特集記事「稼働率向上に向けた保全活動の 実現に向けて」

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1.はじめに

日本再生のためには、既設原子力発電所の有効活用によって、安全で安価な安定電源を供給することが必須である。リスクを適正に管理することによって、世界中で実施されている手法を日本に導入することで、安全保障においても、経済発展においても、最も効果的な手法である。

具体的には、定量的リスク評価手法(PRA)を、事業者・規制の共通の安全指標とし、国民の理解を得ながら、安全性を向上し続けることである。安全向上策としては、(1)ROP(原子炉俯瞰プロセス)によるリスク情報を活用した安全パフォーマンス評価手法の導入、(2)運転中保全などの導入による、リスク情報を活用した保全活動の導入。この結果として、18か月運転や24か月運転といった(2-1)長期運転サイクルにつながる。また、停止しなくてはできない燃料交換や必要な保全を最適化し、(2-2)停止期間短縮する事(例えば3週間程度)で設備利用率を向上する。(3)原子炉の安全評価を適正化することによって、原子炉熱出力を向上する。(4)機器取替を含む保全の最適化と、経年劣化事象の定量的な把握による運転期間の長期化(例えば80年)を推進する。ことが挙げられる。

2.日本の現状

日本の原子力発電所は、2000年代初頭には54基が運転し、国内電力需要の25〜30%を担っていた。2011年に福島第一原子力発電所事故が発生し、すべての原子力発電所が停止した。事故直後にストレステストに合格して再稼働した発電所もあったが、いわゆる新規制基準の審査が長引き、原子力発電所は長い定期検査に入った。また、再稼働の為に、原子力発電所のリスク低減にはほとんど関係のない、特定重大事故等対処施設の整備が必要となった。運転期間も原則40年とされ、建設費の投資が回収できる見込みのない原子力発電所は、再稼働をあきらめ、廃止措置を選択することとなった。福島第一原子力発電所で事故を起こした4基を含めて21基が廃止措置に移行している。現状、運転可能な原子炉は33基である。このうち、原子力規制委員会の審査に通り再稼働した原子炉は12基に留まっている。原子力規制委員会の審査に合格しているが、現在、安全性向上工事と地元了解を待っている原子炉は5基であり、これらが全部再稼働しても17基に留まる。残りの16基は、原子力規制委員会の審査中もしくは申請準備中で、再稼働までの道のりは遠い。

図1は、日本国内の原子力発電所を、IAEAのPRISデータベースからまとめたものである。運転開始から、2024年2月現在までの年数を縦軸に記している。研究段階にある発電所として「ふげん」は記載されているが、JPDRは含まれていない。最も古い原子力発電所としては、ガス冷却型の東海発電所を記載している。縦軸の色は、運転期間を青色、廃止措置期間を赤色として示している。東海発電所は、すでに30年近く廃止措置が行われているが、廃止措置が終了する目途は経っていない。事業者も国も、急いで解体する必要性が乏しく、基本的に先送りすれば、社長や原子力規制委員長などの責任者の責任は回避される。結果として、地元に大きなリスクを残している。ちなみに、JPDRは約1万kW電気出力の沸騰水型原子炉であった。発電の実証試験炉として1963年に運転を開始し、1976年に運転停止ののち、1996年に廃止措置が終了している。廃止措置先送りによる、地元へのリスク付加に関しては、機会があれば議論したい。

本図にあるように、運転期間40年というところに大きなハードルがある。これは、運転期間を40年と制限し、原子力規制委員会の認可によって20年間の運転延長が認められることを、法令により規定しているためである。40年を超えた運転延長が認められているのは、東海第二、美浜3号、高浜1,2号の4基である。これ以外の40年を超える原子炉は、基本的に廃止措置を選択している。運転延長に掛かるコストや、施設の改造費、さらには再稼働したのちの最大運転期間を考慮して、追加投資が回収できない場合に、廃止措置を選択せざるを得ない。一方、福島第二原子力発電所のように、政治的な環境などから、廃止措置を選択しているものもある。

なお、図中の黄色部分は、福島第一原子力発電所事故ののち、長い定期検査に入っている時間を示している。川内原子力発電所など、比較的早く再稼働したものが、青い部分が見えているが、昨年度再稼働したばかりの高浜1号機などは、青い部分はわかりにくいかもしれない。いずれにせよ、上述のように、再稼働しているプラントは12基である。

図1 日本の原子力発電所の運転期間

2023年の国会で、原子力基本法などが改正され、運転期間はエネルギーセキュリティーの観点から決めることとなった。来年、2025年から施行される。40年を超える運転期間は20年とし、経済産業大臣が認可する。この追加される20年には、原子力規制委員会の審査期間や、司法判断による停止期間などが除外される。つまり、黄色の部分を除いて20年間の追加運転が可能となる。ある意味、原子力規制委員会の審査が何年かかろうが、再稼働後の運転期間は十分に確保されることになる。また、仮処分などの司法判断で、運転が停止されても、事業者はあまり困らないことになる。困るのは、電気代が増える国民というおかしな状況に陥っている。

さて、今年度は、エネルギー基本計画の改訂の年に当たっており、日本がどのようにエネルギーを確保し、産業競争力を維持し、国民の生活を向上させていくかを、大きな視野で検討する年となっている。二酸化炭素排出量削減の動きに向けて、再生エネルギーや原子力エネルギーといった、脱炭素エネルギーをどのように活用していくかが重要となる。一方で、産業競争力を維持するためには、安定的にエネルギーを供給することが極めて重要である。電気は貯めることが難しく、発電量と消費量が同一であることが重要となる。需要に応じて供給を制御していくことが必須となる。不安定な再生可能エネルギーは、水力発電以外は安定供給が不可能であり、揚水発電や蓄電池などのエネルギー貯蔵手法と組み合わせる必要がある。エネルギー貯蔵においてエネルギーの3割程度が失われるように効率は良くない上に、大変高額となってしまう。また、産業維持には安価なエネルギー源が必須となる。安価で安定電源を供給するためには、原子力発電もしくは火力発電しかない。一方で、変動する再生可能エネルギーに対応するために、発電量を変化させることは、原子力発電はあまり向いておらず、火力発電に頼らざるを得ない。火力発電は安価で安定供給が可能な優れた電源である。燃料である石炭も、豪州など政治的にも安定な輸入が可能であり、長期的に見て、優れた電源である。唯一の弱点が二酸化炭素放出である。脱炭素は一つのトレンドになっており、定量的な議論がほとんどできていないのが大きな課題である。例えば、火力発電所建設による、二酸化炭素排出に伴うリスクと、電源の安定供給による、産業競争力維持などを含めた総合的なリスクを定量的に評価すれば、火力発電所の維持は合理的な選択肢となる。

基本的に、それぞれの電源の特性を生かした、ベストミックスが当面のエネルギー供給戦略となる。原子力発電の役割も大きくなるが、上記のような現状12基の発電では、全体としてあまり大きな役割は担えない。図2は、2023年の資源・エネルギー学会誌に寄稿した原子力発電量の予測値である。現在停止しているすべての原子力発電所が再稼働すれば、年間200TWhの発電量となり、日本国内の電力需要である約1000TWhの20%を担う事が可能である。一方、実績のプロットを見てもらうと、この予測が極めて楽観的であることが良くわかる。今後数年間に、再稼働が確実なプラントは数少ない。地元了解という大きなハードルもある。最小予測では、10%が精いっぱいであり、韓国などと比較しても、電気代が高止まりする一つの要因となるであろう。また、昨年の原子力基本法などの改訂によって、再稼働までの期間が、延長の20年に含まれないこととなったが、それでも、2050年には複数のプラントが運転期間満了となり、新規発電所建設をしない限りは、原子力のシェアは大きく低減していく。

出典:岡本、エネルギー・資源学会誌(2023)

図2 原子力発電予想

日本の産業は、原子力発電所の動いている関西と九州地区に集約していくことも必要かもしれない。現時点で1.5倍程度の電気代の開きがある。このまま、不安定なLNGに頼っていくと、電気代の価格差はさらに大きくなるかもしれない。なお、昨今のデータセンターの発展や、電気自動車の普及などにともない、日本の電力需要が現状の約1000TWhから近い将来2倍になるという推定もある。この場合、火力発電所もしくは原子力発電所を新設しない限り、その供給は不可能となり、電気代がさらに高止まりする要因ともなる。データセンターなどは電気代の高い地域に設置する必要は全くなく、ますます地域格差が大きくなる。場合によっては、電気代の安い韓国など国外においても良いので、日本の産業力が失われる可能性すらある。

3.原子力発電所の有効利用

原子力発電所は、建設費の占める割合が極めて大きく、保守費や燃料費は相対的に大きくない。いったん作ってしまえば、比較的安価で、大量のエネルギーを得ることが可能となる。つまり、既存の原子力発電所は、エネルギーの成る木であり、安全第一で活用することで、極めて大きなメリットが生じる。上述のように、原子力発電所が再稼働している関西と九州の電気代が関東の70%程度であることが証明している。

近年のアメリカが、原子力発電所の有効利用を進めており、二酸化炭素削減と産業振興に大きく役立っている。アメリカでは、スリーマイル島原子力発電所 (TMI2) 事故のあと、新設計画が滞っていた。2000年代に入り原子力ルネッサンスと騒がれたが、シェールガス開発で安価なエネルギーが得られることとなり、原子力発電所の新規建設は厳しい状況となった。昨年Vogtle原子力発電所が新しく運転開始するまで30年以上も新設がなかった。しかし、アメリカでは、既設の原子力発電所を有効活用することで、20基以上の原子力発電所を新設したのと同等の電力を生み出している。具体的には、長期運転サイクルとオンラインメンテナンスなどの活用によって設備利用率を95%程度まで高めるとともに、定格熱出力を向上するアップレートを推進した。さらに、リスク情報を活用することで、ほとんど停止しない、トラブルの少ない安全な原子力発電所を達成している。

図3、4に、IAEAのPRISデータベースから作成した、アメリカイリノイ州にあるドレスデン原子力発電所の設備利用率及び年間発電電力量の推移を示す。ドレスデンは、1号機が世界最初の商用発電炉であるが、出力の小さな初号機という事もあり、1980年代には廃止措置に移行している。一方、2,3号機は1970年代に相次いで運転を開始したBWRである。少し型は異なるが、福島第一原子力発電所の2,3号機と同等のプラントと考えてもらうとわかりやすいかと思う。1990年代までは、設備利用率は60%程度と低迷している。トラブルなどで止まっていた期間も多かったようである。一方、1996年ころから、突然設備利用率が改善し、2000年以降はほぼ95%を維持ししている。ドレスデンでは、24か月サイクルを採用し、2年に1回の燃料交換停止を行う。毎年11月頃に、2号機、3号機が交互に停止して燃料交換と、停止時にしかできない保守保全を行う。この停止期間も工夫を重ねて約3週間と、アメリカ国内の他のプラントと比較しても短いほうである。設備の保守は、運転中保全(オンラインメンテナンス)が中心であり、常に設備の保全を行い、安全を確保している。定量的リスクを活用した安全確保活動を進めており、リスクの高いものを優先的に保守している。トラブルについても、是正措置(CAP)を推進し、リスクの高い事象に対する是正措置を優先的に進めることで、プラントのトラブルを大きく低減している。原子炉出力も、運転開始当初は814MWであったが、1970年には、772MWに出力を落として運転していた。これを、2002年には850MW、2014年には894MWとアップレートを推進しており、120MWも多い電気を供給することができている。さらには、現在、60年の運転許可を得ている状態であるが、これを80年の許可を申請している。申請が認められれば、2050年頃まで運転が継続され、安全で安定、かつ安価な電気をイリノイ州に供給し続けることができる。

図3 Dresden発電所の設備利用率(IAEA PRISより)

図4 Dresden発電所の発電電力量(IAEA PRISより)

4.具体的方策

日本の原子力発電所を有効活用するための方策は、ドレスデン発電所の実績から明らかである。具体的には下記4点に集約される。

4.1 リスク情報を活用した規制

4.2 リスク情報を活用した保全の最適化

  4.2.1 長期運転サイクルの実現

  4.2.2 定期検査期間の合理化と短縮

4.3 熱出力の向上

4.4 運転期間の延長

4.1 リスク情報を活用した規制

アメリカでは、ROP(原子炉俯瞰プロセス)による、原子力発電所の運転パフォーマンス評価が実施されている。安全運転の実績を定量的なパフォーマンスインデックス(PI)によって評価するとともに、トラブルの軽重をリスク情報を基に判断し、重大なトラブルには大きなペナルティーを科す一方で、軽微なトラブルには事業者の改善に任せるものである。トラブル情報は、発電所内だけではなく規制とも共有され、発電所と規制とが独自のリスク評価を実施して、リスク重要度を評価している。この結果、安全に影響を与えるトラブルは、昨今ではほとんど見られなくなった。結果として安全運転が継続され、PIも大きく改善し、ほとんどプラントは止まらなくなっている。

 日本では、アメリカのROPをまねたシステムを導入しているが、名前は一緒であるが中身は全く違ったものである。リスク情報がほとんど活用されていないのである。まず、日本の原子力規制委員会にはPRAがない。つまり、事業者のリスク評価結果を信じるしかないのである。また、PRAの経験もないため、どうしても定性的な判断が中心となる。つまり、PRAという事業者と規制の共通の物差しを持っていないのである。これでは、安全に対する方向性がバラバラで主観的になってしまう。結果として、書類上の点検しかできなくなる。日本の原子力規制委員会はAIに置き換えても、十分に成り立つかもしれない。AIの方が安全性は向上する可能性すらある。まずは原子力規制委員会が独自のPRAを整備することが必須である。

4.2 リスク情報を活用した保全の最適化

4.2.1 長期運転サイクルの実現

現状、原子力発電所では13カ月に一回、運転を停止し定期検査が行われている。2010年頃に、海外の事例などを参考に、この検査間隔を15カ月乃至18カ月に延長する議論が行われた。法令の見直しも行われ、現在は最大24カ月になっている。しかしながら、再稼働した原子力発電所では、従来通りの13か月に1回の定期検査が行われている。停止の間隔、つまり運転サイクルは、検査だけで決まるのではなく、停止時に燃料の取替を行うため、燃料設計とも大きくかかわってくる。現在の日本では、13か月の倍数での燃料取替に最適化された燃料設計が行われている。また、13か月を単純に24カ月に延ばすと、停止時に検査をしなくてはならない機器の数が増えて、点検のための停止期間(点検期間)が長期になる可能性もある。一方で、上述のように、ドレスデンでは24カ月の運転サイクル(停止間隔)で、かつ点検期間も20日と極めて短い。これが成立するのは、燃料設計を24カ月に最適化するとともに、運転中に検査を実施するとともに、停止期間中に実施する検査をなるべく少なくしているためである。しかしながら、現在の日本においては、リスク情報を活用した安全確保活動が極めてやりにくくなっている。保安規定によって保全活動を縛り、安全性向上が極めて実施しにくい状況となっている。保安規定を改定するためには、膨大なコストと時間がかかるため、安全性向上へのインセンティブが全く働かない。

4.2.2 定期検査期間の合理化と短縮

リスク情報を活用した保全の最適化を進めることで、安全性を大幅に向上することができる。これは、ドレスデン発電所など、アメリカをはじめとする世界では普通に実施されていることである。まず、保全活動にリスク情報を活用する仕組みを導入することが必要である。重要なシステムを、リスク情報を活用して見直し、本当に重要なシステムを再整理する。機器は故障するものであるが、故障の確率は一定ではなく、時間と保守の関数となる。さらに状態監視を取り入れることで、故障の兆候をとらえることで、故障の確率を下げ、最適な保守が可能となる。保守のやりすぎは、故障の確率を増大させるので、最適な保全間隔が存在する。また、適切に動いているシステムの分解点検は故障を導入するリスクが大きくなるなど、保全手法も科学的に最適化していかねばならない。重要なシステムの保全間隔を最適化するとともに、状態監視を併用して、リスクを管理することによって安全性向上が可能となる。システム毎に最適な保全間隔と保全手法を決めていくことが重要である。国内事例だけではなく海外事例を積極的に援用することで、科学的な保全間隔が求まる。状態監視は、さらにリスクを低減できる。現在は、13か月に1回など、13の倍数で保全間隔を決めている。この保全間隔をリスク情報を用いて最適化していく。元々、機械システムの保全間隔は、大正時代に1年に一回と決められたそうである。現在では自動車の車検間隔も2〜3年になっている。システムの重要度に応じて、保全間隔を最適化することが安全性向上に大きく寄与する。

原子力発電所は停止している時の方が運転中よりもリスクが高い場合があり得る。これは、使用済み燃料が発熱しており、さらに、停止時には燃料交換の為に原子炉格納容器が空いている場合があるためである。特に、現在の日本では、特重設備など、極めて多くのバックアップシステムがある。運転中のリスクも十分に高いが、停止直後のリスクも同様に高い。リスク情報を適切に活用することによって、運転中であっても適正なリスク管理のもと、保全作業を行う事が可能となる。つまり、保全間隔を13か月の倍数で設定する必要はなくなり、本来必要な保全間隔での保守管理を進めることもできるようになる。停止しなくては検査できない個所については、停止時に集中的に検査を実施する必要がある。非常時にのみ動くシステムについては、リスクを管理することで、運転中に保全を行う事が安全性を高める場合も多い。このようなシステムについては、積極的に運転中保全(オンラインメンテナンス)を実施することが望まれる。アメリカでは、リスク情報を活用したオンラインメンテナンスが積極的に進められている。24カ月連続運転中に保全を行う事で、停止期間を3週間程度に短縮する事が出来ている。3週間の間に燃料交換と必要な保全を実施している。結果として、安全性を向上させるとともに、設備利用率は95%を超え、カーボンフリーの安定電源を地域に供給することができている。

日本でも、同様に、リスク情報を活用したオンラインメンテナンスや、適切な保全間隔、適切な保全活動を行う事で、安全性を大きく向上することができる。一方で、日本の現状は、保安規定によって運転中保全を規定しておらず、保安規定の改善が必要である。安全性を向上するためにも、保安規定を改善し、リスク情報を活用したオンラインメンテナンスや適切な保全間隔を設定することが必須である。

4.3 熱出力の向上

原子力発電所の設置許可申請書には、熱出力を規定している。安全解析を実施する場合、不確かさを考慮して、2%大きな熱出力を仮定した評価を実施している。つまり、102%の出力で評価を行い、実施には100%以下で運転を行っている。この2%の不確かさは、主として流量計測の不確かさから生じている。流量計測を、不確かさの小さな超音波流量計などで行えば、流量計測の不確かさを1%以下にすることができる。熱出力は流量に比例するので、安全解析上102%の流量での評価を実施している。超音波流量計で流量を計測すれば、101%の流量であっても、102%を超えることはない。つまり、熱出力を101%として運転しても、安全評価上は成立する。実際には不確かさを適切に評価し、0.5%〜1.5%の出力向上が行われている。この出力向上はMU型(Measurement Uncertainty Recapture)と呼ばれ、流量計を高精度なものに置き換えるだけで1%の出力向上ができるため、世界中の原子力発電所で実施されている。日本でも、検討が進められたことがあるが、福島第一原子力発電所事故により検討は中断している。発電所の有効活用のためにも、出力向上を進めるべきである。

なお、海外では、燃料を新型燃料に置き換えたり、蒸気発生器の容量を大きくしたり、設計を見直すことで、20%程度の出力向上を実施している例もある。図4に示したドレスデンの例でも、2000年代に出力向上を実施して、発電電力量が増えている。特にBWRでは、安全性を向上した新型の10x10燃料が20年以上前から利用されており、合わせて出力向上も実施されている。残念ながら日本では、2世代前の8x8燃料や9x9燃料しか認められていない。日本では、新しい活動を進めるためには、極めてコストがかかり、逆に、現状維持であれば、規制は何も言わない。少しコストがかかっても、古いシステムを使い続けたほうが楽なのである。新しいシステムにするためには、極めてコストがかかる。つまり、10x10燃料にして安全性を向上させるインセンティブが働かない。逆に、現状維持になるように、結果的に規制が誘導している。このため、安全性を向上させようとするインセンティブや、出力向上を行うインセンティブが一切働かないのである。

4.4 長期運転

アメリカでは、運転期間として80年が認められているプラントが数多く存在する。ほとんどのプラントは60年が認められており、さらに20年の延長が認められているプラントである。交換できるものは新品に交換されていることもあり、機械システムとしての原子力発電所は、80年は十分に運転可能である。しかし、運転を行う事業者の体制や、規制の体制などは国によって異なる。特に、日本では規制の体制が必ずしも十分では無く、80年の運転期間を正しく評価できるかどうかは若干疑問な点も多い。いずれにせよ、日本の現行法令では60年の運転期間となっている。審査期間や司法による停止期間などは除くことができるようになったので、運転開始からの期間は60年を超えることが可能であるが、実際に運転している期間としては60年である。それでも、カーボンフリーの安定電源として、長期間活用できることはエネルギーセキュリティー上も重要である。現在は最大60年であるが、アメリカなどの経験をもとに、将来見直しが行われる可能性もある。

5.まとめ

エネルギーセキュリティーの観点や、脱炭素の観点など、原子力発電所の有効利用が日本においては強く求められている。海外での事例を参考に、既設発電所の有効利用を進めることが必要である。そのためのキーワードは、「リスク情報の活用」「オンラインメンテナンス」「安全性向上が容易な規制」であろう。事業者と規制でPRAという定量的な指標を共有し、安全性向上という同じ方向に向けて活動を進めることが必須である。リスクを低減する方向に改善を進めることで、安全性が向上し、結果としてオンラインメンテナンスや長期運転サイクル、停止期間の最適化、出力向上などにつながっていく。目的は安全性向上、定量的リスク低減であり、そのバイプロダクトとして設備利用率向上などにつながる。

事業者と規制の両方が、リスクを正面からとらえた活動を進めることが望まれる。

(2024年5月4日)

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