特集記事 「第23 回保全セミナー 社会貢献に向けた原子力発電所の 活用策と目指すべき姿 ─古くて新しい保全の課題解決に向けて─」

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福島第一原子力発電所(1F)事故から13年が経過したが、今なお事故炉の廃止措置を始め多くの課題を抱え、既設炉の再稼働はまだ途上にあり、我が国の原子力は厳しい状況が続いている。

しかし一方で、社会からの原子力への期待も高まってきている。その大きな転機となったのは、グリーントランスフォーメーション(GX)の推進である。2023年5月に「GX脱炭素電源法」が成立したが、この中に含まれていた「原子力基本法」の改正において、基本方針として「原子力発電の活用は国の責務である」ことが明記された。これは、原子力利用の促進に向けて、国の覚悟が示されたものと考えられる。

2023年4月末に、原子力に関してもうひとつ、政府レベルで画期的なことがあった。「原子力関係閣僚会議」における既設の原子力発電所を最大限に活用するための取り組み方針の決定である。すなわち、運転期間の取扱いを合理的に行うことに加え、設備利用率の向上や、安全性確保を大前提に運転サイクルの長期化、運転中保全の導入、定期検査の効率的な実施に取り組むとされた。

実質的な運転期間延長が可能となり、未申請の原子力発電所の再稼働申請が期待されるが、それだけではGX推進への原子力の貢献として十分とは言えない。

原子力発電所を最大限に活用するには、設備利用率向上も必須の要件となる。米国では、44年前のTMI事故後の弛まぬ改善努力の結果、安全性向上とともに、設備利用率を50%台から90%超へと大幅な改善を達成し、安全と設備利用率向上の両立を実証した。この設備利用率向上には、運転サイクルの長期化、定検期間の短縮、リスク情報を活用した予防保全最適化(PMO)の導入、計画外停止期間の短縮等、保全上の主要課題の解決が大きく寄与したことがわかっている。特にPMOには、保全の重点化、運転中保全、状態基準保全等が有効性を発揮しており、これらは我が国の今後の取り組みの方向性を定める上で大変参考となる。

米国の成功から既に30年以上が経過し、我が国でもそれに学び改善努力をしてきたものの、結果として保全上の主要課題はほとんど解決されずに、現在もほぼそのまま残されてしまっている。その理由としては、改善努力を無駄にするほど大きな事故や不祥事を繰り返し起こしたこと、世代交代もあり保全上の主要課題にじっくりと取組めなかったことが挙げられる。現在は1F事故の教訓を踏まえた新規制基準や新検査制度が施行された「新しい時代」を迎えている。過酷事故対策や運転再開に向けた懸命な努力がなされており、GX推進に原子力が大いに貢献すべき時代でもある。今こそ、現状を打開・刷新するために、少し先を見た議論や取り組みを開始すべきであると考えられる。

第23回保全セミナーでは、ずっと続いてきたという意味で古く、「新しい時代」の取り組みであるという意味で新しい課題でもある「設備利用率向上」を取り上げ、それを阻むものは何か、その解決策には何があるのか、それらに関わる事業者の検討状況を共有するとともに、今後の展開に向けた取り組みの在り方について議論を行った。事業者の状況としては、再稼働を果たした先行プラントのSA対策工事や特重施設工事等の効率化の事例や、再稼働に向けたプラントの今後の取り組みに寄与できる方策等の議論も含まれている。

セミナー前半では、産官学それぞれにおいて深く長い経験を有する方々に、経験を踏まえて、設備利用率の向上を阻むもの、その実現に必要なことについて独自の見解を示して頂いた。

後半では、海外や国内の産業界の設備利用率向上に向けたこれまでの取り組みと今後について幅広く紹介して頂くとともに、先行する再稼働プラントの経験から得られた知見・教訓について紹介頂いた。

今回の講演と討論を通じ、GXへの大きな貢献が期待できる「原子力発電所の最大限活用」に向けた取り組みを加速することを期待している。

(2024年5月13日)

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