特集記事 DXを活用した次世代プラントの建設・運転・保全

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1.はじめに
石油化学プラント業界では、設備の高経年化、人材不足等の共通課題の解決を目指すべく、近年、最新デジタル技術を活用したスマート保安が推進されてきた。
その中で、弊社はプロセスプラントへのAI技術活用を進め、特に業界に先駆けて進めてきたAIとシミュレータとの連携や、またセンサーフュージョンIoT技術、またそれらを有効に活用するデータプラットフォームを中心にプラント・デジタルツイン構築でのご支援を行ってきたのでご紹介する。更に、将来プラント・デジタルツイン環境下において、現場でロボティクスが活用されていく次世代プラント操業の姿をも示す。

2.石油・化学プラントにおける
  デジタル化の現状
日本国の石油・化学プラントの保安においては、構造的な課題の深刻化と、特にプラント設備の高経年化により、事故等の発生可能性が高まり、設備異常・製品品質不安定化も懸念されている。 
よって、経済産業省が旗を振り、業界全体を渡って最新デジタル技術活用でのスマート保安にもとづく『保安エコシステム』の構築を目指して推進を行ってきた。ポジティブ・インセンティブ型規制として、2017年4月にスーパー認定事業者等の新認定事業者制度が創設され、IoT・ドローン・AI等のデジタル技術を活用した高度な自主保安の推進が行われてきた。
このスマート保安技術に対して、石油化学プラント業界だけに限らず、電力、ガス、鉄鋼業界での貢献が期待されている。よって各業界を横断してスマート保安を推進するべく、2020年に、新たに『スマート保安官民協議会』が発足し、アクションプランが策定され、 "スマート保安を実現したプラントの将来"が図2-1の通り示された。

また、図2-2の通りスマート化の進捗を示すテンプレートが、石油化学プラント業界に向けて作成されたことが画期的であると考えており期待している。


なお図2-2に示されている各スマート保安技術導入での時間的な目安として、【喫緊】【短期】【中期】【長期】として示されており、段階的・包括的にスマート保安の導入が推進されていく計画である。
スマート保安技術を業界内で推進すべく、様々なガイドラインや事例集が作成されてきた。例えば「ドローンの安全な運用に関するガイドライン」と事例である。ドローンの活用は、高所点検の容易化、災害時の迅速な現場確認等が可能となり、保安力の向上に繋がると期待されている。一方で、設備への落下等を防ぎ、安全な利活用方法を普及させることが重要である。 

また、プラント保安分野AI信頼性評価ガイドラインも作成された。AIを組み込んだスマート保安システムが期待通りの品質を果たすこと、つまり高信頼性を維持すべく適切な検証を行う必要がある。本ガイドラインを活用することで、スマート保安システムにおいてAI技術 の高い信頼性を実現し、保安力や生産性を向上させることができ、またAI の信頼性を説明しやすくなる。

3.プラントへの
  AI・IoT・デジタル技術の活用
3.1 AI活用の為に必須な
  高度解析エンジニアリング技術
2016年に、Google社のAIベンチャー会社であったDeepMind社がアルファ碁というAIプログラムで、当時のトップ囲碁棋士が敗れるとのセンセーショナルなニュースが流れた。それを可能にした新たなAI技術である深層学習(ディープラーニング)は、プラントを含めた生産現場でのDXを実現可能にする高い技術であると弊社は確信をした。
そのAI技術をプラント運転に活用した基本コンセプトが図 3-1である。下半分が現実空間、上半分が仮想空間、つまりコンピュータや、ネットワーク・サーバーなどを示している。DCSからの運転データは、このData Accumulation部分でデータ蓄積が行われる。例えば旧OSI社、現在AVEVA社のPIシステムなどである。

図3-1 プラントへのAI技術活用コンセプト

そのプラント操業データに、新たに高度解析エンジニアリングのノウハウを加えたものを、AIに学習をさせることで、予測し最適化する事が可能になり、まずはカーナビのように、AIがオペレータにアドバイスし、将来はAI自律操業に発展していくことになる。
弊社はプラントEPCでの総合エンジニアリング技術に加え、プラント設計時の詳細検討や、プラント操業中における様々なトラブルの原因究明および解決対応として高度解析技術を活かしたエンジニアリングソリューションを長年提供してきた。
高度解析技術とは、材料腐食/疲労評価、プロセスダイナミックシュミレーション、また配管内や反応器内でのプロセスの挙動をCFD(Computer Fluid Dynamics)を使っての解析技術、またセンシングによる診断技術である。
高度解析技術に最新AI・デジタル技術を融合することで、弊社の高度解析技術のノウハウをベテランエンジニアの頭の中だけに留めず『形式知化』して『システム化』しての共通利用することが可能になった。


図3-2 高度解析エンジニアリング技術と
AI&デジタル技術の融合

これにより、従来はリアルタイムでは把握できなかったプラントの反応器や加熱炉の内部の状態等を『数値化』することで、プラント内部での複雑な事象の『予測』や『最適化』が可能となり、その結果をリアルタイムでの『見える化』することができるようになった。

3.2 プラント現場へのAI活用事例
プラントへの最新AI技術である深層学習(ディープラーニング)の適用により、実際どのような新たな事が可能になるのかの実例を紹介する。本事例は、液化天然ガス製造設備の原料ガス前処理工程内にある酸性ガス吸収塔におけるフォーミング現象AI予測システム"Foaming Prediction AI System (FPAS)Ⓡ"の開発であり、現在、中東地域にあるプラントにて稼働中である。


図3-3 フォーミングAI予測システム
(FPAS)

原料ガス中の酸性ガスとは、ここでは硫化水素H2Sだが、地域によっては炭酸ガスCO2も多い。この酸性ガスを前処理で十分除去しておかないと、後工程のプロセスでいろいろ支障をきたしてしまう。
この酸性ガス吸収塔において、時々、内部で吸収液の泡が急激に大きくなるフォーミング現象が突発的に発生するが、これはプラント業界における吸収塔において長年の共通課題である。
フォーミングによるプラント運転上の課題は大きく3点ある。一つ目は、突発的に発生する非線形的な発泡現象であること。二つ目は、原因と考えられる油分や混濁物質がコンタミする状態をリアルタイムでは計測ができないこと。三つ目は、対応遅れによりプラントの計画外運転停止に到るリスクが大きいことである。
この運転課題に対して従来からの解決策としては、泡発生が疑わしい時は生産量を下げたり、消泡剤を過剰に投入していたが、結果として、やはりしばしば運転停止に到っていた。本現象の根本的な解決策としてAI技術(深層学習・ディープラーニング)を活用したことで、フォーミング現象発生前に、発生リスクを把握して十分かつ適切な事前対応を行うことが可能となった。

3.3 プラント現場へのAI活用を支援する
  EFEXISⓇ ※1ソリューション
FPASⓇは弊社が開発したAIプロダクト・アプリケーション群(ブランド名"EFEXISⓇ")の1つである。  
EFEXISⓇとは、Efficiency(効率性)とExpertise(専門性)を連想させる造語である。アプリケーション・ラインナップとしては、LNGプラントの生産効率を向上させるLNG Plant AI OptimizerⓇ、製油所のFCC装置やRFCC装置の生産性向上や運転コスト低減を図るFCC AI OptimizerⓇ、常圧蒸留塔での原油油種切替運転を効率化するCDU Optima®などをはじめとした様々なAIアプリケーションを世界に先駆けて開発しラインナップしている。

図 3-4 EFEXISⓇAIソリューション・ラインナップ
なおEFEXISⓇソリューション適用でのプラント操業への貢献としては、生産性向上、操業コスト削減、稼働率改善をもたらし、保全の高度化・効率化を実現し、設備異常AI予知やリモートでのAI監視、そして操業ノウハウの伝承を形式知化・システム化により支援する。  
更に将来のプラント操業全体の自律化へ向けて、様々な開発を継続中であり、また脱炭素時代に向けてのソリューション開発をも進めている。
※1 EFEXISⓇは弊社の登録商標である。
3.4 次世代に向けたAIとシミュレータの連携技術による
  プラントへの活用
将来のプラントAI全自律化へ向けた重要な技術の一つが、AIとシミュレータの連携技術である。弊社内では Hybrid AIと呼んでいるが、一般的には合成データ活用とも呼ばれ、AI技術の実践活用において非常に注目を集めている。
AIの強化学習を実際のプラント運転データから行うのみならず、プロセス・ダイナミクス・シミュレータからの膨大な計算データ結果をも用いるのである。シミュレータからの計算データをAIの強化学習に適用すると、通常のプラント運転では滅多に行われない様々な特殊な運転ケースでもAIは学ぶことができる。
このHybrid AI技術を活用した例を紹介する。AIソフトセンサと、最適化AI、すなわち強化学習への活用例である。


図 3-5 AIソフトセンサへの活用

図 3-5は、AIソフトセンサへの活用事例である。図の上側ではシミュレータデータだけでAI学習し予測した結果を示している。図の下側は、シミュレータデータに加え、実際のプラント運転データも加えて学習したHybrid AIでの予測結果である。Hybrid AIによる予測結果が、ほぼ実運転データと同じである事がわかる。
この手法で重要な事は、シミュレータからの計算結果と実際の運転データからのAI学習に必要なデータ分量の割合である。各パラメータ間での刻々と変化する複雑な関係性をAIが学習する為には、膨大なシミュレータデータを必要とする。その学習が済めば、シミュレータ結果とリアルプラントの差をAIが学習する為の実運転データ量は、必要なシミュレータデータ量に比べれば格段に少なくて済むのである。
今後、プロセスプラントに限らずに世の中のインフラ全てにおいてAIが活用されていくとなると、学習データ収集において、シミュレータの活用が鍵になっていく。最近、世間を驚かせている新たなChat GPT(生成AI)技術も、他のAIシステム構築の為の学習データ生成にも活用され始めており、つまりこれもAI学習におけるシミュレータ活用の一つであるとも言えるかもしれない。
次に最適化AI・強化学習への活用例を説明する。本例は、国内の製油所向けに開発したAIシステムであるが、原料の油種切替え時に、AIが最適な設定値を瞬時にオペレータに示す支援を行うシステムである。
国内製油所では年間約100回、つまり3日毎に原油タンクに新たな原油が共有される。同じ原産元からの原油であっても、処理する原油の組成が毎回少なからず変わる。よって原油精製プラントでの原油蒸留塔周りの原油切り替え運転では、プロセスが安定状態になるまで、ベテランオペレータによる運転を見ながらの絶妙なパラメータ調整による半手動運転が必要である。これをAIとシミュレータの連携によるAI強化学習で構築したシステムからの運転パラメータ推奨値により、AI指示により毎回最短時間での適切な原油油種切り替え自律運転が可能になった。

図 3-6 最適化AI(強化学習)への活用

このAIシステム開発&構築においては、最初に原油精製蒸留塔周りの全てのプロセス状態を、中間蒸留成分(ナフサ・灯油・経由など)におけるラボ分析での高精度レベルのプロセス組成値をAIソフトセンサによりリアルタイムで『見える化』し、シミュレータ計算データを用いてAI強化学習をしたことが非常に重要である。
これにより、製油所における究極のベテラン人手作業であった原油油種切り替え作業のノウハウが形式知化され、自律運転のシステム化が実現できたのである。

4.センサーフュージョンIoT技術による
  『見える化』の実現
将来のプラント操業に向けて、今後DXを起こす主要なポイントとして、センサーフュージョンIoT技術による『見える化』の実現も非常に重要である。ベテランオペレータは、プラント現場巡回監視時に、鋭敏な五感を働かせ、事前に異常を検知し対応をしてきた。そのベテランオペレータの感覚からくるノウハウを形式知化し、システム化する為に必須なのが、センサーフュージョンIoT技術である。
つまりベテランオペレータの敏感な感覚に関して、センサーを活用した診断やその分析・判断のシステム化が可能となる時代が到来した。弊社のセンサーフュージョンIoT技術の事例をいくつか紹介する。


図 4-1 センサーフュージョンIoT技術の活用事例
図4-1の中央から左は、振動法とAcoustic-Emission (AE)法の組合せ技術で簡便に回転機(特に軸受)を診断できる方法である。計測時点の軸受の状態や計測タイミングの異なる複数回のデータにより軸受状態の変化を見える化できるため、ベテランオペレータの減少への対策としての巡回監視点検での効率化や、異常の早期検知に有効である。
またAE技術を活用した転がり軸受の3段階の余寿命が評価可能な診断技術も保有しており、アセットオーナーの設備運転保全計画の適正化に資する効果が期待される。中央から右の1つ目は、コニカミノルタ社と連携して開発した赤外線カメラを活用した漏洩ガス検知および防災システムである。既存のガス検知器のシステムを補完するものとして、ガス曇の情報が安全管理に加わった場合、漏洩源の特定、プラントの運転操作や作業員の避難等に関する判断が容易になる可能性があり、プラントの安全性や信頼性の向上につながる。  
最も右端は、タンクの運転中に、AE技術でタンク裏面鋼板の腐食速度の見える化を可能とする技術である。

5.デジタルツインによる
  プラント・ライフサイクルでのDX貢献
5.1 フィジカル系とダイナミックプロセス系の
  デジタルツイン
プラントにおいてAIやデジタル技術の活用を進めていく中で、様々なプラント関連データを統合し活用することが不可欠になり、それを実現する為に必須な技術がデジタルツインである。
なおデジタルツインとは、仮想空間、つまりコンピュータやサーバ内のデジタル空間に、リアルの現実プラントとそっくり同じもの、つまり双子、ツインとして構築して活用するということであり、将来のプラントでのDXの中心になるものである。現在、このデジタルツインについては定義がバラバラであり、本稿では図 5-1に示す通りの整理をしておきたい。なお、デジタルツインは、CPS (Cyber Physical System)とほぼ同意義である。

図 5-1 フィジカル系とダイナミック・プロセス系
のデジタルツイン

デジタルツインは、プラント現場のリアルな外観形状をそのまま再現したフィジカル系と、プロセスプラントのリアルな内部状態をそのまま再現したダイナミック・プロセス系の2つに分類できる。また、その両方のデジタルツインを融合し、更にAIを活用することにより、保全計画・管理における機器の保全状態の判定、余寿命診断、配管肉厚予測、計器故障の通知などが可能になる。
一方、生産計画・保安管理においては、プラント全体でのリスク状態提示や、運転条件アドバイスや、OTサイバーセキュリティ上の監視などが実現可能になる。
将来、プラントでのデジタルツインを構築し運用していると言う場合は、本当はこのような機能までも駆使できていないと、デジタルツインが持つ高いポテンシャルを活用しているとは言えない。

5.2 3D保安高度化プラットフォーム
そのフィジカル系でのデジタルツインについての事例を一つ紹介する。弊社は、2017年度、2018年度に、国内の石油会社殿のご協力の元、NEDO委託事業を推進し、図 5-2の通り、3D保安高度化プラットフォームを構築した。対象は製油所における蒸留塔の周りである。
数百箇所のレーザスキャンを行って点群データをつくり、3D CADプラントモデルを作成した。
3D CADプラントモデル上に全ての機器・配管・計器番号や検査箇所番号などを明示し保全・検査・機器図面などの既設データ管理システムと連携することで、プラントデータ統合を実証した。


図 5-2 3D保安高度化プラットフォーム4)

当時は、まず3D CADモデルを軸にしたデータ統合連携を進めて行く考えであった。しかし、新旧問わず全てのプラントへの展開を現実的に行うべく、3D CADモデルが無くともプラントデータを統合可能とする、仮想プラント・デジタルツイン/CPS(Cyber Physical System)を構築できる技術が必要となってきており、弊社では次に説明するMirai Fusionソリューションの提供を行っている。
なお、弊社は海外プラント建設プロジェクトにおいて、20数年前より3Dモデルを設計の中心に据え、更に資材調達並びに現場建設工事も含めて3Dモデルにリンクさせて活用してきており、それがもたらす多大な価値をよく理解している。
こうした経緯からも、3Dモデル技術はプラント建設時のみならず、プラント操業(運転/保安/保全)においても同様に、将来に向けて無くてはならない不可欠なインフラになると考えている。


5.3 Mirai Fusionソリューション
現在、弊社ではプラント向けデジタルプラットフォームソリューションである「Mirai Fusion」の提供を行っている。Mirai FusionはプラントDXの全体構想・データ統合・アプリケーションの開発・提供までを網羅したサービスであり、データ統合プラットフォームとして、Cognite社のCognite Data Fusion技術を採用している。
既にプラントで利用されている様々な操業データやITデータソースとの連携を容易にするためのコンテキスト化機能を持つことが最大の特徴である。このMirai Fusionは、先ほど説明した3D モデルを中心としたインフラがカバーするデータ統合範囲を更に拡げてのインフラである。なお、コンテキスト化機能とはプラントで利用されている様々な操業データやITデータソースとの連携を容易にするために不可欠で重要な機能である。


図 5-3 Mirai Fusion
(デジタルソリューション)全体像

既に世の中には、デジタルツイン構築を行う為の、様々なシステムが登場している。それらのシステムを活用するにおいても、このデータの紐づけ作業は必須であり、この作業の為に膨大な時間とコストが掛かってしまっている。またシステム構築後も追加変更、更新は頻繁に行われるが、そのたびに、データの紐づけを人手でやり直す必要が生じ、この作業にも相当な時間を要する。よって、このデータの紐づけ作業を行う際に、AIを活用しての手間を省力化する機能が備わっていれば、手作業をミニマムにできる。
弊社はこの点から、Cognite社のコンテキスト化機能は非常に有益だと評価しており、プラントデータ統合、特に既設プラントで既に利用されている膨大な量のデータ統合を最短時間で実施するには不可欠な機能であると判断して採用している。


5.4 プラント・デジタルツイン環境下での
  ロボティクス活用

図 5-4 弊社・新子安パイロットプラントでの
京大ロボット走行&操作実証

弊社は、プラントにおけるロボティクスの活用は、まずはプラント内の自律巡回監視から進めるべきと考え、2019年より、京都大学・松野研究室と共同での検討を進めてきた。京大松野研では、長年、災害時のレスキューロボットを研究&開発してきており、そのロボットを用い、恒常的な自律巡回監視と、緊急時対応のデュアルユースを目指している。
弊社の子安研究開発センターにおけるパイロットプラント内において、京大ロボットの巡回移動や階段昇降移動、また手動操作バルブをロボットによる開閉作業も十分に行えることを実証した。またロボットがプラント現場において、自律巡回監視の作業を進めていく際に、その全体システムおよび現場ロボットとデジタルツイン側との間での様々なデータのやり取りを示したのが図5-5である。

図 5-5 ロボット自律巡回監視の為の
全体システム基本構成

ロボット自律巡回監視中に、AIが何か異常と判断した場合や、緊急事態が起きた場合は、ロボットのリモート操作を異常時対応モードに即時に切替え、中央制御室内のボードオペレータに状況を伝え、その後は、オペレータからの口頭指示に従っての異常状態対応のリモート指示をAIがロボットに出す。
通常時は、プラント現場で様々なロボットが自律巡回監視を行うべく、現場ロボットとデジタルツインは常時双方向通信を行っている。自律巡回監視の作業内容をロボットに指示し、ロボットから送られてくる現場データをデジタルツインにアップロードする。一方、異常時には緊急対応モードに即座に自動で切り替わるデュアルユース利用を標準とする。
これらに対応して、現場のロボットとデジタルツイン環境を連携するためには、プラント業界で共通となるミドルウェアの開発が必須である。よって昨年度、経済産業省NEDO-SBIR(Small Business Innovation Research)補助金事業公募で、ヴァレンシア社が、ロボット(現場)とデジタツルインを連携するミドルウェア技術開発で採択された5)。弊社は京都大学・東北大学と共に連携して、本ミドルウェアの開発を支援し、プラント現場でのロボティクス活用の標準化と促進に貢献していきたいと考えている。

5.5 次世代プラント操業無人化への貢献
石油化学プラントの現場オペレータは豊富な経験から、五感を働かせての異常の前兆を感知して対応することで、プラントを安全かつ高品質を維持して操業を続けてきた。しかし、ベテランオペレータが年々減少し、かつ、プラントの高経年化によるリスクの更なる増大で、その対策が早急に求められている。
解決策として最新IoTセンサー新規導入を立案しても、老朽化したプラントへの新規投資はなかなか出来ないというのが実情である。理由は、老朽化したプラントでは漏洩等が疑わしい箇所は非常に数多くなり、新規センサ設置での膨大な出費は到底受け入れられ難く計画は頓挫してしまう。
しかし、『デジタルツイン環境下におけるロボットによる自律巡回監視』が実現すれば、本課題の根本的な解決が可能である。つまり日々のプラント巡回監視において、プラント・デジタルツイン環境下でのロボティクス活用が、従来からのベテラン・オペレーターの五感と判断での現場巡回監視作業に置き換われれば良い。プラント現場を動き回る複数ロボットに搭載された最新のIoTセンサーでプラントの安全を監視し、更にデジタルツイン上のAIとの連携で運転・保全を最適化することが可能になる。


図 5-6 ロボティクス活用による
次世代プラント操業無人化

更に、デジタルツイン環境もロボットの両方ともサブスクやリースでのサービス提供となることで、ソフトウェアは常に最新にアップデートされていることが約束されるだろう。つまり従来はプラントの固定資産であったセンサ監視システムが、流動資産として運用されていく新たなDX時代を迎えることとなる。
デジタルツイン環境下でのロボティクス活用は、プラント業界の共通課題であったベテランオペレータ不足、プラント老朽化リスク、そして固定設備への投資困難を、根本的に解決する事になり、プラント業界における大きな一つのDXであろう。

6.将来のプラント操業の姿
弊社では、前述した通りAI&デジタル技術を活用し、データ統合でのデジタルツインを中心とした次世代プラント操業は図 6-1のようになると考えている。クラウド上に構築した仮想プラント・デジタルツインを中心にし、例えばプラント現場ではIoT、ロボティクスの活用が浸透し、故障や異常はAI予測により未然に防がれる。


図 6-1 デジタルツインによる次世代プラント操業
また協力会社、各ベンダーや、官庁等の関連ステークホルダーとデジタルでの深い相互連携が一層進むであろう。更にDX化された企業グループ同士での新たなデジタルビジネスが醸成される流れとなり、次世代のDigital Ecosystemが生まれてくる。近い将来、従来コストセンターであったプラントや製造現場は、DXを推進した結果として、世の中の変化に迅速に対応して収益を生み出すプロフィットセンターに変わっていくだろう。

参考文献
[1] 資料2-2 高圧ガス保安分野 スマート保安アクションプラン概要(案)、スマート保安官民協議会・高圧ガス保安部会/令和2年7月10日、https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200710009/20200710009-
4.pdf
[2] METI/プラント保安分野におけるドローンの安全な活用の促進に向け、「ガイドライン」と「活用事例集」      https://www.fdma.go.jp/relocation/neuter/topics/fieldList4_16/jisyuhoan_shiryo.html
[3] METI/プラント保安分野AI信頼性評価ガイドライン、改訂の概要
https://www.fdma.go.jp/relocation/neuter/topics/fieldList4_16/jisyuhoan_shiryo.html
[5] 3D保安高度化プラットフォーム(NEDO委託事業 平成29&30年度)http://www.nedo.go.jp/content/
100868554.pdf
この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業の結果得られたものです。
[6] METI/NEDO/SBIR 推進プログラム 2022 年度 実施予定先一覧
https://www.nedo.go.jp/content/100952770.pdf
(2023年5月22日)

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