特集記事「美浜3号機再稼働までの道のり(第3回)地元理解獲得活動、再稼働で得た知見、新型コロナ感染予防・拡大防止への対応」

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カテゴリ: 特集記事

美浜3号機再稼働までの道のり(第3回)地元理解獲得活動、再稼働で得た知見、新型コロナ感染予防・拡大防止への対応
関西電力株式会社 美浜発電所長
高畠 勇人 Hayato TAKABATAKE

約10年ぶりに本格運転を再開した美浜発電所3号機。それは、新規制基準下で国内初の40年超運転となった。
本特集は、再稼働に至るまでの安全審査への対応、数多くの大規模な安全対策工事、使用前検査、訓練等にとどまらず、地元をはじめとする地域の理解活動まで、さまざまな取組みをたどって運転再開を果たした記憶と記録を残すものであり、10年もの長きにわたる取組みを連載として3回に分けて特集した。第1回は安全対策工事、長期停止中の設備維持管理などの「ハード面」、続く第2 回は安全対策工事および再稼働管理体制、再稼働に向けた訓練、新規制基準に基づき新規策定や変更が必要となる社内標準等の本格運用に向けた取組み、再稼働工程の各ステップでの点検、プラント運営監視体制の強化といった「ソフト面」を取り上げた。第3 回である今号では、地元理解活動、再稼働で得た知見および課題、新型コロナウイルス感染予防・拡大防止への対応について紹介する。


~第1回(Vol.20-4)の目次~
1.はじめに
2.ハード面の対応
2.1 安全対策工事
2.2 長期停止中の設備維持管理
2.3 40年超え運転に向けた取組み
~第2回(Vol.21-1)の目次~
3.ソフト面の対応
3.1 安全対策工事および再稼働管理体制
3.2 再稼働に向けた訓練
3.3 新規制基準に基づき新規策定や変更が必要となる社内標準等の本格運用に向けた取組み
3.4 再稼働工程の各ステップでの点検
3.5 プラント運営監視体制の強化
3.6 再稼働に伴う他発電所・他部門からの応援
4.地元理解獲得活動
原子力発電所の運営は原子力安全等に対するハード・ソフト面の取組みのみでは十分ではなく、地元をはじめとする地域の方々からの信頼・理解・協力があってこそ、成り立つものである。
美浜発電所では、再稼働に対する理解獲得活動を2019年度から本格的に開始しており、これまで100回以上の見学会・説明会を実施し、延べ約2,000人を超える行政関係者・一般住民の方々に発電所の取組みをご説明し、理解を深めていただいた。また、広報誌や地元のケーブルテレビ放送等を通じた理解獲得活動も行った。

4.1 美浜町全戸訪問・地元3区訪問
「美浜町全戸訪問」は、美浜発電所と原子力事業本部の社員が2回/年の頻度で美浜町内の全戸を訪れ、美浜発電所の状況を丁寧に説明し、ご理解いただく取組みであり、1997年から実施している。この取組みを活用し発電所の再稼働状況の説明を適宜行ってきた。また、地元住民との対話を通じ、率直な意見に耳を傾けることで当社に対する信頼感・親近感の向上、社員一人ひとりの地域共生意識の高揚も図っている。
「地元3区訪問」は、美浜発電所周辺の丹生、竹波、菅浜の3地区に対し、4回/年の頻度(うち2回は全戸訪問として実施)で発電所の状況を説明する取組みであり、所長室コミュニケーション係を中心に実施している。2020年9月と2021年5月には私が地元3区各戸へ訪問し、美浜発電所の状況の報告と再稼働のご理解に対するお礼を伝えた。また、不在時には改めて訪問する等の丁寧なコミュニケーションに心掛けた結果、2021年5月のお礼を伝える訪問では、面談率100%を達成した。
(表9、図28)

4.2 住民説明会
美浜町民や関係者の方々に美浜発電所の状況、美浜3号機の安全性・必要性・防災体制等について、理解を深めていただくことを目的に、2020年10月に住民説明会(発電所主催5回、美浜町主催1回)を開催した。
発電所主催の説明会では延べ約130名、美浜町主催の説明会では約200名の方々にお越しいただいた。また、美浜町主催の説明会では、当社に加え、原子力規制庁、資源エネルギー庁、内閣府の協力を得て丁寧な説明が行われ、この説明会は、YouTubeでも視聴することができる。(図29)

4.3 発電所見学会
発電所の一般の見学としては、美浜原子力PRセンターでの発電所概要説明やVRによる各施設(発電所全景、原子炉格納容器内、使用済燃料ピット、タービン建屋内等)の説明を行っている。(図30)
美浜3号機の再稼働に向けた理解獲得については、福井県知事・県議会、美浜町長・町議会、福井県原子力安全専門委員会等のキーパーソンに工事の状況等を現地視察いただき、発電所のリアルを肌で感じ取っていただいた。(図31)
視察後には、「計画以上の取組みで再稼働に向けた準備をしっかりと進めているという印象を受けており、関西電力と協力会社がひとつになって取り組んでいるという姿勢を感じた」との所感をいただく等、非常に価値ある視察であったと考えている。

4.4 広報紙・ケーブルテレビ等
美浜発電所では、4回/年の頻度で広報紙「美浜発電所だより」を発行し、発電所の活動を地域に発信してきている。2020年度は、美浜3号機の再稼働の状況をタイムリーにお知らせするため、頻度を増やして発行し、8回/年を数えた。また、安全対策工事の内容や進捗状況を伝える番組をシリーズで制作していただき、美浜町のケーブルテレビで繰り返し放映された。こちらもYouTubeで視聴することが可能である。(図32)

5.再稼働で得た知見および課題
美浜3号機は再稼働に至るまで約10年間の長期停止状態が続いた。安全対策工事等を終え、起動工程の段階に入ってからは、この長期停止を起因とした不具合があった。本項では、これらの再稼働を進めていく中で経験した不具合や得られた知見について述べる。

5.1 2次系クリーンアップ
2次系クリーンアップとは、純水の通水とブローを繰り返すことで、2次系機器および配管内に残留している不純物を可能な限り低減させる作業である。特に蒸気発生器に不純物が持ち込まれると、伝熱性能の低下や伝熱管の腐食に繋がるため非常に重要な作業である。
従来より2次系クリーンアップは、系統の状態に応じて、全系統クリーンアップと復水再循環クリーンアップを適切に切り替えながら不純物の除去を実施している。再稼働においては、約10年間の長期停止影響や特別な監視体制期間中の2次系水質の日々の報告を踏まえ、更なる不純物除去の取組みとして、「流量スイング」と「温水洗浄」を行った。
(1) 流量スイング
全系統クリーンアップ中に2系列ある高圧系統について、片系ずつ通水を行うことで、高圧系統の流量を350m3/hから700m3/hに変化させて汚濁物質の排出を促進する手法。
(2) 温水洗浄
脱気器に補助蒸気を通気し、100℃まで系統水の温度を上昇させて、高圧系統に通水することで不純物の溶出を促進させる手法。

以上の手法については、プラントメーカから提案があり、今回採用したものである。
これらの新たな取組みに加え、水質の管理値を満足しても工程上可能な限り2次系クリーンアップを継続することで、良好な水質の維持を図った。(表10)
今回の経験で流量スイングや温水洗浄は効果的な手法であることが確認できたことから、次回以降も可能な限り実施していく。ただし、新規制基準の溢水防護対策として、2次系純水タンクが2基から1基に減り、タンク水位上限値も1,500m3から1,000m3に減少したことから、純水の運用について十分な事前調整が必要となった。

5.2 タービン動補助給水ポンプ入口ストレーナ差圧上昇
2021年7月2日、電気出力約75%の調整運転中にタービン動補助給水ポンプの定期試験として蒸気発生器への実注入(フルフロー)試験を実施していたところ、同ポンプの入口ストレーナ差圧計の指示値が上昇したことから、直ちに実注入を停止し、ミニマムフロー運転に移行した。その後、ポンプ運転状態を確認したところ、運転を継続した場合にポンプの健全性が損なわれる可能性があったため、保安規定で定めるLCOを満足しない状態であると判断しポンプを停止した。(図33)
その後、入口ストレーナを開放したところ、鉄を成分とするスラッジ(2次系配管に含まれる鉄酸化物の微粒子)の付着を確認したことから、入口ストレーナやポンプ吸込配管の清掃を行った。また、差圧計の異常は確認されなかった。それらの処置を行った後、タービン動補助給水ポンプの定期試験を再開し、蒸気発生器への実注入操作を行った結果、入口ストレーナの差圧は正常範囲内であり、ポンプの運転継続に問題がないことを確認できたことから、LCOを満足していると判断し、事象発生の翌日に通常の待機状態に復帰した。
以上よりポンプ吸込配管(炭素鋼配管)から発生したスラッジの蓄積が今回の事象の直接的な原因と考えられ、長期停止の影響を十分に考慮できていなかった事例となった。
系統を復旧するための水張りの際には、配管から少量の水を排水し、配管の水が綺麗になるまで何度も水を入れ替えて配管内のクリーンアップを行ってきた。しかしながら、起動工程に至るまでタービン動補助給水ポンプの運転ができないことから、今回の定期試験で実注入流量の水を系統に流したことで長期停止期間中に蓄積したスラッジにより、ストレーナ前後の差圧が上昇したと推定している。再発防止対策として、今後、定検毎に当該吸込配管を実注入以上の流量で洗浄し、その後、ストレーナの清掃を行うことでスラッジ除去を確実に実施することとした。
また、本件については、事前に措置できたことがなかったのかという観点で、組織としての問題が潜在している可能性がある事象に該当するとして根本原因分析(RCA※11)を実施した。
品質保証部門のメンバーを中心にRCAチームを編成し、作業担当課や発電所幹部への聞き取り調査等により改善すべき組織要因等の抽出を行い、対策検討項目の提言が行われた。現在、この提言も踏まえて対策の有効性を評価した上で、順次対策を実施していく。

5.3 現場資機材に係る運用の定着
仮置可燃物の養生については、新規制基準適用以前から効果的な改善を行うことが課題であったことから、火災防護に係るチームを編成し、火災防護パトロールを主体とした改善活動を行い、1回/3か月程度の頻度でパトロール指摘事項の分析・評価を実施し、所内の「パフォーマンス向上を目指した取組みの審議」にて改善活動の決定および効果確認を行った。具体的な活動としては、各所でのディスカッションに使用できるように指摘の多い養生不備についてのNG事例集(写真、養生アドバイス付)を作成し、周知徹底を行った。NG事例集については、現場に掲示する等、積極的な活用がなされた。これらの活動の結果、指摘件数は減少傾向となったが、第26回定期検査(2021年10月23日~)に伴い増加に転じる可能性があることから、複数回指摘がある工事について、メーカ・協力会社の作業責任者・役職者、当社のパトロールメンバーにて原因・対策を検討する場を適宜設けて対処していくこととしている。
現場の恒常・仮置資機材については、2020年12月24日の新規制基準に基づく保安規定の適用以降、アクセスルート(事故発生時等の際に対応要員が各種操作のため通行するルート)・火災防護・地震防護・溢水防護・竜巻防護と様々な制限が新たに課せられた。(表11)
これらの制限に確実に対応するため、現場に資機材を保管する際には、作業を行うメーカ・協力会社が事前に資機材保管申請を行い、当社が承認した上で保管を行う運用としている。申請書の審査プロセスとしては、アクセスルート・火災防護・地震防護・溢水防護・竜巻防護等の当社各所管箇所が要求事項を満足しているかの確認を行い、全て問題ないことが確認されたもののみ許可することとしている。
しかしながら、現場パトロールにおいて、資機材保管箇所に許可書が掲示されていない、掲示されていても期限が超過している、許可と別の場所に資機材が保管されている等の指摘(気付き)があった。
これらの課題解決のため、2021年2月より資機材管理に係るチームを編成し、資機材パトロールを開始した。パトロールについては、定期的(約4回/月)に実施するとともに、その結果について分析・評価を実施し(約1回/3か月程度)、所内の「パフォーマンス向上を目指した取組みの審議」にて改善活動の決定および効果確認を行った。具体的な活動としては、パトロールにて指摘事項が多かった工事所管課とメーカ・協力会社がペアとなって改善策(パトロールによる資機材仮置状況の確認、期限超過を防ぐためのリスト化等)を設定し、取組みを行った。
これらの取組みにより一定の効果が得られているものの、現状では、第26回定期検査に伴い現場資機材が増加しており、以下の取組みを実施中である。
・資機材パトロール頻度を約8回/月に増加
・分析・評価を約1回/2か月に増加
・資機材を各社毎に色や社名で識別表示 等

5.4 事故時対応の継続的な力量付与・向上
3.2(1)で述べたように、苦労しながらも再稼働に伴う力量付与教育訓練を完遂したが、本力量の有効期限は1年間であるため、各要員は毎年同様の訓練を実施する必要がある。前年度に力量付与された要員は、翌年度以降、力量維持・向上訓練、技術的能力の成立性確認(個別操作手順について各操作が制限時間以内に完了できることを確認する訓練)、机上シーケンス訓練を実施し、新規配属者については、力量付与訓練を実施した後、上記訓練も全て実施することになる。また、発電所全体としては、これら要員毎の訓練に加え、現場シーケンス訓練、技術的能力の確認訓練(大規模損壊訓練)、原子力事業者防災訓練等の訓練を毎年実施する必要がある。
以上の訓練が恒常的な業務として追加されたことから、訓練に係る所員(工程管理、講師、受講等)の業務負担は相当なものであり、負担軽減が課題となった。また、人事異動や定年退職に伴う一時的な要員減少への対応も併せて必要であり、これらの解決に向け、以下の取組みを実施中である。
(1) 力量付与、維持・向上訓練の効率化
1日に可能な限り多く実効的な訓練を実施できるよう効率的な工程を作成し、訓練に要する総日数の削減を図ることとした。訓練日程については、引き続き、各課(室)の訓練キーマンを活用し、効率的な調整を実施していく。また、講師間で連携を行い、訓練が早めに終了した際に、直ぐ次の訓練に移れるよう空き時間の削減にも努めている。
(2) 複数の力量付与
人事異動や定年退職に伴い一時的に要員が減少する際は、先ずは予備要員を投入することで、体制確保を確実に行っている。しかしながら、不測の事態により予備要員以上に要員が不足する事態にも備えておく必要があることから、各課(室)の係長クラスに複数の力量付与(給水要員+消火活動要員等)を行い、要員の互換性を持たせることとした。ただし、本方策は、訓練数が増えるため、係長クラスの負担が増加するこという課題もある。
以上の取組みは開始したところであり、他の方策も含め、より効率的かつ質の高い訓練が行えるよう、更なる改善を進めていく。

6.新型コロナ感染予防・拡大防止への対応
新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるう中、発電所においては関係機関と連携して、感染予防・拡大防止の取組みを徹底して行うとともに、従業員の行動は福井県県民行動指針をより厳しく運用し、発電所の運営を実施している。
発電所としては、2020年2月より本格的な取組みを開始し、入構者に対して、チェックシートによる日々の出社前検温、体調チェック、基本的感染予防対策(マスク着用、手洗い、手指消毒、換気等)の徹底、通勤バスの3密回避対策、入構時のサーモグラフィによる検温等を実施している。(表12、図34)
特に運転員については、専用バスでの出退社や中央制御室への入域制限を行うことで、運転員以外との接触を可能な限り低減している。
福井県外からの新規入構の現場作業者に対しては、上記取組みに加え、入構前のPCR検査にて「陰性」を確認したうえでの入構としてきた。
更には、3.5で述べた特別な監視体制強化期間中には、再稼働のキーマンに対する感染拡大防止対策として、執務室の分離を行った。(表13)
ワクチン接種についても、職域接種を申請し、発電所内でメーカ・協力会社も含めた希望者に対して接種を行った。

 7.おわりに
これまで述べたように、美浜3号機の再稼働は、様々な取組みを実施してきた中で、これらに携わってきた方々の大変な努力と地元をはじめとする地域の皆さまのご理解とご支援によって成し遂げられたものである。数多くの課題に対し、関係者全員が協力しあって解決することを繰り返してきた苦労と頑張りに、改めて感謝を申し上げたい。
2021年6月29日に本格的に送電を再開し、「発電所」として再生を果たした瞬間は、本当に感無量であった。また、その翌日には、メーカ・協力会社の皆さんと約10年間の長期停止後の国内初40年超運転達成を共に喜び、慰労しあうとともに、美浜発電所の新たなスローガンを記した横断幕のお披露目を行い、次のステージへの決意を新たにした。(図35)
美浜発電所は、2020年11月28日に日本初の加圧水型商業炉である美浜1号機が営業運転を開始してから50年を迎えた。そして今回、美浜3号機が新たな歴史を刻んだことで、今後のゼロカーボン社会の実現に向けた原子力発電の役割を盤石なものとすることに貢献することができたと考えている。
今後も美浜発電所では、美浜3号機においては、特定重大事故等対処施設を完成させ、安全・安定運転の継続を、美浜1, 2号機においては、廃止措置を着実に実施していくことにより、「チーム美浜」全員が一丸となって安全と信頼の実績を積み重ねながら、新たなステージに挑戦してまいるので、引き続きのご理解とご支援を賜りたい。
(2021年12月10日)


表9 地元3区訪問実績(面談率:面談数/訪問数)

図28 地元3区への訪問の様子

図29-1 発電所主催の住民説明会

図29-2 美浜町主催の住民説明会(YouTubeで視聴可能)
図30-1 美浜原子力PRセンター
図30-2 VRの様子
図31 発電所視察の様子(美浜町長)
図32 美浜発電所だより、ケーブルテレビ放送
図32 美浜発電所だより、ケーブルテレビ放送
図33 タービン動補助給水ポンプ定期試験
表11 資機材管理に係る要求事項
表12 新型コロナウイルス感染予防・拡大防止対策一覧
図34 通勤バスの3密回避、入構時のサーモグラフィによる検温

表13 執務室の分離

図35 美浜3号機の送電再開を達成し、新たなる決意

著者:高畠 勇人
所属:関西電力株式会社  美浜発電所長
専門分野:原子燃料設計、炉工学

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