ISEM 2023, Hachioji Tokyo の会議報告

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カテゴリ: 解説記事

1.ISEM概要

International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics(ISEM/電磁現象応用国際シンポジウム)は、1988年に東京で第1回が開催された日本発祥の国際シンポジウムである。初回のシンポジウムは、電磁気学と機械工学の分野における新しいアイデアや技術の交流を促進する場として設立された。その後、日本国内で7回、フランスで2回、イタリアで2回、中国で2回、韓国、イギリス、ドイツ、オーストリア、アメリカ、カナダでそれぞれ1回開催された。

ISEMには、世界中から研究者、技術者、産業関係者が集まり、電磁気学と機械工学の幅広い分野にわたる最新の研究成果や技術の進展について発表されてきた。これには、電磁気学の応用、電磁波の相互作用、電気機械、磁気材料、センサ技術、非破壊検査、制御工学などが含まれる。これまでのISEMには、基調講演、特別講演、招待講演、ポスターセッション、特別セッションなどが含まれており、これらのセッションを通じて、参加者は最新の研究トピックについて議論し、さらに、産業界との連携を強化し、研究成果の実用化や技術革新の促進を重要な目標としている。

ISEMは、その国際的な影響力と高い学術水準により、世界中の研究者や産業関係者にとって重要なイベントであり続けており、シンポジウムで発表された研究成果は、International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics (IJAEM)、IOS Pressの特別号に掲載され、学術界や産業界の発展に寄与している。

2.ISEM 2023概要

21st International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics (第21回 電磁現象応用国際シンポジウム)ISEM 2023は、2023年11月12日から15日にかけて、東京都八王子市にある東京都立多摩産業交流センター(東京たま未来メッセ)で開催された(図1参照)。

ISEM 2023は筆者である東京工科大学の生野が現地実行委員長となり、東京工科大学、日本AEM学会、日本電気学会、日本保全学会、公益社団法人八王子観光コンベンション協会の後援を賜り運営された。

申し込み論文数は236件あり、227件の論文が採択された。参加者は、日本から130人、中国から88人(同伴者5人含む)、アメリカから6人、韓国から5人、フランスから3人(同伴者1人含む)、イタリア、ポルトガルから各2人、ハンガリー、ポーランド、ベトナムから各1人と、世界中から合計239人が集まった。

図1 会期中の東京たま未来メッセエントランス

図2 参加者集合写真

3.ISEM2023開催内容

3.1 分野内訳

前回のISEM2022から引き続き、発表の分野として「電磁非破壊評価と高度信号処理」と「電磁デバイスの解析とシミュレーション」が多くの講演数となっているものの、「電磁デバイスに関する最適化」や「センサー、アクチュエータ」の分野も増加していることは、昨今の科学技術分野の世界的な流れを象徴しているのではないかと考えられる(表 1参照)。

ISEM2023では、口頭発表の件数を絞り、時間を掛けて議論できるポスター発表の件数を増やして実施した。結果として、特別講演1件、チュートリアル講演1件、基調講演1件、特別セッション4件、口頭講演60件(招待講演3件含む)、ポスター発表165件、合計232件の発表が行われた。

表1 分野ごとの発表件数

3.2 特別講演と基調講演

特別講演では、Plenary Talkとして日本電気株式会社の白根真之先生をお招きし、「NEC's Activities in Quantum Computing Technology」のご講演を賜った。量子コンピューティングは、量子力学の性質を利用した技術であり、近年精力的に研究が行われている研究分野である。量子優位性は従来のコンピュータが解決できない問題を解決する能力を示しており、現在の量子コンピューティングは、ノイズのある中規模量子(NISQ)時代であり、100キュービット程度の量子回路のノイズが信頼性に影響を与えている。そのため、量子コンピュータの研究者は、エラーを減らし、完全に耐障害性のある量子コンピュータ(FTQC)を実現するための取り組みを行っているが、実現には10年以上かかると予想されている。一方、量子アニーリング(QA)は、量子揺らぎを利用して最適化問題を解決するプロセスであり、社会問題の解決に役立つ可能性があり、NECなど複数の企業がQA技術を開発していることから、昨今の量子コンピューティングの現状と将来の展望に関するご講演内容となった。

基調講演では、Keynote & Tutorial Talkとして、Ansys Japanの藤井明先生とUniversità degli Studi di Cassino e del Lazio MeridionaleのAntonello Tamburrino先生をお招きし、昨今世界的に注目されている分野であるデジタルツイン技術についてのご講演、トモグラフィーと材料設計のための高速逆問題解法についてのご講演をそれぞれ賜った

Keynote Talkでは、藤井先生から、昨今世界的に注目されている分野であるデジタルツイン技術について「Digital Twins with Physics-Based Modeling」という題目でご講演を賜った。デジタルツインとは、指定された頻度と信頼性で同期された、現実世界の実体やプロセスの仮想表現である。デジタルツインにおける物理ベースのシミュレーションに基づくアプローチは、物理的な値を予測することができるため、産業機器のデジタルツインシステムにおいて、予防保守や最適な運用を実現することが可能である。また、機械学習技術を活用した物理ベースのツインモデルの主要な技術についてもご発表を頂いた。

Tutorial Talkでは、Tamburrino先生から「Fast Inversion Methods for Tomography and Material Design」という題目で、実時間のソフトフィールドトモグラフィーと電磁材料設計の分野で行った最も重要な貢献の検討と新しい研究方向についてのご報告があった。具体的には、

 単調性原理に基づく画像化手法の紹介(高性能、実時間の操作、非線形材料の存在を扱う能力の組み合わせ)。

 電気抵抗トモグラフィーに対する新しい非反復型逆問題解法、カーネル法の紹介。

 電磁場の枠組みにおける新しい材料設計パラダイムの紹介。

であった。

いずれのご発表も、ISEMがカバーする昨今の最先端の研究分野であり、多数の聴講者が参加し活発な議論が行われた。

図3 白根先生のご発表

図4 藤井先生のご発表

図5 Tamburrino先生のご発表

図6 Keynote、Tutorial Lectureの感謝状授与式の様子

3.3 一般講演とスペシャルセッション

口頭発表60件(約25%)、ポスター発表165件(約75%)であり、口頭発表の中には、査読過程で非常に高評価であった3件の招待講演を含んだ。極力多くの参加者に聴講できるよう口頭発表は同時刻に3セッション形式で開催した。

ISEM 国際委員長をこれまで長きに渡り勤めてこられた東北大学の高木敏行先生が、ISEM 2023においてUniversità degli Studi di Cassino e del Lazio MeridionaleのA. Tamburrino先生に交代されるとのことで、その功績を称え、スペシャルセッションを開催した。本セッションでは、NAVIGATING ELECTROMAGNETIC NONDESTRUCTIVE EVALUATION: INSIGHTS FROM THE ISEM JOURNEYというタイトルで、高木先生にご発表頂き、また、中国の西安交通大学のZhenmao Chen先生、ミシガン州立大学のSatish Udpa先生、東北大学の内一哲哉先生ら3名のご発表を賜った。

図7 ポスター発表の様子

4.懇親会

ISEM 2023の会期中3日目(2023年11月14日)の全てのセッションが終了した後、東京工科大学八王子キャンパスの片柳研究所棟のバンケットルームで懇親会を開催した。懇親会では、八王子市に在籍する芸者衆に来会頂き、伝統的な舞をご披露頂いた。

また、懇親会の中では、ISEMの創設者である宮健三先生のお名前が由来であるMiya AwardとAEM Awardの授賞式も開催された。それぞれの受賞者と受賞理由は下表の通りである。

表2 Miya AwardとAEM Awardの受賞者

図8 懇親会の様子

5.総括

第20回のISEM 2021はギリシャのテッサロニキで開催される予定だったが、新型コロナ感染症の世界的な蔓延のため、1年延期の処置が取られたが、状況は変化せず最終的にオンラインでの開催になった。ISEM 2023では、当初、オンサイト、オンラインのハイブリッド開催も視野に入れ開催準備に取り掛かったのだが、参加募集開始の2023年4月の段階で海外からの渡航者制限が緩和されたこともあり、オンサイトのみでの開催に踏み切った。結果として、世界各国から239名の参加者を東京都八王子市にお迎えすることが可能となったのは、非常に喜ばしいことである。

ISEM 2023を東京都八王子市で開催するにあたり、誘致の段階から公益社団法人八王子観光コンベンション協会のご助力を賜った。当協会のMICE事業のMICE開催助成金制度を利用させて頂き、ISEM 2023の開催会場である東京たま未来メッセの利用料金や、バンケット会場東京工科大学八王子キャンパスと東京たま未来メッセ間の貸切バス料金、八王子芸者衆の演舞招致、参加者配布の八王子織物ランチョンマットなど様々なご支援を頂いたことをここに感謝申し上げる。

また、公益財団法人東京観光財団より、多摩地域でのMICE開催資金援助として、海外からの参加者向けに羽田・成田空港と八王子駅間の無料送迎バスを運行した。本件に関しても感謝を記したい。

なお、ISEM2023での発表論文は、査読を経て、International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics (IJAEM)、IOS Pressの特別号に掲載される予定となっており、現在査読作業が進行中である。

次回の22nd International Symposium on Applied Electromagnetics and Mechanics (第22回 電磁現象応用国際シンポジウム)ISEM 2025は、2025年7月1日から4日に米国のミシガン州立大学において、Ming Han教授、Yiming Deng教授らによって開催されることが決定している。また、International Workshop on Electromagnetic Nondestructive Evaluation (ENDE)2025が2025年7月7日から10日にかけて、米国テネシー州ノックスビルで開催されることになっている。

筆者にとって、初めての大きな国際会議を開催する機会を与えて頂いた先生方、また、開催準備をサポートして頂いた多くの方々、ISEM 2023へ参加をして頂いた参加者の皆様に感謝を申し上げて、本稿の末筆とする。

(2024年3月1日)

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