解説記事「JRR-3の運転再開に向けた取り組みとこれからの展望」

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カテゴリ: 解説記事


JRR-3の運転再開に向けた取り組みとこれからの展望
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所
細谷 俊明 Toshiaki HOSOYA
1.はじめに
JRR-3は平成 23年 3月の東北地方太平洋沖地震後新規制基準に対応すべく許認可等を日本原子力研究開発機構原子力科学研究所が一丸となって行い、令和 3年 2月 26日に運転再開した。
JRR-3は昭和 37年に我が国初の国産研究炉として臨界に達した後、原子力の黎明期を支える多くの研究に広く研究されてきた。その後、性能向上を目指した大規模な改造を行い、平成 2年、出力 20MWの高性能汎用研究炉として利用運転を再開し、種々の中性子ビーム実験、原子力燃料材料の照射試験、ラジオアイソトープや半導体の製造、冷中性子を用いた高分子構造の解析による生
命現象の解明などに用いられてきた。

平成 23年 3月に発生した福島第一原子力発電所事故(以下「 1F事故」という。)を受け、国は試験研究炉に対し、大規模な自然災害や多量の放射性物質等を放出する事故
(以下「 BDBA」という。)に対する対策等を義務付ける新規制基準を平成 25年 12月に策定し、既存の試験研究炉にも新規制基準を適用することとした。
JRR-3は平成 22年 11月までの運転を終え、施設定期検査期間に入っており、東北地方太平洋沖地震の影響に対する健全性確認点検と新規制基準への適合性確認のた
め 10年以上原子炉の停止状態が続いた。この約 10年間の間には、 JRR-3は平成 30年 11月に原子炉設置変更許可を取得し、設備等の設計・工事に係る審査を受審後、必要な耐震工事等を行い、適宜検査を受検、令和 3年 2月に新規制基準への適合性確認が完了し、運転再開を果たした。
ここでは、 JRR-3の運転再開に向けた新規制基準対応のための取り組みと、今後の JRR-3を用いた研究開発の展望を述べる。

図1 JRR-3原子炉建家内

図2 JRR-3定格出力運転中の炉心
2.新規制基準対応への取り組み

2.1 新規制基準で求められるもの
新規制基準は原子力規制委員会が 1F事故の教訓を踏まえて策定した原子力施設の設置許可基準であり、発電炉用の基準が平成 25年 7月に施行されたのに続き、研究炉用は同年 12月に施行となった。新規制基準では、最新の知見を踏まえて、従来の地震や津波の想定を見直し基準が強化されるとともに、竜巻や火山、森林火災などの自然現象に対する防護対策についても新たに要求されることとなった。また、設計基準事故想定を超える事故への対策として BDBAの発生防止や発生した場合の影響緩和等の対策も追加された。

図4 原子炉建家屋根の補強工事

これらの新たな要求に適合していることを示すため、 JRR-3は平成 26年 9月 26日に設置変更許可を申請し、その後、原子力規制庁において約 50回の公開審査会合が実施、審査内容を踏まえて 6回の補正申請を行い、平成 30年 11月 7日の原子力規制委員会で審議された後許可を取得した。

2.2 地震対策
原子力施設の耐震性については建物や設備の重要度に応じて S、B、Cの 3段階にクラス分けをしており、 JRR-3では炉心の燃料、制御棒などの炉心構造物やこれらを格納している原子炉プールが最も重要度の高い Sクラスに位置している。最新の知見を踏まえて新たに策定された Sクラスに要求される基準地震動の最大加速度は従来のものに比べて約 2.5倍になったため、これを用いて Sクラス設備の耐震評価を実施し、十分な耐震性を有している結果を得た。しかしながら、これらの設備を内包している原子炉建家及び隣接する周辺建家(燃料管理施設、実験利用棟、排気筒など)については Sクラスの地震力に対する耐震性が不十分であり、これらが損傷した場合に Sクラス機器の安全性に影響が波及する可能性があるため、これらの建家については耐震補強工事を実施し、十分な耐力を有する設計とした。
原子炉建家については屋根部材が落下し原子炉プール等の Sクラス設備を損傷させる可能性があるため、屋根の掛け替えを実施し、また、周辺建家等については地下基礎の改良、排気筒には支持鉄塔の設置を実施した。これらの耐震補強工事は平成 29年度から設計を開始し、平成 31年 4月に着工、令和 3年 1月に完了した。

2.3 自然現象対策
自然現象のうち、火山については JRR-3が設置されている茨城県東海村の原子力科学研究所を中心とする半径 160 kmの範囲のうち完新世の活動の有無、将来の活動可能性の検討を行い、施設に影響を及ぼし得る火山として那須岳、赤城山等 13火山を抽出し評価した結果、これらの火山に対して考慮すべきは降下火砕物(火山灰)のみであり、またその量は極微量であることから、火山による被害を受けるおそれはないと判断した。万が一の場合の対策として、噴火により敷地への降灰の可能性が示唆された場合には原子炉を停止することを規定化し、さらに降灰があった場合に除灰作業が効率的に実施できるように、原子炉建家の屋根に歩廊を設置する等火山対策を実施した。
竜巻については JRR-3敷地から半径 20 kmの範囲で過去に発生した最大の竜巻(最大風速 49 m/s)及びその随伴事象(電源喪失等)の発生を考慮しても施設の安全機能を喪失しないよう、施設の周辺に設置している設備等の飛散防止対策を実施すること、また、竜巻の接近のおそれがある場合には原子炉を停止することを規定化した。

図5 原子炉建家屋根の歩廊の設置

森林火災については、敷地周辺の森林において火災が発生した場合でも JRR-3の安全機能を有する設備を内包する建家の表面温度が、コンクリートの許容温度である 200℃以下であり、施設の安全性に影響が無いことを確認し、今後森林の範囲が拡大しないように草木の管理を実施することを規定化した。


2.4 BDBA対策
BDBAとは、従来の基準でも要求があった設計基準事故よりも発生頻度は低いが、敷地周辺の一般公衆に対して過度の放射線被ばく(実効線量の評価値が発生事故当たり 5 mSvを超えるもの)を与えるおそれがある事故であり、新規制基準では耐震 Sクラスの施設を有する試験研究炉に対して BDBAにかかる評価を行い、発生防止や影響緩和等の対策の整備を要求している。
JRR-3では原子炉の停止機能として、フェールセーフ設計である制御棒挿入と重水ダンプを有しているが、さらにこれら全ての停止機能が喪失した場合の対策として、炉心が設置されている原子炉プールにホウ酸を投入することにより原子炉を停止することとし、これらに必要な資材を整備した。
また、 JRR-3は原子炉プールの冠水が維持されていれば燃料の熱的破損が発生しない設計であるため、冠水維持機能として独立した 2系統のサイフォンブレーク弁を設置しているが、これらの冠水維持機能を全て喪失した場合の対策として、原子炉建家内外の水源から原子炉プールに給水するための設備(電源設備含む)を設置した。
これらの BDBA対策については、対応要領を整備するとともに、 JRR-3の運転要員に対して定期的に教育訓練を実施し、力量の維持向上に努めている。
これら以外にも 1F事故の反省を踏まえ、基準地震動を大きく超える地震や航空機テロ等に起因する大規模損壊事象(原子炉プールや炉心の損壊)を考慮し、屋外消火設備や消防車の放水による放射性物質の放散抑制対策についても規定化するとともに、教育訓練を実施している。

図6 BDBA対策の整備
3.運転再開への準備

3.1 運転員の力量確保
長期停止中の大きな課題の一つは、運転員の力量の確保である。この 10年のうちに世代交代が進み、約半数の運転員が運転経験のない者になった。 JRR-3では設備機器の保守・メンテナンス等も運転員が担当しており、各設備機器の取扱いについては停止中の保守管理の経験を通して力量の確保に努めているが、原子炉の起動、運転中の監視・制御、停止といった運転操作については、通常業務だけでは力量の確保が困難である。
このため、 JRR-3ではシミュレータを用いた訓練や原子炉の冷却を伴わない冷却系の連続運転による訓練を実施し、運転員の力量確保に努めてきた。特にシミュレータの訓練においては、 JRR-3の特性を模擬し原子炉の軌道から停止まで操作可能なシステムを作成した。また、異常時の対応として事故を想定した要素訓練や総合防災訓練などの教育訓練を実施し、運転員の力量維持向上に努めてきた。

図7 総合防災訓練の様子


3.2 運転再開後を見据えた高経年化対策
JRR-3は大規模な改造工事後から約 30年が経過し、特に原子炉建家と排気筒は設置後 50年以上が経過しており、運転再開後の安全安定運転には適切な高経年化対策の実施が不可欠であった。原子炉建家・排気筒については平成 25年にコンクリート劣化の進展に関する調査を実施した結果、コンクリートの中性化や塩分浸透といった劣化について大きな進展はなく、今後も塗装や調査を適宜実施していくことで、長期の使用ができると判断した。
また、制御棒駆動装置や安全保護系制御盤電源ユニット、無停電電源装置の更新、1次冷却材熱交換器の解放点検といった原子炉の長期の停止を伴う安全重要度の高い設備機器の高経年化対策を計画的に実施し、運転再開に向けて準備を進めてきた。

力量確保も含めこれらの取組の成果として、令和 3年 2月以降の運転において大きなトラブルもなく、安定した施設供用運転を継続している。
4.JRR-3の今後の展望

4.1 JRR-3を使ってできること
核分裂反応で生成される中性子を用いた JRR-3での利用には、大きく分けて中性子照射利用と中性子ビーム利用がある。
中性子照射利用とは、原子炉内に設置されている照射筒に物質を装荷し、原子炉内で発生する大強度の中性子を物質に照射することにより発生する核反応を利用することで、ラジオアイソトープ製造や放射化分析による元素分析に利用される。
一方の中性子ビーム利用では、炉内中性子を直接あるいは減速材を用いてエネルギーを減速させた後に、ある方向に取り出した中性子ビームを利用し、構造物の内部構造を透過像撮影する中性子ラジオグラフィや物質のミクロな構造を解明する中性子散乱実験等が行われる。

図8 JRR-3実験利用棟ビームホール


4.2 がん治療後の QOL向上への貢献
中性子照射利用の分野において注目されるのは医療用 RIの製造である。医療分野では Au-198グレインが低線量率密封線源として供給されており、口の中やのどの入り口にできる癌腫瘍に対して、 Au-198グレインを患部に埋め込み腫瘍を消し去る放射線治療が可能となる。これにより外科手術が不要となり、身体の機能と形態をできる限り損なわず、治療後の QOL(Quality of Life)の大幅な向上が望める。長期停止中は海外炉での製造に依存していたが、停止前の JRR-3では Au-198グレインを年間 1800個出荷していた実績があり、 JRR-3の運転再開により医療界から望まれる安定供給に寄与することができる。
今後は、核医学検査薬( SPECT検査)として世界で最も需要がある Mo-99についても照射試験を実施し、照射手法の確立や国内安定供給に向けた実行可能性について検討を進めていく。

図9 Au-198グレイン


4.3 中性子ビームを用いた産業利用
X線を用いればレントゲン撮影のように体の中の骨などの組織の様子が観察できるが、金属を透過することは困難である。一方、中性子は金属を透過する能力に優れている。この特性を用いたのが中性子ラジオグラフィによる内部構造観察である。中性子は水素等の軽い元素については透過力が低いため観察に適しており、例えば自動車のエンジン内のオイルの挙動を観察することができ、摩擦損失を低減する設計を取り入れることで自動車の燃費向上に貢献することができる。
また、中性子ビームを材料に当てて、中性子回析により材料深部の原子間距離を測定することにより、材料内部の応力・ひずみ状態を非破壊・非接触で測定することができる。この手法は中性子残留応力測定を呼ばれている。JRR-3の実験装置では広い測定スペースを利用することができ、試験片レベルではなく実機により近い条件下での応力状態を解明し、原子力プラント構造物や自動車・重機関連部品の信頼性・安全性向上、更には国土強靭化や持続可能社会の貢献に寄与している。

4.4 広がる利用ニーズ
JRR-3は定常中性子源として、原子力機構内の利用にとどまらず、大学をはじめとする外部利用も含め、徐々に利用者が増加し、長期停止前の平成 22年度には年間延べ利用者数で 20,000人・日以上にも及ぶ研究者の方に利用されるに至っていた。
特に産業利用は平成 15年より増えはじめ、長期停止直前には 300日に及ぶが、平成 18年度の原子力機構の設立後に制度化された施設供用利用制度の整備並びに文部科学省の委託で一般財団法人放射線利用振興協会が実施した中性子利用技術移転推進プログラム、平成 21年度から同じく文科省の共用促進事業などの産業利用促進のための施策を受けて、平成 18年度以降、産業利用課題の顕著な増加があった。
長期停止中には学術界及び産業界から、 JRR-3の早期運転再開に係る要望書を多く頂いた。令和 3年 2月からの調整運転を経て 7月に施設供用運転を再開して 4か月経過した現在、 JRR-3の実験利用施設は徐々に長期停止前の賑わいを取り戻しつつある。
令和 2年に日本原子力研究開発機構では新しい原子力
の考え方について、JAEA 2050+にまとめて公開している。この中で、 JRR-3や J-PARCの中性子実験施設は他の科学技術分野と協働・融合して未来社会の創造を実現する基盤として位置づけられている。そのため、運転再開後は J-PARCやスーパーコンピューターとも連携して非常に幅広い分野において JRR-3から成果が創生されることを強く望んでいる。


5. おわりに
JRR-3の運転再開に向けた取り組みの現状と今後の利用について解説してきた。新規制基準対応には多くの時間を要し苦労も多々あったが、これに従事してきた職員にとっては JRR-3の設計思想を再認識する良い機会であった。
JRR-3の運転再開により、日本原子力研究開発機構原子力科学研究所には定常中性子源としての JRR-3及びパルス中性子源 J-PARCの両雄が並び立つ「中性子利用


図10 JRR-3のビーム利用の推移
のメッカ」が誕生した。今後は、両施設の特徴を生かし、学術利用から産業利用に渡る幅広い利用ニーズに応えながら、イノベーション創出の場として JRR-3の安全安定運転に尽力していきたい。
(2021年 11月 17日)

図11 運転再開を記念して

著者紹介 

著者:細谷 俊明所属:日本原子力研究開発機構    原子力科学研究所専門分野:原子炉物理学

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