日立GEにおける小型軽水炉開発への取組み
公開日:1.はじめに
低炭素社会の実現に向けて世界各国で2050年頃に二酸化炭素排出量を実質的にゼロにする政策が取られる中、原子力発電は安定したゼロエミッション電源として改めて評価されている。2023年12月のCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議)では、パリ協定で示された目標(世界の平均気温を産業革命以前との比較で+1.5℃以下に抑える)達成に向けて、世界の原子力発電所の設備容量を3倍に増加させることを目指す宣言に、日本をはじめとする22か国が合意した。
日立GEニュークリア・エナジー(日立GE)は、沸騰水型軽水炉(BWR)を50年以上にわたり継続的に建設してきた実績があり、これまでに培った技術を基に、建設コスト低減による初期投資低減、使用済み燃料の放射能有害度低減を実現することで、原子炉を長期的な安定電源として活用することを原子力ビジョンとしている。この原子力ビジョンを実現するため、4つの新型炉(図1参照)の開発を進めている。Highly Innovative ABWR(HI-ABWR)は国際標準ABWR設計をベースに新たな安全メカニズムを組み込んだ大型革新軽水炉、BWRX-300は隔離弁一体型原子炉の概念によりスケールデメリットを克服した経済性の高い小型軽水炉、PRISMは金属燃料や空冷の除熱系の採用により固有の安全性を実現するナトリウム冷却高速炉、RBWRは軽水冷却で高速中性子の活用を可能とする軽水冷却高速炉である。
本報では、これら4つの新型炉の内、高経済性小型軽水炉BWRX-300について、その特長や、実用化に向けた日立GEの取組み、市場性について記載する。
2.高経済性小型軽水炉BWRX-300の特長
2.1 BWRX-300の概要
自由化された電力市場における発電プラントには、発電コストの低減とともに、資本費の抑制による投資リスクの低減も求められる。このような背景のもと小型軽水炉が世界的に注目されており、日立GEは米国の姉妹会社GE Hitachi Nuclear Energy(GEH)社と協調し、高度な安全性を維持した上で経済性を向上した小型軽水炉BWRX-300の日米共同開発を進めている。
表1にBWRX-300の主要な仕様を、図2に原子炉周りの機器の実績を示す。BWRX-300はBWR型の、電気出力300MW級の小型炉である。運転圧力や温度は既存のBWRと同等であり、図2に示すように原子炉周りの主要機器は実績のある技術で構成されている。また、燃料は海外で多数の実績がある燃料(GNF2燃料)を、そのまま利用することができる。イノベーションを追求しつつ、実績のある技術を活用することで、開発リスクおよび許認可リスクを最小化し、早期の市場投入が可能となる。
BWRでは、原子炉圧力容器(RPV)内で冷却材を再循環させることで、炉心・燃料の冷却性能を高めているが、BWRX-300では自然循環力による再循環を採用しており、再循環ポンプも不要な設計となっている。自然循環を実現するため、図2に示すように炉心上部に自然循環力を向上するための構造物であるチムニを設置している。自然循環による炉心冷却や、チムニについては、米国で設計認証を取得済みのESBWR(Economic Simplified BWR)で、設計・許認可実績があるが、BWRX-300ではチムニのさらなる簡素化を目指して、ESBWRのチムニから形状を変更する計画である。そのため、追加のチムニ性能確認試験を実施している。チムニ性能確認試験については3章にて説明する。
表1 BWRX-300の主要仕様
図2 原子炉周り機器の実績
2.2 BWRX-300の安全設備の特長
BWRX-300の安全設備の概要を図3にまとめて示す。一般的に小型炉にはスケールデメリットがあり、大型炉に比較して経済性が劣ると言われる。これは例えば、流量が半分のポンプであっても、価格は半分まで下がらないことに起因しており、同じシステムとすることを前提としている。そこでBWRX-300では、システムがシンプルであるというBWRの特長を活かして、プラントシステムの簡素化を更に追及することでスケールデメリットの克服を目指した。その結果、図3左下に示す「隔離弁一体型原子炉」の概念の採用へと至った。従来のプラントでは、隔離弁はRPVから離れて設置されていたが、BWRX-300は小型炉であるため隔離弁を小型化・軽量化でき、隔離弁をRPVに直付けする設計が可能となった。このような構成とすることで、冷却材喪失事故(LOCA)の原因となる配管の破断部(配管溶接部)を隔離弁よりも外側に限定でき、隔離弁を閉止すれば冷却材の喪失を停止できる。その結果、LOCAを隔離弁が閉止するまでの短い時間に限定することができた。隔離弁閉止後は、図3右上に示す静的安全系(非常用復水器)により崩壊熱を除去(原子炉を冷却)する。非常用復水器は、RPV内で発生した蒸気を、格納容器外の上部にある大容量プール内に設置された熱交換器に導き、プール水への放熱により蒸気を凝縮し、凝縮した水をその自重(自然循環力)でRPVに戻す安全設備である。通常時は閉止している起動弁を開放するだけで、その後は交流電源無しに、上記の自然循環により継続して崩壊熱を除去することができる。BWRX-300は3系統の非常用復水器を設置しており、その内の1系統が動作すれば十分な徐熱量を確保でき、7日間はプール水の補給や運転員操作無しに動作を継続できる設計となっている。このような先進的な概念を採用することで、安全性を高めつつ、非常用炉心冷却系ポンプなどの大型機器を不要とするとともに、原子炉建屋や原子炉格納容器を大幅に小型化できる見通しを得ている。プラントシステムの簡素化は機器点数削減による信頼性の向上や、運転・保守費の低減、そして廃炉時の廃棄物量の低減にもつながる。
図3 BWRX-300の安全設備の概要
3.BWRX-300実用化に向けた
日立GEにおける取組みの一例
日立GEは米国GEH社のパートナーとして、BWRX-300の共同開発を行っている。日立GEにおける取組みの一例として、日立GEが所有する世界最大規模のBWR実温実圧試験設備であるHUSTLE(Hitachi Utility Steam Test LEading facility)を用いたチムニ性能確認試験について紹介する。
図4にHUSTLE試験設備の概要を示す。HUSTLE試験設備の定格運転圧力はBWR実機と同じ7.2MPaであり、蒸気と熱水を個別に制御して試験部に供給し、蒸気-水の二相流条件試験が可能である。今回は試験部にチムニを模擬した試験体を挿入してBWR実温実圧試験を実施した。
図5に自然循環の動作原理を示す。BWRのRPV内部では、炉心下部から熱水が流入し、炉心部で加熱されて沸騰することで一部が蒸気となる。炉心上部のチムニ部では、蒸気と水の混合流(二相流)状態で上昇する。チムニの上には、蒸気と水を分離する気水分離器が設置されており、蒸気は上部に設置された蒸気乾燥器を通った後、タービンへと送られる。一方、気水分離器で分離された水(熱水)は、チムニの外側にあるダウンカマを通って下降し、再び炉心下部へと達する(実際にはダウンカマで給水と混合する)。チムニの内側の流体は蒸気と水の混合流であり、密度が低いため上昇し、チムニの外側の流体は密度が高い水単相であるため下降する。チムニ内外の密度差が自然循環の駆動力になっている。チムニの性能(自然循環力)を評価するには、チムニ内部の密度を正確に評価することが重要であり、密度評価のキーパラメータであるチムニ内部の蒸気と水の体積割合(ボイド率)を、BWRX-300の実機想定条件でHUSTLE試験設備を用いて計測する試験を実施した。
図4 HUSTLE試験設備の概要
図5 自然循環の動作原理
図6にチムニ内ボイド率の計測結果の例を示す。ボイド率は区間平均ボイド率を計測する差圧計の他、断面内のボイド率分布を詳細に計測できるワイヤメッシュセンサを用いた計測も実施した。図6はワイヤメッシュセンサによる計測結果を示している。図6左下のグラフは横軸が径方向位置、縦軸が規格化したボイド率を示しているが、流路中央部のボイド率が平坦な発達した流れでボイド率を計測できていることが分かる。今後は計測したデータを基に解析手法を検証し、BWRX-300実機の自然循環流量評価に活用していく。
図6 チムニ内ボイド率計測結果の例
4.BWRX-300の市場性
最後にBWRX-300の市場性について記載する。BWRX-300は小型炉の課題であるスケールデメリットを克服でき、早期に実用化可能であることから、世界各国で注目され、北米や欧州で、建設炉の候補として選定されている。
カナダでは、オンタリオ州の州営電力会社であるOntario Power Generation(OPG)社が同社のダーリントンサイトに合計4基の導入を計画しており、同じくカナダ・サスカチュワン州の州営電力会社であるSaskPower社も導入を計画している。カナダの許認可前事前審査手続きとして、Vendor Design Reviewを2019年から実施していたが、カナダ規制局から審査が完了したことが公表された。2022年10月からは、OPG社のダーリントンサイトでの建設許可申請も開始した。
米国の国営電力会社であるTennessee Valley Authority社も小型炉建設を念頭においた"New Nuclear Program"の中でBWRX-300が候補であることを表明し、同社のクリンチリバーサイトでの建設許可申請を推進している。BWRX-300の主要な特徴である隔離弁一体型原子炉の概念を含む主要な5つの技術について、米国規制局からLicensing Topical Reportsによる認可も受けている。
欧州では、エストニアのFermi Energia社から建設炉の候補として選定された他、ポーランドの規制局は同国の規制に合致するとのGeneral Opinionを公表した。また、英国の設計認証申請も開始している。今後、GEH社のパートナーである日立GEもこれらのプロジェクトに関与していく。
5.おわりに
日立GEは、社会や顧客の様々なニーズに対応するため、HI-ABWR、BWRX-300、RBWR、PRISMの4つの新型炉の開発を進めている。その内、本稿で紹介したBWRX-300は早期に実現可能であり、直近の原子炉ニーズに対応可能と考えている。今後も、原子力政策の反映、ユーザー意見の取り込みなど、社会的受容性を高め、カーボンニュートラル実現にクリーンエネルギーである原子力発電で寄与していく。
参考文献
[1] 松浦正義・木藤和明・佐藤憲一:日本原子力学会誌、Vol.63、 No.8、585-589 (2021)
[2] K. Katono, et al.: "BWRX-300 SMR Chimney Evaluation (3): HUSTLE Testing in Large Diameter Chimney at Nominal Pressure and Temperature", NURETH-20-40180 (2023)
(2024年2月6日)