解説記事「新たな試験研究炉を活用した地域振興戦略~立地自治体の視点から~」
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新たな試験研究炉を活用した地域振興戦略~立地自治体の視点から~
福井県庁地域戦略部電源地域振興課嶺南Eコースト計画室
浅原 章 Akira ASAHARA
1.はじめに
2016年 12月、高速増殖炉原型炉もんじゅ(以下、「もんじゅ」という)が廃止措置に移行することが決定して以降、国家プロジェクトとして「もんじゅ」サイトを活用した新たな試験研究炉の整備が進められている。2020年 9月、今後概念設計を進めるべき炉型として「中出力炉」がふさわしいとする方針が示され、同年 11月には、日本原子力研究開発機構(以下、「JAEA」という)、京都大学及び福井大学の 3主体が中核的機関として選定され、概念設計を開始した。まさに今、どのような炉を整備するのかについて活発な議論がなされているところである。
他方、この新たな試験研究炉に対しては、立地地域も大きな期待を寄せている。もんじゅを含め、計 15基の原子力発電所が立地する福井県では、 2020年 3月、新たな地域振興戦略を取りまとめた「嶺南 Eコースト計画」を策定し、新たな試験研究炉の利活用に向けた施策を盛り込んでいる。本稿では、新たな試験研究炉の整備に関するこれまでの経緯を俯瞰しつつ、福井県の動向を分析することで、立地地域の視点から、国家プロジェクトに対する期待と懸念について考察した。
なお、本稿の内容はすべて著者の個人的な見解に基づいたものであり、所属組織を代表するものではない。
2.福井県の原子力と地域振興
福井県は嶺北と嶺南に分かれており、県内の原子力発電所 15基はすべてが嶺南地域に立地している。このため、とりわけ嶺南地域においては、原子力発電所が集積するという地域特性を活かした地域振興策が実施されてきた。 2005年には、「エネルギー研究開発拠点化計画(以下、「拠点化計画」という)」を策定し、原子力発電所を単なる発電工場にとどめることなく、研究開発拠点への転換につなげるための施策を強化してきた。拠点化計画は、「安全・安心の確保」、「研究開発機能の強化」、「人材の育成・交流」、「産業の創出・育成」の 4つを基本理念に掲げており、福井県立病院への陽子線がん治療センターの整備(2011年治療開始)や、福井大学附属国際原子力工学研究所の敦賀市への移転( 2012年)、若狭湾エネルギー研究センター内における「福井県国際原子力人材育成センター」の開設( 2013年)、原子力国際機関( IAEA)との協力覚書の締結( 2013年)など、様々な実績を上げてきた [1]。
もんじゅについては、 1995年に 2次系ナトリウム漏えい事故が発生して以来、 2010年まで約 14年半の間停止しており、その運転再開後の僅か 2か月後に炉内中継装置落下トラブルによって再度停止するなど、長期間にわたり実質的な運転を行っていない状態が続いていた。
一方で、拠点化計画においてはこのもんじゅが中核的な施設として位置付けられ、例えば、「高速増殖炉研究の国際拠点を目指した研究開発の推進」や、「国際原子力機関(IAEA)の枠組み等を活用した海外からの研究者・研修生の受入れ」、「高速増殖炉等に関する国際会議・学会等の誘致・開催」等、多くの関連施策が進められており、立地地域の地域振興という点からも、もんじゅは重要な施設であったことが伺える。
こうした施策が進められていた中、国は、運営主体やマネジメントのあり方についての懸念等から、 2016年 12月、政府方針としてもんじゅの廃止措置移行を決定した [2]。この政府方針において、「『もんじゅ』サイトを活用し、新たな試験研究炉を設置することで、・・・、我が国の今後の原子力研究や人材育成を支える基盤となる中核的拠点となるよう位置付けること」が明記されたほか、同年 12月 21日に開催したもんじゅ関連協議会においても、「『もんじゅ』に係る政策変更に伴い、地元に大きな影響が生じないよう、また地元が共に発展していけるよう、必要な地域振興策等に取り組む」ことが示された [3]。こうして、新たな試験研究炉が福井県の地域振興に資する施設として位置付けられていくこととなった。
こうした政策変更を受け、福井県においては、国や市町、電力事業者等の関係機関とともに拠点化計画の見直しが行われた [4]。これらの議論の結果、福井県は、 2020年 3月に、拠点化計画を発展させつつ、再生可能エネルギーなどの活用も取り入れた「嶺南 Eコースト計画」という新たな地域振興計画を策定した。嶺南 Eコースト計画は、「原子力関連研究の推進および人材の育成(基本戦略Ⅰ)」、「デコミッショニングビジネスの育成(基本戦略Ⅱ)」、「様々なエネルギーを活用した地域振興(基本戦略Ⅲ)」及び「多様な地域産業の育成(基本戦略Ⅳ)」という 4つの基本戦略と、各戦略に関連する計 8つのプロジェクトで構成されており、新たな試験研究炉については、基本戦略Ⅰにおけるプロジェクト1「新たな試験研究炉を活用したイノベーションの創出、利活用の推進」に位置づけられた。このプロジェクトでは、県内外から多くの学生や研究者を呼び込むための、利活用に向けた仕組みづくりに主眼が置かれ、茨城県に設置されている中性子利用推進協議会のような組織体の設置や、企業の習熟度を高めるためのトライアル研究支援制度を創設することなどが関連施策として盛り込まれている。このように、新たな試験研究炉については、研究だけではなく、企業利用にもつなげたいという、「地域振興への貢献」という期待も見て取ることができる(図1)。
3.新たな試験研究炉整備に係る議論の 経緯と立地地域の期待
22016年の政府方針決定以降、国は、委託業務「もんじゅサイトを活用した新たな試験研究炉の在り方に関する調査」を開始し、その委託事業の中で、試験研究炉のユーザーや専門家等で構成される「外部有識者委員会」を設置するとともに、同委員会において「概念設計タスクフォース」及び「利用・運営タスクフォース」を立ち上げ、候補となり得る炉型を整理し、具体的な機能や設置可能性、建設コスト、運営体制等について、 3年間に渡って調査検討を進めてきた(表1)。なお、これらの調査結果は報告書に取りまとめられ、公開されている [5]。
その後、国は、2020年 5月の作業部会において、3年間の調査検討結果を踏まえ、"既存炉をベースに最新技術を盛り込み建設可能と考えられる炉型"として、「臨界実験装置」「低出力炉」「中出力炉」の 3つの炉型を示した [6]。「臨界実験装置」は、京都大学の KUCAを参考とした炉型であり、基本的に未臨界の状態で操作することから、炉心の配置を組み替えることができるのが特徴であり、原子炉物理学の実験や、新型炉の炉心検討などに用いられる。「低出力炉」は、近畿大学の研究炉(UTR-KINKI)を参考とした炉型であり、熱出力が 1kW~100kW程度で非常に小さいため、原子炉工学実験用の炉として、原子炉材料の中性子照射損傷メカニズムの解明などに利用可能である。「中出力炉」は、京都大学の KURを参考とした炉型であり、熱出力 10MW程度で、中性子散乱やラジオグラフィなど、中性子ビーム利用を主目的とするものである。
福井県は、同年 7月に、嶺南 Eコースト計画に基づく今年度の取組みについて、国、電力事業者、大学・研究機関、産業界、県および市町等の関係機関と意見交換をする「嶺南 Eコースト計画推進会議」を開催した。同会議では試験研究炉が主要議題として取り上げられ、上述の調査結果についても報告がなされた。同会議において、福井県知事は、 (1)研究に特化せず、産業用にも広げられるようにすること、 (2)これを起点に新しい産業を興していく可能性のある炉型にすること、 (3)人材育成だけでなく産業利用など、地域振興に幅広く役立つものになるようにすることの 3点について求めた [7]。
同年 9月、国は、同推進会議を含む地元説明で出た地元意見を踏まえ、 KURの機能を発展的に担えること及び産業分野への発展が最も期待できるという理由から、
図1 新たな試験研究炉の整備と関連施策の実施スケジュール(嶺南Eコースト計画より抜粋。一部改変)
上述の 3つの炉型候補のうち「中出力炉」に絞り込み、概念設計を進めることとした [8]。
この点について、同年 10月に行われた福井県議会予算決算特別委員会では、「(中出力炉に絞り込むという)今回の発表を、県はどのように受け止めているのか」という質問に対し、県は「これまで県が主張してきた『人材育成のみならず、産業利用への活用など、地域振興につながるものにすべき』という意見が反映されたものと考えている」と答弁しており [9]、やはり「地域振興への貢献」という期待を見て取ることができる。
この炉型「中出力炉」の絞り込みを踏まえ、国は、同年 11月、公募事業「もんじゅサイトに設置する新たな試験研究炉の概念設計及び運営の在り方検討」の実施主体として、日本原子力研究開発機構、京都大学及び福井大学を中核的機関に選定し、これらの中核的機関が中心となって新たな試験研究炉の概念設計を開始した。概念設計を進めるにあたっては、原子力人材育成及び研究開発を実施する大学等や、産業界も含め、試験研究炉の利用ニーズを持った幅広い関係機関から意見を集約する場として、コンソーシアム委員会を設置し、 2021年 3月に第 1回、同年 10月に第 2回目の会合を開催している。
表1 国による 3年間の調査内容
実施年度委託業務の目的(仕様書より抜粋)
①求められる試験研究炉のスペック
・我が国の研究炉を取り巻く動向
・海外の研究炉を取り巻く動向(新設が検
討されている研究炉動向等)求められる研究炉が対象とする研究分野または人材育成機能
・対象となる研究者等のユーザー
・炉型※(スペース等から見て建設・運転し得る炉のオプション(ビーム炉、人材育成を目的とする炉等))
2017年度 ※検討に当たっては、地理的要因や、将来(平成 29年度)(30年先)にわたりニーズがあることを考慮
・建設費用・年数、見込まれる組織人員②求められる運営主体の在り方
・想定される運営主体(国立研究開発法人
日本原子力研究開発機構、大学、その他法人(一般社団法人、財団法人等))
・海外における共用の研究施設の運営体制の状況
・日本各地、海外から学生・研究者が集まる共用施設の運営体制等
①求められる試験研究炉のニーズ調査
・平成 29年度当該委託事業で示される学術利用、産業利用、医療利用等の各分野が試験研究炉に求めるニーズについて、地域の特性を踏まえた調査
・海外の試験研究炉のニーズに係る現状調
査②試験研究炉の運営体制の検討・想定される運営主体(国立研究開発法人
日本原子力研究開発機構、大学、その他 2018年度法人(一般社団法人、財団法人等))や利(平成 30年度)用者組織からの意見聴取・運営体制を整備する際の留意事項、手続き等の調査③試験研究炉の建設開始に必要となる諸事項の調査・「もんじゅ」サイトの地理的状況調査(サイトスペースの調査、活断層の概略調査等)
・地理的状況を踏まえた建設費用・年数、見込まれる組織人員等炉型選定に必要となる情報の調査
・メーカー等建設主体からの意見聴取
①試験研究炉の概念設計実施に向けた調査
・平成 30年度本委託事業の検討結果を踏まえ、候補となり得る炉型に関して必要となる具体的な仕様の検討
・候補となり得る炉型に関する技術的・経済的成立性の検討
②原子力研究や人材育成を支える基盤となる中核的拠点化に向けた運営の在り方に関する検討
2019年度・炉型ごとの利用目的に応じて想定される運営主体(国立研究開発法人、大学、そ
(令和元年度)の他法人(一般社団法人、財団法人等))や利用者組織からの意見聴取(組織体の目標との整合性の検討を含む)③試験研究炉の建設開始に必要となる諸事項の調査・国内における研究炉の規制に関する調査・平成 30年度本委託事業で提示された炉型ごとのニーズを踏まえ、国内施設による充足状況に関する調査(当該研究炉の必要性に関する検討)
4.試験研究炉整備に係る立地地域の懸念
上記のコンソーシアム委員会においては、福井県は(1)産業利用、(2)利用環境、(3)整備スケジュールの 3点について意見を述べている [10](表2)。以下では、これまでの国の調査結果等を踏まえつつ、この 3点の内容を分析し、福井県にとって懸念事項となり得る点について考察した。
表2 試験研究炉整備に関する福井県の発言
福井県の発言(内容第 1回コンソーシアム委員会議事録より抜粋)
(1)産業利用・地元としては、地域貢献、産業利用を重要視している。これをしっかりと位置付けていただきたい。企業ニーズを集めて頂き、地元企業あるいは地元に来ていただく企業が優先的に利用できるようにすると有難い。(2)利用環境
・設備環境については、利用環境が重要である。候補地は立地上の制約があるが、山を削る等して出来るだけ敷地を広くして色々なニーズが反映できる設備にして欲しい。もんじゅサイトのアクセスについては、 DX技術等を使って遠隔アクセスすることも考えられる。
(3)整備スケジュール
・KUR は 2026 年に廃炉に向うとのことであるが、余り時間をおかずに試験研究炉をなるべく早く利用できるようにお願いしたい。
4.1 産業利用
産産業利用については、地元における産業利用の実施主体(企業)の確保が喫緊の課題となっていると考えられる。 2020年 7月に開催された嶺南 Eコースト計画推進会議では、敦賀商工会議所から「特に嶺南地域の産業構造を見ますと、試験研究炉というものを利用していく企業は少ないのも事実であります。」という懸念が示されている [7]。実際、福井県内の産業構成比を見ても、嶺北地域では製造業の割合が全国平均よりも高くなっているが、嶺南地域では全国平均よりも低く [11]、とりわけ嶺南地域において試験研究炉利用企業をいかに確保していくかが課題であると考えられる。このため、福井県は、 2021年度、企業向け講習会や KUR見学ツアー等、県内企業や学生等に対する周知活動に取り組んでいる [10]。
また、福井県は、「企業等の利活用促進を目的とした協議会を設立し、利活用に関するセミナーや勉強会などの周知活動を実施」することを嶺南 Eコースト計画に盛り込んでいる。このような利用推進を目的とする協議会は、国内でも複数箇所存在しているが、関連する原子力施設が運用開始となるまでのタイミングに留意すべきである(表3)。福井県が示している利用推進協議会の場合、設立は 2023年度の計画であり、協議会設立から利用設備(試験研究炉)の完成まで少なくとも 10年程度かかることになる。利用設備の完成前に立ち上げられた「東北放射光施設推進協議会」については、放射光施設の空白域となっている東北地方の 7 国立大学が「東北放射光施設推進会議」を設立し、地元の産・官を巻き込んで、文部科学省の「次世代放射光施設の整備・運用のパートナー公募」のパートナーとして選定されることで、利用設備(次世代放射光設備)の整備を勝ち取ったという経緯があり [12]、利用設備(試験研究炉)の整備決定が先行した福井県の場合とは経緯が全く異なる。さらに、
表3 国内における主要な原子力施設利用推進協議会
設立時期構成団体備考
中性子産業利用推進協議会
2008年 J-PARCと JRR-3の中 J-PARCが 2008年
5月性子産業利用を推進 12月に運用開始する企業
県内中性子利用連絡協議会
2021年 7月より、 2008年茨城県内の中小企業「いばらき量子線利
7月活用協議会」として活動範囲を拡大
東北放射光施設推進協議会
東北地方の産学官団
体(7自治体、7大学、次世代放射光施設 2013年 14商工会議所連合会・が 2024年度に運用7月工業会)+東北の企開始予定
業(サポーター)
Spring-8利用者懇談会
・SPring-8が 1997 年 10月に供用開始
1990年 Spring-8を利用した・2012年 4月に
9月 企業 「SPring-8ユーザー 協同体( SPRUC)」 へと組織改編
Spring-8利用者懇談会の場合には、供用開始後も、新規ユーザーがほとんど入会せず、会員登録は全ユーザー数の 2割程度にとどまってしまったこともあり、組織改編を実施している [13]。なお、嶺南 Eコースト計画においては、その空白期間を埋めるための取組みとして、トライアル研究支援制度の創設や、企業、大学・研究機関等の誘致に向けた活動などが計画されている。
4.2 利用環境
利用環境については、限られた敷地の中で、必要な設備・施設の整備スペースをどのように確保するかが課題であると考えられる。中出力炉が「中性子ビーム利用を主目的とした」炉型であることを踏まえると、ビーム実験装置及び実験スペースを十分に確保することは非常に重要である。第 2回コンソーシアム委員会では、概念設計の進捗状況として、新たな試験研究炉でも JRR-3相
当の中性子束の達成が見込まれることが報告されており [14]、中出力炉に絞り込まれた時よりも、よりハイスペックな施設が整備できる可能性が出てきた。新たな試験研究炉の付帯施設や実験設備の詳細についてはまだ何も決まっていないが、例えば、ビーム実験装置の数については、令和元年度調査報告書においては、 KURよりも装置数が多く、 JRR-3よりは少なくなるものと推定されている(表4)。産業利用を重視する福井県としては、できる限り施設・設備を充実することが望ましいと考えられる。試験研究炉の設置場所については、「もんじゅ原子炉施設建屋場所」、もんじゅから見て南東の山間部にある「山側資材置場」及び「焼却炉場所」が設置可能とされており、このうち「もんじゅ原子炉施設建屋場所」はもんじゅの原子炉施設が解体・撤去されないと利用できないことから、実質的には「山側資材置場」と「焼却炉場所」が候補地とされている(図2)。その候補地にどのように設備・施設を設置するかについては、いくつかの案が検討されている(表5)。令和元年度の調査報告書によると、試験研究炉(中出力炉)の設置に必要な敷地については、原子炉施設区域が約 120 m x 56 m、付帯施設区域が 65 m x 77 mと推定されており、山側資材置場
(130 m x 54 m、EL+132 m)と焼却炉場所(85 m x 70 m、 EL+115 m)を活用すれば整備可能となっているが、大規模な土木工事が必要であることも指摘されており [15]、設置主体である国による設備投資や、土木工事のスケジュール短縮がどこまで見込めるかが鍵となる。
さらには、これらに加えて、もんじゅサイトが敦賀半島の先端にあり、非常に僻地であるという懸念もある。
この点については、外部有識者委員会でも「利用者の利便性向上の面では、多くの企業から宿泊施設や敦賀駅からもんじゅサイトまでのシャトルバスが必要との声がある(平成 30年度委託業務成果報告書)」という報告がなされているものの、具体的な検討はなされておらず、概念設計及び詳細設計と並行して検討される必要がある。
表4 新たな試験研究炉と既存の試験研究炉におけるスペックの比較 [14, 15]
ビーム実験装置の数最大熱中性子束
2台(炉室) KUR 4台(炉室外実験室) 8E+13 n/cm2/s
もんじゅサイト 6台(炉室) 1E+14 n/cm2/s
の新たな試験研 10台(ビームホール) 以上を達成見込
究炉 ※いずれも想定 み
9台(炉室) JRR-3 21台(ビームホール) 3E+14 n/cm2/s
図2 新たな試験研究炉の建設候補地(山側資材置場と焼却炉場所)(Google mapsより作成)
4.3 整備スケジュール
整備スケジュールについては、 a)もんじゅの廃止措置との干渉、 b)廃棄物の保管・処分場所の確保及び c)原子力規制委員会の審査対応による工程遅延リスクが懸念となると考えられる。
a) もんじゅの廃止措置との干渉
令和元年度報告書においても、『もんじゅ廃止措置と干渉しないこと(試験研究炉の建設・運転がもんじゅ廃止措置作業や解体廃棄物保管等の妨げにならないこと)
表5 もんじゅサイトにおける試験研究炉(中出力炉)の配置検討結果 [15]
設置場所配置土木工事
原子炉建屋・ホットラ掘削土量:約 44 万 m3山側資材置ボ等を山側資材置場残土量:約 12 万 m3場(ケース A)に設置、研究管理棟等工事費:約 44 億円
を焼却炉場所に設置。
ケース A とは逆に、
原子炉建屋・ホット掘削土量:約 44 万 m3焼却炉場所ラボ等を盛土が少な残土量:約 27 万 m3 (ケース B)い焼却炉場所に設置、工事費:約 45 億円
研究管理棟等を山側資材置場に設置。
ケース A と同様に原子炉建屋・ホットラボ等を山側資材置場
(EL+125m)に設置。山側資材置研究管理棟等は、焼掘削土量:約 44 万 m3 場+焼却炉却炉場所を EL+125m 場所盛土部まで盛土した場所に残土量:約 4 万 m3
(ケース C)設置。(掘削土の一部工事費:約 43 億円を焼却炉場所の盛土に使用して残土量を削減し、土木工事費を低減)
が前提』と述べられており、建設工事と廃止措置工事が干渉する可能性について指摘されている [15]。もんじゅの廃止措置計画によれば、現在は第 1段階の燃料体取り出し期間であり、 2023年に第 2段階の解体準備期間に移行し、その後、第 3段階のナトリウム機器の解体撤去、 2047年に第 4段階の建物等解体撤去を完了する計画となっている。第 3段階および第 4段階の開始時期及び期間は計画に示されていないが、もんじゅの廃止措置の第 2~ 3段階あたりは、新たな試験研究炉の建設と同時並行で実施される可能性がある。新たな試験研究炉の建設主体はまだ決定していないが、もんじゅの廃止措置を進める JAEAと密に連携したプロジェクト・マネジメント体制の構築が必要である。
b) 廃棄物の保管・処分場所の確保
a)とも関連するが、建設及び廃止措置の両方で発生する廃棄物の管理についても、工程遅延の要因となる可能性がある。もんじゅの廃止措置では、クリアランスレベルのものも含め、約 26,700 tの放射性固体廃棄物の発生が見込まれているが [16]、これらの廃棄物の一時保管・処分する場所をいつどのように確保するのかについては、現時点では未定である。同じく、新たな試験研究炉の整備では、 43~ 45億円規模の土木工事が必要と考えられており、約 438,000~ 444,000 m3の土壌を掘削し、少なくとも 40,000 m3の土壌が廃棄物として発生することが見込まれている [15]。これらの廃棄物をどのように管理すべきかについて、早い段階から検討すべきである。
c) 原子力規制委員会の審査対応
今回の新たな試験研究炉は、 2013年に施行されたいわゆる"新規制基準"が適用される初めての原子炉建設事例となる。原子力規制委員会による審査については、既存の試験研究炉の再稼働に係る審査対応でも、近大炉や KURの場合には運転再開まで約 3年間、 JRR-3の場合には約 7年間を要していることから [17]、新たな炉の建設に関しても、許認可に係る審査にはある程度時間を要するものと考えられる。さらに、敦賀原子力発電所 2号機の再稼働の関係で問題となっている「破砕帯」についても、過去に実施されたボーリング調査の結果を踏まえると、現在の候補地(「山側資材置場」と「焼却炉場所」)にも破砕帯がある可能性がある [18]。現在、 JAEAによって進められている候補地でのボーリング調査では、小規模な破砕帯が分布するものの、大規模な破砕帯やすべり面となるような脆弱部は確認されていない状況ではあるが [14]、許認可申請に向けた地質・地盤情報の取得及びその評価方法についても、入念な準備を進めていくことが重要と思われる。
5.おわりに
本稿では、もんじゅサイトに整備される新たな試験研究炉について、福井県が推進する地域振興戦略との関連を紹介しつつ、立地地域が持つ期待及び懸念について考察した。新たな試験研究炉の整備という国家プロジェクトは、 2016年のもんじゅ廃止措置移行決定から、 2020年に中出力炉へと炉型が絞り込まれたことを受け、まさに今、本格化な検討が進められているところである。 2020年 11月に着手した概念設計も間もなく折り返し地点を迎え、 2022年度内に詳細設計へと移行する計画となっているが、立地地域としては、本稿で指摘した課題等について、炉を設置する側である国と早い段階から積極的にコミュニケーションを取ることが重要と思われる。
参考文献
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[5] 文部科学省 HP (最終アクセス : 2021年 11月 12日). https://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/gensi/000005399_ 00001.htm
[6] 文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会 : 資料 3 令和元年度「もんじゅ」サイトを活用した新たな試験研究炉に関する調査の概要 , 原子力研究開発・基盤・人材作業部会(第 3回)作業部会( 2020).
[7] 福井県 :"令和 2年度第 2回嶺南Eコースト計画推進会議議事録" ,(2020). https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/dengen/shinkeikaku/
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(WG3)活動報告 , 文部科学省委託事業「もんじゅサイトに設置する新たな試験研究炉の概念設計及び運営の在り方検討」第 2 回コンソーシアム委員会
(2021).
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[12] 宮城県 HP, "東北放射光施設推進協議会について"
(最終アクセス : 2021年 11月 12日). https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/shinsan/about.html
[13] 文部科学省 :"SPring-8における JASRIの取り組み ,"
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[14] JAEA: 資料 3-2: WG1 による活動内容について -試験研究炉の設計・設置・運転 , 文部科学省委託事業「もんじゅサイトに設置する新たな試験研究炉の概念設計及び運営の在り方検討」第 2 回コンソーシアム委員会( 2021).
[15] 原子力安全研究協会 : もんじゅサイトを活用した新たな試験研究炉に関する調査令和元年度委託業務成果報告書( 2020).
[16] JAEA: 廃止措置実施方針(高速増殖原型炉もんじゅ原子炉施設)(核燃料物質使用施設・政令第 41 条非該当施設), 令和 3年 4月( 2021).
[17] 原子力産業協会 : 日本の主な核燃料施設・研究炉等の現状(2021年 1月 12日現在). https://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/ uploads/2021/01/jp-facilities210112r.pdf
[18] 原子力規制委員会 : 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構もんじゅの敷地内破砕帯の評価について(報告), もんじゅ敷地内破砕帯の調査に関する有識
者会合 , 平成 29年 3月 15日( 2017).(2021年 11月 24日)
著者紹介
著者:浅原 章所属:福井県庁地域戦略部電源地域振興課嶺南Eコースト計画室専門分野:原子炉の廃止措置、放射性廃棄物管理