特集記事 第22回保全セミナー DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用して 原子力保全に変革を!
公開日:欧米では、サイバーフィジカルシステム (CPS)を導入した第4次産業革命Industry 4.0 が2011年に提案されて、実際に運用されている。これによって生産性が向上し、海外の製造工場を自国に戻すきっかけになっていると聞いている。また、我が国においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)によって社会様式を変化させるSociety 5.0 の概念が2016年に発表されている。いずれも、ICT(Information and Communication Technology), IoT(Internet of Things), IIoT(Industrial Internet of Things), ビッグデータ, 人工知能(AI), デジタルツインなどがキーワードになっている。
CPSでは実空間のデータを用いてサイバー空間の中でシミュレーションを実施して実空間の機器の動作を模擬することができる。サイバー空間で構築された機器やその動作などをデジタルツイン(双子)と呼んでいる。いわゆる仮想プラントをサイバー空間に作ることができる。仮想プラントはサイバー空間において実空間の動きを再現することができるので、設計、運用、保守計画を事前に模擬でき最適化も可能となる。このデジタルツインはIndustry 4.0 を支える重要技術として世界中で開発が進んでいる。例えば、発電設備の設置と運用ではコンピュータ上に仮想発電所を構築して最適な発電機の設計と配置を行う。さらに、運用データやプロセスデータから効率的な点検計画を策定する保全技術の競争が始まっている。
我が国において原子力発電の分野に目を向けると一般産業や海外原子力産業と比較してDX技術の活用もそれほど進んでいないように思える。DX化が急速に進もうとしている社会の変革期において、データ駆動技術を活用して新しい原子力の保全に取り組むことが、安全性と効率性を向上させ、さらに原子力を取り巻く閉塞感を打ち破る力につながるのではないだろうか。
産業のDX化は3ステップあると言われている。第1は情報のデジタイゼーション、第2は産業のデジタライゼーションである。第2のDX化によりデジタルの特性を生かした新しい機能が追加される。第3はデジタルトランスフォーメーション(DX)化であり、これまで存在しなかったサービスやワークフローが可能になるとされている。すなわち、業務を取り巻く環境をDX化することで、業務力や技術力を格段に向上させることができる。さらに、最近では、ChatGPTに代表される生成AIが話題になっており、大量のデータにもとづく、自然言語処理技術を利用して文書作成や文書理解が可能になっている。プラント保全のDX化にも大きく貢献していくものと考えられる。
第22回保全セミナーはDX化に関わる10件の講演で構成した。産業界で先進的に進められているDX技術を生かしたプラントの保全技術や保全活動、原子力保全DXの概念や海外の状況、Industry 4.0に密接に関連したNDE4.0の現状、また、XRやメタバースを活用した原子力保全の可能性について講演があった。さらに、デジタル化とインターネット利用から生じるリスクを回避、低減するためのサイバーセキュリティーの考え方についても講演していただいた。
本特集記事は講演を文章にしていただき、原子力保全のDX化の解説記事として保全学誌2023年7月号および10月号に掲載するものである。第22回保全セミナーに参加することができなかった会員の皆様や、当日参加したが内容を再確認されたい会員の方々に興味を持っていただけるものと考えている。DX化することで、保全に関わるエコシステムも変化し、企業間、ステークホールダー間で相互にデータを共有し、CPSを利用して協業することで、新たな保全に関わる方法論や新しいビジネスモデルが生まれていくことを期待している。
(2023年5月13日)