解説記事「連続運転可能な微小差圧吸気型 火山灰除去装置の開発」

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微小差圧吸気型火連続運転可能な山灰除去装置の開発


北海道電力株式会社 砂川雅志 Masashi SUNAGAWA HKテクノロジー株式会社 高木祐 Hiroshi TAKAGI東北大学 庄子哲雄 Tetsuo SHOJI


1.はじめに
平成 25年 7月に福島第一原子力発電所の事故の教訓や世界の最新知見を踏まえて原子力規制委員会が策定した「新規制基準」が施行された。原子力発電所の再稼働にあたっては、「新規制基準」に従って、テロ対策、過酷事故対策、耐震・耐津波性能の強化、自然現象に対する考慮の新設、電源の信頼性の強化等、幾重にも安全性を確保、維持するためのハードとソフトの対策が要求されている。その対策のひとつが近隣火山の噴火が発生した場合においても炉心の著しい損傷を防止する準備である。泊発電所においては、火山現象時においても炉心損傷防止に必要となる電力供給を安定的にできるよう外気の取入れが必須である大容量の電源設備に対して火山灰除去が可能か検討してきた。本解説では、これまで筆者らが検討してきた省人化に向けた連続運転可能な火山灰除去装置の概念設計および原型試験装置の開発と成果について紹介する。
2.火山現象に対する要求事項
実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則 [1]の第八十三条1号ロにおいて、火山現象による影響への対策について要求事項が示されている。表1にその抜粋を示す。
表1 要求事項抜粋


また、原子力発電所の火山影響評価ガイド [2]において、気中降下火砕物濃度が新たに定義され、気中降下火砕物濃度の推定手法とその計算方法が示されている。ここで気中降下火砕物濃度は、火山影響評価ガイドに規定された降灰継続時間を仮定して降灰量から推定する手法により算出されるものである。具体的には、原子力発電所の敷地において運用期間中に想定される降下火砕物がある期間(降灰継続時間)に堆積したと仮定して、降下火砕物の粒径の割合から求める粒径ごとの堆積速度と、粒径ごとの終端速度から算出される粒径ごとの気中濃度の総和を気中降下火砕物濃度として求め、火山現象による影響評価に供する。また、降灰継続時間については、原子力発電所敷地での降灰継続時間を合理的に説明できない場合は、降灰継続時間を 24 時間とすることが求められている。
火山現象時に対策が必要となる設備は、幾つか想定されるが、本解説では、外部電源喪失時または全交流電源喪失時においても炉心の著しい損傷を防止するために必要となる非常用電源の主力設備の一つであり、運転時は大量の大気の吸い込みが不可避である大型ディーゼル発電機を対象とした。火山現象時に対策が必要となる他の設備についても基本的には同様な除去装置の展開が可能と考えて良い。
火山現象による影響としては、高濃度の火山灰を含む大量の大気吸い込みによる吸気フィルターの目詰まりによる発電機の動作不良が想定され、非常用電源の喪失に至るリスクを有する。従って、このような状況に適切に対応できる火山灰除去装置の設置が不可欠であり、そのような非常事態を想定すれば、可能な限り省人化を図り、必要とされる時間、連続的に運転が可能であることが望まれる。また、火山現象時には外部電源を期待しないことから、装置動作の駆動力としては、電源を必要とせずにディーゼルエンジンの吸気力を利用することとした。また、吸気力に影響を及ぼしてディーゼルエンジン本来の性能に影響を及ぼすことの無いように、駆動差圧は、出来るだけ小さいことが望まれる。このような環境条件の下で安定に動作する装置として具備すべき性能を表現したものが、「連続運転可能な微小差圧吸気型火山灰除去装置」である。

3.火山灰対策設備の基本構想
「連続運転可能な微小差圧吸気型火山灰除去装置」において具備すべき性能要件についてはすでに概説したが、多くの要件を高い信頼性を持って満足できる装置として幾つかの既存技術がある。ここでは流通形式として重力集塵、遠心力集塵および電気集塵と、障害物形式として慣性力集塵、洗浄集塵、エアフィルターおよび粒子充填層と、そして隔壁形式としてバグフィルターおよびセラミックフィルターについて、性能要件の達成可能性を検討した。その結果、小さな圧力損失で比較的大きな粒子を除去できるルーバー型の慣性力集塵装置と、液面制御により圧力損失が制御でき、目詰まりの無い洗浄集塵装置(以下、管群スクラバーという)の併用を基本概念とした装置構成を構想し、検討を進めた。具体的には以下の通りである。
今回の要求性能では、大量の大気と大気に含まれる多量の火山灰を処理する必要がある。管群スクラバーは、分離・回収した火山灰を管群スクラバー内部の液体に堆積させる方式であるため、大量の火山灰を長時間にわたって処理した場合には管群スクラバー内部に大量の火山灰が蓄積し、液面の変動をもたらすこととなる。あるいは大きな貯留水槽が必要となり、既存発電設備への付設に制約が生ずる。このような状況を回避するために、管群スクラバー前段に先述の慣性衝突を利用したルーバー型の前置セパレーターを設置した。具体的な検討を進めるにあたって、最終的な実用化を見越した設計要件を設定し、単一要素試験により動作並びに火山灰除去性能の予備的検討を経て、原型試験装置並びに実用化の可能性の目途を得るための大流量実証試験装置の製作と性能評価を行うこととした。単一要素試験の模式図を図 1に示す。


単一の管先端が所定の深さの液面下に位置づけられ、水面側から吸気減圧された管内空気が水溶液内にて発泡し、空気と水溶液の混合が行われ、空気側に含まれる火山灰を想定した無機粒子群が水側に移行する仕組みとなっている。また、前置セパレーターと管群スクラバーの組み合わせによる基本構成図を図 2に示す。以降の装置設計および製作に当たっては、この基本構成を維持することとした。

図2 2段式火山灰除去装置の基本構成

火山灰対策設備の設計要件について表 2に示す。気中降下火砕物濃度、粒径分布、降灰継続時間、電源設備の吸気量、許容吸気圧力損失、火山灰除去率、省人化等に係る要件が示されている。表 2に示されている設計要件を満たす装置の開発は段階的に進められるが、図 1および図 2に示した基本構想 /基本構成に基づく中間的性能を目指した原型試験装置の設計と、製作並びに設計要件を満足する大流量実用化適正試験装置の設計と製作とを行うこととなっており、本解説では、前者について、装置の概要とその性能について述べる。
表2 火山灰対策設備の実用化検討設計要件


4.基本構想に基づいた  原型試験装置の製作と評価
4.1 原型試験装置の構成
設計・試作した原型試験装置の概略図並びに実際の装置の外観を図 3および図 4に示す。図 3は平面図と側面
図1 管群スクラバーの基本要素と原理図であり、セパレーターおよび管群スクラバーの位置関
係と空気の流れも併せて示している。現地における付設を想定し、装置としての長さ、幅および高さが考慮されており、長さを制限するために空気の入りと出の方向が反転している。
主要な設計パラメータである吸気流量は、吸引ファンの選択により最大 2,000 m3/h程度まで可能であるが、ここでは 1,500 m3/h程度で、後述の種々の性能要件達成度を確認するための試験を行った。

図3 原型試験装置の概略図


図4 原型試験装置の外観
4.2 捕集率評価試験粉体の検討(模擬火山灰)
火山灰(粉体)捕集性を評価するに当たっては、大量

の試験粉体を使用するため、実火山灰の大量入手、粒径分布の調整等に工期および費用が高額になることなどから、代替模擬火山灰として粒度分布が知られている市販の硅砂を採用し、実火山灰とともに評価用小型管群スクラバーを製作し捕集性確認試験に供した。それぞれの粉体の捕集性比較を行い、模擬火山灰使用の妥当性もしくは保守性を検討した。比重、粒度分布ともに実火山灰よりも小さい硅砂6号と実火山灰との比較試験結果は、同じ流量条件においてミニチュア管群スクラバーにそれぞれ 1,000 gの粉体を投入した実火山灰の捕集率は 99.99%(0.1 g未満未捕集)であるのに対して、硅砂の捕集率は 99.82%(1.8 g未捕集)となり、硅砂 6号の方が捕集率が低く、厳しい結果となった。この結果を踏まえ、以降の試験においては、捕集率を厳しく評価できる硅砂6号
を試験粉体とした。


4.3 原型試験装置の性能評価
原型試験装置の性能評価を行うため、模擬火山灰を用いて流量 1,500 m3/hにおいて 6時間の試験を実施した。性能評価に必要な各諸量の計測を行った。図 5に、圧力、温度、湿度並びに流速測定位置を示す。


図5 原型試験装置と性能評価のための諸量測定位置
6時間の連続運転による粉体除去性能の評価条件は以下の通りである。投入粉体量は、吸気中の粉体濃度を想定粉体濃度値の 3.74 g/m3の 2倍の 7.48 g/m3とし、流量と時間より算出し 67.32 kgとした。粉体捕集率は、バックアップフィルターの試験前後の質量増加量と投入粉体量より、次式によって算出した。なお、バックアップフィルターは、粒子径 0.3 μmで 99.99%の捕集率が得られるものを使用した。

捕集率(%)= 1 . (フィルター増加質量÷投入粉体量)

性能評価の結果を表 3に示す。 2回の 6時間連続運転により得られた捕集率はともに 99.99%以上の性能を示しており、高い粉体除去効率を示した。
表3 6時間連続運転による粉体捕集率の結果


次に原型試験装置の空気の流れに伴う圧力損失について評価した。図5に示した各圧力測定点での圧力を流れの流路とともに示したものが図6である。セパレーター吸気口の吸気圧力を基準に、流路に沿った吸気圧力を示しており、フィルター部までの流路距離 4 mでの圧力損失は 500 Pa以下であり、設備側の差圧の要件を満足したデータを示した。

図6 流路に沿った圧力損失

管群スクラバーにおける激しい気液混合により、下流側の湿度変化が想定される。図 7に湿度の経時変化について調査した結果を示す。
7時間の連続運転中でも湿度はほぼ変わらず 50~ 60%で安定的に推移した。上記の試験結果により、本原型試験装置は、要求性能を満足することが示されたが、粉体捕集の中身を吟味するために、セパレーター部と管群スクラバー部において捕集された粉体の採取と粒子径分布測定を行った。粉体採取位置は、 1段目セパレーター粉体回収部、 2段目セパレーター粉体回収部および管群スクラバー液中底部の 3か所であり、各々で採取された紛体を試料①、②および③とする。採取位置を図 8に示す。
粒度分布は、レーザー回折 /散乱式粒子径分布測定装置( LA-950V2 堀場製作所製)により測定した。その測定結果として、粒度分布のメジアン径を表 4に、粒度分

図7 管群スクラバー下流湿度の経時変化

図8 粒子の採取位置表4 捕集した各紛体試料の粒度分布のメジアン径


布および光学顕微鏡像を図 9に示す。慣性衝突による捕集部には、 0.5 mm程度の粒径の大きな粒子が、そして管群スクラバー部には、より細粒の粒子が捕集されていることが明らかであった。

4.4 長時間安定稼働性能評価4.4.1管群スクラバーの粉体堆積環境での性能確認
24時間運転により、管群スクラバー内部に火山灰が堆積したことを想定し、原型試験装置の管群スクラバー内部に事前に粉体を入れた状態での捕集率の確認試験を実施した。試験条件は、吸気流量これまでと同じく 1,500 m3/hであるが、試験時間は 10分、セパレーターの捕集率を 90%と想定し、24時間の稼働により管群スクラバー部に相応の粉体が堆積した状態での管群スクラバーの捕集率を評価した。また、セパレーターで捕集できない細粒径粉体を想定し、ここでは硅砂 6号ではなく硅石紛特粉を用いた。投入粉体量は 500gである。得られた結果を表 5に示す。

表5 長期運転後の管群スクラバー捕集率

管群スクラバー内部に保守的に大量の粉体が堆積した
状態を想定した条件下においても十分な粒子捕集性能を有することが確認された。


4.4.2 低温環境下における動作確認
冬季の特殊な状況として冬季設計外気温度である -19℃環境下においても管群スクラバー液が凍結することなく長時間安定に作動することも要求性能の一つとなる。小型管群スクラバーを製作したうえで、環境等への影響も考慮し 28.6 wt%塩化カルシウム水溶液を動作流体とした -19℃の低温室における安定稼働性能評価試験を行った。図 10に試験装置を示す。

図10 -19℃における管群スクラバー動作試験
はじめに、動作確認のため、外気温度、管外表面温度および水溶液の温度測定を行った。得られた結果を図 11および図 12に示す。図 11は、-19℃の大気を吸気して作動している小型管群スクラバーの動作状態を示す写真である。塩化カルシウム水溶液中に吸気された空気が
管先端で激しく発泡している様子が分かる。
図9 捕集した各紛体試料の粒度分布および光学顕微鏡写真
図 12に、その時の周囲温度、管外表面温度並びに塩化カルシウム水溶液温度の経時変化を示す。試験は周囲温度とスクラバー液が同一温度となるまで継続し、試験開始後、約 45分で周囲温度とスクラバー液温が等しくなったが、スクラバー液は凍結することなく、作動を継

図11 -19℃における小型管群スクラバーの作動状況


図12 -19℃外気環境下における小型管群スクラバーの動作中の管外表面温度並びに水溶液温度の経時変化

続し、低温環境下においても正常に動作することが確認
されている。

4.4.3 管群スクラバー内部溶液揮発量の確認

管群スクラバーは、大気中粉体の除去のために作動に伴い激しく気液混合が生じる。それに伴い湿分や飛沫として管群スクラバー液が減少する。長時間安定稼働性能評価試験の一環として、小型管群スクラバー試験装置を作製し、揮発量データを取得し、補充の必要性とその対応策の検討を行った。管群スクラバー液は、低温環境に対応できることが既知の塩化カルシウム水溶液とし、動作時間とともに揮発量を計測・評価した。図 13に (a)小型管群スクラバーの概略図および (b)一部拡大図をそれぞれ示す。
得られた結果を図 14に示す。揮発量の評価においては、ノズル先端がスクラバー液に浸漬していることが必須であり、今回の評価においては、管群スクラバー先端の浸漬深さがノズル先端から 10 mmを下回るまでの時間を
図 13 (a)小型管群スクラバーの概略図および b)一部拡大図

試験時間とした。試験結果に基づく試算では、 178分後にノズル先端の浸漬深さが 10 mmを下回ることが明らかとなった。ここで、性能評価用に使用している装置においては、スクラバー液の飛沫等をシステムの流路内において捕捉し、還流させることが出来るため、この時間は極めて保守的な時間と考えて良いが、長時間運転の場合には液面制御の必要性が確認されており、その対策の具体化が必要である。

図14 動作時間に伴う単位面積当たりの揮発量の増加

5. おわりに
1)セパレーターと管群スクラバーの2段階プロセスを用いた原型試験設備を用いた性能評価試験により、吸気流量 1,500 m3/hで 6時間の連続運転において 99.9%以上の捕集率が得られた。また、圧力損失は 500 Pa程度と低圧損であり、湿度も 50~ 60%で安
定していることが確認された。
2)管群スクラバーの 24時間運転を想定した性能評価試験により、スクラバー液内に大量に堆積した条件下においても捕集性能が維持できることが確認された。また、 -19℃の低温環境下においても塩化カルシウム水溶液がスクラバー液として凍結せずに作動することが確認された。さらに、長期運転時の動作液のおおよその揮発量についても確認された。
3)1)および2)の成果を踏まえ、実用化の目途が得られており、次の段階として火山灰対策設備の設計要件を満足する大流量実用化適正試験装置を設計・製作し、性能評価を実施している。今後、 24時間運転における実証を進めるとともに、運転中に必要となるスクラバーの液面制御およびセパレーターからの除灰機能について検討を進め、実用化段階への展開が可能になるまでの開発を進めていく。
謝辞本解説は、日本保全学会第 17回学術講演会の予稿集
を基に執筆した。予稿集の作成に尽力頂いた関係者の皆
様へ深く感謝します。

参考文献
[1] 実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=353M5000040 0077
[2] 原子力発電所の火山影響評価ガイド pp.28-31. https://www.nsr.go.jp/data/000294814.pdf

[3] 金岡千嘉男,牧野尚夫著:"はじめての集塵技術基礎

から応用まで",日刊工業新聞社,p.40 (2013)(2021年 8月 5日)
著者紹介 

著者:砂川雅志所属:北海道電力株式会社専門分野:機械工学
著者:高木祐所属:HKテクノロジー株式会社専門分野:機械工学
著者:庄子哲雄所属:東北大学専門分野:材料強度学、腐食科学、機械工学

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