

[C-1-3] 保全社会学③
保全社会学③「原子力防災の提言」セッションは、"災

害時の危機管理"についての検討の中間報告として企画
された。
はじめに田中(日本原燃)らより「福島第一原発(1 F)

事故時の周辺防災の失敗と現行の原子力災害対策につい
て」というテーマでの講演であった。そこではそろそろ
福島事故時の避難防災の経過と当時の諸対応の是非につ
いて冷静に振り返ることが重要と云う点から始まり、1
F事故当時の防災指針や EPZと事故時に出された避難
指示の変遷とその範囲について復習を行い、当時の災害
対応、避難対応での改善すべき項目が挙げられた。特に
避難に伴う関連死数が問題であり、移動によるリスク利
点と家屋に留まるリスク利点を冷静に比較して判断すべ
きことが示された。それを受けて新規制基準下での現在
の防災計画のあるべき方向性について、見解が述べられ、
新規制基準下では放射能の所外への放出は福島事故より
も少ないと想定できるので、それに合致した防災避難計
画とすることの重要性が示された。
次に鈴木(前国際法学会・保全学会)らから、一般防災

と原子力災害の比較による危機管理の課題、と題する講
演があった。大雨洪水などの一般災害での人々の避難行
動様式とそれを助ける自治体の避難情報の様式についての多くの例のサーベイと分析が紹介された。課題として、自分は大丈夫という正常化バイアス、避難指示の誤解、避難するかしないかあるいはその経路はどうするのか等についての孤立した人々の判断の問題点と分析が述べられた。災害の起因地点と状況についての情報がないことが大きな問題として指摘され、それらとの比較での原子力防災計画での注意点、改良点について報告があった。
3つ目には、松本(三菱総研)らから一般災害と原子力災害の比較による危機管理の課題をテーマに講演があり、自然災害の防災避難では、自治体等からの指示で避難開始するが、非常に時間的な裕度の無い中での避難になること、また急性、即死の危険と向き合っての避難になることなど自然災害対応の難しさが紹介された。それに対し原子力防災では急性障害の恐れがなく、避難の原因場所も明確で、時間的には裕度が大きいが、防災の範囲が 5km-30km圏内と広範囲であるので、非常に多数の人々に適切に防災情報を伝達する必要性があり、避難による交通量の増大という大きな違いがあることが比較論として紹介された。
セッションの締めは宮野(元法政大・保全学会)らによる、新たな仕組みの危機管理、というタイトルでの講演であった。原子力防災での安全確保の要点について福島事故から読み取れる事項、問題点についての分析があり、それを受けてどの様にそれを発展させればいいのかの検討結果の報告であった。福島事故では周辺住民の放射線障害は皆無であったが防災の実施、特に移動避難の混乱から多くの人命を失う結果となったことから、屋内退避と避難移動の両者の区別と、その指示責任の明確化、及び屋内避難を第一優先度として防災計画を立てることが推奨された。それを一般防災計画と連携した防災計画として、平常時からの住民への情報伝達の形を整備していくことの重要性が強調された。全体を通して深層防護第5層の深化に向けての有用な検討結果が報告されていたものである。
【座長:堀池寛、宮野廣】

[D-1-1] 照射脆化
福元(福井大)らは、ステンレス鋼の照射硬化量の定量評価に関する研究について報告した。イオン照射したステンレス鋼の超微小硬度測定による照射硬化量と透過型電子顕微鏡やアトムプローブによる損傷組織観察から得られた照射欠陥量による硬化評価量とフィッティングして相関性を得、溶質原子クラスタの硬化係数を求めたことを報告した。
阮(京都大、現 QST)らからは、圧力容器鋼の加圧熱衝撃による構造健全性に対する非対称冷却注入の影響について報告した。三次元計算流体力学と有限要素法により、RPV破壊の発生確率が注入失敗の数(緊急冷却の非対称性)の関数として評価された。 RPV破壊の発生確率をリスクの指標として使用して、保全戦略を最適化する方法論が提案された。
NGuyen(長岡科技大)らからは、アトムプローブによる圧力容器鋼モデル合金の溶質原子クラスタの詳細な性状解析について報告した。極めて精緻な性状解析手法を用いて転位ループへの Niや Mnの転位ループ上の局所偏析や OIMによる方位解析からの転位ループ面の同定などが行われ、圧力容器鋼の照射欠陥に対する新たな知見が得られアトムプローブにおけるユニークな解析応用事例が紹介された。
【座長:福元謙一、森下和功】


[D-1-2] 材料評価
7月 6日午後に一般公演として開催された。聴講者は発表者を含め、おおむね 20名程度であった。本セッションでは 6件の講演が行われ、主に材料強度・応力評価に関する内容のものであった。以下、その内容を手短に紹介する。
「低炭素ステンレス鋼溶接金属の熱時効に関する研究」三浦(電中研)らでは、 SUS316L溶接金属に対する熱時効が破壊特性に及ぼす影響と、 350℃および 400℃での加速熱時効が、フェライト相のミクロ組織変化に及ぼす影響が紹介された。 BWR運転温度に対する非加速温度での熱時効材のデータの拡充等により熱時効温度の影響や加速熱時効の妥当性等を検討することで、溶接金属の破壊特性に及ぼす熱時効の影響の明確化が期待できる。「放射光 X線を用いたアルミニウム単結晶の変形・再結晶中のその場観察」城(量研機構)らの発表では、放射光を利用した変形・再結晶中のアルミニウム単結晶内部のひずみ及び結晶方位のその場観察測定が紹介された。


今後、再結晶メカニズムの解明により、集合組織を活かした材料強度制御に貢献するものと期待できる。
「WJPとバフ研磨による残留応力改善工法の応力緩和挙動のメカニズム検討」于(大阪大)らの発表では、機械加工を施していない WJPとバフ研磨施工材に対して硬さ試験、 EBSDによる結晶方位解析、陽電子寿命計測を行い、熱時効による残留応力緩和挙動への影響、そこから推察される残留応力の長期安定性と初期緩和のメカニズムについて紹介された。初期緩和は主に空孔の消滅によるものであり、部分的な転位の残存により長期安定が図られるなど、施工業界にとっては非常に明るい未来を期待させる成果である。
「cosα法による X線残留応力測定における入射角揺動の適用効果の調査」内山(パルステック工業)の発表では、自社で開発したポータブル型X線応力測定装置と測定法である cosα法の課題と対策が紹介された。粗大粒や集合組織を有する材料に対して、測定条件が提示され、今後現場を中心にますます利用が増加することが期待できる。
「高エネルギー放射光によるオーステナイト系ステンレス鋼の応力測定」鈴木(新潟大)らの発表では、放射光応力測定法として開発中の二重露光法を SUS304製焼きばめ試験片へ適用した結果が紹介された。測定技術に対する現状と様々な課題、長所・短所などしっかり整理されており、将来的には粗大物や集合組織を有する金属材料への適用が期待できる。
「放射光 X線を用いたガラス固化体の健全性評価のための材料強度解析」菖蒲(JAEA)らの発表では、放射性廃棄物を封じ込めるためにすでに作業が行われているガラス固化体の機械的性質の 1つである材料強度評価に関する放射光測定事例が紹介された。ガラス固化体生成条件と強度との相関を提案しており、ガラス固化体の健全性評価技術として期待できる。
今回、初のオンライン開催ということで事前テスト等も行ったが、講演者の発表が聞きとりにくいといった状況が発生した。そのため、講演順番を入れ替えるなどの対策を行い乗り切ったが、セッション時間超過となってしまった点は、対策が必要であると思われる。一方、この「不具合」に関して、座長側に原因があるのか、講演者側に原因があるかの判断が非常に難しいところだが、座長を 2名用意したことで、互いにチャットによる状況確認が可能であったことにより、この不具合の原因が何に起因するかを特定することができた。この点は非常に良かった点である。なお、「不具合」が発生した状況については主に無線 LANによる講演を行っている人に多く見られたことから講演者に有線 LANでの講演を周知することも必要であると思われる。
【座長:三浦靖史、菖蒲敬久】


[D-1-3] 腐食・応力腐食割れ
本セッションでは、軽水炉システムでの腐食あるいは応力腐食割れについて、実機で経験された事象の解明あるいは実験による評価・検討成果が3件報告された。
大村(中部電力)らは、「浜岡 5号機海水混入に伴う配管溶接金属の腐食メカニズムの解明」と題する講演を行った。 2011年に主復水器細管が損傷して炉内の広い範囲に海水が混入した事象が原因となって、 2017年に制御棒駆動系スピルオーバー配管(ステンレス鋼)の溶接継手から一次冷却水の漏えいが発生した。この特徴的な腐食は、腐食感受性の高いステンレス鋼の溶接部、 Cl-の流入、大量の鉄クラッドの堆積の 3 つの要因が重畳して発生したすきま腐食であると著者らは推定した。実機で発生した腐食形態の再現ならびに詳細な腐食メカニズム解明に向けた知見を拡充するため、実験室において定電位保持試験、自然浸漬電位測定試験などを実施した結果について述べた。当該環境で電位の貴化があれば、実機で認められたものと類似の溶接組織に沿った局部腐食形態が再現されることが示された。鉄の酸化物あるいはオキシ水酸化鉄(Fe3O4, α -Fe2O3, α -FeOOH, γ -FeOOH)がステンレス鋼溶接金属に接触することで、明確な電位貴化が認められた。特にγ -FeOOH を接触させた際に最大で 105mVSSE程度まで貴化した。これらを含む鉄クラッドの堆積に起因した電位貴化が局部腐食の主要因となり得ることから、鉄クラッドの除去が重要であることが示された。
次に、井門(四国電力)らから、「PWR1次冷却水環境下でのマグネタイト生成メカニズム等に関する検討」と題する講演があった。令和元年に経験された制御棒クラスタの吊り上がり事象の原因の一つとして、制御棒クラスタのスパイダ頭部内でマグネタイトが薄膜状及び粒子状に堆積したことが影響したと考えられている。腐食生成物の生成状況、腐食速度等についての知見拡充を目的として、 PWR1次冷却水模擬環境での SUS410等の腐食試験を実施している。本講演では、起動時の水質環境下で生成する腐食生成物の化学形態とその遷移等に関する試験結果が報告された。試験において生成した腐食生成物は、還元性雰囲気中で Fe3O4に変態しており、制御棒クラスタのスパイダ頭部内から回収された堆積物の結晶構造と合致した。また、腐食生成物の元素組成は、 1次冷却水中の金属クラッドと比較してニッケル、クロム成分が少なく、回収された堆積物の組成に近いものであった。これらの事実から、制御棒クラスタのスパイダ頭部内から回収されたマグネタイトは、主に駆動軸内部で生成し堆積した可能性が示唆されたと報告している。
3件目は、阿部(東北大)らから、「表面硬化層を有するオーステナイト系ステンレス鋼の高温水中 SCC 感受性評価」と題する講演があった。コアシュラウド模擬試験体( H7 溶接部模擬)の胴部とサポートリング部の SCC 感受性の有無を検討するとともに、作製時の機械加工により導入された表面硬化層が SCC 感受性に及ぼす影響を評価したものであり、表面近傍組織の各種キャラクタリゼーションと、高温水中における SCC 試験を実施した結果が報告された。受け入れまま材(表面硬化層有り)同士で比較すると、胴部はリング部と比べて明確に高い SCC 感受性を有することが示唆される結果となった。当該研究で用いた供試材においては、エッチング後の組織観察ならびに表層の硬さ分布測定結果から考えると、胴部の方が機械加工による影響がより顕著であったことが理由と考えられた。一方で、硬化層なし・コロイダルシリカ仕上げの試験片同士で比較すると、両者とも深さ数 μm 程度のき裂がわずかに認められたのみで、SCC 感受性の違いは明確ではなかった。硬さの異なる材料に対して定ひずみ試験を実施した場合、応力レベルが異なってしまうことについての議論が行われた。
【座長:渡邉豊、内一哲哉】


[A-2-2] 特別企画セッション
「グローバルな視点に基づいた原子力安全マネジメント」と題して、特別企画をもった。福島第一の事故から 10年、「原子力安全」への視点はどのように変化してきたのか、国際社会での変化を分析し、わが国における原子力安全への取り組み方を議論した。グローバルな視点から原子力安全に関して将来に向けた課題をいかに解決していくべきかを提言している。

はじめに、関村(東京大)より、基調講演をいただいた。
福島第一の事故から、「原子力安全」への視点はどのよう
に変化してきたのか。国際社会での変化を分析し、わが
国における原子力安全への取り組み方を議論した。グ
ローバルな視点から原子力安全に関して将来に向けた課
題をいかに解決していくべきかを提言した。
原子力の分野だけではなく、学術の分野を広く分析し
て、反映させることが大切と考えた。原子力の知識を他
の分野と統合することで有効に生かすことが当たり前の
時代になっている。新たに得られる知識により、定まっ
たものはすぐに陳腐化する時代になっている。どう対応
するか。その責任を果たすこと、そこにマネジメントが
重要な役割を果たす。
1Fの事故から 10年目で、多くの国際交流が持たれ

た。そこから得られたことを基に論じてみる。事故後、「原子力安全」の議論は大きく進展し、既にグローバル化
されている。 IAEAの共通理念と各国の運用とは違うも
のではあるが、グローバルな認識は、レベルの高い安全
の確保、長期運転への反映、リプレースの考え方の整理、
そして多様なエネルギー利用と原子力の活用の融合など
に展開されている。
1F事故から学んだことは多いが、学ばなかったこと
はなにか。「①原子力安全は死亡リスクだけではないこ
と、②自然現象のへの取り組み定期的に見直すことが必
要、③運転から廃炉、処分まで一貫したマネジメントが
必要であること、④ 4号機の問題、なぜ使用済燃料が格
納予期内に置いてあったのか。ほか」がある。
トータルのマネジメントの重要性、原子力安全への更
なる取り組み、規制機関の独立性、透明性の確保が信
頼確保につながると言う認識、などが提起されている。
OECD/NEAを中心に議論が交わされてきた。安全研究、
人材の確保の必要性や緊急事態への対応の在り方につい
ての国際協力の重要性が指摘されている。

わが国においても、 10年目を迎えて改めて、考え直さなければならないことが「民間事故調最終報告」などに指摘されている。わが国では特に男女共同参画に遅れがあることや教育の将来像に危惧を抱いていることが強調された。福島第一原子力発電所事故後の原子力安全に関するグローバル化の進捗を踏まえて、これからも継続的に取り組むべき課題である。
パネルディスカッションは、基調講演を受けて、 2人のショートトークを行い、パネル討論を行った。
足立(東京大)は、原子力の安全確保と継続的な安全性向上に関するマネジメントは重要な要素であり、「総合した知を unknownに対する対策を最大限に講じた上で暗黙知を湧き出しながら実地で使っていくこと」が原子力分野におけるマネジメントであるとした。すなわち、様々な学術や政治、行政、司法、経済などの形式知の集合である統合知(known)と暗黙知(unknown)を明確にして、適切に安全確保のための論理の構成を行い、活用の調整、整合を行うことがマネジメントであると考えられる。
山本(福井県庁)から、最先端で、重要なステークホルダである地元との整合を進めている自治体の事例が紹介された。高度な技術分野の決定に社会がどのようにかかわり役割を果たすべきか、模索が続いている。ここに原子力分野のマネジメントの難しさがあることが提示された。
引き続くパネル討論では、特に原子力の分野ではステークホルダの対象が広く、また学術分野の多様性と近年のトランスサイエンスと言われる科学技術だけでは判断できない領域が明らかとなり、コンセンサスの形成の難しさが浮き彫りとなった。学術、地方自治を代表例とする実装の両分野でのマネジメントの重要性と課題が明らかとなった。
【座長:宮野廣、出町和之】


[A-2-5] フィルターベント
本セッションでは、「銀ゼオライトによる放射性物質

の事故から取り組んできたわが国の原子力安全対策として、放射性物質による有意な汚染を効果的に防止する格納容器フィルターベントシステム( FCVS)の重要性と、炉心損傷頻度を低下させるなどのリスク低減効果について紹介があった。特に FCVSの高度化のための改良型スクラバーや多層メタルファイバーの開発状況や FCVS起動のパッシブ化についての検討状況について報告があった。FCVSの高度化によって、半径 5㎞から 30km圏内の UPZの範囲の緊急時避難を無くすことや FCVSによる安全性向上によって、訴訟による長期運転停止の回避が提案された。会場からも福井県庁の山本より地元理解への説明のため設置された FCVSが特重施設では詳細な説明の難しさがあるが、国民の理解促進のための工夫が必要であることなどが、議論された。
石川(ラサ工業)らは、銀ゼオライトの水素触媒反応とその応用について、開発状況を報告した。ポールシュラー研究所との共同研究で、原子力施設の水素爆発防止に銀ゼオライトを利用することや、水素センサーなどへの利用などが報告された。
また、川原(木村化工機)らは、FCVSの技術を利用した移動式空気浄化システム(図1)の開発について報告した。高度化されたスクラバー技術やメタルファイバー、銀ゼオライト技術を利用したモバイル型空気浄化システムを紹介し、この有効性について報告した。アメリカなどでの移動式 FCVSなどへの応用なども議論され、高温対応などの議論があった。
豊田(木村化工機)らは、希ガス吸着システムについて報告があった。希ガス吸着のために開発された銀ゼオライト XeAについて性能の高さが報告された。また、この吸着材を用いた吸着システムについても様々なケース

除去システムの高度化」と題して、原子力の安全性向上図1 移動式空気浄化システム(1500km陸送実績)に関わるフィルターベントの高度化や空気浄化システム、希ガス吸着システムについて 4件の研究発表があった。これらの 4件の研究は、経済産業省の原子力産業基盤強化事業の補助事業として採択されたもので、この事業内容について報告があった。
奈良林(東京工業大)らは、訴訟による運転停止の回避と地元理解促進というテーマで、福島第一原子力発電所図2 FCVSセッションの若手発表者と座長ら

で検討していくことが報告された。更に本セッションで紹介された技術を国内原子炉メーカーと一緒に発展させていく重要性が議論された。本セッションの特徴は新規の若手技術者の発表と保全学会への入会である(図2)。【座長:奈良林直、遠藤好司】


[B-2-1] リスク評価①
本セッションでは、リスク評価に関する5件の発表と質疑が行われた。
1件目は、片上(四国電力)らから、「伊方 SSHACプロジェクトの成果を活用した更なる安全性向上に向けた四国電力の取り組み」と題して、伊方 SSHACプロジェクトでは伊方発電所の地震動評価に SSHACガイドラインの Level3を適用することで、従来に比べより客観性及び技術的説明性を高めたうえで地震ハザードの不確かさの定量化を図ることができたとともに、その成果を活用することで更に信頼性の高い地震 PRAの実施並びに安全性向上対策検討への活用について説明があった。これを受け、 SSHACガイドラインを国内適用する際に課題となる日米の相違について、質疑が行われた。
2件目は、玉置(JAEA)らから、「核燃料物質使用施設の高経年化リスク評価手法の開発(1)リスク評価フローの検討」と題して、施設の維持管理のために検討した高経年化リスク評価手法のリスク評価フローに従い、設備機器の継続的な経年劣化監視を行うことで、適切に設備機器を評価管理する見通しを得たとの説明があった。これを受け、リスク評価フローに基づく評価プロセスを実践する際の体制、要員について、質疑が行われた。
3件目は、田中(三菱重工業)らから、「原子炉恒久停止から廃止措置までのリスクについて」と題して、リスクプロファイルが変化する廃止措置の各フェーズで、リスク評価上重要となるハザードを抽出し、重要度に応じたリスク分析やリスク管理を行うことが重要であるとの説明があった。これを受け、使用済み燃料の損傷リスクに対する寄与が大きい事象の日米相違等について、質疑が行われた。
4件目は、山下(四国電力)らから、「作業計画レビュープロセスの構築について」と題して、作業計画段階におけるレビュー強化のために伊方発電所に設置したプロセス管理課による、作業計画レビュープロセスの構築と作業計画レビュー実施例(使用済燃料ピットポンプ電動機の点検計画)について説明があった。これを受け、新たに作業手順等をレビューするプロセスを導入したことによる作業準備への影響有無について、質疑が行われた。

5件目は、森田(電中研)から、「配管減肉による配管損傷確率の評価手法の検討」と題して、タービン系・復水 /給水系統における配管減肉事象の進展による配管損傷確率の評価手法の検討及び試評価を実施した結果、保全重要度に基づく減肉管理や減肉管理の必要性・妥当性の定量的な説明が可能になるとともに、 RI-ISIなどへの活用も可能と考えられるとの説明があった。これを受け、減肉を考慮した配管損傷確率評価結果を用いた減肉状況を確認する検査実施時期の適正化への活用について、質疑が行われた。
【座長:大北明廣、橋本望】


[B-2-3] リスク評価②
本セッションでは、確率論的リスク評価(PRA)を活用したリスク情報を活用する取り組みについて、計 5件の報告があった。
1. 4件目までは電中研からの研究についてのシリーズ発表、 5件目は北陸電力志賀原子力発電所における意思決定に関わる取り組みについての発表である。
1件目は桐本(電中研)らから、「人間信頼性解析の定性分析ガイドの開発と手法高度化の検討」として、原子力発電所の確率論的リスク評価(PRA)の評価技術のうち人間信頼性解析( HRA)の高度化について開発した HRA定性分析ガイドが概説された。
HRA定性分析ガイドは、人的過誤事象( HFE:運転員や作業員などがあるタスクを遂行する場面において、そのタスクの目的を達成できない /タスクに失敗するという事象)を体系的に分析して、現実的な評価とするための HRAの定性分析における実施手順及び、具体的な評価適用事例を示している。
体系的に収集する HRA分析の定性分析の情報を「タスク構造情報」、「時間進展情報」、「行動形成因子( PSF: performance shaping factors)情報」などで定義して構成される全体を「叙事知」と呼び収集方法が説明された。ま

た、実際の評価事例として「フィード &ブリード操作(PWR)」「津波襲来前の建屋退避時の水密扉開放置」の
評価事例が示された。
2件目は竹原(電中研)らから、「リスク情報活用のた

めの人材育成に対する NRRCの取り組み状況について」
として、 NRRCが提供する教育プログラムの紹介が行わ
れた。提供されているプログラムは、「RIDM(リスク
情報を活用した意思決定)プロセスに関わる全ての構成
員」、「PRAの実務者」、「意思決定を行うマネジメント層」
が対象とされている。
プログラムは① RIDMプロセスの中で PRAがどのよ

うに使われるか理解することを目的とする「 PRAおよび
リスク情報活用基礎教育」、② PRAの開発・実行・評価
を行うために必要な能力を集中的に醸成することを目的
とする「 PRA実務者育成教育」、③意思決定者が、自ら
の意思決定におけるリスク情報の活用度を高めていくと
ともに、自らの組織に RIDMを根付かせるための行動
がとれるようになることを目的とする「リスク情報活用
演習」で構成されている。これらは 2019年度から開始さ
れているが、 2021年度はオンラインで行うことなどが
報告された。
3件目は吉田(電中研)らから、「確率論的リスク評価

用原子力機器信頼性パラメータの整備」として、 NRRC
を中心に産業界で整備されている PRA用の機器故障の
信頼性データにおける新しい個別プラントでの PRAモ
デルに適合したデータ収集の取り組みと、それらを用い
た国内機器故障率のベイズ統計モデルを用いた推定結果
が示され、それらの結果とアイダホ原子力研究所による
米国原子力発電所の 1995年から 2015年に得られた機器
故障率データとの比較が行われ、日本の一般故障率は概
ね米国の一般故障率よりも一桁程度以内で小さいものが
多い結果となることが示された。
4件目は矢吹(電中研)らから、「産業界におけるリス

ク情報活用の実現に向けた取り組み状況について」とし
て、リスク情報活用の実現に向けた産業界の戦略プランの基本方針として、フェーズ 1(2020年もしくはプラント再稼働までの期間)には「リスク情報を活用した自律的な発電所マネジメントシステムの高度化」、フェーズ 2(2020年もしくはプラント再稼働以降)には「自律的な発電所マネジメントを継続的に改善するとともに RIDM活用範囲を拡大」とする RIDMプロセス構築の取り組みについての説明が行われた。また、 NRRCのリスク情報活用の取り組みとして、 1件目. 3件目の報告を含む全体概要が説明され、 RIDMプロセスの活用範囲の拡大として運転中保全ガイドラインの作成やガイドを有効にするための組織体制の検討などが実施されていることが報告された。
5件目は新谷(北陸電力)らから、「志賀原子力発電所におけるリスク情報を活用した意思決定に係る取り組みについて」として、発電所におけるリスクマネジメント体制、 PRAモデルの整備・高度化、またそれらのリスク情報を活用した意思決定事例の説明が行われた。
リスクマネジメント体制では、プラント状況やリスクの検討、他社情報の周知等の情報共有と対策を検討する
「リスク情報・ CAPミーティング」、パフォーマンス指標を基にした発電所の状況把握とリスク傾向の監視・分析を実施する「発電所・原子力部門パフォーマンス改善会議」等が示され、現場での取り組み例として運転上の意思決定( ODM)シートの例が示され、監視・応急措置への対応方針のリスクマトリクスによる評価や意思決定の根拠などを示す記録が管理されることが示された。さらに、これらのリスクマネジメント体制を経営層、原子力部門幹部層で構築し、各部署・担当でもこの体制が活用されるための取り組みとして、「役に立つ」「意味がある」と実感してもらうことが重要と捉え、 PRAを用いた定例試験間隔、点検頻度の合理化や、リスクマトリクスを用いた優先順位付けによる作業合理化などの実例に取り組んでいくことが示された。リスク情報活用事例では、復水補給水系ポンプ運用台数の合理化で仮設給電を不要としても 2割のリスク上昇で留まる分析、号機間電源融通の手順書整備によるリスク上昇の防止、 PRAモデル高度化における重要基事象としての人的過誤事象の特定などの実例も示された。
【座長:新谷俊幸、桐本順広】


[B-2-4] 保全への AI適用
本セッションでは、昨今注目されている AI技術を原子力保全に導入することを目指す最新研究 9件が報告された。


1件目の発表では、磯部(原燃工)らより、逆止弁診断
への AI適用の検討について報告された。逆止弁振動の
AEセンサ計測値に対し、画像認識に多用される CNN(畳
み込みニューラルネットワーク)を適用することで漏洩
量の評価や漏洩兆候診断が可能であることが示された。
2件目の発表は、匂坂(原燃工)らによるデジタル打音
検査に AIを適用したコンクリート内部構造診断に関す
るシリーズ報告 2件のうち 1件目である。 FEMシミュ
レーションによる欠陥ありコンクリートのデジタル打音
のデータベースを構築できたことが報告された。
3件目は、松永(原燃工)らによる前述のシリーズ報告
の 2件目である。シリーズ報告1件目で整備されたデジ
タル打音のデータベースを学習データとし、 CNN(畳
み込みニューラルネットワーク)により欠陥寸法や角度
を推定している。推定結果には誤差が含まれるものの全
て安全側の推定であり、危険性の高い箇所を迅速にスク
リーニング検査する用途として有効であることが報告さ
れた。
4件目は、内藤(東芝)らによる 2段階オートエンコー
ダ(AE)を用いた異常予兆検知 AIに関する報告である。
センサ時系列データから 1段階目の AEにより低周波成
分を推定して除去し、 2段階目の AEで高周波成分を推
定することで、センサデータの高精度な再構成に成功し
ており異常兆候の早期検知が可能となったことが示され
た。

5件目は田口(東芝)らによる 2段階オートエンコーダ(AE)を用いたプラント異常予兆検知システム開発に関
する研究報告である。同システムにより、稼働中発電所
のボイラ燃焼室の温度計劣化の検知に成功した。単純な
AEよりも誤検知率が低く、2段階 AEの実用性を示した。
6件目は王(MathWorks Japan)らによる異常検知を例と
した AI適用のテクニックの紹介である。 MALABソフ
トウェアは、データの前処理からアルゴリズムの開発、
システムへの展開までの全体のワークフローをカバーす
るプラットフォームとして活用できることが紹介された。
7件目は真塩(三菱重工業)による人間工学プロセスの情報を一元的に管理する、人間工学設計支援システム開発に関する研究報告である。同システムにより、発生した事象の原因究明や改善、また設計変更時の人間工学プロセスの再評価を迅速に実施できることが示された。
8件目は鈴木(日本エヌ・ユー・エス)による欧米の原子力保全分野における AI活用状況に関する調査報告である。特に米国では、規制当局が AIに対する規制アプローチを構築するため、産業界との議論を開始していることが報告された。
9件目の発表は、出町(東京大)らによる、画像認識と自然言語処理の連成による悪意行為検知手法の報告である。画像内の状況を AI認識結果の関係性解析によりグラフ化したものと、ルール文を自然言語処理とオントロジーモデルにより階層グラフ化したものとリアルタイムで比較することで、核セキュリティ上の悪意行為や作業安全上の危険行為を自動で検知・識別可能であることが示された。
【座長:出町和之、鈴木直道】


[C-2-1] 保全遺産 2020
日本保全学会では保全学の発展、普及、社会への貢献を推奨することを目的に、歴史に残る保全技術関連遺産であり、かつ人類の文化的遺産を「保全遺産」として認定する制度を始めた。制度設計を 2019年度に検討し、 2020年度より公募を開始した。
初年度にあたる 2020年度に保全遺産第 1号から 3号が認定され、その 3件について 2021年度の学術講演 C-2-1保全遺産 2020セッションにて詳細報告がなされた。
まず、井原(三菱重工業)らより、「原子炉容器用自動超音波探傷装置 A-UTマシン開発の歴史」と題して講演があった。従来のマスト型の UTマシンに替えて、探傷クリティカル工程の短縮、位置決め性能の向上、性能確認の高度化、40年超え運転延長への対応としての試験・検査範囲の拡大等を目的に、位置評定処理としての画像


処理等の機能を持つ 7軸マニピュレータの A-UTマシン
の開発がなされた。これにより検査装置の性能や精度の
有効な維持管理と性能確認が高度化され、同時に作業の
効率化と工程短縮が可能になったとの紹介があった。そ
の後、位置の同定法、位置決め精度等について質疑があっ
た。
次に、今野(日立 GE)らより、「日本保全学会の保全

遺産 原子力発電所のピーニングによる応力腐食割れ抑
制技術」と題して講演があった。原子力プラント冷却水
環境下で発生する応力腐食割れ(SCC)は溶接部近傍の材
料表面の残留引張応力が一因である。この対策として技
術開発された Water Jet Peening (WJP)とレーザーピーニ
ング( LP)についてその開発経緯、適用実績が紹介され
た。WJPは炉内に異物を持ち込むことなく.水を満た
したまま施工が可能で、また LPも同様に炉水を満たし
たまま施工対象範囲を正確に照射できる利点ある。国内
外のプラントへの適用実績があり、国内 3プラントメー
カー(日立 GE、東芝 ESS、三菱重工業)の保全遺産共
同認定となった経緯説明が行われた。その後、熱時効に
ついての考え方、三社共同申請時のすり合わせ等につい
て質疑がなされた。
最後に、土橋(東芝 ESS)らより、「保全遺産第3号原

子力設備の検査用水中遊泳ビークル」と題して、 BWR
の炉内構造物における狭隘部の目視検査装置として開発
された経緯が説明された。複数のスラスタと照明、映像
装置を持ち、前後・左右・上下への自由な遊泳を可能と
している。国内外での保全プラントへの適用例があり、
最近は福島第一事故炉内の調査にも使用されている。検
査期間の短縮だけでなく経年化プラントの高度保全にお
おいに寄与している旨の報告がなされた。本遺産は、 2
社(東芝 ESS、日立 GE)の共同認定となった。
【座長:山下裕宣、高木敏行】

[C-2-3] 高速炉・新型炉 
本セッションでは、高速炉・新型炉の保全に関わる6

件の発表があった。
まず笠原(東京大)らより、「設計想定を超える事象に対する構造強度分野からの新しいアプローチ」と題した発表があった。発生頻度が低い、設計想定を超える事象に対しては、発生頻度の更なる低下を目指すよりも、発生した場合の影響緩和性能を高めることがリスクの低減に効果的であり、方策として破壊制御の考え方に基づく新しいアプローチの提案と、その適用例が紹介された。
続いて、出町(東京大)らより、「破壊制御技術によるレジリエンス向上効果のレジリエンス指標を用いた可視化」に関する発表があった。設計想定を超える事態が発生した場合の原子力プラントの対応能力に関する指標として、日本保全学会・保全指標検討会により提案されたレジリエンス指標を適用できるように、上記の破壊制御の考え方に基づくアプローチに沿った改良が検討されており、現状の課題と対応策が説明された。
3件目は、豊田(JAEA)らより、「ナトリウム機器ステンレス鋼溶接部の欠陥数密度評価」と題した発表がなされた。確率論的破壊力学による機器の信頼性評価において重要なパラメータである初期欠陥数密度について、ナトリウム試験用に製作されたタンクを対象に超音波探傷及びマイクロフォーカス X線 CTを用いて分析した結果が報告された。
4件目は、橋立(JAEA)らより、「リスク情報を活用した保全の合理化に向けた定量的なリスク評価の必要性を判定する簡易スクリーニング手法の提案」に関する発表があった。安全上必要となる機能に着目した簡易スクリーニングフロー案の提案と、もんじゅ洗濯設備を対象とした試適用結果が紹介された。
5件目は、鈴木(中京大)らより、「高速炉の運用性分析のための点検工程スケジューリングシステムの開発」に関する研究成果が報告された。オペレーションズ・リサーチの数理的手法を適用することにより、各種制約条件を考慮した最適な点検工程を自動生成できる見通しであり、これにより設計段階においてもプラントの運用性の分析が効率的に実施できるようになると期待されるこ
と等が説明された。
最後に、近藤(JAEA)らより、「革新炉の統合的な設計
評価と最適化に資するナレッジマネジメントシステムの
開発」と題して、 JAEAで進められている革新炉を対象
としたナレッジマネジメントシステムの整備方針が紹介
された。
以上のように、高速炉・新型炉の保全に関する多岐に
渡る発表がなされた。初日の特別講演でも述べられた通
り、将来の原子力のために、高速炉・新型炉の研究開発
は不可欠であり、次回以降も多くの発表と活発な議論が
行われることを期待する。【座長:鈴木正昭、高屋茂】


[C-2-4] 非破壊検査
本セッションでは、非破壊検査に関する発表が 7件
あった。最初に、渡辺(電中研)らにより「 PD資格試験
実施から 15年の実施状況」という題目で発表が行われた。
PD資格試験において使用された技術の割合やそれぞれ
の場合の合格率、試験体の肉厚が大きい程、また測定・
サイジングに時間を掛ける程、サイジング精度が下がる
傾向などが紹介された。
2件目の発表は、三木(日立製作所)らによる「炉内点
検効率化のための超音波による表面亀裂検査技術」であ
り、原子炉圧力容器内の構造物点検に適用される水中カ
メラを用いた目視検査を補助する UT技術について報告
があった。実験室内における性能評価試験の結果、 SCC
に対しても有効な手法であったことが説明された。
3件目の発表は、遊佐(東北大)らによる「高周波超音
波を用いた W-Cu固相接合界面検査技術の検討」であっ
た。核融合炉ダイバータの冷却管接合面を模擬した試
験体を多数製作し、 15~ 50MHzの水浸式超音波を用い
て探傷を行ったところ、接合界面に設けた人為的な径
1mmの剥離を明瞭に検出することが可能であったと報
告された。
4件目の発表は、石井(原燃工)らによる「ケーブル

絶縁材の健全性診断に向けた非破壊検査システム開発(3)」であった。電子線照射による劣化において照射温
度の影響は見られなかったこと、また AE 打音検査装置
を用いたケーブル絶縁材の劣化調査において、打音検査
におけるピーク周波数と破断伸びの間には相関が確認さ
れたことなどが報告された。
5件目の発表は、小川(原燃工)らによる「埋込金物に
対する AE センサを用いた打音検査の効率化に向けた取
組み2」であった。埋込金物の効率的な検査のための自
動打音診断システムを開発し、モックアップを用いた検
証試験を行った結果、振動が 1/10に減衰するまでの時
間(振動持続時間)に基づいてジベルの欠損の有無などの
異常状態を明瞭に検出できることが報告された。
6件目の発表は、藤吉(原燃工)らによる「デジタル打
音検査を用いたコンクリート構造物の診断技術開発」
であった。種々の覆工コンクリートや路面等に対する
フィールドテストの結果が報告され、いずれにおいても、
上記振動持続時間及び周波数分布の様子から劣化が生
じている部位を検出することが可能であったとのことで
あった。
最後の発表は、山本(発電技検)による「垂直 UTによ
る欠陥検出を例にした機械学習結果の解釈技術の調査」
であった。深層学習による垂直 UT受信信号からの欠陥
検出の判断根拠を機械学習の解釈技術である SHAPで
分析した結果、判定基準が可視化できることが示された。
【座長:山本敏弘、遊佐訓孝】

[B-3-1] 再処理①
本セッションでは、再処理施設の保全、保守に加え、
検査装置の開発等に関する最新の動向について 8件の発
表が行われ、活発な質疑応答があった。
田口( JAEA)らは、「東海再処理施設の廃止措置におけ
るプロジェクトマネジメントの取組み」と題して、2018
年に廃止措置に移行した東海再処理施設においては、多
種多様なプロジェクトを同時並行的にかつ限られたリ
ソースで遂行するためのプロジェクトマネジメントが重
要となるが、将来の本格的な廃止措置への移行に向けて、
現在取り組んでいるプロジェクト体制の構築やプロジェ
クト管理のための計画類の整備などの取り組みについて
報告した。
高瀬( JAEA)らは、「東海再処理施設における PRAの
適用と保全計画への活用」と題して、東海再処理施設に
おいては、施設のリスク低減を当面の最優先課題として、


安全性向上対策及び高放射性廃液のガラス固化処理を進
めているが、リスクの集中する HAW及び TVF施設を
対象として、確率論的リスク評価(PRA)を行い、高放射
性廃液貯槽の冷却機能喪失の頻度を評価し、また、安全
上重要な機器を対象として、重要度評価によりリスク情
報を抽出し、保全活動への活用方法を検討したことを報
告した。
青谷( JAEA)らは、「東海再処理施設ガラス固化処理施

設の分析セルに係る設備・機器の保全技術の構築」と題
して、 20年に渡るガラス固化処理施設の分析セルにお
ける設備、機器の運用経験を踏まえ、各設備、機器の保
全方法を体系的に整備することで、汚染、被ばく、負
傷のリスクを低減し、作業労力、時間、コストを最適化
した自主的な保全技術を構築したことから、今回は M/S
マニュプレータなどのセル内設備及び電子天秤などの分
析装置についての取組みを報告した。
鬼澤( JAEA)らは、「東海再処理施設における放射性固

体廃棄物の遠隔観察装置の開発」と題して、東海再処理
施設で今後も貯蔵を継続するアスファルト固化体の健全
性を担保するためには、容器の表面状態の観察を強化し
ていく必要があり、これまで容器の表面観察ができてい
ない範囲に貯蔵されたアスファルト固化体を対象に、効
果的に容器の表面状況の観察が可能な遠隔観察装置の開
発を進めているが、今回はその取組み内容及び開発した
装置によるアスファルト固化体容器の観察結果について
報告した。
【座長:加納洋一、瀬戸信彦】

[B-3-2] 再処理②
後藤( JAEA)らは、「東海再処理施設 動力分電盤内制

御用電源回路の分離による給電系の安全性向上」と題し
て、東海再処理施設の閉じ込め機能を担う排風機のうち、
放射性液体の貯槽系の排風機が、電気設備の定期点検に
おいて一時的に停止した事象について、その原因が 2系
統ある各々の給電系統内の制御回路に対して共通の制御
電源回路から給電していたためであり、電源系統ごとに
制御電源を供給する回路に変更したことで再発防止が図
られ、他施設へ水平展開することにより東海再処理施設
の安全性が向上したことを報告した。
仙(日本原燃)らは、「六ヶ所サイクル施設における施

設管理に関する取り組み」と題して、 2020年 4月の原子
炉等規制法の改正により原子力施設の検査制度が見直さ
れたことについて、六ヶ所サイクル施設において施設ご
とに保安規定の新規制定及び改正対応を行うと共に、保安規定が対象とする保守管理から、これに運転開始前の設計及び工事を加えた施設管理として保安活動を実施していくための取り組みと、包括的な監視・評価を行いフィードバックする仕組みを構築することにより、改善し続ける施設管理活動を実践し「世界最高水準の安全」を目指していく旨を報告した。
東野(日本原燃)らは、「電磁誘導法による肉厚測定技術の開発-加熱ジャケット付き容器への適用-」と題して、再処理施設の加熱ジャケットが設置された二重缶構造容器において厳しい腐食環境下にある内缶の肉厚管理の重要性から電磁誘導法による肉厚測定技術を開発し、測定精度の向上に係る分解能の改善、センサー台座の材料変更、センサー位置決め誤差の低減等の改良により精度向上を実現すると共に、耐放射線性試験等により放射線下での運用について試験を行い、今後、総合的な装置組み合わせ試験を実施した後、実機による測定試験を実施するとの計画を報告した。
石原(ジェイテック)らは、「再処理工場の運転・保守訓練用ハイブリッドコンパクトシミュレータ( J-HySIM)の活用計画と実績」と題して、再処理工場における安全で高品質な運転、保守業務を遂行するため、再処理工場の主要プロセスや電源系統、換気空調系等の重要共通機能を抽出しモデル化したシミュレータを独自に開発し、これを用いた運転員の操作訓練、複合故障を模擬した応用操作訓練、保全員の保守、保全訓練、運転員及び保全員の合同保守訓練等を行うことにより、運転員、保全員の設備機器への理解が促進されると共に、誤った操作、動作及び保守に起因するトラブルの低減、異常時の対応力の向上に繋がり再処理工場の安定操業へ貢献していく旨を報告した。
【座長:竹内謙二、尾形圭司】


[B-3-3] 安全性向上
本セッションでは、安全性向上に関する 5件の発表があった。

1件目は菅(九州電力)らから、「安全性向上評価制度の概要」として、原子炉等規制法の改正により事業者に実施が義務付けられた安全性向上評価制度の概要について紹介があり、原子力発電所の安全性向上には設備・運用面の改善だけではなく、確実な保全活動に基づく設備の健全性維持が重要であるとの報告があった。
2件目は引き続き菅(九州電力)らから、「安全性向上評価届出書の概要について」として、玄海 3号第 1回、川内 1号第 4回安全性向上評価を代表に、確率論的リスク評価(PRA)、及び安全裕度評価(ストレステスト)の結果等の紹介があり、重大事故等対処設備の設置により、 PRAでの炉心損傷頻度、格納容器機能喪失頻度が低下したこと、及び特定重大事故等対処施設の設置による格納容器機能喪失頻度の低下、安全裕度評価の緩和手段が多様化したことが報告された。
3件目は宮﨑(三菱重工業)らから、「国内原子力プラントの継続的な安全性向上に向けた取組み」として、再稼働後の更なる安全性向上に継続的に取組む事業者に対する支援として、安全性向上評価で実施する安全評価手法(PRA、安全裕度評価)の開発・高度化、全交流動力電源喪失時に発生が懸念される 1次冷却材ポンプ軸シール部からの漏洩を防止するためのシャットダウンシールの開発について紹介があった。
今後も重大事故リスクの低減効果等を念頭に置いた対策の提案や開発により国内原子力プラントの安全性向上を強力に支援していくとの報告が行われた。
4件目は西野(JAEA)らから、「東海再処理施設における津波による漂流物の影響評価」として、東海再処理施設において安全上リスクの高い放射性廃液を取扱う高放射性廃液貯蔵場等に対する津波による漂流物対策について、早期の対策を講じるため衛星写真等を用いた事前調査、漂流物を判定するためのスクリーニング判定基準の規格化により調査を効率化でき、令和 3年度から対策工事に着手したことが紹介された。
5件目は相澤( JAEA)らから、「高強度・軽量なアラミド繊維を用いた竜巻飛来物防護ネットの開発」として、屋外に設置された安全施設への竜巻対策で設置される竜巻防護ネットに関し、軽量・高強度な防護ネットの実用化を目指し、アラミド繊維を用いた防護ネットの開発状況について紹介があった。
現在開発中の防護ネットは、最大風速 100m/sの竜巻条件下で防護対策として成立性があることを試験等により確認したことが報告された。
【座長 :三隅英人、菅能久】

[C-3-1] 新検査制度
本セッションでは、原子力施設の検査制度に関係した 3件の研究発表があった。
まず、宮道(中国電力)らによって、島根原子力発電所における工事計画の業務プロセスの見直しと、構成管理情報システム( CMIS)の導入について報告された。発電所で実施されるすべての工事は、内容に応じたパッケージへ分類される。パッケージ毎に工事計画書などの帳票が準備されるとともに、計画の進捗に合わせて必要な会議体が定義されている。 CMISは、Intergraph社の SmartPlantをベースに構築されており、機器情報、設備図書、パッケージ等を紐づけている。また、 CMISを使用して、工事の影響範囲を概算することもできる。 CMIS導入後の構成管理に関する不適合件数は 5 件 /年であり、一定の改善が観測されている。しかし、構成管理が遠因となっている事象がカウントされていない可能性があるので、より良いパフォーマンス指標が検討されている。また、足場設置等の工事は、仮設パッケージを起票して構成管理されているが、足場と安全上重要な機器との干渉可能性が依然として検査で指摘されている。 CMISは機器のタグをハブとしてパッケージ、系統、図書、担当課を紐づける構成となっており、空間的な重畳を陽に考慮する仕組みとなっていないことから、手順等での手当てが必要だと思われると報告された。
次に、杉野らと江藤ら(三菱総研)によって、 2018年 10月からの原子力規制検査の試運用、2019~ 2020年度に 200名を超える規制検査官へ実施された Webアンケート、同期間に 20名の検査官へ匿名を条件に実施されたインタビューの結果が分析され、 2件のシリーズ発表の形で報告された。アンケート結果からは、規制検査官がパフォーマンスベースト、リスクインフォームドといった重要なコンセプトをおおむね理解してきたと感じているものの、実際に、検査官による検査活動の実践程度の把握や検査制度の運用に関しては改善が抽出され、検査

指摘事項とするか否かの判断が求められる場面では難し
さを感じていることが浮き彫りになった。また検査官の
自己研鑽活動への参画は 2020年に増加しているものの、
原子力規制検査業務システムの活用は停滞していること
が示唆された。検査官の能力向上に向けては、アンケー
ト手法の改善や検査活動のCAP、ピアレビュー等の方
法に関する検討状況が紹介された。
【座長:近藤寛子、村上健太】


[C-3-2] 監視診断①
本セッションでは原子力保全における監視診断技術に

関する 4件の研究成果が報告された。
1件目は吉永(旭化成エンジニアリング)による無線

ネットワークと IoTを活用した設備診断システムに関す
る報告である。検査対象装置に常設されたセンサからの
信号が WiFiを通して中央コンピュータに常時送信され
るため、測定者の技量による測定のばらつきや測定者
の作業安全、構造上の測定の困難などが克服でき、さら
に測定周期を短く出来ることで異常兆候の早期発見に繋
がった事例が示された。
2件目は小鯛(東北エンタープライズ)らによる音響を

利用した次世代型保全に関する報告である。ベアリング
の振動信号を超音波診断で測定することにより、ベアリ
ングの状態をオンラインでモニタリングすることが可能
となるとともに潤滑剤の自動給脂も可能となったことが
示された。
3件目は竹内(トライボテックス)らによる新たな油中

金属濃度分析法( SOAP-T)の開発についての報告である。
SOAP法では径の大きな粒子の測定精度が下がることが
課題であったため、試料をフィルタで濾過した濾液と残
渣を測定する SOAP-T法を提案することで、大型粒子も
高い精度で測定を可能であることが示された。
4件目は山田(サーモグラファー)らによる赤外線サー

モグラフィによる設備診断適用事例の報告である。電
気・機械設備の健全度評価は目視や振動計などの機器を
用いて行われていたが、これらの方法では機器を分解し
なければ検査が行えないことが課題であったため、赤外
線サーモグラフィを用いた評価を行い下水処理設備にお
いて検査の有効性が確認された。
【座長:出町和之、三木大輔】

[C-3-3] 監視診断②
本セッションでは、前セッションに引き続き監視診断技術に関連する、4件の研究成果報告が行われた。
まず、佐々木(ジェイテック)らから、再処理工場に設置されている回転機器の種類や特徴を模擬した異常事象模擬訓練装置を用いた状態監視技能向上への取り組みが報告された。回転機器の種類、構成、異常事象発生メカニズム、振動測定、異常事象の振動的特徴などを座学および実習にて習熟するものであり、理解度調査の結果、効果が確認されたことが示された。理解度の底上げやインストラクターの育成など、企業、業界の垣根を超えた活動を計画しているとのことである。
続いて、巡視点検の高度化をテーマとした 2件が報告された。まず、尾崎(東芝 ESS)らより、発電所等の現場における映像管理技術として、巡視点検時に撮影した 360度映像から巡視点検での移動ルートを推定し、映像とともに管理する技術、その映像から 3次元点群データ化する技術、スマートフォン等で撮影した写真から、撮影位置と奥行情報を同時に推定する技術に関して、動作検証の結果が報告された。現場で撮影した映像を建屋レイアウト図や 3次元データ上に自動登録することで管理の効率化できることが示された。続いて、川端(東芝 ESS)らからは、巡視点検の無人化を目的とした、自律走行ロボット、自律飛行ドローンの開発状況が報告された。地図上に計画したポイントに従い移動し、メータなどの映像を取得機能が示された。ドローンについては、前述の 360度映像から位置を推定する技術を用いて、自律飛行できることが示された。ロボットやドローンの運行管理機能がプラットフォーム化されており、各種移動体に対応できるとのことである。
最後に、三木(産業技術研究センター)らから、深層ニューラルネットワーク( DNN)を用いた回転機の振動診断技術が報告された。異常に関するアノテーション付与が困難な時系列データに対して、ある特定の事象が含まれていることが既知であるが、その事象が含まれる位置や程度が未知である弱教師ありデータを用いて、 DNNモデルを学習する手法が示された。画像データに適用される単一クラス認識のための DNNモデルを異常パターンの識別へ応用した学習手法が示された。転がり軸受の公開データセットを用いて異常識別を試み、既往研究より高い識別精度 99.4%が得られたことが報告された。

【座長:米澤和宏、尾崎健司】
[D-3-1] 構造健全性
本セッションでは、「構造健全性」に関して 3 件の発表があった。
先ずは、三橋(東芝 ESS)らから「 BWR 炉内構造物等点検評価ガイドライン炉心シュラウド・シュラウドサポートの改訂方針」について発表があった。これは JANSI(原子力安全推進協会)において長年検討されている炉内構造物に関する点検ガイドラインのうち、 2020年 12月に改訂発行されたもののうちの一部の紹介である。具体的には、安全機能と損傷リスクや運転経験に基づく点検方針の立案、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)への適用、点検周期を定めるために用いる基準地震動の見直しを中心に検討を進め改訂がなされている。なお、各機器への個別点検を定めるガイドラインと一般点検ガイドラインが発行されている。今後も最新知見の反映等の改訂作業が実施され、機器点検評価が実効性あるものとなることを期待したい。
次に、名越(三菱重工業)らから「原子炉容器等クラス 1 容器のベアメタル目視試験ガイドラインの制定について」発表があった。これは JANSI PWR炉内構造物等点検ガイドラインの一つであり、原子力規制委員会「実用発電用原子炉及びその附属施設における破壊を引き起こす亀裂その他の欠陥の解釈」においても、要求されている異材継手部や管台貫通部を対象としてベアメタル目視試験( BMV)の具体的な実施手順を国内で初めて定めたガイドラインである。これは、 2002年に米国で発生した Davis-Besse 原子力発電所上蓋ほう酸腐食事例等を踏まえて、国内において同様の事例が発生しないよう BMVに関する具体的な留意点を纏めている。
最後に、深井(東芝 ESS)らから「 JSME シビアアクシデント時の構造健全性評価ガイドライン( BWR 鉄筋コンクリート製格納容器編)の概要」について発表があった。これは日本機械学会( JSME)発電用原子力設備規格として策定されたものであり、シビアアクシデント(SA)を含む設計基準を超える状態時に原子炉格納容器に要求される耐圧・耐漏えい機能、あるいは放射性物質の閉じ込め機能を評価することを目的としている。具体的には、鉄筋コンクリート製格納容器(RCCV)の想定破損モードと評価対象部位の説明があり、コンクリート部、ライナ部、鋼製耐圧部それぞれの評価手法が示されている。
【座長:渡辺寛之、松澤寛】


[D-3-2] 廃止措置①
本セッションでは、福島第一原子力発電所の廃炉に関連して 6件の発表があった。
1件目の発表では、奥津(東京電力)らから「福島第一原子力発電所1/2号機排気筒解体の挑戦」について発表があった。 2020年 4月に完了した解体作業では、前例のない遠隔操作による作業を実現させるため、解体ツールの開発や解体手順について多くの課題を地元企業とともに克服したことが報告された。
2件目の発表では、中島(東京電力)らから「福島第一原子力発電所3号機 使用済燃料取り出し完了までの道のり」について発表があった。3号機使用済燃料プール内には多くの瓦礫が落下していた。瓦礫の撤去、除染、遮へいから開始し、遠隔操作による燃料取扱設備を設置して燃料取り出し作業が完了するまで多くの歳月を費やし、多くの課題を克服してきたことが報告された。
3件目の発表では、鈴木(東京大)らから「廃棄物管理を考慮した大規模燃料デブリ取り出し工法の提案」について発表があった。燃料デブリ取り出しでは、燃料デブリの安定性維持等の安全面の観点に加えて放射性廃棄物の扱いも考慮する必要があり、ジオポリマーを用いた方法が安全かつ合理的であると説明された。廃棄物処分の基本シナリオからジオポリマーの性能評価、処分場の廃棄体発熱影響に関する検討まで多くの示唆に富む報告があった。
4件目の発表では、坂本(東芝 ESS及び国際廃炉研究開発機構)らから「α汚染遠隔計測における 3 次元空間再構築技術の開発」について発表があった。アルファカメラ等による計測データを3次元点群へ変換し、3次元空間で再構築する技術を開発したことが報告された。
5件目の発表では、大甕(東芝 ESS及び国際廃炉研究


開発機構)らから「α汚染遠隔計測技術現場適用のための
開発」について発表があった。アルファカメラの現場適
用では、α核種の物体内部への浸潤や表面粗さによって
測定感度が異なることが想定されるため、現場の床や壁、
損傷状況を模擬したコンクリートを用いて試験を行った
結果が報告された。
6件目の発表では、入野(東京電力)から「福島第一原

子力発電所廃炉に向けた主要作業プロセス」について発
表があった。政府の中長期ロードマップ等に対して、事
業者自らが多くのステークホルダーに説明するために策
定された廃炉中長期実行プランに関して、改訂されたポ
イントの説明が行われた。
【座長:竹本尚史、鈴木俊一】

[D-3-3] 廃止措置②
福島第一原子力発電所における溶融デブリの温度解析、

廃止措置プラントの第一段階報告など興味深い内容で
あった。オンライン開催のためか出席者からの質疑応答
が少なかったので、次回はもっと活発な議論ができれば
と思う。
1件目は段(東京大)らから「 Numerical investigation of

debris remelting in RPV lower head by a multiphase particle
method」であり、デブリが再溶融する過程を複数の手法
を組合せて解析し、デブリ温度と原子炉圧力容器が損傷
する関係をシミュレーションした。デブリ溶融は解明で
きていないメカニズムもあるため、シミュレーションの
高精度化に向けて最新情報の収集は欠かせない。
2件目は池田(中国電力)らから「島根原子力発電所1

号機 廃止措置の状況」であり、周辺設備の解体工事が報告された。準備を重ねて工事に臨んでおり、いざ工事
が始まって予想外の事態が発生、ということは無かった
旨の報告であった。
3件目は船越( JAEA)らから「高レベル放射性廃棄物

研究施設における耐放射性直管型 LED照明の開発」の発
表がなされた。常陽の照射済燃料を処理する施設用の
LED照明は、従前の水銀照明と比較して3倍以上を達
成し、廃棄物量低減やコスト削減が期待できる。
4件目は小野寺(三菱総研)らから「原子力発電所の安

全かつ合理的な廃止措置に向けた課題の整理と解決方針(案)について」の発表がなされた。複数プラントが同時
に廃止措置という世界でも例がない状況において、パイ
ロットプラント設定の重要性、課題抽出における網羅性
を報告した。
5件目は三谷(中部電力)らから「浜岡原子力発電所1、

2号機の廃止措置工事状況」であり、タンク解体と除染
の工事状況を報告した。解体と除染はプラントによらず
廃止措置での共通工事であり、除染完了の基準や期間に
関する質疑応答が行われた。
【座長:田嶋智子、酒井幹夫】


◆学生セッション、「保全現場からの声」セッション
学生セッション
学生セッション評価委員長 宮口 仁一
日本保全学会学術講演会の学生セッションは、学生諸君と電力、メーカー、研究機関など産業界から選出された評価委員が審査を通じて意見交換をするところに大きな特色があり、大学での研究では聞く機会の少ない現場の問題意識やニーズに直接触れる場を提供することで、今後の研究や卒業後の活躍に役立てて頂くことを期待して実施している。
例年、オーラル発表とポスターセッションの両方での面着による審査を行ってきたが、今回は初の Web開催となったことに加えて、過去最多の 20名の学生に参加頂いたために、限られた時間内で効率的な意見交換行う必要があり、細かな運営要領の準備を進めてきたものである。当日( 7/7)は、朝 8:00~夕方 18:00まで休憩時間も十分にとれない中で 10時間に及ぶ密度の高いセッションとなったが、大きなトラブルもなく無事審査を終了できたことは、ご支援・ご尽力頂いた学会事務局や評価委員の皆様のお陰であり、心より感謝申し上げる次第である。
学生セッション全体の総評としては、以下の 2点を挙げておきたい。
(1)最近の傾向ではあるが、今回も学生のプレゼンテーションのレベルは高かった。今回は Web開催ということで、自宅や大学など慣れ親しんだ環境から手元に原稿をおいて発表することができたという面もあろうが、十分な練習の成果であると評価をしたい。
(2)しかし、毎年問題となっている「現場の問題意識に対する正しい理解」という点については、発表毎でばらつきが大きく、十分な理解の下に自分の言葉で説明ができた発表があった一方で、理解が不十分でしっかりと説明できない発表も見受けられた。従来の対面でクローズな雰囲気でのポスターセッションと異なり、時間的な制約の中 Webで本音の議論するのは難しい面もあったと思われるが、学生との大切な交流の場として、今後も工夫をこらして発展させて行きたい。
評価結果
評価委員による厳正な審査の結果、「最優秀賞」1件、「優秀賞」3件、「プレゼンテーション賞」3件、「独創賞」 4件、「奨励賞」9件の受賞者を以下の通り決定した。
<最優秀賞>( 1件)
「角運動量を保存する粒子法を用いた相変化を伴う高温・高粘性流体の拡散・凝固挙動評価」(東京大 横山諒ら)

学生セッション最優秀賞 横山 諒氏
<優秀賞>( 3件)・「福島第一原子力発電所の燃料デブリ大規模取り出し工法の開発に関する研究」(東京大 横山開ら)
・「Integrating deep learning-based object detection and optical character recognition for automatic extraction of link information from piping and instrumentation diagrams」
(東京大 董飛艶ら)・「核施設における通常の操作からの盗取の識別」(東京
大 横地悠紀ら)<プレゼンテ-ション賞>(3件)・「電磁パルス音響法を用いた鉄筋コンクリートにおけ
る鉄筋腐食の評価」(東北大 周新武ら)
・「IRIDMを活用した原子力複合災害を考慮した事業継
続計画の提案」(長岡技術科学大 荒木浩考ら)・「動的観察手法を用いたイオン照射ステンレス鋼中の

照射欠陥の強度への寄与の研究」(福井大 福井真音ら)<独創賞>(4件)
・「低温 FACによる減肉速度に及ぼす鋼材 Cr含有量と溶存酸素濃度の組合せ影響評価」(東北大 岸拓海ら)・「火力発電プラント配管の破断余寿命診断のデジタルツイン」(大阪府立大 高橋陸ら)・「レベル 3PRAによる立地地域の被ばくリスクプロファイル評価」(長岡技術科学大 山本啓太ら)・「修正コンター法を用いた溶接残留応力分布の測定」
(大阪府立大 加藤拓也ら)<奨励賞>(9件)・「核融合原型炉ブランケット冷却管渦電流探傷試験に
おけるプローブ方式によるきず検出性能比較」(東北大 加子瑞騎ら)・「磁気光学効果を用いた渦電流探傷プローブの開発と評価」(東北大 金井一樹ら)・「内面の粗さと曲率を考慮した電磁超音波共鳴法による配管減肉評価」(東北大 木村周平ら)
・「
Reliability analysis of pipes suffering wall thinning based on extreme value analysis of ultrasonic thickness measurement」(東北大 宋海成ら)

・「原子炉構造レジリエンスの可視化手法」(東京大 桑原悠士ら)・「動的荷重を受ける配管の塑性崩壊に関する基礎的研究」(東京大 長谷川翔ら)・「強化学習を用いた溶接残留応力低減のための溶接順序最適化システムの開発」(大阪府立大 里明起照ら)

・「理想化陽解法
FEMによる円筒多層溶接継手の大規模 3次元残留応力解析」(大阪府立大 手銭永遠ら)

・「
Radiation-Induced Volume Expansion in Concrete Aggregate Minerals Studied by Ion Irradiation and Step Height Measurement」(長岡技術科学大  Muammar Hawary Patrisら)


最優秀賞の「角運動量を保存する粒子法を用いた相変
化を伴う高温・高粘性流体の拡散・凝固挙動評価」は、
溶融コリウムの拡散・凝固挙動の理解のために、フラン
スで実施された VULCANO実験を角運動量を保存する
粒子法( MPFI法)を用いて解析したものであり、現場の
ニーズへのアプローチの仕方が分かり易く説明されてい
た。研究成果としてもコリウム組成の違いによる拡散挙
動の違いを再現できたことから福島第一事故後の溶融コ
リウムの PCV床面での拡散挙動の推定に寄与すること
が期待される。
また、優秀賞(3件)についても、いずれも現場のニー
ズを意識して研究の目的と成果がうまくまとめられた発
表であったことが高評価につながったと思われる。
【座長:直本保、宮口仁一、山下理道、小川雪郎】


「保全現場からの声」セッション
「保全現場からの声」評価委員長 宮野 廣
今回の第 17回の学術講演会において、新たに「保全
現場からの声」のセッションを設けた。本セッションは、
前回の青森での地元からの強い要望で試運用され、今回、
発展的に、保全現場での若手の活躍を発表する場として、
このセッションを設けた。各支部を中心に、 17件にも
上る多くの応募をいただき、半日をかけてプログラムが
進められ、活発に質疑応答があった。
その中で、セッションの評価委員 7名で、数値評価に
基づく厳正な総合評価を行い、優秀者を決めた。最優
秀の植村真紀(六ヶ所エンジニアリング)の発表「女性の
現場進出を助ける取り組み-カプラ接続治具」が選出さ
れた。問題の提起、解決への取り組み、定量的評価、今
後の展開とわかりやすいもので、評価者全員の一致し
たものである。発表の初心者には大いに参考となるものであった。他、優秀者としては、田中勇(日本製鋼所 M&E)、松山祐太(北海道パワーエンンジニアリング)の 2名が選出された。奨励賞には本山将太(中電プラント)、相川亮(東京電力)、宮田篤( NEL)、西橋毅( JAXA)の 4名が選ばれた。

特記事項として、今回、 JAXAから宇宙関係の現場への原子力の保全手法をロケット発射場の保全に適用したはじめての試みの成果を報告したものであった。新たな分野からの参入は大いに歓迎したい。
このように、今回の「保全現場の声」セッションは大きな成果を得ることができた。今後も継続して取り組んでいきたい。[D-2-3] 保全現場からの声①
保全は現場で守られており、その広い裾野を大切にする本学会の立場から、「保全現場からの声」は第 17回学術講演会では正式なプログラムとして実施され、その期待に応えるに十分な内容であった。保全現場からの声①セッションでは 9件の講演があり、以下のその内容を手短に紹介する。
「女川原子力発電所構内急傾斜地における掘削工事等へのセーフティクライマー工法の導入について」熊谷(東北発電工業)らの発表では、発電所の施設整備に際しての急傾斜地の掘削工事に新たにセーフティクライマー工法を適用した事例が紹介された。新たな工法により、安全性、工期短縮などの成果が得られている。また、重機のリモコン操作などの新たな課題も見つかった。
「小集団活動による技術者育成の取組み」関川(青森日揮プランテック)らの発表では、従来から提案されている QCサークルとして小集団活動の紹介があった。経験者と経験の浅い人を組み合わせながら集団を組織して、それと制作した e-ラーニング教材を効果的に用いて、効果的な教育訓練が行われていた。
「冷凍機補修方法の改善」本山(中電プラント)らの発表では、島根原子力発電所のサイトバンカの冷凍機のユニットベースのみの補修に対して、一式交換の提案しか
なく、それに対して自前でユニットベースを補修した事
例が紹介された。自前の補修は、単なる経費削減だけで
なく、保全の知識・技術・技能の向上に加え、仕事に対
する誇りが感じられた。
「自走検査装置によるタンク側板の超音波探傷」田中(日本製鋼所 M&E)らの発表では、タンク側板の超音波
探傷装置の開発について紹介された。マグネット吸着式
車輪を用いてタンク側板を自走する超音波探傷装置は独
創的であり、他分野への波及効果も感じられた。さらな
る改良で、よりスマートな製品化を期待したい。
「電動弁診断の事例蓄積について」植田(中部プラント
サービス)らの発表では、トルク波形の計測から電磁弁
の診断を行い、それに基づいて最適な調整・保守をした
事例が紹介された。多様な形式を持つ電磁弁に対して、
トルク -時間の変化を測定して、リミットスイッチの位
置ずれを検出し調整、摺動抵抗の増加から分解・保守に
つなげている。トルク波形による診断・対策の有効性が
示され、今後の活用にも役立つ成果である。
「志賀事業所応援システム(shika-Ouen-System)の構築」
宮西(北陸プラントサービス)らの発表では、原子力発電
所の工事施工に関し多数ある書類が社内ネッワーク上に
点在し、検索に時間を要していた問題を、システム構築
により解決した事例の紹介があった。業務の品質向上へ
の更なる業務改善が期待できる。
「ホットセル負圧制御用空気圧縮機の更新による運転
保守管理の改善」磯崎ら(JAEA)らの発表では、ホットセ
ルの負圧管理用の空気圧縮機の更新に合わせて、詳細な
運転データ取得ができる機種を選定し、運転保守管理改
善をした報告があった。きめ細かい運転状態監視により
施設の安定運転に良く役立つものになっている。
「換気設備の部分更新によるホットセル負圧機能の維
持管理」鈴木( JAEA)らの発表では、ホットセルの負圧
管理用の換気設備について、計装機器類に経年劣化によ
る故障の危惧に対して、低コスト・短工期での部分更新

「保全現場からの声」最優秀賞 植村真紀氏
を行った報告があった。更新機器の選定には重要度、経過年数、校正結果など良く考えられた指標を用いていた。
「遮蔽ケースを利用した高放射線量下における温度ロガーの活用方法」宮田(原子力エンジニアリング)らの発表では、原子力発電所の高放射線下でのボタン型温度計について、金属遮蔽することで放射線影響を低減させた報告があった。遮蔽ケースの有効性を実験的に確証し、実用性の高い成果が得られている。
【座長 : 鈴木賢治、松田孝司】
[D-2-4] 保全現場からの声②
保全現場からの声のセッションの第 2部では、 8件の発表があった。
最初に、安井( Atom Works)らから、「六ヶ所再処理工場の保全体制強化への取り組み」のテーマで、地元企業としての継続した保全体制の維持と安全上重要な設備の保全業務への参入に向けた新たな取り組みについて発表があった。
続いて、植村(六ヶ所エンジニアリング)らから「女性の現場進出を助ける取り組み~カプラ接続治具~」のテーマで保全現場での女性の身体的負荷を軽減するとともに、性別、年齢、体格、体力差に左右されることのないインクルージョン実現に向けた接続治具の改良の取組みについて紹介があった。
3件目は、西橋(JAXA)らから「種子島宇宙センター大型ロケット打ち上げ射場における電気系設備保全の課題と将来展望」のテーマで電気系設備の経年劣化対策として予防保全に取り組むための課題と今後の活動について紹介があった。
4件目は、傳法(電源開発)らから「工事用電源設備改
善の取組」のテーマで、工事用電源設備の地上化による
強風や塩害の影響をうける地域における信頼性の強化と
保守性の向上への取組みについて報告があった。
5件目は松山(北海道パワーエンジニアリング)らから「泊発電所構内歩行者照明設備設置における費用削減の
工夫」のテーマで、歩行者用移動式照明設備の自主設計
により、構内配置の変化に応じた移設、撤去が容易にな
るとともに、コストダウンの成果について発表があった。
6件目は、西谷(四電エンジニアリング)らから「伊方
発電所、回転機器健全性向上を図るための潤滑油管理の
取組みについて」のテーマで、潤滑油管理の改善による
保全技術向上への取組について紹介があった。  
7件目は、疇地(中部プラントサービス)らから「浜岡
原子力発電所1、2号機 廃止措置の現状」のテーマで、
浜岡原子力発電所における廃止措置活動の現状と今後の
課題について報告があった。
最後に、相川(東京電力 HD)から「竪型ポンプ点検の
効率化」のテーマで大型竪型ポンプの点検作業における
直営作業の効率化と安全性向上に向けた治具の改善活動
について発表があった。
今回オンラインとして初めて保全現場の声を実施した。
通信が切れるなどのトラブルも発生したが、発表の順番
を入れ替えるなどの臨機の対応を取ることにより大きな
遅れもなく全員の発表を終えることができた。各社の発
表が参考となり、全国の保全現場へ活用されることを期
待したい。  【座長 : 中村隆夫、三村秀行】

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