もんじゅ廃止措置の動向 ~ その1 もんじゅ廃止措置第1 段階の完遂 ~
公開日:1.はじめに
2018年から開始された高速増殖原型炉もんじゅにおける廃止措置は、廃止措置第1段階の主要工程となる2次系ナトリウムの抜取り・固化及び燃料体取出し作業を完遂し、2023年度より廃止措置第2段階へ移行した。
本稿は、「もんじゅ廃止措置の動向 その1」として、もんじゅ廃止措置計画及び廃止措置第1段階の概要を説明する。なお、もんじゅ廃止措置第2段階における取組については、その概要と廃止措置の進捗に伴い変化する性能維持施設の見直しとそれに合わせた保全プログラムの構築について次号にて解説する。
2.もんじゅの沿革と廃止措置までの経緯
もんじゅは、電気出力28万kWのプルトニウム・ウラン混合酸化物燃料を用いるループ型ナトリウム冷却高速増殖炉の原型炉であり、高速増殖炉の商用化に向けた日本で初となる原型炉として、高速増殖炉の実用化に向けた推進力となることを目的に開発された(図1)。
図1 高速増殖原型炉もんじゅ
もんじゅ建設は、1985年の本格着工から約5年半をかけて行われ、1991年には機器据付が完了し、冷却材であるナトリウムの系統充てん後、1993年から炉心燃料の装荷を開始、1994年に初臨界を迎えた。1995年8月には40%原子炉出力を達成し、高速炉としては国内初の発送電を行うことができたものの、同年12月の40%出力運転中に2次系配管(温度計)からのナトリウム漏えい事故が発生、事故の原因究明、安全総点検、耐震評価などを行うとともに、ナトリウム漏えい対策強化を含めた改造工事を行い、およそ14年半の期間を要して、2010年にゼロ出力での性能試験を再開した。その後、40%出力試験に向けた燃料交換後の8月に炉内中継装置を落下させ、その復旧に取り組んでいる最中の2011年に東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生し、長期間の停止を余儀なくされた。さらに2012年に保守管理不備問題が明らかとなり改善活動に取り組んでいたが、2016年12月の原子力関係閣僚会議において、もんじゅは廃止措置に移行するとの方針が決定されたことを受け、原子炉等規制法に基づき、2017年12月に原子力規制委員会へ廃止措置計画認可の申請を提出し、2018年3月にもんじゅ廃止措置計画と原子炉施設保安規定の変更が認可された。
3.もんじゅ廃止措置計画【1】
もんじゅの廃止措置は、ナトリウムを冷却材として使用している高速炉として日本国内で初めてのプロジェクトであるとともに、他の廃止措置プラントと異なり、燃料が装荷された状態から廃止措置へ移行するものとなった。もんじゅは、2018 年から廃止措置に移行し、約30 年を経て廃止措置を完了する計画である。
廃止措置の工程は、「図2 もんじゅ廃止措置全体工程」に示すように、廃止措置第1段階の燃料体取出し作業から始まり、汚染の分布に関する評価、放射性固体廃棄物の処理・処分、廃止措置第2段階のナトリウム機器の解体準備及び水・蒸気系等発電設備の解体撤去、第3段階のナトリウム機器の解体撤去、第4段階の建物等の解体撤去までの4段階の工程を経ることとしている。
4.廃止措置第1段階の実施内容と実施結果
4.1 運転停止に関する恒久的措置の実施
もんじゅの廃止措置への移行に際しては、まず、原子炉を起動することができないよう運転停止に関する恒久的な措置を講ずる必要がある。そこで、炉心からの燃料体取出し開始までに、原子炉モードスイッチを「運転」及び「起動」に切替えできないよう機械的措置を講じるとともに、挿入されている制御棒を炉心から引き抜くことができなくするために制御棒と制御棒駆動軸を機械的に切り離し、さらに制御棒駆動装置への電源供給ケーブルを切り離す措置を講じた。
4.2 2次系ナトリウムの抜取り・固化【2】
もんじゅは、2項でも述べたようにナトリウム冷却高速炉であり、図3に示すように炉心の熱除去のため1次系、2次系のナトリウムによる冷却システムで構成されている。
ナトリウムは、冷却材として優れている反面、化学的に活性であるため、廃止措置段階において液相の状態で施設内に広く保有することは、ナトリウム漏えいの発生リスクを高めることになる。
もんじゅの廃止措置開始時点での炉心の崩壊熱は、保守的に想定しても30kWであり、強制冷却が不要なレベルであった。また、1次系ナトリウムについては、燃料体の取出し作業上、原子炉容器液位を確保する観点から必要となるが、2次系ナトリウムについてはその必要性もなく、ナトリウム漏えいの発生リスクを低く抑えるためにもタンクにドレンし、貯蔵・固化しておくことが望ましい。そこで2次系ナトリウムの漏えいの発生リスクを低減するため廃止措置第1段階において、2次主冷却系設備、補助冷却設備、2次ナトリウム補助設備及び2次メンテナンス冷却系設備のナトリウムを既設のオーバフロータンク及びダンプタンクにドレンすることとした。
もんじゅは、A系からC系までの3ループ構成となっているが、運転段階の系統保守時には2ループ分のナトリウムを既設タンクにドレンする想定のもと既設タンクの容量は3ループ分のナトリウム量より少ない設計となっている。そのため、3ループ分のナトリウムをドレンし、固化、保管するために新たに「2次冷却材ナトリウム一時保管用タンク」を2基設置した。
2次系ナトリウムのドレン手順として、2ループ分(Aループ、Cループ)のナトリウムを既設タンクに一旦ドレンしたのち既設タンク内の一部(約40m3)のナトリウムを一時保管用タンクに移送し、残りの1ループ分(Bループ)のナトリウムを既設タンクにドレンした。ナトリウムの固化を含めてこれらの作業を2018年12月に完了し、2次系からのナトリウム漏えいリスク排除という目標を達成した。
4.3 燃料体取出し作業【2】、【3】
廃止措置段階に入ったもんじゅの最大のリスクは、ナトリウムと使用済燃料が原子炉内や炉外燃料貯蔵槽内で共存することであり、ナトリウムと水による水酸化反応や酸化反応により発生する水素と反応熱によるナトリウム火災との重畳による燃料破損リスクを出来るだけ速やかに排除する必要があった。
もんじゅ廃止措置第1段階においては、炉心及び炉外燃料貯蔵槽(以下「炉心等」と称する。)から燃料体を取り出す作業(以下「燃料体取出し作業」と称する。)が第一義的課題とされた。もんじゅの燃料体取出し作業は、燃料体を原子炉容器から炉外燃料貯蔵槽へ移送する「燃料体の取出し」と炉外燃料貯蔵槽から燃料体を取出して洗浄し燃料池へ貯蔵する「燃料体の処理」があり、炉外燃料貯蔵槽の貯蔵容量から2つの作業を交互に行う必要があった。また、取出し作業を完了するまでは、もんじゅの炉心等に燃料体が1体以上装荷された状態にあり、運転段階と殆ど変わらない保全計画に基づく定期点検とそれにともなう事業者検査が年度周期で実施される。このため、点検計画に燃料体取出し及び処理時期を組み込んだ工程(図4)にて実施した。
さらに、燃料体の取出しでは、原子炉容器から燃料体を取り出した後に同形状の模擬燃料体を装荷してきたが、模擬燃料体の挿入異常の発生リスク排除と将来の放射性廃棄物の発生低減等の観点から、2022年度(令和4年度)の第4キャンペーンの原子炉容器に残る124体の取出しでは、図5に示すとおり一部の模擬燃料体(124体)を装荷しない「部分装荷」を行うこととした。
「部分装荷」では、燃料体は水平方向の六角形のうち3辺で他の燃料体と隣接することになるが、もんじゅは、運転履歴が非常に短く、照射や熱クリープによる燃料体の変形が殆どないこと、地震時においても燃料体変形、浮き上がりや飛び出しによって燃料棒や炉内構造への影響がないこと、燃料体を支持している箇所のクリアランスによる燃料体頂部の傾斜が既設の燃料交換装置の設計想定範囲内であることから、2020年(令和2年)6月の廃止措置計画変更認可において、「部分装荷」の安全性が確認されている。
これらの計画に基づき、2018年度から燃料体取出し作業を開始し、2022 年10月に炉心に装荷されていた370 体と炉外燃料貯蔵槽に保管されていた160 体の合計530 体の燃料体取出し作業を完了した。
4.4 汚染の分布に関する評価【4】
汚染の分布に関する評価は、放射線業務従事者及び周辺公衆の被ばくを低減することと解体撤去工事に伴って発生する放射性廃棄物の発生量を評価することを目的に廃止措置対象施設に残存する放射性物質の種類、放射能及び分布を評価する。
廃止措置対象施設に残存する放射性物質は、原子炉運転中の中性子照射により炉心部等の構造材が放射化して生成される放射化汚染と放射化された構造材が冷却材中に溶出して生成される腐食生成物が機器及び配管内部などに付着して残存する二次的な汚染とに区分されるため、両者を分けて評価を行っている。
4.4.1 放射化汚染の評価
放射化汚染は、中性子束分布及び放射能濃度の計算による方法とその計算の妥当性を確認するためのサンプリング測定による方法で評価する。
中性子束分布は、計算コードにより行い、放射能濃度は、計算で得られた中性子束分布を基に構造材の元素組成及び照射履歴を考慮して、構造材ごとの放射化汚染の放射能を計算コードによって算出する。なお、計算に用いるコードは、高速炉プラントでの解析実績があり、軽水炉の廃止措置においても放射化汚染の評価で一般的に使用されているものを用いて進める。
廃止措置第1段階では、廃止措置第2段階に実施する詳細な計算を行うための準備として中性子束分布及び放射能濃度を計算により評価するための入カデータとして必要となる原子炉の運転履歴や設計情報を整理するとともに構造材の元素組成分析を実施し、設計情報を補足する情報の調査を行い中性子束分布及び放射能濃度の計算による放射化汚染の放射能の試算を実施した。その結果、図6に示すようにもんじゅにおける高い放射能濃度は、炉心周辺に限定されることが分かった。
図6 放射化汚染の評価結果
今後、廃止措置第2段階では、構造材の元素組成分析を実施した結果を入カデータに取り込み、放射化汚染の計算による方法の評価の精度向上を図る。また、計算の妥当性を確認するためのサンプリング測定については、第2段階で取出す中性子しゃへい体より試料を採取し、分析することで検討を進めて行く。
4.4.2 二次的な汚染の評価
二次的な汚染は、機器や配管の外部からγ線の測定を行うとともに、施設を構成する配管及び機器の材料組成を考慮して腐食生成物中の核種組成比を計算又は測定によって評価する。
もんじゅでは、管理区域内における区域区分を適切に管理するため、電離箱式サーベイメータを用いて管理区域全域(立入りのできない原子炉容器室等は除く計316箇所)の線量当量率測定を毎月実施しており、電離箱式サーベイメータの検出限界値である1µSv/hを超える測定箇所はなく、放射線管理区域の設定基準である2.6µSv/hと比較して十分に低い値で管理区域が維持されている。そこでより詳細な汚染状況についての評価を行うため、検出感度が高いNaI (Tl)シンチレーションサーベイメータや可搬型Ge半導体検出器を用いて、二次的な汚染の評価を行うこととした。
その結果、測定された表面線量率の最大値は 0.44µSv/hであり、放射線管理区域の設定基準である2.6µSv/hと比較して十分に低い値であった。また、この値は、一般的な原子炉の廃止措置で実施される解体工事前の汚染の除去後よりも、十分に低い値であることから、機器・配管等の内面に残存している二次的な汚染は小さいことを確認した。
4.まとめ
もんじゅの廃止措置第1段階では、先ず既存の燃料取扱設備を用いて燃料体をナトリウム中から取出し、大規模なナトリウム火災との重畳による燃料破損リスクを出来るだけ速やかに排除することを最大の目標とした。しかし、もんじゅは、本格的な運転経験が乏しく、連続した燃料体取出し作業は初の経験であったことから、円滑に作業を遂行するために、安全及び工程に影響を及ぼすリスクを検討し、事前対策を講ずることで廃止措置第1段階を無事完遂することが出来た。
もんじゅ廃止措置は、2023年度より第2段階へ移行した。廃止措置第2段階は、第3段階からの本格的な廃止措置(ナトリウム機器の解体撤去)に向けての準備期間と位置付け、ナトリウムの搬出作業と炉容器内に残るしゃへい体等の取出し作業を進めることとしている。また、廃止措置第2段階ではこれら多岐にわたる作業と合わせ、第2段階期間中の施設安全確保のための設備点検・検査等が工程上、要員上の競合関係となることから、各課題の進捗に合わせ資源配分を最適化することを念頭に廃止措置第2段階を計画的に進めて行くこととなる。
参考文献
[1] 成瀬 恵次、松井 一晃、小幡 行史、澤崎 浩昌、後藤 健博、城 隆久 "「もんじゅ」廃止措置第2段階(1)「もんじゅ」廃止措置計画全体像における第2段階の位置付け" 日本原子力学会 2023年秋の大会
[2] 西野 友貴、倉本 新平、成瀬 恵次、西野 一、後藤 健博、竹内 徹 "「もんじゅ」廃止措置第2段階(2)「もんじゅ」ナトリウム保有リスクの低減" 日本原子力学会 2023年秋の大会
[3] 伊藤 健司、近藤 哲緒、中村 保之、松野 広樹、長沖 吉弘、佐久間 祐一 "ふげん及びもんじゅの廃止措置への取組みについて"デコミッショニング技法 №63 2022
[4] 花木 祥太朗、眞下 隆太朗、南里 朋洋、林 宏一 "「もんじゅ」廃止措置第2段階(4)「もんじゅ」汚染の分布に関する評価" 日本原子力学会 2023年秋の大会
(2024年2月20日)08:00: